思いだけで人が殺せるのなら、飯田の憎悪は“ヒーロー殺し”ステインを八つ裂きにしているだろう。
血走った目で相手を睨みつけ、雄たけびと共に繰り出された全力の蹴りには殺意さえこもっていた。
「あああぁ!!」
兄への敬慕や思い出を乗せた一撃。
だが、現実はその思いとは裏腹に容易くステインに躱され、反撃をくらい、地べたに這いずることとなってしまう。
「兄さんは多くの人を救け……導いてきた立派なヒーローなんだ!! 僕に夢を抱かせてくれた立派なヒーローだったんだ!!」
右腕と左肩に刺し傷を負い、地に踏みつけられてなお、兄への思いを語る。
それほどまでに尊敬していたヒーローだった。それほどまでに大事な家族だった。目標だった。
だからこそ、そんな兄を再起不能にしたステインが許せない。
その憎しみは、ヒーローらしからぬ言動をさらしてしまう。
「殺してやる!!」
「あいつをまず救けろよ」
ヒーローがしてはならない、相手への殺意の発露。
それを受けたステインが示したのは、今まさに自分が殺そうとしていたヒーロー『ネイティブ』だった。
「自らを顧みず他を救い出せ。己のために力を振るうな。目先の憎しみに捉われ、私欲を満たそうなどと……ヒーローから最も遠い行いだ」
自己犠牲、滅私奉公こそヒーローの条件だと主張するステインの言葉に、飯田は怒りで視界が真っ赤になりそうだ。
確かにヒーローとはそうあるべきかもしれない。
だが、それを、ヒーローを、尊敬する兄を殺そうとしたヤツに言われるのは我慢できない。
たとえ、ステインの言っていることが正しいとしても、なんの権利があって兄をヒーロー失格としたというのか!
「黙れ……黙れ!! 何を言ったっておまえは、兄を傷つけた犯罪者だ!!」
個性を使われ、動けない体で必死に叫ぶ飯田。
その思いが報われることなく、まさに必殺の刃が振り下ろされようとしていた。
その時――
「その命、ちょお~~~っと待った! 暫く、暫くぅ! その慟哭、その頑張り。他のヒーローが聞き逃しても、私の耳にピンときました! この人を冥府に落とさせるわけにはまいりません。だってこの人、ご主人様のお友達ですもの!!」
裏路地に響く女性の声。
思わず手を止めたステインは、次の瞬間に顎に強烈な衝撃を感じて吹き飛んだ。
「とぅ! ご用とあらば即・参・上! 貴方の頼れる謎の美少女狐っ子、お玉ちゃん降臨っ! です!!」
突如現れた狐耳と尻尾をはやした和装の美少女の登場に、その場の人物は全員唖然とした表情となる。
うん、キャラが濃ゆいよね?
「き、キミはいったい?」
「お初にお目にかかります。ご主人様が作り出した良妻系自律型上級式神、それが私でございます。名前はお玉。気軽にお玉ちゃんと呼んでくださいな?」
「ご主人様? その耳……まさか、緑谷君か!?」
本人の名乗りはよく分からなかったが、見た目から出久の個性由来のものだと見当をつける飯田。
事実それは正解である。
職場体験前に出久から受け取ったお守りの中に、尻尾の毛が入っており、それを媒介に召喚されたのが、この式神である。
身体能力が落ちた出久が職場体験の参加する許可をもらうにあたって強化したのが、能力の一つである式神召喚だった。
多数の式神との同期による広範囲の索敵・情報伝達能力が一つ。そして、自律型でそれなりの戦闘能力を持った上級式神を作り出す能力が新たに身に着けた力である。
「何者かは知らんが、邪魔をするなら殺すまでだ……ハァ……」
「うわぁ、見事にギラついてますね。正直、好みじゃありませんの! というか、さっきから聞いてたらなんです? 正しき社会だとか、そのための供物だとか、真のヒーロー? 贋物? 中二病をこじらせるにもほどがあるって感じなんですけど? マジで」
「ハァ……ふざけているのか?」
ステインから向けられる殺気も気にした様子もなく、飄々とした様子で受け流すお玉。
というか、若干バカにしているような気がしないでもない。
「お玉ちゃんとやら、手を……出すな。君は関係ないだ――どぅおああ!?」
「はいはい、文句なら終わった後から聞きますからちょっとどいていてくださいます?」
「危ないな! 人を放り投げるな! そして、終わったあとでは遅いだろう!?」
自分の復讐に関係がないから下がれ。
そう言おうとしたところ、安全確保のために後方へネイティブともども放り投げられてしまう飯田。
見た目の細腕からは信じられない力で、片手に一人ずつ持ってポイっとされてしまった。
いくら殺す気の相手と向かい合っていて余裕がないとはいえ、扱いが雑である。
身体が動かず、受け身も取れないのでネイティブなど顔面ダイブだ。痛い……。
「そいつらを救けに来たか……だが、俺はこいつらを殺す義務がある。ぶつかり合えば当然……弱い方が淘汰されるわけだが……さァ、どうする?」
周囲を凍り付かせるような殺意をにじませるステイン。
しかし、お玉は自分のペースを崩さない。
「笑わせてくれますね。自分で勝手にやっていることをあたかも当然の事のように言わないでいただけます? 正直押しつけがましい男は嫌われますよ。てか、ホンット、うざいです!」
ステインの主張を鼻で笑い、嫌悪をむき出しにするお玉。
そんな二人のやり取りを聞いていた飯田がお玉に叫び声をあげる。
「やめろ! 言ったろ!! 君には関係ないんだから!」
「関係あるとかないとか、それこそ関係あります? 救ける相手が自分に関係ないなら手を出さないとか、相手が強いから逃げるだとかって、それ、本当にヒーローって言えます?」
動けない体で必死に訴えるものの、きっぱりと返事をされてしまう。
戦う相手が何であろうと、救けるべき人がいるならヒーローのやることは一つだ。
そんなヒーローの本質の一つを語るお玉の姿に、贋物とは違うにおいを感じ取ったステインは笑みを浮かべて刃を構える。
「良い」
ハァ……、と、ひと呼吸。
言動は気に食わないが、そのヒーローとしての心構えはその後ろにいる贋物よりはマシのようだ。
と、考え、鋭くお玉を見据えるステイン。
どうやら彼の考える自己犠牲を厭わない、他者のために私欲を捨てることのできるという、ヒーロー像に合致する部分があったらしい。
そんな、高評価なお玉だが、実際に内心はというと、
『ご主人様のお友達を見捨てるとか、ご主人様からの好感度駄々下がりじゃねーですか!』
とか考えていたりする。
ステインさん、評価が甘いです! めっちゃ私欲まみれですよ、こいつ!!
「行くぞ……救けられるなら救けてみろ!」
「もちろんです。(ご主人様の好感度を上げるためにも)死ぬ気で守って見せます!」
同時に踏み込む二人。
片方は爪を、片方は刃を振りあげて距離を詰める。
一瞬の交差の後に、二人はお互いの凶器を避けあうようにして距離を離した。
初撃は両者ノーダメージ。だが、地力の差は歴然だった。
「想像以上の身体能力……ハァ……増強型並みの力はあるようだが、力任せな戦い方だ」
「ちょ、私、格闘は得意じゃないのにぃ! ストップ、ストップ、プリーズ!!」
防戦一方となり、涙目で刃を躱すお玉。
さっきまでの威勢はどこへやら。というか、接近戦が苦手なのになぜ踏み込んだ!?
「いや~ん、お玉ぁ、串刺しにされちゃいますぅ~」
「終わりだ。所詮は口先だけの
「ナマモノとかシツレーナ!」
踏みつけられて刃を突き立てられる寸前のお玉。
口調からはあまり危機感が感じられないが、絶体絶命のピンチである。
そんな彼女を救ったのは……地を這う氷の刃と吹き付ける炎だった。
「悪い。遅くなっちまった」
「次から次へと……今日はよく邪魔が入る……」
『半冷半燃』の個性を持ったヒーローの卵。
No.2ヒーローの息子、轟焦凍だった。
新たな援軍が駆けつけ、ステインとの戦いは新たな幕を開けた。
「なに、このイケメン。不覚にも私、トキメイてしまいそう! ご主人様一筋のはずなのにぃ!」
……この狐のせいでシリアスが死んでいるが、気にしてはいけない。
最近、ギャグを挟まないと死んじゃう病にかかったようです。
シリアスなシーンなんだけどなー……
次回!
ステイン「うわようじょつよい」
お楽しみに!