職場体験を終え、一週間ぶりの教室。
各々の体験を語り合う中で、爆豪はイラついた様子で頭を抱えていた。
「あ゛~~、クソが!」
「おおう。どしたどした? 久々に顔合わせ立ってのに機嫌がわるいな」
イラつきを隠そうとしない爆豪に切島が声をかける。
その声を聞いて上鳴と瀬呂のいつものメンバーが集まってくる。
爆豪の機嫌がよくないのはいつものことだが、職場体験の後とあっては何かあったのか気になる三人。
しつこく聞いてみれば、返ってきた返事はシンプルなもので、
「職場体験……行くとこ間違えた」
ということらしい。
爆豪の希望としては、戦闘訓練やヴィランとの戦闘経験を積みたくて参加したはずなのに、チャリティや奉仕活動ばかりで満足のいくものではなかったらしい。
向こうからすれば、爆豪の不名誉な風評被害やトラウマを何とかしてやろうとした結果なのだが、本人が納得していないのではしょうがない。
というわけで、爆発寸前のかっちゃんなのであった。
一方、山岳でサバイバルやら格闘訓練やらを受けていた出久はというと、
「式神の運用方法で最大のメリットは自立して動いてくれるから同時多方面に活動できることと、情報収集、情報伝達がすぐにできるってところだよな。でも、デメリットとしてキャパシティの上限があって、それを超えた瞬間に僕自身が行動不能になることだな。もし、他のところで活動している式神の影響で、ヴィランの前で行動不能とかヤバいぞ。上限がどれくらいなのか確認をしないと。式神でも下級と上級だとキャパの容量が違うよな。わかりやすく数値化すれば限界数が分かるか? いや、この間のキューちゃんの報告だと上級式神の場合は能力の使用如何によってはキャパが変わるみたいだし。どうやって考えたらいいんだろう? 簡単なのはゲームみたいにコストで考えてその上限が超えないように編成を組む感じで……」
職場体験中に強化した式神の運用についてノートにガリガリと考察を書き記していた。
いつも通りの光景だ。
“羽衣狐”の個性は代々引き継ぐたびに能力が増えてきているので、使いこなすためには考察の時間がいくらあっても足りないという状況だろう。
まだまだ課題は多いのだ。
キャピキャピと楽しそうなのは女子の集まり。
芦戸、耳郎、蛙吹、麗日の4人が職場体験先での出来事を語り合っている。
ヴィラン退治に参加したことや、トレーニングの内容。
パトロール中の出来事やであった事件のあらましについてなどなど、楽しく語り合う。
「お茶子ちゃんはどうだったの? この一週間」
3人の会話を少し離れたところで聞いていた麗日に蛙吹が声をかける。
麗日はスクッと立ち上がり、
「とても、有意義だったよ」
「目覚めたのね、お茶子ちゃん」
「バトルヒーローのところに行ったんだっけ?」
コオオォ、と、呼気を吐き出しながら武術の構えをとる麗日。
その場で突き出す拳は、鋭く空気を裂くような勢いを見せている。
武術家のオーラを醸し出していた麗日。だが、ふと思いついたように出久に視線を向けた。
「そういえば、デク君も格闘習ったって言ってなかったっけ?」
「えっ、僕? うん、習ったよ。キャットコンバット。確か麗日さんは……」
「
「拘束系というか、合気的な部分もあるんだ……僕はどちらかというと打撃系かな。体の柔軟性や腕や足のしなりを利用して威力を増す感じのやつ」
麗日と一緒に格闘談義を始める出久。
共通の話題があると盛り上がるのだが、話題に入れないと周囲の人間はつまらない。
そうしたこともあって、話題に入れない芦戸がじれて別の話題を持ち掛ける。
「格闘もいいけどさ、他にもいろいろやったんでしょ? 緑谷はワイプシのところだと山じゃん! 自然の中で何かやってたんじゃないの?」
「あー、山の中でサバイバル訓練とかしてたよ。ナイフ一本で放り出されたときは大変だったなぁ……」
食料も水もない状況で山に放り込まれ、時折襲ってくる虎と組み手をして食料や飲料を確保していた思い出を振り返り遠い目になる出久。
あれのせいで乙音が野生に帰りかけたりして大変だったのだ。
「えー、食べ物も自分で探さなきゃいけなかったの!? ヤバいじゃん、何食べたの? てか、ちゃんと食べれた?」
「大丈夫だよ、芦戸さん。山の中は幸い、食べれるものは豊富だったから。例えば……」
心配する女子メンバーを安心させるために、何を食べたのかを言おうとしてハッと口ごもる。
冷静に考えたら結構ゲテモノ食べてる気がするのだ。
カエルとか蛇とか言ったら絶対引かれるに決まってる。
特に蛙吹を見てなんだか申し訳ない気分になってしまう。いや、関係ないことはわかっているのだけれど。
「例えば……なになに?」
「き、木の実とかかな。いろいろと山の幸が多かったよ」
「へぇ~、そうなんだ」
とっさに嘘をついてしまった出久。
本当のことは言えない。言えないのだ!
何故か冷や汗をかく羽目になってしまった出久のところへ、新しく人影が差す。
特徴的な眼鏡のシルエット。飯田だ。
「すまない。少しいいだろうか?」
「あ、飯田くん。職場体験、大変だったってね」
「ああ、危うく命を落としかけたが何とか助かったよ。これも、緑谷君が渡してくれた
そのお礼をしに来たのだと、手にしたお守りを強調して言う飯田。
ヒーロー殺しの事件には出久の個性がかかわっていたのだが、未成年の個性無断使用をなかったことにするために、事件はエンデヴァーが解決したということになっている。
そのため、表立ってお礼を言えないのを、婉曲的にお守りを示すことで言っているのだった。
その点は、後から出久も式神との情報共有で分かっているので、何のことかはピンと来ている。
「気休め程度だったけど、役に立ったならよかったよ」
「いや、気休めってもんじゃねえと思うがな。実際に……心強かったぞ」
轟も飯田に乗っかるように礼を述べる。
それを皮切りに他のクラスメイトも出久の渡したお守りに話題が移る。
「あー、飯田も轟ももらってたんだ! そのお守り!」
「うちももらったけど、みんなもらってたんだな」
「デクくんから貰ったの、肌身離さずつけてたよー」
「私は、水の中で活動することもあったから肌身離さずではなかったわ。でも、ちゃんと大事にしてたから安心してね、緑谷ちゃん」
実はクラスメイトの全員に渡していた出久。
何かあった時の助けになればと考えての事だったが、実際に使うことになったのは保須での事件だけだったのは幸いといえるだろう。
出久のお守り。A組の共通アイテムみたいでなんだか楽しく感じたのだった。
『クソが! 何がお守りだ……俺はもらってねえぞ?』
……そう、爆豪以外はみんな持ってる。
これは爆豪をハブったというわけではなく、悲しいすれ違いのせいである。
『かっちゃんにも渡したかったけど、なんだか避けられてて渡せなかったんだよなぁ……』
全員分を作って渡す気満々だった出久だが、体育祭の後、幼女に対してトラウマを持っていた爆豪は幼女姿の出久が近づいてくると無意識に避けていたのだ。
そんなこんなで、渡す機会を失ってしまったのだった。
『デクのヤツ、俺のことを危険人物だとでも思ってやがんのか? クソが!』
『やっぱり、体育祭であんな終わりになっちゃったせいで嫌われちゃったかな? いや、もともと好かれてはいなかったけど……』
長年の付き合いのあるこの二人だが、すれ違ってばかりだ。
はたしてうまくかみ合うのはいつになるだろう?
小ネタ『みんな大好き、爆豪のおにいちゃん』
ヒーローとは本来奉仕活動。
ゆえに、ヴィランを捕まえたり災害救助をしたりといった派手な活動以外もしている。
例えば、ベストジーニストが行っている特定の幼稚園・保育園に対するチャリティーイベントなんかもそうだ。
地域の子供たちに対して夢と希望を与える。
これも立派なヒーロー活動なのである。
「ベストジーニストォ、俺は強くなるためにここに来たんだぜ? それがなーんで、ガキどもの世話をしなきゃならねえんだ!」
それを、若い爆豪が納得できるかどうかは別問題だったりするわけで。
目を吊り上げて怒る爆豪に、ベストジーニストはため息を吐く。
本当に扱いづらい生徒だ。
「いいか? ヒーローは本来奉仕活動だということを忘れてはいけない。若い君が派手な部分ばかりに目を向けたがるのはわかるが、こういった活動をおろそかにしていてはトップヒーローにはなれないものさ」
あのオールマイトだってチャリティイベントはよくやっているだろう?
と、かのNo.1ヒーローの名前を出すと、しぶしぶといった様子で黙る爆豪。
さすがの乱暴者もオールマイトには敬意を払っているらしい。
「ついでに君のトラウマの克服も兼ねているんだ。頑張りたまえ」
「あ? 俺にトラウマなんて……」
「いや、気が付いていないようだが、けっこう君、重症だぞ?」
トラウマなんてないと否定する爆豪だが、ベストジーニストはピシリと指摘して見せた。
先日、パトロールに出かけた際には、子供が通りかかれば無意識に距離を置き、たまたま流れたTVの幼児向けの番組に過剰に反応していたりなど……
今後、要救助者に幼児がいたら活動に差しさわりがあるのではないか?
そんな不安を感じたベストジーニストは、こうして爆豪を自身がチャリティなどで支援している保育園に連れてきたわけである。
理由を説明された爆豪は、自覚があるのか、気まずそうに目をそらした。
しばらく逡巡したあと、観念したらしくベストジーニストの後に続いて保育園の中へ入っていくのだった。
――約二時間後。
そこには、元気にあふれた園児たちにまとわりつかれて大人気の爆豪の姿が!?
「爆発にーちゃん、遊んでー!」
「ちゃんと相手してやるから待ってろ!」
「爆兄ィ、お絵かき教えて……」
「ちょっとしたら行くから何描くのか決めとけ! ソッコーで描き殺したるわ!」
「お兄ちゃん……おしっこ漏れそう……」
「あああ! トイレくらい一人で行け! クソが!! ほら、ついてこい!!」
もみくちゃにされながらも、さすが才能マンといったところか。
次から次へと押し寄せる園児たちの要求に応えていく。
口は悪いが、なんだかんだで面倒見がよい彼である。
隠れ属性は「おかん」だろう。きっと、間違いない。
それを見ていたベストジーニストはというと、
「馬鹿な! よく訪れている私より懐かれているだと!?」
子供人気が爆豪より低いことに驚愕していた。
真面目に、丁寧に子供と向き合っているというのにどうして?
と、悩むベストジーニストだが、これは仕方ないだろう。
子供からしてみれば、来るたびに説教臭いことを話していく大人の男性よりも、口は悪いけど元気にめいっぱい遊んでくれるお兄さんの方がよいわけで。
爆豪のトラウマ克服はうまくいったが、若干心に傷を負ったベストジーニストであった。
オマケ『期末試験編 次回予告風』
「緑谷と爆豪ですが……オールマイトさん、頼みます。この二人、体育祭以来どこかお互いに苦手意識があるようです。上手く誘導してください」
――――相澤先生
「ブッ殺すぞ!」
――――爆豪 勝己
――――緑谷 出久
期末試験編 執筆予定!
なんというか、本編よりかっちゃんのネタの方が人気だった気がする……。
みんな、爆豪君好きだよねー!
しばらくは悪墜ちやたとえばの更新をするので、次回はもう少し時間がかかります。
なにとぞ、よろしくお願いします。