襲撃の報告を聞くのと同時にその場に居る全員が樹の根を飛び出し目にした光景は、半ば壊滅状態になっている"一本角"と"五爪"の同士たちだった。影法師だけは動揺することなく、その様子を見る。
影法師が状況を把握に務めている最中、琴線を弾く音が響く。耀は聞き覚えがあるのか顔を上げる。
(この音……濃霧の時と同じ……!)
先程の戦闘を思い出すが、それを伝える暇は無かった。琴線が二度三度重なり、音色の数だけ最前線の仲間が倒れていく。耀やその場にいるメンバーの意識すら奪われそうになる。
「これ以上は……看過出来んな」
そう呟くと、影法師は槍をギフトカードから取り出し、単独で飛び出す。
「ま、待ってください!」
ジンの制止も間に合わず影法師は戦場に向かう。目的は、首謀者を捕えることが出来ればいいが、主な狙いは戦線の維持である。
直後、影法師が向かったであろう方向から凄まじい轟音と火柱が立ち上る。それは一度ではなく二度、三度と。三度の火柱によって巨人100体が消し炭へとなる。
「貴方は、先程の……」
「ああ、戦線維持の為の救援だ」
群がる巨人族、現状、仮面の騎士もサラも耳に入る音色で力を出し損ねているという状況だ。それは影法師も例外じゃない。
「不快な音だが、その程度の音で俺の戦意を削ぐと考えられているのなら……それは早計な事だ」
そして影法師は仮面の騎士と並び立ったかと思うと、ギフトカードを取り出し一言呟く。
「日輪よ、具足となれ」
ギフトカードは太陽の如き黄金の光を放ち、影法師を守る鎧へと形作る。意識が奪われそうになる恩恵を鎧の恩恵によって軽減する。そして、耀達がいる方向を一瞥し
「琴線の音は彼等が何とかするだろう。俺の役割は、それまでの時間稼ぎと迫り来る敵の対処だ」
黄金の鎧を身にまとい、黄金の槍を握り構える影法師。仮面の騎士と背中合わせで立つ。そんな時
「名前を伺っても良いでしょうか?背を預けるもの同士、これから競い合うとなっても名前を知っておくべきかと」
「確かに一理ある。少し複雑だがこの肉体の主の名は本人の意識が戻り次第で頼む。俺の名は……そうだな、"
そう答える影法師こと槍兵は少女の体で槍を構える。名を聞いた仮面の騎士も武器を構え
「
「ああ、構わない。好きに動くといい」
そのやりとりと共に二人は飛び出す。槍兵の槍の一振は巨人の命を意図も簡単になぎ払い、フェイス・レスの斬撃も同様に巨人を討つ。先程の戦線維持がやっとの事だったが、槍兵が加わり、かなり余裕が生まれる。
それと同時に、耀達は動いていた。耀達の作戦は奇襲である。耀が遥か上空、高度1000mで機を伺う。ジン達が巨人達を何らかの方法で混乱させて、大きく混乱した所に所に、奇襲を仕掛けるというものだ。
(この位置なら奇襲にもってこいだ。これで、ジンの言う混乱が本当に起こるのなら……。こんな時に、十六夜と天音なら……)
二人のことを考える耀。普段ならこんな時の大役は十六夜か天音の二択だ。しかし、十六夜はこの場にいないし、天音は影法師こと槍兵が主導権を握り、現在、地上で仮面の騎士ことフェイス・レスと背中併せで戦っている。それは上空からでも様子を視認できる。音で苦しそうなフェイス・レスのフォローを顔色一つ変えずに黄金の鎧を纏いて巨人を屠る金髪の少女。
自分とかけ離れた力を持つ二人なら奇襲なんてせずに正面から叩きのめしているだろうと思うと、緊張してくる。自分には出来るのだろうかと。自分もこの作戦を成功させたら、彼らのように笑えるだろうかと思い、
「あはははははははははははははははははははははははははははははははうんこれはない」
予想以上に恥ずかしかったのか首を横に振るう。いくらテンションが高くてもこれは出来ないと、誰もいない上空で恥ずかしさで耳まで顔を赤く染めながらに首を横に振るう。向いていないと溜息を着いた時にふと思い出す。いつか天音と話した際に言っていたことを
『何か上手くいった時ってね、得意な表情というか笑っちゃうんだよね。なんて言うかさ「してやったぜ!」とか「これが私だ!」とか。まぁ、世界大会でテンション上がってしちゃって恥ずかしかったけど』
「ふふっ」
その話を思い出して密かに笑う耀。自然と緊張は薄れ、リラックス出来ていた。そしてそのまま自然に集中する。先程の緊張が嘘のように頭がクリアになり、自分でも驚くくらいに脱力もできている。そんな中、地上で漆黒の風が起きる。耀はそれがジンの使用したギフトだと気づく。その風が圧縮され人型へと変化していく。そして、圧縮された空気は一気に放出し爆ぜた。そして、そこから現れたのは
「何処に逃げたの、白夜叉ああああああああ ああああああああああッぁぁぁぁぁぁぁぁ ぁぁぁぁぁ!!!」
戦場とは無関係に駄神の名を叫びながら、一撃で、100の巨人族を薙ぎ払うペストだった。
ジンの狙いはこれだった。
ケルト神話群に記されし、巨人の逸話。その中のダーナ神話群の巨人族の闘争を記した史実には黒死病を操る事で巨人族を支配していたと。治療法が確立されていない病を操るのは支配体系の一つである。ジンはそれを見越していたのだった。
「出てこい、出てこい、出て来なさい白夜叉ッ!よくも元魔王の私に、あんな下劣でイヤラシイ服装の数々を!」
「ウオオオオオオオオオオッォォォォォォ――――!」
「五月蠅いわ、この木偶の坊!」
地上では隷属されたペストが巨人族相手に大暴れをしている。混乱という名目では達成出来ていると言えるだろう。耀は一瞬呆気に取られそうになったが、大きく息を吸い込んで吐き、集中力を高める。更に引き出す力は嗅覚、鷹の瞳だけではなく超音波によるソナーの索敵である。嗅覚、視覚が狂わせられようともぶつかり合う音に波は狂わされることは無い。
(……!見つけた!)
感知するのと同時に『生命の目録』の力を解放し、流星の如く流れ落ちる。針の穴を通すかのような正確さで豊穣と天候の神格を持つ『黄金の竪琴』を持つ敵に迫る。
「今だ――!」
濃霧を突っ切る流星は、逃亡者から『黄金の竪琴』を奪い去る。迎撃されないように上空へ逃れ、自分の勝ち取った戦果を腕の中でしっかりと抱きしめる。成功したのを確信する頃には
「ふふっ!」
自然と小さい笑いが零れていた。
そして、その瞬間にアンダーウッドのでの戦いの勝敗が決まる。
――――――――――――――――――――
次の日の朝。耀達を迎えたのはフェイスレスと槍兵だった。フェイスレスは精錬された物腰と静謐な純白の鎧を纏って彼女たちを待っていた。槍兵は天音の何時もの姿をとっていた。槍兵は何も話さず、ただただ立っていた。
(……そろそろか)
ふっ、と笑を零しながら、彼女達のやり取りを見ていた。
クィーンハロウィンの恩寵を受けし騎士、それを仲介したのは"ウィル・オ・ウィスプ"本来なら異世界からの召喚は断るようなことだが、ジンが日用品の類を"ウィル・オ・ウィスプ"製にする契約をすることで、お友達料金ということでという事で話はついていた。
「ですが、一つ問題があります。厳密には"クイーン・ハロウィン"の力で召喚するのではなく、星の廻りを操って因果を変える。つまり、耀さんが初めからヘッドホンを持ち込んでいたという形での再召喚。なので耀さんの家にヘッドホンがないと成立しないのですが……」
「……大丈夫。家に十六夜のと同じメーカーのヘッドホンがある。それに父さんはビンテージ物だって言ってたから、十六夜もあれならきっと喜んでくれる」
「あら、けれどそのヘッドホンはお父様のものなのでしょう?」
「それは大丈夫父さんも母さんも行方不明のままだから」
サラリと己の身の上を言う耀。しかし、両親を亡くしている飛鳥は俯く。
「ご、ごめんなさい。そうとは知らずに」
「ううん。私も話してなかったし……それに私達四人とも自分の事話したがらなかったから。知らないのも当然だと思う」
「……ええ。その通りね」
耀は一度、槍兵と飛鳥を見てから言う。
「だから、ヘッドホンを渡す機会に四人で話したいな」
「それ、良いわね。異邦人四人でお茶会なんていいかも知れないわね」
そんなやり取りを見てなお、何も言わずに見届けていた。一同は黄道十二宮螺旋階段を上り、地表に出る。
フェイス・レスが用意した"黄道の十二宮"陣があり中央に耀を座らせ、フェイス・レスは"クイーン・ハロウィン"の旗印が刻まれた剣を取り出す。すると太陽の光が地面に描かれている十二宮の紋章輝かせ始めた。
「ねぇ、黒ウサギ、どうしてハロウィンと太陽と“黄道の十二宮”が関係あるの?」
ハロウィンとは元々、一年間の周期を二分化して行われる祭事であり、周期が変わる時、異世界の境界が崩れる。さらに、ケルト民族は独自の太陰暦を持つ程高度な天文学を修めていた。ただケルト民族がどんな宇宙観を持っていたかのかは本人のみぞ知る。それ故にハロウィンはその数少ない文化の名残を残す祭事となっていた。
そして黄道とは"太陽が通過する軌跡"を指し、十二宮とは太陽の軌道上に存在する星座のことを言う。箱庭内では十二宮の星座を幾つ支配しているかで、太陽の主権を決める程重要なものである。
飛鳥はこの説明を黒ウサギとジンから聞く。そして飛鳥は
「あの人……人間なの?」
フェイスレスを見ながらに尋ねる。
「YES!様々な武具で身を固めておりますが、人間で間違いはありません。それも、皆さんに匹敵するほど、強大な才能の持ち主でしょう。"ウィル・オ・ウィスプ"が北側の下層で最強のコミュニティというのは、あながち間違いでないでしょう」
「そう」
黒ウサギの言葉に飛鳥は相槌を打つ。そしてしばらくの時間が経った。
耀の頭にはネコ耳ヘッドホンが着いていた。
「可愛い!そのヘッドホンすごく可愛いわ、春日部さん!」
飛鳥は瞳を輝かせて耀に飛びついた。
「か、可愛い?」
飛鳥の言葉に意味が分からない耀はヘッドホンを頭から外し見る。見た瞬間サッと顔を青ざめた。
「な、なんで!?ちゃんと炎のトレードマークも付いてるのに形が変わってる!?」
飛鳥にもみくちゃにされながら困惑する耀。
周りはなんとも微妙な表情でネコ耳ヘッドホンを見つめていた。
「あのネコ耳を、十六夜さんに贈るのですか?」
「さ、さぁ?耀さんが判断するんじゃないかな?」
「ヤホホ………でも意外と喜ぶのではないでしょうか?」
そんな無責任な笑いを声を上げ近づく三人。
その後、フェイス・レスが耀のギフトを見たいと言い、耀がペンダントを渡す。フェイス・レス曰く、耀のギフト"生命の目録"は"他種族のギフトを戴く"だけではないと言う。
「"目録"からのサンプリング、“進化”と“合成”をするのが本来の役割のはず。気を付けて。本来ならばそのギフトは人間の領域を大きく逸脱した代物ですから」
そう言うとフェイス・レスはアンダーウッドの地下都市の崖を飛び降りて姿を消す。
それと同時に、槍兵が膝を着く。それを見た耀達が走りよってくる。
「大丈夫ですか!?」
「……大丈夫!?」
「ああ、心配ない。俺の維持が限界を迎え、主導権が本来の持ち主に戻るだけだ」
槍兵は息を吐きながらに言う。
「つまり、槍兵さんが……」
「気にする事はない。元より、本来こうして話す機会も、戦う機会も無かった。彼女が仲間に恵まれていると言うのをこの目で見ることが出来ただけでも、俺も恵まれているというものだ」
耀と黒ウサギに支えられ、壁に背を預けながらに言う。
「ありがとうございます。貴方が前線を支えてくれたおかげで被害が抑えられました」
「それは当然のことをしたまでだ。……態々口にするまでも無いが……天音を頼む」
それを聞いたノーネームの面々は
「当然よ!」
「……言われるまでもない」
「もちろんでございます!」
「はい!」
全員が好意的な返事をする。それを聞いた槍兵は目を瞑り
(天音、お前と言葉を交わすこともできなかったが……どうか幸運を)
そしてゆっくりと目を瞑る。それと同時に力が抜けそのまま座り込む。天音はまだ眠り続ける。
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