いずく1/2   作:知ったか豆腐

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続き投下!


いずく1/2 その17(職場体験初日)

 電車とバスを乗り継ぎ、緑豊かな山岳地帯に近い場所に拠点を構えるワイルドワイルドプッシーキャッツの事務所にやってきた出久。

 軽く背伸びをして凝り固まった肩や背筋をほぐしたあと、緊張を和らげるために深呼吸をしてからコスチュームのケースを足場にしてチャイムに手を伸ばした。

 体が幼いのでこんなところでも一苦労だったり。

 

 キンコーン、と、音が鳴り、インターホンから応答がする。

 

『はい。ワイルドワイルドプッシーキャッツ事務所です』

「あ、あの、雄英高校1年A組の緑谷出久です。職場体験に来ました」

『あ、いらっしゃい。待ってたわ。今行くから少し待っててちょうだい』

 

 声が途切れた後、パタパタと人の移動する気配がする。

 扉の前で待つ出久もソワソワとせわしない。

 

『うわぁ、さっきの声、マンダレイだよな。本当に職場体験に来たんだ!』

『主様よ。嬉しいのはわかるが少し落ち着いたらどうじゃ?』

『あ、うん。そうだね。気持ちを落ち着かせないと……』

 

 見かねた乙音が声をかけるものの、あまり効果はなかったようで、出久の狐耳と尻尾はピコピコゆらゆらとその気持ちを表していた。

 これのせいで周囲の人間にとって出久の心理状態がわかりやすいことになっているのだが、そうと知らぬは出久本人だけだったりする。

 なんで、周りの人間は教えてあげないのかって? そりゃあ、見ていてかわいいからね!

 

 ドアノブを回す音が聞こえ、出久の緊張感が高まる。

 元気よく挨拶しないと、と、気合をいれたのだが、その気合は空振りすることになった。なぜなら――

 

「煌めく眼でロックオン!!」

「猫の手、手助けやって来る!!」

「どこからともなくやって来る……」

「キュートにキャットにスティンガー!!」

「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!」」」」

 

「お、おおお! すごいすごい! ワイプシの生の決めポーズだ!」

 

 扉を開け放たれた瞬間に行われたワイプシフルメンバーによる決めポーズに出久のヒーローオタク魂が黙っていなかったからである。

 緊張感はどこへやら。逆に興奮してピョンピョンと体全体で喜びを表していたり。

 体の年齢に合わせて精神年齢も若干引きずられているらしい。行動がなんだか幼いぞ?

 

「そんなに喜んでもらえるとは思わなかったけど……緊張はほぐれたかしら?」

「はい! ありがとうございます!!」

「あはは。見た目も本当にかわいいキティだね。私はマンダレイ。で、こっちが」

「ねこねこねこ……私がピクシーボブ。よろしくね」

「あちきがラグドール。ニャハハハ! よろしく~」

「そして、我が虎だ。よろしくな」

「はいぃ! 存じてます! よろしくお願いします!!」

 

 ヒーローの職場訪問ということもあってテンション上がりまくりの出久に、ワイプシのメンバーは苦笑ぎみ。

 まぁ、悪くない顔合わせとなったのではないだろうか。

 一応、自己紹介を終えたところで、マンダレイがもう一人の人物を紹介する。

 

「あと、事務所のメンバーではないんだけど、私が預かっている従甥を紹介するわね。ここにいる間は顔を合わせることも多いでしょうから」

 

 玄関から建物の中へ呼びかけるマンダレイの声に答えて出てきたのは5歳くらいの目つきの鋭い男の子。

 

「出水洸汰っていうの。ほら、挨拶しなさい。洸汰」

「はじめまして。ヒーロー科の緑谷出久って言います。よろしくね」

「……フンッ!」

「うわっぷ!」

 

 差し出した右手は無視され、代わりに彼の手から湧き出した水が出久の顔に直撃する。

 

「洸汰!」

「ヒーローになんてなりたいなんて言うヤツなんかとつるむ気はねえよ」

 

 マンダレイがすぐに叱るが、洸汰は悪びれた様子もなく一言言い放って去って行ってしまった。

 残されたのはびしょ濡れになって呆然としている出久と困った顔のワイプシの四人。

 とりあえず、このまま濡れたままにしておくわけにもいかないので、出久にコスチュームに着替えるように促すのだった。

 

 

 更衣室に案内された出久。

 以前の戦闘訓練で破損してしまったコスチュームだが、修理に出して返ってきてから中身を確認するのはこれが初めてだったりする。

 本来ならば事前に確認しておくものだろうが、サポート企業から戻ってきたのが遅くなったのと、コスチュームの管理の関係上、手続きが面倒であったこともあって今日まで先延ばしになってしまっていたのだ。

 ちゃんと直されているか気になりながらケースを開ける出久。

 その様子をみて出久は驚愕で声を上げることになる。

 

「なんっっだ、これ!?」

 

 

 

「お、出てきたみたいだね……うん、いいコスチュームじゃない」

「ねこねこねこ! キュートじゃん!」

「うむ。格好よく決まっているな」

「サムライ! ハラキリ!」

 

 マンダレイが最初に出久の姿に気が付きコスチュームを誉めれば、ピクシーボブ、虎がそれぞれ別のポイントに注目しながら感想を述べた。

 ラグドールの感想はちょっとよくわからないけれど。

 

「ううぅ、前のスーツの原型をとどめてないよ。お母さんが作ってくれたのが……」

 

 一方、着用している出久はといえば、自分がデザインして母が作ってくれたスーツが原型をとどめていないことに泣きそうになっていた。

 サポート企業による修復はもはや改造と呼べるものだった。てか、改造っていうか、ほぼ新調です。これ。

 

 こうなってしまったのは、出久の個性によって男女に体形が変わることに加え、身長が変化してしまうことも考慮したうえでの変更だった。

 この問題を受けて、スーツの生地をMt.レディのコスチュームにも使われているようなすごい伸縮性のあるものに変更し、体格・体形の変化に対応できるピッチリスーツになった。

 しかし、これでは体の線が出すぎて本人や周囲の視線が大変なことになってしまうため、元のスーツをインナーのようにして装飾を増やすことになったのだ。

 その装飾も実用の面と本人のイメージや見た目の良さも考えられている。

 まず、妖狐のイメージから和風のデザインにすることが決定。

 白地で大きくスリットの入った袴に、和服と日本の鎧をモチーフにした防具が組み合わさったような衣装が追加してある。

 着物のような袖の上腕から肩を守るように大きめの長方形の部品が両肩にあり、胸部を守る部品は首元から左右に二つ小さめの長方形のものが垂れ下がっている。

 下半身の日本鎧の部分でいう草摺(くざずり)佩楯(はいだて)と呼ばれる部分は、縦長で両足を守るように配置されている。

 基本的に動きを邪魔しないように設計されていて、できるだけ軽量化もされている。

 これで刀を腰に差していれば狐の侍、女武者といったところだろうか。

 

 まぁ、今のところ見た目幼女でコスプレにしか見えないのだけれど。

 

「うぅ、どうしてこうなったの!?」

 

 ドンマイ、出久。コスチュームの性能は上がっているんだから……

 

 

==================

 ――保須市

 

 ヒーロー『マニュアル』のところへ職場体験に訪れていた飯田は、マニュアルに伴って市内のパトロールに出かけていた。

 マニュアルからパトロールの重要性や意義について解説をもらい、時折返事をしながらも飯田の意識は別のところを向いている。

 

『ヒーロー殺し……現代社会の包囲網でも捕らえられぬ神出鬼没ぶり。

 無駄なことかもしれない……それでも今は追わずにはいられない』

 

 兄を再起不能にしたヴィラン。『ヒーロー殺し』。

 幾人ものヒーローを手にかけた凶悪犯のことが頭を離れないのだ。

 

『僕はあいつが許せない』

 

 それを追う気持ちはヒーローの持つべき義憤ではない。

 暗く、そして理性を今にも焼き尽くそうとする炎にも似た憎しみだった。

 

 

==================

 

 ――東京都 ベストジーニスト事務所

 

「正直、君の事は好きじゃない」

「は?」

 

 目の前のデニム生地で全身をコーデしたコスチュームに身を包んだヒーロー、『ベストジーニスト』から思わぬ言葉を告げられて固まる爆豪。

 指名を受けて職場体験に来たはずなのに、なぜこんなことを言われなければならないのか。

 と、憤る暇もなく。ベストジーニストが口を開く。

 

「私の事務所を選んだのもどうせ五本の指に入る超人気ヒーローだからだろ?」

「(自分で超人気とか言うのかよ……)なら、なんで俺に指名を入れた?」

 

 少しイラっとしながらも、冷静に質問を投げかける爆豪。

 ここで切れようものなら相手からのイメージも悪くなるし、相手の意図もつかめない。

 努めて冷静を心掛ける。

 

「最近は『良い子』な志望者ばかりでねえ。久々にグッと来たよ。君のような凶暴な人間を“矯正”するのが私のヒーロー活動……ヴィランもヒーローも表裏一体だ。そのギラついた目に見せてやるよ。

 何が人をヒーローたらしめるのか」

「ハッ! 上等!!」

 

 自分の凶暴さが気に食わないらしいと聞いた爆豪は好戦的な笑みを浮かべ、ベストジーニストに鋭い眼光を飛ばす。

 生まれついてからこの性格。このキャラクターだ。

 そうそう変わらないし、変えるつもりもない。

 もとより、ここには技術を盗みに来たのであって、性格を矯正してもらうために来たつもりはないのだ。

 思いっきり、反抗する気満々の爆豪である。

 

 そういうところが、駄目だと思われてるんだとは考えないのだろうか?

 

 

「ついでに、今後のヒーロー活動をする上でも悪影響を及ぼすだろう、君の特殊性癖も矯正するとしよう」

「おい、ちょっと待て!」

 

 変なことを言い始めたベストジーニストに爆豪が声を荒げる。

 このヒーロー、自分のあの悪評を信じているのではあるまいな?

 

「君くらいの年頃なら同世代の異性に興味を持った方が健全だと思うのだがね?」

「俺゛は゛ロ゛リ゛コ゛ン゛じゃ゛ね゛え゛ん゛だよ゛! 信゛じて゛ぐれ゛よ゛!!」

「ガチ泣きだと!?」

 

 膝をついて泣き崩れる爆豪。

 プロヒーローにまでそんなイメージを持たれていると知って、さすがに堪えたらしい。

 凶暴な性格の矯正とかの前に、カウンセリングが必要になりそうな爆豪であった。

 

 




出久のコスチューム案。皆さんアイデア提供ありがとうございました。
和風の案が多かったので、元のスーツをインナーのようにして武者鎧っぽくなりました。
具体的なイメージが湧かないという人はFGOの牛若丸とか源頼光とかで検索してもらえればいいかも。

次回の1/2は、
洸汰くんとコミュニケーション!

活動報告 更新しました
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=181132&uid=28246
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