第二試合終了後。
勝利を得たはずの出久はひどく落ち込んでいた。
その理由は単純明快。個性使用後の後遺症である。
前回同様、巨大狐化による女体化継続の後遺症に加え、今回は白面金毛モードの影響まで受けてしまっているのだから。
「うわぁ、尻尾もいいけどケモ耳もかわいいよね。デクちゃん、触ってもええかな?」
「麗日さん、ごめん。いまは放っておいて……」
モフモフ好きになった麗日が新たなモフモフのターゲットに気が付いて目を輝かせているのだが、それどころではない出久。
現在後遺症として出ているのは『女体化』『狐耳が元に戻らない』『瞳が肉食獣のような縦長のまま』という状況だ。
かろうじて髪の色は金髪から元の緑色に戻っているが……あまり慰めになっているともいえない。
地味系美少女からケモ耳美少女へ進化(?)した出久は、せっかく先日男に戻ったばかりだったのにまたしばらく女として過ごさねばならなくなったことを思うと憂鬱な気分にならざるを得なかった。
クラスメイトからしたら、男の姿よりも女の姿でいる方が見慣れているという時点でイメージがもうヤバイのではないだろうか。
座っている席の近くで女子たちの話が出久の胃を痛めつける。
「びっくりしたけれど、金髪の出久ちゃんもかっこよかったわ」
「ワイルドだったね! 派手ですごかったよー!」
蛙吹と葉隠の褒め言葉にほかの女子たちも同意するように頷く。
「ホントだよー! ザ・野生って感じだよね。デンジャラスビースト的な」
「髪色変わると印象違くなるよなー。あ、ウチ思ったんだけど、緑谷の髪形も変えたらもっと違う印象になるんじゃない?」
「面白そうですわね。そのときはコーディネートはお任せください! ぴったりの衣装をご用意して緑谷さんをより魅力的な女子に仕上げてみせますわ!」
「おお! やおもも! サスガ!」
芦戸の意見から耳郎が見た目の話題に変え、八百万がノリノリでコーディネートを提案する。
あぁ、このままでは着せ替え人形に……より魅力的な女子にしなくていいです!
てか、八百万さん、完全に女として見ている!? なんでそんなノリノリなのだ!?
「緑谷、ここにいたのか」
「あ、轟くん」
キャイキャイと女子たちがはしゃぐ場に轟が出久を訪ねにやってきた。
出久にとってはある意味救いの主だった。
爆発の後、気絶してしまったので出久がケガをしていないか確認しに来たらしい。
自身もダメージを受けていたはずなのに人の心配を出来るところがイケメン……もとい、彼の優しさだろう。
「ぼ、僕は大丈夫だよ。むしろ轟くんこそ平気? ほら、乙音の攻撃はワイルドというか、荒っぽいから……」
やけどもそうだけど、噛み付いちゃったし……と、逆に心配する出久に轟は大丈夫だと返事をする。
「ああ、リカバリーガールに治してもらった。ほら、この通り痕も残ってねえよ」
ジャージの襟元をはだけさせて噛み傷のあった部分を見せる。
イケメンがやると些細な動作も妙に色っぽい。
隣で見ていた女子たちの誰かが、思わずゴクリと生唾を呑み込むくらいに。誰かって? そりゃあ――――
「そっか。傷跡が残らなくて良かったよ。ずっと傷跡が残るのは申し訳ないから」
「別に気にしてねえよ。それに、あの傷は残っていても良かったんだけどな」
「え? どういう意味かな、轟くん」
轟の発言の意味がよく分からず聞き返す出久。
「あの傷はおまえがつけてくれたものだからな。残っていても気にならねえ。むしろ消えちまって残念だ」
「え……ええっ!?」
意味深なセリフに戸惑う。
まるで轟が出久を口説いているようなシチュエーションに周りの女子たちが黄色い声を上げる。
特に恋愛ごとに目がない芦戸は目を輝かせて興味津々といった様子。
しかし、轟にはそんなつもりなどなく。彼は……一言足りないのだ。
先のセリフを補足するならば
「あの傷は(俺にヒーローの夢を思い出させるために戦って)おまえがつけてくれたものだからな」
「(自分への戒めに良かったから)むしろ消えちまって残念だ」
というのが本当の意味だ。
それが言葉が足らないせいで勘違いが加速していく。
『え? え? どういうこと? どういう意味なの!?』
『あの傷は妾がつけたのじゃが』
『じゃあ、口説かれてるのは乙音なんだ。よかったー!』
『……主様よ。体はどうあがいても主様のものだと分かっておるのかの?』
『うわあああ!』
勘違いだと知らぬまま、乙音の一言に追いつめられる出久。
こんなどうしようもない状況をさらにカオスにする人物が現れた。それは……
「焦凍、ここにいたのか。む、緑谷……だったか? 君もここにいたとはな」
「え、エンデヴァー!?」
「親父……何しに来た」
轟を探しに来たらしいエンデヴァーの登場に場の空気が変わる。
ナンバー2ヒーローらしく圧倒的存在感を誇るエンデヴァー。
「フッ、焦凍。おまえにねぎらいの言葉でも、と、思っていたのだが用事が出来た」
「なに!? どういうつもりだてめえ」
警戒する轟だが、エンデヴァーが声をかけたのは出久だった。
「緑谷君。先ほどは素晴らしい試合だった。負けはしたがおかげで焦凍も一皮むけて成長できたようだ。礼を言わせてもらう」
「い、いえ。僕も必死だっただけですから」
珍しいエンデヴァーからの感謝の言葉に驚く出久。だが、次のエンデヴァーの一言はさらに出久を戸惑わせるのに十分な威力を持っていた。
「しかし、君の個性は素晴らしいな。強力なパワー・火力に汎用性の高い幻術能力……そうだな。どうかね? 焦凍の嫁に来る気はないか?」
「は? へ? え、ええ!?」
突然の嫁入り発言はとんでもない爆弾であった。
言われた出久はあまりのことに頭が真っ白になり、轟は“個性婚”という忌まわしい言葉を思い起こして顔を険しくし、見ている女子たちは息をのんで成り行きを見守る。
このときエンデヴァー、出久のことを女だと思い込んでいたりする。
まぁ、これは仕方ないことなのだが、エンデヴァーが出久のことを知ったのはこの体育祭からで、しかも出久が男の姿でいたのはほんのわずかな時間でしかないのだから。
とにかく、この勘違いは別にしても、本人の意思を無視して結婚相手を決められるとなれば轟も反発する。
しかもその相手が“男”のクラスメイトとなればなおさらだ。
「(緑谷は男なんだから)余計なマネすんじゃねえよ、クソ親父。俺の結婚相手に口を出されるいわれはねえはずだ!」
「フッ、自分の女は自分の力で手に入れる……か。勇ましいな焦凍。だが、多少強引にでもいかねば後から後悔するぞ」
「なんとでも言えよ。(緑谷は男だから)おまえが何をしたって無駄だ」
言葉の足りない轟に勘違いを加速させるエンデヴァー。
横で見ている女子たちには強引な手段をとろうとする父親からヒロインを守ろうとする少女漫画の
カオス度が増していくその場から、出久はエスケープを選択した。
「うわああん! どおして! どぉしてこうなったの!?」
出久の悩みは尽きない。