問題児たちと天空の御子が来るそうですよ?   作:皐月の王

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挨拶を終えて・黒ウサギの過去

サラは一同の顔を一人一人確認すると、受付の樹霊の少女に笑いかけた。

 

「受付ご苦労だな、キリノ。中には私がいるからお前は遊んでこい」

 

「え?で、でも私がここを離れては挨拶に来られた参加者が、」

 

「私が中にいると言っただろう?それに前夜祭から参加するコミュニティは大方出揃った。受付を空けたところで誰も責めんよ。少しくらい収穫祭を楽しんでこい」

 

「は、はい!」

 

キリノと呼ばれた樹霊の少女は嬉しそうな表情を浮かべ、一礼をして収穫祭に向かっていく。

 

「ようこそ、"ノーネーム"と"ウィル・オ・ウィスプ"。下層で噂の両コミュニティを招く事が出来て、私も鼻高々と言ったところだ」

 

「噂?」

 

「ああ。しかし立ち話も何だ。中に入れ。茶の一つも淹れよう」

 

サラに招かれ、一同は貴賓室に足を運ぶ。招かれた貴賓室の窓から外を覗くと、大河の中心になっており、網目模様の根に覆われたアンダーウッドの地下都市が見えた。

 

「では改めて自己紹介させてもらおうか。私は"一本角"の頭首を務めるサラ=ドルトレイク。聞いた通り元"サラマンドラ"の一員でもある」

 

「じゃあ、地下都市にある水晶の水路は、」

 

「勿論私が作った。アンダーウッドで使われている技術は私が独自に編み出したもの。流出させた訳では無いぞ」

 

その言葉を聞いたジンは胸をなで下ろす。一番聞きたかったことだったのだろう。

 

「それでは、両コミュニティの代表者にも自己紹介を求めたいのだが……ジャック。彼女はやはり来ていないのか?」

 

「はい。ウィラは滅多なことでは領地から離れないので、今回は参謀の私が」

 

「そうか。北側の下層で最強と謳われる参加者を、是非とも招いてみたかったのだがな」

 

「北側最強?」

 

天音と耀と飛鳥が反応する。隣に座るアーシャが自慢そうに話す。

 

「当然、私たち“ウィル・オ・ウィスプ”のリーダーの事さ」

 

ウィル・オ・ウィスプのリーダー、ウィラ=ザ=イグ二ファトゥス。蒼炎の悪魔と言われし生死の境界を行き来し、外界の扉にも干渉することが出来ると言うわれる大悪魔。それがウィル・オ・ウィスプのリーダーだ。

 

「それにしても、創元殿の御息女、天音様にこのような形で会えると思っては居なかった」

 

「様はやめてくださいよ!私は私で、父は父です!私のことは普通に天音でお願いします!」

 

畏まった風に言われた天音は慌てて言う。こう言うのには慣れていないのと、明らかに相手の方が立場が上なのだ。

 

「そうか。では、収穫祭に特別ゲストとして参加してくれた事感謝する。天音」

 

そう言うと、サラは手を差し出し、握手を求める。

 

「こちらこそ、招待していただきありがとうございます!」

 

天音は招待してくれたことに礼をいい、その握手に応じる。屈託のない笑みを浮かべたサラは収穫祭の感想を求めた

 

「それで、収穫祭の方はどうだ?楽しんでもらえているだろうか?」

 

「はい。着いたばかりで多くは見れてはいませんが、活気と賑わいがあっていいと思います」

 

「それは何より。ギフトゲームが始まるのは三日以降だが、バザーや市場も開かれる。南側の開放的な空気を少しでも楽しんでくれたら嬉しい」

 

「ええ、そのつもりよ」

 

飛鳥は笑顔で答える。耀は目を輝かせながらサラの龍角を見つめている。

 

「どうした?私の角が気になるのか?」

 

「うん。凄く、立派な角。サンドラみたいに付け角じゃないんだね」

 

「ああ、コレは自前の龍角だ」

 

「だけど、サラは"一本角"のコミュニティだよね?二本あるけどいいの?」

 

「大丈夫じゃないかな?じゃないと……例えば翼が四枚ある種族なんてどこにも行けないじゃん?」

 

「あ、そっか」

 

サラはその話に苦笑しながらも

 

「"龍角を持つ鷲獅子"の一因は身体的特徴でコミュニティを作っている。しかし、頭に着く数字は無視しても構わない。後はコミュニティに応じて役割が分けられるかな。"一本角"と"五爪"は戦闘、"二翼""四本足""三本の尾'は運搬、"六本傷"は農業・商業全般。これらを総じて"龍角を持つ鷲獅子"連盟と呼ぶ」

 

「そう」

 

耀は短い返事をして連盟旗を見上げる。

 

「収穫祭では"六本傷"の旗を多く見かけることになるだろう。今回は南側特有の動植物をかなり仕入れたと聞いた。後ほど見に行くといい」

 

天音はその言葉を聞いて、ふと黒ウサギの方を見る。少し見たあと、思い出したようにサラに

 

「特有の植物の中にラビットイーターってある?」

 

「まだその話を引っ張りますか!?そんな愉快に恐ろしい植物が存」

 

「在るぞ」

 

「在るんですか!?」

 

次は耀が目を輝かせながら更に問う

 

「じゃあ……ブラックラビットイーターは、」

 

「だからなんで黒ウサギをダイレクトに狙うのですか!?」

 

「在るぞ」

 

「在るんですか!?一体の何処のお馬鹿様が黒ウサギをダイレクトに狙う恐ろしいプラントを!?」

 

「発注書ならここにあるが」

 

サラの机の上に置いてあった発注書を黒ウサギは素早く取り内容に目を通す。天音はこっそりと覗き見る

 

『対黒ウサギ型プラント:ブラック★ラビットイーター。八〇本の触手を淫靡に改造す

 

グシャ!

 

途中まで読み黒ウサギは発注書を握り潰す。

 

「………フフ。名前を確かめずとも、こんなお馬鹿な犯人は世界で一人シカイナイノデスヨ」

 

ガクリと項垂れ、しくしくと哀しみの涙を流す黒ウサギ。大河に向かって魂の叫びを上げる彼女の背に、悲哀が集まる。やがて黒髪は緋色に変幻させ立ち上がる。

 

「……サラ様、収穫祭にご招待いただき誠にありがとうございます。我々は今から行かねばならない場所ができたので、これにて失礼いたします」

 

「そ、そうか。ラビットイーターなら最下層の展示場にあるはずだ」

 

「ありがとうございます。それでは、また後日です!」

 

「え?ちょ、待って……黒ウサギ!?」

 

ノーネーム一同の首を鷲掴みにし、一目散に飛び去る。行き先は最下層だろう……

 

 

 

 

 

 

ズドォォォォォン!!!

 

雷鳴が轟き、迸る雷鳴が全長5mの食兎植物が穿たれる。カオスプラントは緋色に髪を染めて怒る黒ウサギの前に無残に潰えた。

 

「……もったいない…」

 

耀は溜息をつきながら言う

 

「お馬鹿言わないでください!こんな自然の摂理に反した植物は燃えて肥しになるのが一番なのでございます!」

 

フン、と顔を背ける黒ウサギ。その後は日が暮れるまで収穫祭を見学し楽しんだ。バザーや市場を見て回り、民族衣装を試着したりなど、大いに楽しみ過ごした。苗や牧畜はギフトゲームの賞品を手に入れてからでいいだろうとなり保留に。いくつかのゲームに参加登録をし終えた頃には、夕焼けに染まる空を見上げて黒ウサギが呟く。

 

「そろそろ、宿舎に戻りましょうか」

 

「そうだね、そろそろ戻ろうかな」

 

一同は螺旋状に掘られた壁を登り、宛てがわれた宿舎に行く。

 

「思ったより、ゲームが少ないね」

 

「YES!本祭が始まるまではバザーや市場が主体となります。明日は民族舞踏を行うコミュニティも出てくるはずなのです」

 

黒ウサギは何時になくハイテンションでウサ耳を左右に揺らす。何時も以上にハイテンションな黒ウサギ。思い返すと最初からアンダーウッドに来るのを楽しみにしていたように見える。

 

「ねえ、黒ウサギ。もしかして前々からアンダーウッドに来たかったの?」

 

「え?ええと、そうですね。昔お世話になった同志が南側の生まれだったので、興味がありました」

 

「同士?それって」

 

「はい。魔王に連れ去られた一人で、幼かった黒ウサギをコミュニティに招きいれてくれた方でした」

 

その言葉に天音達三人は顔を見合わせる

 

「黒ウサギはノーネームの生まれではないの?」

 

「はい。黒ウサギの故郷は東の上層にあった"月の兎"の国だったとか。しかし絶大な力を持つ魔王に滅ぼされ、一族は散り散りに。頼る宛もなく放浪としていたところを招き入れてくれたのが今の"ノーネーム"なのです」

 

言葉を失う天音達。故郷を二度魔王に奪われたという事だ。彼女の献身は月の兎という以上にその体験からなのかもしれない。

 

「黒ウサギを同士として受け入れてくれた恩を返すため……絶対にノーネームの居場所を守るのです。そして天音さんや耀や飛鳥さん、十六夜さんみたいに素敵な同士が出来たと、皆に紹介するのですよ!」

 

黒ウサギは気合を入れるように両腕に力を込める。

 

「そう……。ならその日をとても楽しみしてる」

 

「私も楽しみだね!是非ともゲームしてみたいよ!」

 

「私もよ。……ところでその、黒ウサギの恩人というのはどんな人だったの?」

 

その時の黒ウサギの瞳は過ぎ去った日々を顧みているのだろうか、遠い日を見ているようになる。しかし笑みを浮かべ恩人の名を呟く。

 

「彼女の名前は金糸雀様。我々のコミュニティの参謀を務めた方でした」

 




次回、天音に異変が……!

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