――――雄英高校 1-A教室 放課後
「あかん、これは……あかん!」
恍惚とした表情でだらしなくつぶやく麗日。
金色のフサフサに埋もれるように抱きつく彼女は本当に幸せそうだ。
それは彼女だけではないようで。
「こ、この毛ざわり、家の毛皮にも負けてませんわ」
「これは人をダメにする尻尾だね」
「ホント、モフモフね。緑谷ちゃん」
「ああ、ダメになる。ウチ、ハマりそうなんだけど」
「すごいね~。一本お持ち帰りしたいくらいだよー」
「あの、みみみんな、落ち着いて!」
八百万、葉隠、蛙吹、耳郎、芦戸のA組女子たちによって、出久は九尾の尻尾を思う存分にモフモフされていた。
ヒーロー基礎学が終わり、その“個性”の謎の多さから質問攻めにあった出久。
説明の流れで(しぶしぶ)個性を使って説明しようとしたのだが……詳細を説明する前に尻尾のモフモフの魅力に女子たちがやられてしまっていたのだった。
ちなみに毛ざわりは出久の健康状態に左右されたりする。
「しっかし、不思議な個性だよな。緑谷の個性は」
「うむ。個性を使うと女性になってしまうというところも変わっているが、なにより複数の能力がある強力な個性だな。あの短い間でもいくつか使っているように見えたが……」
女子たちの様子を眺めていた切島が感心したように声を漏らし、飯田が分析を交えつつ疑問を投げかけてきた。
出久は女子たちによるお触り会に耐えながら返事をする。
「あ、うん、ひゃっ! 僕の個性は複数の能力があってね。
あん! あ、あのとき使ったのは、狐の運動能力に怪力と催眠術と言うか暗示というか……こんなふうなの!」
「うぇっへっへっ、緑谷ぁ、身体は女でも男なんだろ? ならおっぱい揉んでもいいよなぁ……Zzz」
手をワキワキと目を血走らせて迫っていた峰田を、説明の途中で“主導権を奪って”暗示で撃退する。
『アホじゃの。このエロめ!』
倒れ伏す峰田を“イズク”が蔑むような目で見下す。
出久の中の同居人、“羽衣狐”の
が、しかし、ベースになったのは“憑依”の個性を得た雌の狐。
峰田の視線は体の主導権を奪うくらいに雌としての嫌悪感があったようだ。齢百歳以上の化け狐が耐えられないとは峰田ェ……
まぁ、同情の余地はないのだけれど。
倒れた峰田を無視して切島は話を続ける。
「いいなぁ。できることが多いのは羨ましいぜ」
「そうだな。もしかしてほかにも能力があるのか?」
「うん、そうなんだ。まだいくつか見せてない能力があるよ」
飯田の予想を肯定する。
事実、今回の戦闘訓練では、半分も能力を使っていないのだから。ただ……
「使うと女の子になっちゃうんだけどね」
「あ、悪ィ」
「む、すまない。無神経だった」
謝る二人。
だが、目の前にいるのはどう見たって狐耳の九尾美少女である。
なんかこのままでもいいのでは?
そう内心思ってしまったのは仕方がない……仕方ないね!
そのころの爆豪。
「少年!!」
オールマイトに校門の前で呼び止められる。
後ろからがっしりと肩をつかんだオールマイトは爆豪を励ます言葉を投げかけた。
「言っとくけど……! 自尊心ってのは大事なものなんだ!!
君は間違いなくプロになれる能力を持っている!!
君はまだまだこれから……」
「放してくれよオールマイト。歩けねえ。
言われなくても!! 俺はあんたを超えるヒーローになる!」
折れた自尊心をケアしようと話しかけた言葉は、爆豪には余計なお世話だったようで。
爆豪は勝手に立ち直っていた。
てか、悩んでいるのはそこじゃない。
『デクのやつ、なんで女になっとんじゃ! あいつは!!』
長年一緒にいた幼馴染が美少女に。
ありえない状況に割と常識人の爆豪は絶賛混乱中であった。
俺の幼馴染が美少女なわけがねえ!
「教師って難しい」
頑張れ、オールマイト。
まだ彼(彼女)は能力の半分も使ってないんだ……