『出久ルート三日目 完』
『飯田ルート三日目 導入』
『オマケ・爆豪』
の、三本でお送りいたします。
「大変、洸汰がいないの!」
マンダレイの慌てた声が事務所に響く。
一同はしばらく呆然としたあと、事態を飲み込んで騒然となった。
「なんだと!? 事務所のどこかにいるんじゃないのか!?」
「あちきの個性を忘れたの? 虎。事務所にもこの周辺にもいないよ!」
虎が事務所のどこかにいるのではないかと疑問を口にするが、即座にラグドールに否定される。
広範囲をサーチできるラグドールの個性に引っかからない。つまりそれは近くにはいないことを意味している。
「あたしたちの目を盗んで出かけたってこと? でも、何のために?」
「たぶん、どこかで山の天候が悪くなることを聞いたんだと思う。洸汰、こんな手紙を残していってたの」
洸汰が出て行った理由を考えるピクシーボブにマンダレイがメモの一切れを渡す。
そこには拙い文字で短く一言書いてあるだけであった。
『いずくをたすけに行ってくる』
出久を救けに、つまり、山に向かったということだ。
天候はすでに荒れ始め、土砂崩れの危険もありうる状況になっている。
そんな山の中に、不十分な準備の体力のない子供が一人ぼっち。
端的に言って非常にマズイ状況だ。
「そんな、僕のせいで……」
「出久ちゃんのせいじゃないわ。それよりも、早く洸汰を探しに行かないと」
「うむ。子供の足ならそこまで遠くには行っていないはず。急いで出発だ」
自分のせいで、と、ショックを受ける出久に一言慰めの言葉をかけた後、迅速に動き出すマンダレイ。
同じく虎の号令に合わせて動き始めるワイプシたち。
山岳救助のプロだけあって、対応は早い。
それに一つ二つテンポが遅れて出久も動き出す。
「僕も、僕も手伝います!」
「いいや、駄目だ。今の汝の身体ではかえって邪魔になるだけだ。おとなしく我らが戻るまで待っているのだ」
自分も協力を申し出たが、かえって邪魔になると告げられてしまう。
二次遭難のリスクも理由に挙げられてしまえば、反論もしようがない出久。
『肝心な時に限ってなにも出来ない。クソ! 人を救けるヒーローになりたくて雄英に入ったんじゃないのかよ!』
自分の無力さに絶望しかける。
だが、そんなときに立ち上がらせてくれるのはいつだって身近な相棒だ。
『しっかりしろ、主様。こんな時のためにあの力を鍛えてきたのではないのか?』
『乙音……』
身体能力が下がった状態で職場体験に行く権利を勝ち取るために鍛えた能力を使うべきだと告げる乙音に、出久の萎えていた気力が戻ってくる。
しっかりとワイプシたちを見据え、力強く宣言する。
「僕自身が邪魔になるのなら、代わりに
「「「「こ、これは!?」」」」
出久の見せた能力に驚くワイプシ。
その能力は確かに山岳で人を探すのに適していた……
叩きつけるような雨に、ぬかるんで歩みを邪魔する地面。
雨音は周囲の音だけでなく自身の助けを呼ぶ声もかき消し、雨粒は視界を遮って正しい道筋を隠してしまう。
急に降り出した雨のせいで道を外れ、迷子になってしまった洸汰は、大きな樹の下でうずくまって雨粒を避けていた。
「クソ! 急に降ってきやがって……」
空を見上げ悪態をつくが、雨はやむ気配を見せない。
濡れたせいで体温が奪われ、震える身体をギュッと抱き寄せる。
いや、震えているのは寒さだけが原因ではない。
「チクショウ、なんで、こんなことに。あいつなんてほっとけばよかったんだ!」
今の状況に怒鳴り散らす。が、それは不安の表れだった。そうやって気持ちを高ぶらせていないと不安で押しつぶされそうで、だからせめて怒ったようなフリをしている。
しかし、そんなささやかな抵抗など知ったことではないとばかりに、自然は猛威をふるう。
「ヒィ! なんなんだよ! もう!!」
雷鳴が洸汰の意地を折るように鳴り響く。
おもわず頭を抱えて目をつぶるが、不安は増すばかりだ。
「パパ、ママ……」
両親の名前を口にする。
そうしてみて感じるのは安心ではなく諦めであった。
引っ越し用の段ボールに囲まれ、一人座ってみていたテレビ。
そこには亡くなった両親を「立派なヒーロー」だと称賛する報道番組が映っていた。
幼い洸汰にはすべては理解できなかったが、両親がヒーローをやっていたから自分のもとに戻ってこなくなったのだという事実だけは理解できた。
それ以来、洸汰にとってヒーローとは自分から大事な人を遠ざける存在で、そしてそんな存在が自分を救けてくれるとは思えなくなったのだ。
『俺も、パパとママと同じだ。他人のことを救けようとして、結局自分がひどい目にあう。その癖、周りの人はそれをすごいことだって誉めるんだ……』
馬鹿だ、馬鹿みたいだ。
そうつぶやく洸汰の心は諦観で占められていた。
何もかもを諦めた洸汰。その足元に何か柔らかなものが触れる感触がしてハッと顔を上げる。
一匹の子狐が寄り添っていた。
「なんだ、おまえ?」
狐を見て出久のことを思い出すが、ありえないなと首を横に振る。
この狐が出久本人というわけがあるはずもないのだから……
「洸汰くん、大丈夫だった!?」
「……シャ、シャベッタアアアァッ!??」
本人ではない、のだが、子狐が出久の声でしゃべりだして、変な声を上げてしまう。
いやまぁ、動物が急に人の言葉を話し始めたらそりゃあ驚くよね?
身体能力を理由に断られた出久は、式神の大量召喚による協力を申し出た。
体育祭第二種目の騎馬戦で見せた式神の大量召喚。それだけではあの厳しい相澤先生が許可を出すはずもなく、前回よりも修行を積んでパワーアップしてきたのだ。
強化されたのは、その質。
ただ出すのではなく、一体一体に対する細かい指示を同時並行的に出せるようになったこと。そして、それらの式神と同期して情報を集め、処理することにも成功している。
出久本人を司令官とする式神の軍団。それが今回の職場体験のために強化した能力であった。
ちなみに、式神の能力については他にもできるようになったことがあるのだが、今は割愛しておく。
大量の子狐の式神を操って、人海戦術を使って洸汰の捜索を行った出久。
視覚だけではなく、人よりも鋭い聴覚や嗅覚を使って洸汰の足取りを追い、ついに洸汰を見つけたのだ。
五感をリンクさせている出久本人を経由して、ワイプシのメンバー一人一人に着けている式神によって、洸汰の居場所は伝えられ、あとは救助を待つばかり。
だが、不安そうにしている洸汰をそのままにしておくわけにもいかない。
そこで出久は洸汰のところにいる式神を変化させ、自分の姿を取らせる。
「洸汰くん、もう大丈夫」
「お、まえ……」
目を見開いて驚く洸汰を安心させるように、ギュッと抱きしめて声をかける出久。
大丈夫、大丈夫。と、頭を撫でながら洸汰に語り掛ける出久に、洸汰の緊張が和らいでいく。
「もう大丈夫。僕が来たよ」
「う……うぅ、あああ――」
安心感からとうとう泣き出してしまう。
自分のピンチに駆けつけてくれた出久に、どこか胸の奥が温かくなるのを感じながら、洸汰の意識は遠のいていった。
出久の姿をした式神に抱えられて眠る洸汰の姿をワイプシたちが見つけるのは、もうしばらくしてからの事だった。
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「よかった。洸汰くん、ワイプシの皆さんと合流できたみたい」
『一安心じゃの、主様』
目を閉じて式神の操作に集中していた出久は、向こうの式神からワイプシと合流したことを伝えられてホッと息を吐く。
同時並行して能力を行使するのは並大抵の苦労ではなく、負担も大きい。
もし、もう少し負荷のかかることをしていたらキャパオーバーしていたかもしれない。
何とかなってよかった。
そう思って椅子から立ち上がったところで視界がグラリと揺れ始めた。
立ち眩み? と、思った瞬間には床に倒れていることを自覚する。
「ど、うして? キャパオーバー、なんて」
『主様! しっかりするのじゃ、主様よ。返事を――』
乙音が必死に声をかけるも、意識を保っていられない。
出久はそのまま気絶してしまった。
目を覚ましたのは日付の変わった翌朝の事。
いつの間にかコスチュームから寝間着姿に変わっており、ベッドで寝ていた。
「あれ? 身体が……元に戻ってる!?」
寝ぼけた頭で自分の身体の様子を確認していると、前日までの小さな身体ではないことに気が付く。
掛け布団を跳ね上げて起き上がる。
久しぶりの大人の身体、しかも男の身体である。
今までになく長い期間の副作用だっただけに、嬉しさもひとしおである。
「おはよう。起きたみたいだねキティ……何やってるの?」
「あ、え、あの! ……おはようございます」
うれしくて小躍りしているところを、様子を見に来たピクシーボブに見られて赤面する出久。
とりあえず、着替えることにしたのだった。
ハプニングがありつつも、コスチュームに着替えて降りてきた出久。
その姿にワイプシたちは驚くも、もともと出久が男子高校生であると知っているので、すぐに納得してもらえた。
そう、ワイプシは。
「あ、洸汰くん、おはよう。元気そうでよかったよ」
「なっ……えっ。……はぁ!?」
口をあんぐりと開けて驚く洸汰。
どうしたのかと思って近づき、問いかける。
「どうしたの?」
「おまえ、出久か?」
「え、うん。そうだけど」
本人か確認をされたので頷くと、顔を伏せて震えだす洸汰。
何かボソボソと言っているので耳を近づけてみる。
「……おまえ、男だったのかよ!」
「え、ええっ!?」
思いっきり叫んで走り去る洸汰。
なんとなく泣いてたように見えたのは気のせいだろうか?
「どういうことなんでしょう?」
振り向いてワイプシに問いかけてみる出久。
「うーん。ほろ苦い思い出、かな?」
「マセてるからね、洸汰は」
「うむ、青春だな」
「甘酸っぱい思い出、糖質オフって感じだねー」
マンダレイが苦笑いをして、ピクシーボブが肩をすくめる。虎は納得したように頷き、ラグドールは楽しそうに笑っていた。
それぞれ違った反応を示すものの、全員の見る目が生暖かいのはなぜだろうか。
なんとなくいたたまれなくなった出久であった。
『なんと、哀れな。不幸じゃのお』
その後、体が元に戻ったからということで、虎より『我'sブートキャンプ』と『キャットコンバット』の訓練を受けることになった出久であった。
――職場体験三日目、保須市。
ヴィラン連合が脳無を解き放ち、無差別テロを巻き起こしていた。
混乱し、ヒーローたちが対応に追われる中、飯田は人気のない裏路地に目を向けて立ち止まっていた。
彼の執念が運命を引き寄せたのか、彼は幸か不幸か目的の人物を見つけてしまったのだ。
「おまえを追ってきた。こんなに早く見つかるとはな!!」
まさに一人のヒーローを殺そうとしているヒーロー殺しに跳びかかるも、容易くあしらわれてしまう。
刃を眼前に突きつけられてなお、恨み憎しみを込めて睨みつけながら声高に告げる。
「僕の名を生涯忘れるな!! “インゲニウム” お前を倒すヒーローの名だ!!」
怒りを込めて兄から引き継いだ名を告げる飯田。
「そうか……死ね」
対するヒーロー殺しは、冷徹に殺意をぶつける。
復讐劇の幕が、開いた。
オマケ『勘違いサイドキック その2』
ベストジーニストヒーロー事務所。
五本の指に入る超人気ヒーロー『ベストジーニスト』を中心に多くのサイドキックが集まるこの場所に、職場体験に来ている生徒がいる。
爆豪勝己。
一流ヒーローを輩出してきた国立の有名ヒーロー科高校の期待の一年生だ。
先日行われた雄英体育祭において、優勝を勝ち取るという優秀な生徒なのだが、本人の荒々しい性格と先の決勝戦で起きた悲しい事故により悪評が広まっているという悲しい生徒でもある。
そんな彼を心配するのはベストジーニストのサイドキックの一人。
決勝戦の事故をネットでは面白半分に悪評を広めている人たちが多くおり、それが彼にどんな傷をつけているのか不安なのだった。
『あんなの、仕方なく起こった事故じゃないか。そんなのちゃんとしたヒーローなら、いや、立派な人なら見てわかるはずだ! それなのに、ロリコン扱いするなんて、人として最低だよ!』
無責任に風評を広げる人たちに怒りを募らせる彼。
その時なぜか敬愛する上司が大きくくしゃみをした。
風邪だろうか? と、心配するも、「誰か噂でもしているかな?」というジョークに胸をなでおろす。
かの上司は人気ヒーローなのだから、誰かしら噂をしているのは仕方ないな。
と、笑って部屋を後にする。
向かうのは職場体験に来ている爆豪のところだ。
広い事務所だが、それでも探していれば数分で見つかるもので、目的の本人を見つけて話しかける。
ちょうど休憩時間のようだし、タイミングとしてはばっちりだろう。
いろいろと話を聞いていくと、やはり口調は荒いものの上昇志向が強く、努力家であることが見て取れた。
やっぱりロリコンだなんてひどい悪評だ。
そう改めて感じたところで、彼の異性の好みが気になったり。
何せ、これだけ悪評をばらまかれているのだ。本当のところが知りたくなるのも当然といえるだろう。
「ところで、爆豪くんの女の子の好みってどんなのなの?」
「あ? なんでそんなことを言わなきゃならねーんだよ」
「いいじゃないか。高校生くらいの年頃ならそういうの意識してないわけないしね?」
聞いたところで素直に答えてくれるはずもなく。
ちょっとからかいがてら、手を変え品を変え聞いてみる。
好みの女優やアイドルだとか、気になるクラスの女子だとか話題を微妙に変えながら。
ただ、ちょっとしつこく聞きすぎたのだろう。爆豪がとうとうキレてしまった。
「うるせえ! 女なんかに興味ねえんだよ。しつけえぞ!」
「アハハ、ごめんね。あ……怒らせちゃったか」
足を踏み鳴らして怒り心頭といった様子で立ち去る爆豪を苦笑いで見送る。
どうやらやりすぎたらしい。
後で謝っておかないと……と、思ったところでふと変なことを考えてしまう。
女なんかに興味がないとは、いったい?
九割九分、照れ隠しに言った言葉だとは思うのだ。
だが、ふとよくない考えがよぎった。
『本当に女の子に興味がない……ってことはないよな?』
そこまで考えて、ハッと頭をブンブンと振って考えたことを振り払う。
風評被害で苦しんでいる彼に対して、申し訳ないと思わないのか!
そう、自分を叱りつける。
が、心の隅っこに何かが引っかかって仕方がない。
その後、ちょっと爆豪に対してぎこちない接し方になってしまう彼であった。
とうとう5月ですね。
次回は飯田編です。
出久が洸汰くんを救助していたころのお話です。
しかし、主人公不在で原作本編の現場にいないとか、我ながらぶっ飛んでる気がします(笑)