私立グリモワール魔法学園SS   作:sakuto@グリモア

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#007

 予鈴がなり、四時間目が終わった。

 二日目は初めに軽く自己紹介をした後は普通に授業となったのだが、教科は一般の高校と変わらない内容だった。

 ちなみにグリモアのクラスはリリィ、ローズ、サンフラワーの三つに分かれていて、僕はリリィクラスだった。同じクラスには智花がいて、少しばかり気が楽になった。

 と、智花がこちらに近づいてくる。

 

「授業はどうでしたか、転校生さん」

「なんか、思ってたより普通の授業だったね」

「午前中は一般科目なんです。午後からは魔法の実技や座学などの魔法学と呼ばれる科目を学ぶことになります」

「なるほど」

 

 魔法学か。なんだかファンタジーな響きだ。

 

「ところで転校生さん。これをどうぞ」

「? あ、もしかしてお弁当? 本当に作ってきてくれたんだ」

「もちろんです。是非食べてくださいね」

「うん。ありがたくいただきます」

 

 やや大きめの四角い包みを受け取る。結構ずっしりと重い。

 

「それじゃあ、私は少し用事があるので、失礼しますね」

「うん。あとで感想を言うよ」

 

 智花が教室から出ていく。

 さて、と……。

 そう言えば、友達らしい友達は智花くらいしかいないんだけど……。このままだと一人でお昼を食べることになりそうだ。

 誰かに声をかければ、そう邪険に扱われることもなく混ぜてもらえる気はするのだが、いかんせん女子が多くて、声をかける気になれない。と言うかあの中に男子一人は混ざれないと思う。

 一応数人男子はいるのだが、やはりこの環境だと男子同士仲良くならざるを得ないのだろう。皆で固まって食べていた。男女比の偏りの影響か、この学園の男子は内向的な印象を受ける。どこか近寄りがたい。

 と、そんな僕の様子を見かねたのか、女子の集団の一つが声をかけてきた。

 

「転校生くん。よかったら一緒に食べる?」

「え? あー……いや、遠慮しておくよ」

「そっかー」

 

 断るのは機嫌を損ねるのではと少し思ったが、特段気分を害した様子もなくその女生徒は話に戻っていく。さっぱりとした性格なのだろう。

 昼食をとるのに良さそうな場所を見つけがてら、せっかくだし、少し校内を散策しようかな。

 昇降口で靴を履き替えて外にでる。

 昨日智花に案内して貰ったときも感じたが、この学園はだいぶ広い。芝生やベンチなど良さそうな場所がいくつか見つかった。

 と、良さそうな場所を見つけた。周りが木々に囲まれていて、しかし日当たりはよく、ちょっと秘密基地みたいな感じもする。

 少しわくわくしながらその空間に入っていく、と。

 

「あ」

 

 どうやら先客が居たようだ。

 木陰に腰を下ろして黙々と昼食をとっている女生徒をついまじまじと見つめていると、煩わしそうにその女生徒が口を開いた。

 

「なにか?」

 

 平坦で、やや冷たいようにもとれる声音。少なくとも好意的ではない。

 

「えっと、ここで食べでもいい……ですか?」

 

 みた感じ年下のようだったが、念のため敬語で許可を取る。

 

「別に、ここは私の私有地というわけではありませんから。ご自由にどうぞ」

「では、遠慮なく」

 

 その少女から少し離れた木の根本に腰を下ろす。

 ちらりと横目で窺うと、どうやら教科書を読みながら食べているらしい。勤勉な人のようだ。

 

「……まだなにか?」

「あーいえ、そういう訳じゃないんですが。えっと、名前を訊いても?」

「……はぁ。……冬樹イヴです。歳は十四。おそらくあなたより年下ですから、敬語は不要です」

「あ、そうなんだ。僕は昨日転校してきたんだけど……」

 

 というと、それまで殆ど興味がなさそうだった彼女が僕に視線を向けた。

 

「昨日転校してきた……と言うことは、あなたが例の転校生ということですか」

「あ、やっぱり知られてるんだ」

「まあ、嘘とも本当ともつかない噂を少々耳にしただけですが」

 

 そこで会話がとぎれ、しばらく冬樹さんは黙々と食事を続ける。

 改めて見ると、やはり冬樹さんもだいぶ整った顔立ちをしていた。アッシュブロンドのロングヘアーに、翡翠色の瞳。肌は雪のように白い。全体的に冷ややかな印象を受けるものの、今までにあった女生徒に引けを取らない美少女だ。

 不躾な視線を向けていた僕を、鬱陶しそうに冬樹さんが見やる。

 

「あまり見ないでくれませんか。酷く不愉快です」

「ごめん」

 

 冬樹さんは、はぁ、と分かりやすく嫌そうにため息をつく。

 きっと僕が来るまでは自分しか知らないお気に入りの場所だったのだろう。或いは、ただ単に人嫌いなのかもしれない。

 早く食べて退散しよう。

 智花の作ってくれたお弁当を開ける。

 

「おぉ……」

 

 玉子焼やウインナー、ポテトサラダなどお弁当の定番に、昨日オーダーした肉じゃがが入っている。どれも見目麗しく、いい匂いだ。これは絶対に美味しいだろう。

 

「いただきます」

 

 早速肉じゃがに箸をのばして、口に運────

 

 

 

 ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 目が覚めると、知らない天井だった。真っ白い天井。どこかアルコールのようなにおいが漂っていて、病院のような雰囲気だ。

 どうやら僕はベッドに寝ていたらしい。周りは薄桃色のカーテンで仕切られていて、雰囲気の通り、やはり保健室の類のようだった。

 ところでどうして僕はこんなところで寝ていたんだろう?

 少し考えてはみたのだが、何も思い出せない。冬樹さんと会話したところまでは覚えているのだが、なにやらそこからの記憶が曖昧だ。少しからだを動かしてみると、特に痛むところや違和感があるようなことは無かったので、ベッドから降りてカーテンを開けた。

 

「あ、転校生くん。起きたんだ。もう大丈夫なの?」

 

 そう声をかけてきたのは、三つ編みおさげに眼鏡のいかにも委員長といった見た目の女生徒だった。

 

「あ、はい。……えと、あなたは?」

「私は保険委員の椎名ゆかり。よろしくね」

「よろしくお願いします、椎名さん」

「あはは、同い年なんだし、そんなにかしこまらなくて良いよ?」

 

 そういってにこりと包み込むような優しい笑みを浮かべる椎名さん。保険委員という肩書きがよく似合う優しそうな人だ。

 

「ところで、なんで僕は保健室に?」

「あー…………。えっ、とね、転校生くん」

「……はい」

 

 なにやら急に重々しい雰囲気になった椎名さん。一体なんだというのだろうか。

 

「智花ちゃんの料理を食べたのよね?」

「智花の……? 確かに、今日はお弁当を作って貰って…………」

 

 そう言えば、お弁当を口に運んだあたりから記憶が完全に途切れている気がする。……まさか。

 

「智花ちゃんはね……お料理が、ええと、なんと言ったらいいのか……」

「何となく察したから皆まで言わなくても大丈夫……」

 

 椎名さんの言いづらそうな顔を見て完全に察した。ついでに昨日、智花の料理の話題が出たときの夏海の反応にも合点がいった。あいつ、これを知っててあんな引きつった顔してたんだな……。

 ん? それはそうとして……。

 

「え、じゃあ僕はどうやってここまで来たの?」

「ああ、それはね、イヴちゃんが背負ってきてくれたのよ」

 

 イヴちゃん……冬樹さんが?

 

「魔法使いに覚醒すれば、そのくらいは問題ないからね。あとでお礼を言うのよ?」

「それはもちろん。にしても、冬樹さんが、ね……」

 

 短い間接した感想としては、他人に興味がない。どころか、あまり他人と関わりたくないといった様子だったのに。

 根はいい子だと言うことだろうか。今度会ったらなにかお礼をしなくては。

 

 椎名さんにもお礼を述べてから、保健室を後にする。

 時計を確認すると、既に七時間目も終わりに近い。魔法学、楽しみだったんだけどなぁ。まあ、これから嫌と言うほどやることになるんだろうけど。

 授業の方は椎名さんの方から休むことを言っておいてくれたらしいので、しばらく校内を散策する。

 しばらく昨日智花が案内してくれたのを思い出すように歩く。と、お腹が鳴った。そう言えば、昼食を食べ損なってたっけな……。MOMOYAで何か売っているだろうか。

 腹を満たすために、取りあえずMOMOYAへと足を運ぶことにする。

 

「あ、先輩! いらっしゃいませ!」

 

 中へはいると、昨日と同じようにももが元気一杯に呼びかけてきた。

 

「なにか食べるものってあるかな。できればパンやおにぎりみたいな手軽に食べれるもので」

「ありますよ! おにぎりも各種パンも取りそろえてます!」

 

 コンビニなんかにも負けない品揃えだ。その中からサンドイッチとコーヒーを頼んだ。

 

「どうぞ!」

「ありがとう」

 

 すぐ側のベンチで一休みすることにする。と、ももがMOMOYAから出てきた。

 

「終わったの?」

「はい。これから街のファミレスでバイトなので!」

 

 ももはにこにこと笑いながらそう言った。どうやら働くことが好きな子のようだ。

 

「それでは先輩、失礼します!」

「うん。バイト頑張って」

「はい!」

 

 たたたっとももが駆けていくのを見送って、改めてサンドイッチを平らげ、コーヒーを飲んで一息ついた。

 ゴミを近くのダストボックスに放り込んで立ち上がる。パンパンと制服を手で払って──ん? 

 

「なんだこれ……」

 

 地面に落ちたそれを拾い上げる。これは……マイク? 何やら盗聴器のように見えるのだが……。

 どうやらブレザーの襟の裏地に取り付けられていたものが、さっき制服を払った際に外れたようだ。しかし、こんなものを取り付けられる覚えはない。そもそもいつこんなものをつけられたのだろうか。

 考えられるのは、智花の弁当を食べて気絶していた時だが……冬樹さんや椎名さんがそんなことをするとは考えにくい。

 盗聴器。盗聴器かぁ……。

 昨日の水瀬さんの言葉が脳裏をよぎる。報道部って、なんだが字面的にこういう機器に詳しそうな気が……いや、まさかね……。

 まあ、とりあえず報道部の部室へ行ってみるとしよう。まさか犯人だとして、正直にそれを言うとは思わないけれど、念のため。

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