いずく1/2   作:知ったか豆腐

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いずく1/2 その10(轟戦)

『強い……ッ!』

 

 第二回戦。

 優勝候補の一人である轟に出久は苦戦を強いられていた。

 初撃の大氷結を巨大九尾化でしのいだものの、その後も続く猛攻に圧され続けている。

 そもそも、エリアの限られたこのバトルフィールドでは巨体は逆に不利になるのだ。

 身体の一部でも枠外に出れば場外として負けになるルールでは、一撃で圧倒でもできない限り巨体であるメリットよりもデメリットの方が多い。

 

 やむなく巨大九尾化を解除して相対するも、轟のほうが実力は一枚も二枚も上手であった。

 

「グッ、個性の練度だけじゃない。戦いに対する練度が違いすぎる!」

「おまえ対策はしてあるんだ。楽に行けると思うなよ、緑谷」

 

 狐火で氷結に対抗するも、出力が足りず、押し返せない。

 さらに、氷結の個性だけでなく、隙を見せれば体術も絡めて攻撃を仕掛けてくる。

 試合開始からずっと続く轟の猛攻に出久はひたすらしのぐしかない。

 

 この息もつかせぬような攻め一色のスタイル。

 これこそが轟が考えた対出久用の戦術だった。

 

『思った通りだ。何度か目を合わせる機会があったのに幻術を使ってこねえ。やっぱり幻術を使うにはタイムラグがあるってことだ』

 

 轟がこれまで観察した出久の能力から、出久の切り札の一つである幻術の弱点を見抜いている。

 出久の幻術は強力だが、その分使う際にはそれなりの集中力が必要なのだ。

 第二種目の騎馬戦であらかじめA組のメンバーに幻術の発動条件を満たしておいたのはそういう理由があった。

 どんなに強力な幻術も使わせなければ問題ない。そんな考えをもとにした作戦は確実に成果をあげて出久を追いつめていく。

 

 怪力で砕くには氷の質量が大きすぎ。

 狐火もまた火力が足りない。

 幻術は使う暇を与えられず。

 式神は実践レベルに達していない。

 巨大九尾化は地の利が殺してしまう。

 

 使える手段を削られる中、出久は必死に状況を打開する手段を考えるが、考えをまとめる暇を轟は与えてくれない。

 で、ありながら、轟にはこちらに声をかけてくる余裕すらあった。

 

「これでもう終わりだ。だが、ありがとう緑谷。おかげで……父親(ヤツ)の顔が曇った」

 

 出久から目を離し、観客席にいる父親に目を向ける轟。

 真剣勝負をしている相手から目を離すその傲慢。

 

『気にくわぬ。気にくわぬぞ、主様!!』

 

 怒りを抱いたのは出久ではなく、乙音であった。

 

『乙音?』

『やつは主様のことを見ておらぬ。いや、主様だけではない。ここにいる誰のことも見ておらぬ……

 ここで戦う誰もが夢に向かって全力で戦っているのに、やつは己の憎しみのために動いている……

 許せぬ! 主様の夢を薄汚い復讐などで邪魔するなど! あまつさえ、その復讐のゴールが主様と同じ(ヒーロー)じゃと!?』

 

 父親との確執、復讐のために行動する轟の態度は、夢に向かって真っすぐぶつかる出久に対する侮辱だと憤慨する乙音。

 誰よりも出久がヒーローに憧れる姿を間近で見てきて、無個性であることに苦しんできた過去を知る乙音にとって、生まれ持った恩恵を否定して全力も出さずに出久と同じ(ヒーロー)を目指す轟は許せないものだった。

 その乙音の怒りを聞いて出久も同意をする。

 

『そうだね、乙音。僕だけじゃない。みんな、本気でやってる。勝って目標に近づくために。一番になるために! 全力も出さないで一番になろうだなんて、フザけるなって思うよ』

 

 一心に、真剣にヒーローを目指す皆のことを思い出して拳に力を込める出久。

 覚悟は決めた。

 

『轟くんのあの態度は許せない。だから、この試合、轟くんに全力を出させて、その上で勝つ!』

 

 力強い決意。

 主の宣言に乙音も気持ちが高揚したように答えた。

 

『それでこそだ、主様! で、どうする? 何か方策はあるかえ?』

『残念だけど、僕じゃ、今の僕じゃどうにもできない。だから……力を貸して、乙音!』

 

 出久の言葉に、乙音は戸惑う。

 

『……妾は、主様の人生に憑りついただけの不要物じゃ。そんな妾がしゃしゃり出たところで……』

 

 過去歴代の宿主を渡り歩いてきた乙音は、いまだに自分の存在が宿主を殺したという意識が消えていない。

 それゆえの不安。自分が表に出て大々的に活躍するということへの恐怖があった。

 だが、そんな乙音を出久は優しく受け入れる。

 

『乙音は僕に言ったよ。人生を相乗りだって。なら乙音も僕の一部だ。不要なんかじゃない……だから、一緒に戦って!』

『そうか……そうか。ならば、共に戦うぞ! 主様よ!! ここからは妾の大舞台じゃ!!』

 

 出久の言葉で共に戦うことを決めた乙音。

 その覚悟は出久の身体にすら変化をもたらした。

 

「な、なんだ? 緑谷。その姿は!?」

「気をつけろよ、小僧。いまの妾は獣ゆえなッ!!」

 

 人の手足が毛皮に覆われ鋭い爪の生えた猛獣の手足に。

 瞳孔は肉食獣のように縦長となり、瞳は赤く染まった。

 犬歯は鋭く、肉を裂く形に。

 濃い緑の髪は美しくきらめく金へと色を変えていく。

 

 白面金毛九尾の狐。

 

 出久が乙音に体の主導権を委ねたことで、より獣性が増して攻撃的なスタイルとなった。

 名付けるならば『白面金毛モード』とでも言えばよいだろうか?

 

 クラウチングスタートのように体勢を低くして構えた乙音。

 地面を蹴りつけた音と共に轟との距離を一気に縮めて拳を振りぬく。

 

「早い!? グハッ!」

 

 とっさに飛びのき、腕でガードして直撃は避けたものの、あまりの威力に地面を転がる轟。

 直撃を避けてこの威力。

 もしまともに当たっていたらと考えると冷や汗が止まらない。

 

『なんつー威力だ! 見た目相応にパワーアップしてやがるのか。だが、距離が空いたいまなら!!』

 

 接近戦は危険だと、氷結による遠距離攻撃を使って反撃を試みる轟。

 だが、もはや氷結すら乙音には通用しない。

 

「もうその手が効くと思うでない!」

 

“狐火・豪 火炎太鼓 六連三百両”

 

 乙音から放たれる六連の高温の火球が氷結攻撃とぶつかり、水蒸気をまき散らして轟の反撃を相殺する。

 水蒸気で閉ざされた視界の中、乙音は持ち前の嗅覚と聴覚で轟の居場所を把握し、猛スピードで迫る。

 白い靄を突っ切って現れた乙音の攻撃は、轟にとって奇襲と呼べるものになってしまった。

 

「ガアァァァ!」

「なに!? ぐああ!!」

 

 飛びかかってきた乙音の両腕を何とか抑えることができた轟だったが、思いもよらぬ攻撃に苦悶の声を上げる。

 両手を抑えられた乙音は大きく口を開き、無防備になった右肩へ……

 

『おおっと、緑谷ァ! 轟の右肩へ噛み付き攻撃ィ! ワイルドすぎだぜぇ!!!』

 

 プレゼントマイクの実況が響き渡るが、試合を見ている人の代弁とも呼べるものだった。

 噛み付く・ひっかく・四足歩行など、獣じみた戦い方に周囲は驚きを隠せない。

 

 幻術や式神、狐火などを細やかにコントロールし、相手と味方の能力を考察して戦略・戦術を構築して戦うウィザードタイプの出久。

 対して、乙音は怪力と高火力の狐火を使い、本能的な直感に任せて身体能力をフルに使って戦うパワータイプの戦闘方法だ。

 

 さきほどまでとは全く違う戦い方を見せるのだから驚かない方がどうかしている。

 

「くそ! 離れろ!」

 

 至近距離からの氷結も、野生動物の本能的な直感で躱す乙音。

 宙で一回転し、氷塊の上に降り立った乙音は轟を見下ろして言う。

 

「気に入らぬ。こちらに無理やり向けさせたはいいが、憎悪で濁った瞳を向けられるのは不快じゃな」

「うるせえ……分かったような口をきくな!」

「分かるとも! 復讐に狂った者の心くらいはな!」

 

 かつて自らも復讐に身を委ねたことのある乙音には、憎しみで動く轟の気持ちはよく分かっていた。

 

「憎い相手のことを考えれば考えるほど自分でもその気持ちを抑えきれなくなるのであろう? そうやって憎しみ以外見えなくなって……大切なものを忘れてしまっているのがいまのおまえじゃ!」

「黙れ! 俺の邪魔をするんじゃねえ!!」

 

“いいのよ。おまえは――――”

 

 乙音の言葉にかつて言われた母の言葉が頭をよぎる。

 この先の言葉を忘れてしまった、大切な何か。

 それがささくれのように心をかき乱し、苛立ちを強くさせる。

 この苛立ちを打ち消すように轟は叫ぶ。

 

「おまえが何と言おうと、俺は()は使わねえ! クソ親父の個性なんか使わなくても一番になって、やつを完全否定してやる!!」

「クッ、ハハハ! 何をバカなことを言うておるのやら。笑わせるな阿呆め!」

「何が可笑しい!!」

 

 激昂する轟だったが、次に告げられた乙音の言葉に動揺を隠せなくなる。

 

「“父親の個性”? ハッ、そうしてしまっているのはおぬし自身ではないか!」

「何を……何を言っている!?」

「おぬしの力ではないか!! 父親のものではない、おぬしだけの!!」

 

 轟が忌み嫌っているのは、決して“父親”のものではなく、“轟自身”の力だと告げる乙音。

 力は力でしかなく、それをどう扱うか、どう見るかは本人次第なのだと叫ぶ。

 

 忌み嫌っていた己の力を出久に認められて救われた乙音だからこその言葉。

 どんな力であっても人を救うために使うことは間違いではないのだという轟へのエールでもあった。

 

『“個性”というものは親から子へと受け継がれていきます。しかし……本当に大事なのはその繋がりではなく……自分の血肉……自分である! と認識すること。そういう意味もあって私はこう言うのさ! 私が来た! ってね』

 

 轟の脳裏にかつて母と共に見ていたテレビのオールマイトの言葉が思い起こされる。

 そうしてその時言われた、いつの間にか忘れてしまっていた母との記憶も同時によみがえる。

 

『でもヒーローになりたいんでしょう? いいのよ、おまえは血に囚われることなんかない。強く思う“将来(ヴィジョン)”があるなら、なりたい自分になっていいんだよ』

 

 母に認められた記憶を思い出した轟は、その歓喜の興奮に任せるまま左半身から熱を発する。

 

「俺も……ヒーローに! 親父は関係ねえ! “俺の”力でなってやる!」

「ようやくいい顔になったのぅ……じゃが、妾も負けるわけにはいかぬ!」

 

 お互いの夢のために一歩も引く気がない二人。

 轟は両手から氷と炎を生み出し、乙音は九尾すべてに火を灯す。

 

「うおおおおお!」

「カアアアアア!」

 

“氷炎 大爆風”

“狐火・豪 明暦大火振袖炎戯(めいれきたいかふりそでえんぎ)

 

 爆風と火炎の塊がぶつかり合い、会場が真っ白に染まる。

 

 視界が戻った時、立っていたのは……九尾の狐。乙音だった。

 

「轟くん、戦闘不能。緑谷君、2回戦突破!」

 

 主審のミッドナイトの宣言。

 出久と乙音は、3回戦へと進出したのだった。

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