「『コードネーム』、ヒーロー名の考案だ」
「「「胸膨らむヤツきたああああ!!」」」
相澤先生の言葉に盛り上がるA組だったが、すぐさま鋭い眼光に射竦められて静聴の姿勢に戻った。
静かになったところで体育祭の結果を踏まえた上で行われた『プロからのドラフト指名』について説明する先生。
1年生の時に来た指名は、将来性に対する興味に近いものでしかなく、今後の成長度合いによってはバッサリと切られてしまう可能性もある。
だが、現時点での他者からの分かりやすい評価ということもあって、生徒たちの関心は高い。
そして、その結果は――――
圧倒的な出久の一位であった。
次に轟、爆豪と続く。優勝だった爆豪よりも出久と轟のほうが指名数が多かった理由は……まぁ、その、ね? いろいろである。
「なあ、やっぱり爆豪の指名が少なくなったのって……」
「ああ、きっとロリコ――――」
「てめえ、それ以上、言ったらコロス」
切島と瀬呂が爆豪の指名数について言及するが、爆豪に殺気を向けられて黙り込む。
ヤブヘビである。口は禍の元ということわざを体感したのだった。
多少騒がしくなった教室を無視して相澤先生は話を続ける。
「これを踏まえ……指名の有無に関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう」
プロの活動を実際に体験してもらい、今後の成長の糧にしてもらうためだという。
その職場体験のために必要なのが、ヒーロー名だ。
プロヒーローの下で体験ができると、みんなと同じくテンションが上がる出久。だが、そんな出久に冷や水を浴びせるような言葉を先生は口にした。
「ただし、緑谷。今のお前は見た目通りの身体能力しかない。職場体験の当日までにヒーローとして活動できると判断できなければ学校で補習授業だ」
「そ、そんな!?」
いくら指名があったとはいえ、使えないお荷物を送りだすのは相手側に迷惑がかかるから、と、合理的判断に基づき冷淡に事実を突きつける。
それが嫌なら当日までに身体を元に戻してくるか、その身体でもヒーローとして活動できるようになってこいと告げられ、顔を青くする出久。
そんな状況だったので、その後に現れた18禁ヒーローのミッドナイトが現れてヒーロー名をつけることを告げられたが、ヒーロー名の決定に集中できるはずもなく。
気が付けば再考の爆豪と並んで残ってしまっていた。
「緑谷、なかなか決まらねーのな」
「あ、うん、ちょっとうまく決まらなくてね」
隣の席に座っていた瀬呂が声をかけてきたので、ハッと顔を上げる出久。
それをきっかけに周囲のメンバーも声をかけ始めた。
「デクちゃん、思いつかないなら私考えてみてもいいかな?」
「麗日さん、うーん、ちょっと思いつかないからアイデアを聞いてもいいかな?」
悩んでいるところへ麗日が他人の意見を聞いてみることを提案してきたので、承諾する出久。
麗日をはじめとして次々とクラスメイトが意見を繰り出した。
「“セラピーヒーロー”、『オールグリーン』とかどうかな? デクちゃんの名前の緑も入ってるし、オールマイトっぽいし!」
「悪くないけど、せっかくなら狐要素もいれたいよね。『稲荷』とかいいんじゃない?」
麗日の意見に耳郎がさらに意見を重ねる。
「狐なら、稲荷よりも玉藻の前のほうが印象が強えけどな」
「いや、玉藻の前は妖怪だろ? ヒーロー名としてはよくないんじゃねーか? そうだな、特徴から『ナインテイル』とかどうだ?」
「単純に『テイルズ』なんかもいいかもしれないね★」
「あの、俺のヒーロー名『テイルマン』なんだけど……」
上鳴が玉藻の前を推すも、切島が反対して尻尾に注目した名前をだす。それに便乗して青山も意見を出したのだが、尾白の名前と被ることに気が付いて却下となった。
「九尾の狐……九尾……きゅうび……キュービー……QB……『キュウベエ』とかどうだ?」
「やめて砂藤ちゃん。その名前、なんだか知らないけど嫌な感じがするわ」
「梅雨ちゃん、その名前に過去に嫌なことがあったのかしら? では、私からも一つ、『
「おー、さすがヤオモモ。頭いい名前の付け方。んーとね、あたしは、『ファントムフォックス』! 理由はかっこいいから!」
「『ダブルフォックス』!」
「……『
「芦戸、葉隠、常闇、おまえら完全に趣味に走ったな」
なぜか出久のヒーロー名を巡って意見が飛び交う中、出久は自分の相棒に相談してみることにした。
というか、いままでしてなかったほうがおかしいのだけれど。
『乙音、ヒーロー名なんだけど何かアイデアあるかな。僕じゃどうしても決めきれなくて』
『む? 主様の好きにすればよいと思うのじゃが? というか、憧れておるオールマイトから名前をもじってとればよいのではないかの?』
『前はそう思っていたんだけど、こうやってヒーローへの道を実際に歩き始めてみると逆に恐れ多い気がしてね』
『難儀じゃな。フーム。希望を言うなら、主様の名前が入っているものがいいな。妾にとっては主様こそヒーローゆえの』
乙音の意見を受けて出久は少し考え込んだ。
自分というヒーローはいったいどんなヒーローなんだろうか?
そう自問自答したとき、これだというヒーロー名がパッと頭に浮かんできた。
サインペンをとり、目の前のホワイトボードに力強く書き込む。
「あら、決まったのね緑谷君。さあ、見せてちょうだい」
「はい! 僕のヒーロー名はこれです」
“お狐ヒーロー”『クオン』
これが出久が決めたヒーロー名だ。
漢字で表記すれば『久音』となる。出久の「久」と乙音の「音」を合わせている。
自分がどんなヒーローなのか改めて問い直してみた結果、結論は「一人と一匹で一人のヒーロー」。
そこで、二人の名前を一文字ずつとってヒーロー名としたのだ。
ついでに、ずっと一緒にいるという意味も込めて「久遠」の意味も入っている。
悩んだだけあって、悪くない名前だと出久は思っていた。
「はい! 先生、そこは“お狐ヒーロー”じゃなくて、“モフモフヒーロー”だと思います!」
「う、麗日さん!?」
ヒーロー名も決まれば、あとは職場体験先を決めるだけ。
指名数一位の出久は大量のリストと格闘していた。
「すごい指名数だ。どうする。一つ一つを細かく見ている暇はないぞ。でも、かといって知名度だけで決めるのもなんだか違う気もするし。せっかくの機会なんだから自分の身になるようにしないと。でも、その判断基準もまだ決めてない。地域性にするのか、それとも主に取り扱っている活動内容から? 規模なんかも判断基準だよね。将来自分もサイドキックを雇うかもしれないし、そこの部分をどうしてるのかも見てみたい。あ、でも、チームを組んでいるヒーローもいるのか。それなら、それで見てみたい。いや、待てよ。そのまえに自分の能力をもう一度見直して考えたほうがいいのかも。自分の能力にあってるところに行ったほうが? いやまてまて、むしろ自分に足りないところを補えるようにするべき? 自己分析から始めたほうがよさそうかも。たしか、前に自分の能力をまとめたノートがあったはず。それを参考にしてみるのも―――――」
周囲からはもはや芸だと思われているほど、集中してブツブツとつぶやきながら考える出久。
見た目幼女がリストを真剣に見ながらつぶやいている姿は、なんとも言えない光景だった。
「緑谷、なかなか決まらないのか?」
「あ、うん。そうなんだ。これだけたくさんあるとどこにするか迷っちゃうよ」
迷いに迷っている出久に声をかけたのは轟。
その声に反応して一度リストから目を離して視線を向けて話をする。
「轟くんもたくさん指名来てたけど、もう決まったの?」
「ああ。俺は親父のところに行くことにした」
「ええ!? エンデヴァーのところに!?」
あれだけ嫌っていたのに、と、驚く出久だったが、
「あいつがNo.2と呼ばれている事実をこの目と体で体験して受け入れるためだ」
と言われて納得したと同時に嬉しくなった。
友人が、クラスメイトが前を向いて進んでいっていると実感できたからだ。
そう思ってニコニコしている出久。
だが相手は天然くんの轟だというのを忘れてはいけない。
「緑谷。ヒーローとしての活動ができないと補習授業になるんだよな?」
「うん。そうだけど、どうしたの?」
「親父が言ってたんだが、おまえにもエンデヴァーの事務所から指名きてるはずだ」
「そうだね。たしかに指名きてたよ」
いつものように爆弾発言を口にする。
「俺と一緒に親父のところへ(職場体験に)来ないか? (戦えない状態でも)俺が必ず守ってみせるから」
轟の発言に周囲の空気がザワリと騒がしくなる。
特に女子たちは黄色い歓声を上げるのを必死でこらえている状態だ。
こんな言葉を投げかけられた出久はというと。
「僕が職場体験に行けなくなるか心配してくれたんだよね? ありがとう、でも、大丈夫。一応、考えはあるから」
「そうか。でも、何かあったら言ってくれ」
慣れてきたのか、言葉の足らない轟の言いたいことを補って受け止められるようになっていた。
こうなるまでいろいろと苦労したんだろう。きっと。
そんな轟とのやり取りもあって、最終的になんとか職場体験先を決めた出久。
決め手になったのは麗日の一言だ。
「やりたい方だけ向いてても見聞狭まる!」
自分のできることを増やそうという麗日の意見に感銘を受けた出久は、自分の知識の足らない部分や苦手だと思っている部分を補えるような職場体験先を選ぶことにしたのだった。
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――――職場体験当日。
ヒーローコスチュームの入ったケースをそれぞれ手にして駅に集合したA組。
相澤先生からの注意点を聞いた後は職場体験先へそれぞれ向かっていく。
列車に乗り込む前に、兄をヴィランに襲われてからピリピリした様子の飯田に声をかける出久。
「飯田くん。本当にどうしようもなくなったら言ってね。友達だろ」
「……ああ」
しっかりと返事をしてくれたものの、その様子になぜか不安になった出久はカバンから小物を一つ取り出して渡す。
「よかったら、飯田くん、これ持って行って」
「これは、お守りか?」
「うん。安全祈願ってやつ。近くに置いておいてくれるといいんだけど」
「ありがとう。肌身離さず持っているようにしよう」
お守りをポケットに入れて立ち去っていく飯田。
それを見送った後、出久も目的の列車に乗るために足を向けた。
「けっこう山奥の方だから時間かかりそうだ。列車に遅れないようにしないと」
出久の職場体験先、それは――――
『ワイルドワイルドプッシーキャッツヒーロー事務所』
である。
というわけで、職場体験先は「ワイプシ」でした。
投票結果は以下の通り。
A.「ワイプシ」24票
B.「逢魔ヶ刻」8票
無効票 4票
でした。
圧倒的な差でしたね。期限を過ぎていた4名の方はカウントしておりません。
ご了承ください。といっても、カウントしていても結果は変わらなかったですが。
名前は管蘿乃さんの意見を参考にしました。
それ以外の方もできる限り作中で使わせてもらいました。
ご協力、感謝です。
では、次回からは職場体験先の話。
出久だけでなく、飯田くんや爆豪、轟くんの話なんかも入れながら進めていきたいです。
あと、活動報告も見てもらえればうれしいです。
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