いずく1/2   作:知ったか豆腐

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いずく1/2 その12(飯田戦)

 第3回戦がもうすぐ目の前に迫る中、選手控室にて出久は次の対戦相手の飯田の対策を練っていた。

 

「個性が個性だけあって、トップスピードじゃ勝負にならない。僕はともかく乙音ならいけるかな?」

『うむ。あの狭い場所ならばやつもトップスピードは出せまい。ならば勝算はあろう』

 

 ステージの広さを考えればスピードを出しきれないと判断する乙音。おおよそ出久も同じ判断だ。

 だが……

 

「問題は飯田くんの超必だ。あれを使われたら厳しいぞ」

『あの瞬時に加速する技じゃな……』

 

 第2回戦で飯田が塩崎戦でみせた必殺技“レシプロバースト”。

 瞬時にトップスピードをたたき出すこの技は、先ほど述べた彼の不利をひっくり返す決定打となる。

 分かりやすくスピードだけで比較すれば、出久よりも通常の飯田の方が速く、乙音と状況次第で互角かそれ以上。そしてレシプロバーストを使われればこちらの不利だ。

 

 この強力な技を攻略することが勝利のカギだが、実は心当たりがないわけでもない。

 ヒントは飯田が試合の後にこぼした一言だ。

 

『飯田くん、あんな超必持ってたんだね! すごいや!』

『ありがとう、麗日くん。だが、あれは俺から言わせればただの“誤った使用法”なのだが……』

 

 麗日との会話の中で、勝利後の油断からか口にしたあの言葉。これがヒントになる。

 

『〝誤った使用法”。ならば当然デメリットがあってしかるべきじゃの』

「うん。負担が大きいとか足にダメージがでるとか何かははっきりわからないけど。そう何度も長く使える技じゃないはず」

『考えられるのは制限時間……じゃな。さて、どうする?』

「飯田くんあの技は強力だけど、逆に言えばそれを使わせてこちらが凌げれば一気にこちらが有利になる……」

 

 刻々と近づく試合の時間。

 ギリギリまで考察を深めていく二人。

 すべては勝利のためだ。

 

=========

 第3回戦第1試合。飯田vs緑谷

 

 両者共にステージに上がり、位置に着く。

 幻術対策もあって視線を合わすことは無いが、お互いに闘志を燃やし合図を待つ。

 ゴングの前の前哨戦。いや、盤外戦。

 仕掛けたのは出久――否、乙音だった。

 

「その髪の色は……轟くんとの試合で見せた新モードか!」

「この狭いステージでは小回りの利かないおぬしは敵ではない」

 

 挑発的な笑みを浮かべ言い放つ乙音。対して飯田も不敵に笑みを見せる。

 

「スピード勝負が望みか……いいだろう! ひとっ走り付き合ってもらうぞ!」

 

 10秒間だけだがな!

 心の中で最後の一言をつぶやく飯田。

 彼女の言う通り小回りの良さで負けている以上、勝つにはレシプロバーストしかない。

 だが、コスチュームのラジエーターがない状態では10秒が維持していられる限界だ。

 つまり、この10秒間という短期決戦にすべてをかけるしかないのだ。

 

 〝レディイイイ!”

 

 プレゼント・マイクが声を張り上げるのと同時に、二人は戦闘態勢に入る。

 乙音は獣のように。飯田は陸上競技のスタートのように。

 両者姿勢を低くして両手を地に付けて開始を待つ。

 

 〝スタートォオオオ!”

 

 試合開始。

 合図とともにレシプロバーストを発動し、最高速度で疾走する飯田。だが、相手の乙音の動きに驚きの声を上げさせられた。

 

「何だと!?」

 

 目にしたのは手足で地面をしっかりとらえ、不動の構えをとる乙音だった。

 その表情は策が当たったからか、口元が薄く弧を描いている。

 

『しまった、罠だったか! 俺にレシプロバーストを使わせるための……いや、悩むな! 押し切れ!』

 

 開始前のスピード勝負を仕掛けるような発言は、このためのブラフであったことに気が付いた飯田だが、すでに賽は投げられている。

 一度、レシプロバーストを発動させた以上、この10秒で仕掛けるしかないのだ。

 

 そう覚悟を決めて打ち込んだ蹴りの一撃は――――

 

「九尾の……自動防御だと!?」

 

 乙音の尾の一つにはじかれ躱されてしまった。

 そう、動物の本能的な危機察知能力による九尾の自動防御。スピードで競い合うのではなく、相手に切り札を使わせた上での専守防御が出久と乙音の二人が出した答えであった。

 化け狐のごとく、最初の化かし合いで勝利して見せたことが有利な展開を導いたのだ。

 

 九秒。正面からの攻撃をはじいて躱す。

 七秒。左側面からの回し蹴りもやすやすと防ぎきる。

 五秒。背後からの攻撃は防御が最も厚く、近づくだけで精一杯。

 三秒。一旦大きく距離をとり、助走の余裕を作る。

 

 そして、残り二秒。飯田は最後の勝負に出た。

 そのカードは、まさしく正面突破。全力を込めた足技の一撃だ。

 

「おおオォお!」

 

 雄たけびと共に突撃した飯田の一撃は正面の防御の薄い部分を抜き、出久へと迫る。

 残り一秒、最後の一撃が防御をこじ開けて出久の姿をさらす。

 

「待ってたよ、飯田くん」

「なっ……あぁ!?」

 

 ()()()と目があった。いつの間にか乙音から交代していた出久。

 充分時間を稼いだ上で目線を合わせた。つまり、幻術の発動条件は満たしている。

 

 十秒経過。

 ふくらはぎから出る黒煙が限界時間を知らせ、同時に飯田が倒れ落ちる。

 

「……飯田くん。戦闘不能! 勝者、緑谷出久くん!!」

 

 駆け寄ったミッドナイトが飯田の状態を確かめ、出久の勝利を宣言。

 これで、3回戦突破。次は決勝だ。

 

 

 そして、決勝の相手は――――

 

「勝者、爆豪勝己くん!」

 

 因縁の幼馴染。爆豪勝己!

 

「待ってろよ、クソナード。勝つのは、俺だ!!」

 

 

 

―――――――――

オ・マ・ケ

 

 幻術でうなされる飯田。

 

「う、う~ん、メガネは、メガネは僕の本体じゃなぁい!!」

 

 腕を左右に大きく振って必死に否定する飯田。

 

「いったい、どんな夢を見てるのかしら?」

 

 首を傾げるミッドナイトであった。

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