「……」
天音が目を覚ますと宿舎に寝かされていた。上体を起こし顔に手を当てて思い返していた。意識が沈む感覚、体に刃物を突き立てられた激痛と感覚。男の言葉。
『随分と侵食されてんなぁ。まぁ、オレの恩恵で弊害なくスムーズに力を引き出しているんだから……当然だな』
天音はこの言葉の意味を理解した。その直後さらに、恩恵の底に意識が1度沈められたのだから。その感覚は天音を蝕むのに十分であり、感覚を思い出すだけで体が震える。
(止まれ…止まれ、止まれ!)
両手で体を抑える。震えを無理矢理押さえつけて思考を止めようとするが、震えは止まることは無い。ただこの部屋にいるのは、己が強大な恩恵に押し潰されようとしている少女のみだ。
(ダメだ……このままじゃ……!)
眠っている間、恩恵の誰かが侵食を食い止めててくれた間の出来事は把握出来ている。それ故に自分が動かないと行けないというのは重々理解していた。
(動かないと……!)
急いでベットから出ようとすると
「そんな顔色が悪い状態でどこに行くつもりだよ天音。何時もの余裕が無い酷い顔だぞ」
天音が声のするほうを見ると宿舎の入口には見覚えのある金髪の少年が立っていた。
「い、十六夜!?」
「おう、他の誰に見えるよ」
笑いながらに十六夜が入室してくる。見知った顔を見て天音はホッとする。でもそれと同時に自分の胸の内を隠すように言われた言葉に噛みつく。
「十六夜にしか見えないけど……。それはそれとして、酷い顔って何さ。確かに最近は夢見が良くなかったかもだけど、酷い顔って言われるほどじゃないと思うんだけど」
強がって反発してくる天音に十六夜は肩をすくませながら、なにか言おうとしたが、踏み出せず
「まぁ、悪かった。そんなに怒んなよ」
茶化すように誤魔化した。無論何があったのかは既に黒ウサギから聞いている。巨人族の襲撃、"顔亡き者"やジャック達との共闘。そして……天音の現状についても。十六夜は薄々何かが天音の身に起きていると言うのは感づいてた。普段の十六夜なら踏み込んでなんて無いふうに話をしただろう。
だが、出来ないでいた。
「それで、気分はどうだよ?こっちに来たら寝てるもんだからよっぽど騒いで疲れたと思ったんだけどな」
天音は十六夜の様子を見て、
(良かった……バレてないんだ……。皆にも心配かけたくないし、隠し通せたら良いんだけど)
と思った。
「うん……観光は楽しかったよ。そのあとは、夢を見ていて……気がついたらベットで寝てた」
「呑気だな。じゃあ、外の事は知らない感じなんだな?」
二人の間に沈黙が生まれる。十六夜は知っているかもしれないと言う思考があり、天音は知っているけど眠っていたため知っているとは言えないからである。
「まぁ、簡単に言うと巨人族の襲撃があったらしいぜ。それを皆で協力して退けたらしいんだよな」
「…そんな時に……私は……!」
天音は強く拳を握る。そう、そんな時に天音は意識が浮上すること無く、意識の底に沈んでいたのだから。恩恵の侵食を食い止めた人物が表面化したから大きな被害が出なかったが、もしも表面化しなかったら、今以上の被害が出ていたことは明らかであり、天音自身の命にも関わってきただろう。
「まぁ、被害は最小限に抑えられてたんだ。そこまで気に病む必要はねぇ。襲撃がこれで終わりとも思えないしな」
直後
――目覚めよ、林檎の如き黄金の囁きよ――
不吉な声が2人の耳に入る。そして黄金の琴線が弾く音が響く。
詠唱は続く
――目覚めよ、林檎の如き黄金の囁きよ
目覚めよ、四つの角ある調和の枠よ。
竪琴より夏も冬も聞こえ来る
笛の音色より疾く目覚めよ、黄金の竪琴よ――――!
十六夜と天音はすぐ様、外に出る。異変は詠唱だけでは無い。
「この詩はまずい!確か巨人族から奪った竪琴は……!ああ!クソが!やられた!!」
「どういうこと十六夜!?」
「ああ!あの竪琴はなぁ!」
『如何にも。貴様の想像通り、あの竪琴は"来寇の書"の紙片より召喚されたトゥアハ・デ・ダナンの神格武具。敵地にあって尚、目覚めの歌で音色を奏でる神の楽器だ』
「トゥアハ・デ・ダナンって確かケルト神話の!」
「ああ!大地母神ダヌーを祖神とする神々の一族。ダーナ神族とも呼ばれる奴らだ。巨人がそれだとすると……!」
天音とは十六夜は互いに背を預けて警戒する。
『急くな、創元の娘とその同士よ。今宵は開幕の一夜。まずは吸血鬼の姫―――"魔王ドラキュラ"の復活を喜ぶがいい!!』
「魔王ドラキュラ!レティシアに何を!」
天音は聞き返すのと同時に、夜空が2つに裂け暗雲に飲み込まれ雷光が走る。そして割れた空から
「まさか……あれが…!!」
『そう。神話にのみ息衝く最強の生命体――龍の純血種だ!!!』
常識外れの雄叫びがアンダーウッドの総身を揺り動かす。
「龍…!これが龍!!」
十六夜はかつてない威圧感に戦慄し
「……」
天音は言葉が出なかった。巨龍が雄叫びをあげる度に落雷が降り注ぎ、地下都市を覆う根は一瞬にして焼け落ちる。それだけではなく
「巨人族もこっちに向かっているぞ!」
「ええい!この非常事態にわらわらと現れたやがって……!!」
罵声が飛び交う中、巨龍の雄叫びと稲妻が激しくなる。一層大きな雄叫びが震撼させると、巨龍の鱗が雨のように降り注ぎ、1枚1枚が巨大な亀や大蛇となり街を襲い始めた。その光景を見た天音の胸は早鐘を鳴らす。そして……駆り立てられるように、強迫観念に押されたように。圧倒的な速度を持って街に飛び込む。
「っ!待て天音!!」
十六夜の静止も振り切り、街に降り立つ。そして…巨人族、亀や大蛇と対峙する。
その時黒い封書が舞い降りる。
『ギフトゲーム名:"SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING"
・プレイヤー一覧
・獣の帯に巻かれた全ての生命体。
※但し獣の帯が消失した場合、無制限でゲームを一時中断とする。
・プレイヤー側敗北条件
・なし(死亡も敗北と認めず)
・プレイヤー側禁止事項
・なし
・プレイヤー側ペナルティ条項
・ゲームマスターと交戦した全プレイヤーは時間制限を設ける。
・時間制限は十日毎にリセットされ繰り返される。
・ペナルティは"串刺し刑" "磔刑" "焚刑"からランダムに選出。
・解除方法はゲームクリア及び中断された際にのみ適用。
※プレイヤーの死亡は解除条件に含まず、永続的にペナルティが課せられる。
・ホストマスター側 勝利条件
・なし
・プレイヤー側 勝利条件
一、ゲームマスター・"魔王ドラキュラ"の殺害。
二、ゲームマスター・"レティシア=ドラクレイア"の殺害。
三、砕かれた星空を集め、獣の帯を玉座に捧げよ。
四、玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命主導者の心臓を撃て。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
" "印』
それは魔王のギフトゲームであり、そのゲームマスターは天音が危惧したレティシア本人でもあった。