問題児たちと天空の御子が来るそうですよ?   作:皐月の王

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二年近くお待たせしました!
不定期更新ですが頑張っていきます!


空中散歩と深まる違和感

「おっと」

 

「わ、わわ」

 

空を踏みしめて走ると言われたグリフォンの足は、瞬く間に外門から遠退く。耀と天音は慌てて毛皮を掴み並列飛行をする。グリフォンのグリーの速度は並大抵ではなく、付いて行くのは生半可な苦労ではない。それでも耀は何とかついてきている。天音はグリーの速度にぴったり合わせ飛んでいる。

 

『やるな。全力の半分ほどしか速度を出してはいないが、二ヶ月足らずで私についてくるとは』

 

「う、うん。黒ウサギが飛行を手助けするギフトをくれたし、天音が練習に付き合ってくれたからね」

 

「YES!耀さんのブーツには補助のため、風天のサンスクリットが刻まれております!」

 

「練習も頑張ったもんね」

 

背後で声を上げる黒ウサギと隣で言う天音。そんな余裕があるのは二人だけ。激しい風圧を全身に受けたジンは、飛び立ってすぐに飛ばされ危うく落下しそうになっている。命綱が伸びて宙吊り状態になっている。飛鳥はジンのようにならない様に歯を食いしばって手綱を握りしめている。ジンのようになるのはプライドが許さないのか必死だ。振り返りその様子を見た天音は慌てて耀に伝える。

 

「よ、耀!後ろ後ろが!」

 

「グ、グリー。後ろが大変なことになってる。速度を落として」

 

『む?おお、すまなかった』

 

「もうちょい続いてたら……猫の命も危なかったかも……」

 

人であそこまでなっているのだから、耀の三毛猫は本気で命の危機だっただろう。

 

グリーは一気に速度を緩め、街の上空を優雅に旋回する。肩で息をしていた飛鳥は少し余裕が出来たのだろう。そっと背中から顔を出し眼下の街を見た。天音と耀も上空から街を見下ろす。

 

「わあ……掘られた崖を、樹の根が包み込むように伸びているのね」

 

「すごい……こんな地下都市始めてみた……」

 

半球体状に広く掘り進まれた地下都市は、樹の根の広がりに合わせて開拓している。所々人為的な柱も存在しているが、多くは樹の根と煉瓦のようなもので整備されている。天音それを見てただただ圧倒されていた。

 

「"アンダーウッド"の大樹は樹齢八千年とお聞きします。樹霊の棲み木としても有名で、今は二千体の精霊が棲むとか」

 

『ああ。しかし十年前に一度、魔王との戦争に巻き込まれて大半の根がやられてしまった。今は多くのコミュニティの協力があって、ようやく景観を取り戻したのだ』

 

魔王との戦い。それを聞いた天音の表情は少し変わる。一ヶ月前の戦いを思い出したのだ。死人が出た戦い、黒死病で苦しみ、コミュニティの為に散っていった話も聞いた。魔王の襲来と戦いは無傷で終わるものではないと、天音の中に刻まれていた。

 

ほかの面々も顔を見合わせる。グリーはそれに気づくことなく、旋回を続け、ゆっくりと街を下っていく。

 

『今回の収穫祭は、復興記念を兼ねたものである。故に如何なる失敗も許されない。"アンダーウッド"が復活したことを、東や北にも広く伝えたいのだ』

 

強い意志がグリーから伝わって来る。グリーは網目模様の根っこをすり抜け、地下の宿舎に着いて耀達を背から下ろす。天音も着地する。すると彼は大きく翼を広げて遠い空を仰いだ。

 

『私はこれから、騎手と戦車を引いてペリュドン共を追い払ってくる。このままでは参加者が襲われるかもしれんからな。耀達は"アンダーウッド"を楽しんで行ってくれ』

 

「うん、分かった。気をつけてね」

 

言うや否や、グリーは翼を広げて旋風を巻き上げながらさっていく。

 

「じゃあ、私達も見てまわろうか」

 

「そうだね」

 

天音たちが移動しようとした時、宿舎から知った声が掛かった。

 

「あー!誰かと思ったらお前、耀じゃん!何?お前らも収穫祭に、」

 

「アーシャ。そんな言葉遣いは教えていませんよ」

 

賑やかな声のする方に目を向けると、そこには"ウィル・オ・ウィスプ"の少女アーシャと、カボチャ頭のジャックが窓から身を乗り出し手を振っていた。

 

「ジャックさんお久しぶりです」

 

「アーシャ……君も来てたんだ」

 

「ヨホホ、お久しぶりですね天音さん。お身体は大丈夫そうですね」

 

「まあねー。コッチにも色々と事情があって、さっと!」

 

窓から飛び降りてくるアーシャ。後ろで手を組みながらニヤリと笑う。

 

「ところで耀はもう出場するギフトゲームは決まってるの?」

 

「ううん、今着いたところ」

 

「なら、"ヒッポカンプの騎手"には必ず出場しろよ。私も出るしな」

 

「……ひっぽ……何?」

 

「アレのことだね。そうでしょ?黒ウサギ、ジン君」

 

「YES!ヒッポカンプとは別名"海馬(シーホース)"と呼ばれている幻獣で、タテガミの代わりに背ビレを持ち、蹄に水掻きを持つ馬です!」

 

「半馬半魚と言っても間違いではありません。水上や水中を駆ける彼らの背に乗って行われるレースが"ヒッポカンプの騎手"というゲームかと思います」

 

天音の確認に、黒ウサギとジンが丁寧に答え、教えてくれる。耀は何度か頷き、両手を胸の前で組み、強く噛みしめる。半刻もたたないうちに幻獣の情報が聞けたのだ。その反応を見て天音も微笑む。来てよかったと

 

「……そう。水を駆ける馬までいるんだ」

 

「前夜祭で開かられるギフトゲームじゃ一番大きいものだし、絶対に出ろよ。私が作った新兵器で、今度こそ勝ってやるからな!」

 

「分かった。検討しとく」

 

そんな会話を他所に、天音は空を見上げる。地下から見上げる遠い空を……前日言われたことがまた頭に浮かび気を取られる。

 

(何が、そうさせるのだろう……私には……"わからない")

 

そんなことを思いながら皆についていく少女がそこにはいた。


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