いずく1/2   作:知ったか豆腐

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いずく1/2 その26(ショッピングモール編)

 爆豪が目を覚まして最初に認識したのは真新しいシーツの匂い、そして消毒液を始めとした薬品の匂いだ。

 要は保健室の匂いなのだと理解したところで試験をクリアできなかったことに思い至り、悔しさから顔を片手で覆う。

 泣くようなことはしない。だが、そうでもしなければ感情が抑えられそうもなかった。

 

「かっちゃん、目が覚めたんだね!」

「んん? 出久……かっ!?」

「かっちゃん!?」

 

 声がする方に顔を向ければこちらを心配そうに覗き込む出久の姿があった。

 それを見た瞬間、ベッドから跳ね起きて転げ落ちる爆豪。

 隣にいた出久は驚くしかない。

 

「かかか、かっちゃん!? いったいどうしたの? どこか痛いの?」

「うるせえ、俺の側によるな!」

「え、ええっ!?」

 

 心配する出久に対しキツイ態度を取る爆豪。

 何故なら今の出久の姿が……ケモ耳幼女だったからだ!

 いくらトラウマを克服したとはいえ、寝起きは心臓に悪いのである。

 

「なんで!? 僕の何が悪いの? 教えてよ、かっちゃん!」

「いいから、離れろ! クソデク!」

「デク!? 呼び方が戻るほど嫌って、何なの!?」

 

 そんな爆豪の気持ちなど知るはずもない出久は、理由を知ろうと必死で爆豪に詰め寄る。

 そして、懸命に逃げ回る爆豪。

 

 傍から見ていてこれ程滑稽なものはなかった。

 

「何やってるんだい。元気なのは良いけどここは保健室だよ。静かにしなさいな」

 

 当然、リカバリー・ガールに怒られたのであった。

 

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 期末試験から一夜明けたA組教室。

 そこには暗い顔をしたクラスメイトが数人集まっていた。

 そう、期末試験をクリア出来なかったメンバーである。

 

「皆……土産話っひぐ、楽しみに……! してるっ……から!」

 

 芦戸が涙ながらに語るのを見て、同じく試験未達成組の切島、砂藤、上鳴の空気が更に暗くなる。

 彼らのいる一部区画だけジメジメとした空気が漂っている。

 

「あぁ! ウザってえ! いまさらウダウダ言ったところでどおしようもねえだろうが! メソメソしてんじゃねえよ、雑魚が!」

「なんだとお! 爆豪おまえもクリアならずのくせに!」

「黙れ! 俺とお前らを一緒にすんな!」

「同じだろ! 何自分は違うって顔すんなよな!」

 

 ジメジメした雰囲気にキレた爆豪が食って掛かるが、試験失敗したもの同士の低いレベルの争いになってしまった。

 いや、喧嘩できるくらいの空元気が湧いたとでも思えばよいのだろうか?

 

 一方、出久はというと、芦戸を除いた女子メンバーに囲まれていたりする。

 

「ああ、デクちゃんと一緒に合宿行けないの寂しいよー」

「ごめんね、麗日さん。でも、僕の力不足が招いたことだから……」

 

 出久が試験をクリアできなかったことを悲しむ麗日。

 それを出久は死んだような目をしながら聞いていた。

 なぜって、試験をクリアできなかったショックもそうだが、何よりこの状況だ。

 

 ケモ耳幼女・出久。現在、麗日に抱えられて膝の上である。

 先程からずっとモフモフされっぱなしなのだが、もはや何を言っても聞かないと諦めたのである。

 たぶん、この副作用をなんとかしない限り、この扱いはかわらないんだろうなぁ、と、漠然とそんな予感を感じ取った出久であった。

 ああ、現実は無情であるな。

 

「でも、心配ですわね。補習は学校で居残り授業だそうですけども、出久ちゃんをそこに一人置いて行くのは不安が残ります」

「残る女の子、三奈ちゃんだけだもんねー。男どもにちっちゃい子のお世話は任せられないし……」

「そうね。三奈ちゃんへの負担が大きくなりすぎるのは好ましくないわ」

「やっぱり先生を頼るのがいいんじゃない? 女の先生っていうと、ミッドナイトと……」

 

 八百万が学校に残る出久の心配をしたことで、葉隠・蛙吹・耳郎が次々と意見を述べる。

 自分の心配をしてくれることには感謝したい出久だが、正直一言物申したい。

 

「なんで皆、僕を見た目通りの年齢で扱おうとするの!?」

 

 緑谷出久、れっきとした高校生である。である!

 

 

「予鈴が鳴ったら席につけ」

 

 話をしているうちに時間が来て、相澤先生が勢いよくドアを開けて教室に入ってくる。

 一瞬で静まり返る教室に相澤先生の声が響く。

 

「おはよう。今回の期末テストだが……残念ながら赤点がでた。したがって……」

 

 死刑宣告を待つような気持ちで、言葉の続きに耳を傾ける試験失敗組。

 告げられた言葉は――

 

「林間合宿は全員行きます」

『どんでんがえしだあ!!』

 

 まさかの全員参加宣言に喜びに沸く一同。

 そんな喜びに水をさすように、相澤先生は今回のテストの赤点生徒を告げる。

 

「筆記の方はゼロ。実技で切島・上鳴・芦戸・砂藤あと瀬呂が赤点だ」

「行っていいんスか俺らあ!!」

「確かにクリアしたら合格とは言ってなかったもんな……クリアできずの人よりも恥ずかしいぞ」

 

 切島が信じられないとばかりに聞き返し、瀬呂がうつむいて落ち込んでいる。

 そんな各々の反応は良いとして、気になることが一つ。

 

「あの、先生。赤点でないことは嬉しいんですが、僕たち試験をクリアできてないですよ?」

「ああ。その点についても説明させてもらう」

 

 試験をクリアできなかったにもかかわらず、赤点の名前を呼ばれなかった爆豪と出久。

 その理由を尋ねてみれば、相澤先生が顔をしかめながらため息を吐きながら話し始めた。

 

「今回の試験。我々ヴィラン側は生徒に勝ち筋を残しつつどう課題と向き合うかを見るよう動いた。

 でなければ課題云々の前に詰むやつばっかりだったろうからな」

 

 本気で叩き潰すと言っていたのは生徒を追い込むため。

 赤点は林間合宿に行けずに居残り補習というのもそのためだ。

 そもそも、林間合宿は強化合宿であるので、赤点を取った生徒こそそこで力をつけなければならない。となれば、赤点=合宿不参加になるのは最初からおかしいのだ。

 いわゆる合理的虚偽というやつである。

 

 そう、全ては生徒たちに本気を出させる嘘なのだが……

 

「緑谷、爆豪。おまえたちの試験の最後の方なんだが、あれな。オールマイトのハンデのおもりが外れてたのは気がついてたか?」

「いや、気がついてねえ」

「は、はい。ってことは……ハンデなしの本気のオールマイト相手だった!?」

 

 度重なる高威力の攻撃を受けた結果、耐久力が減っていた手足の重りのバンドが壊れておもりが外れた状態になっていたのだ。

 ついでに言えばオールマイト。二人の思った以上の奮闘にテンションが上がり、手加減を間違えていたり……

 オールマイトの動きに耐えられるようなアイテムなど、そうそうあるはずもなく。ましてやアイテムにダメージがあったとなれば当然の結果と言えよう。

 つまり何が言いたいかといえば。

 

「生徒に本気を出させるための嘘だってのに、教師が本気出してどうすんだ。まったく!」

「マジかよ、オールマイト……」

「そういえば、教師としては新米だったよね」

 

 呆れた様子で相澤先生が吐き捨てる。

 思わずといった様子で爆豪がため息を吐き、出久は思い出したように声を上げた。

 学校側の不備による加点につき、赤点免除。

 そういうことである。

 ちなみにオールマイトはこの件ですっごい叱られたと伝えておく。

 

 

「A組みんなで買い物行こうよ!」

 

 放課後、一週間の合宿で必要なものを一緒に買いに行こうという葉隠の提案で明日の休みに出かけることとなった。

 一部のメンバーを除き、集まったのは県内最大店舗数を誇る『木椰区ショッピングモール』

 多くの店舗が並ぶこの場所ならば、必要なものが揃うだろうということで集まったのだが、各自必要なものは違うわけで、結局バラけて動くこととなった。

 集合時間と場所を決めてあとは解散……となるはずが、出久には一つ問題が。

 

「さ、出久ちゃん。私と一緒にまわりましょう!」

「はぐれて迷子になったら大変だもんね。手えつなごっか?」

「あの、大丈夫だよ。一人でまわれるから」

 

 八百万(保護者)麗日(セコム)が離してくれない。

 完全に見た目通りの年齢扱いされていることに悲しくなる出久。

 半ば暴走気味の二人にどんな言葉を投げかけても無駄だと悟った出久は最終手段を取る。

 これだけは使いたくなかったと思いながら一度うつむいて覚悟を決めた。

 

「おねがい、おねえちゃんたち。ぼく、ひとりでがんばりたいなー」

「「うっ!」」

 

 必殺、涙目上目遣い・おねえちゃん呼び。

 母性特攻の禁じ手に、八百万と麗日はK.O.

 出久が単独行動をすることに首を縦に振ることとなった。

 その代償は、出久のプライドである。尊い犠牲だ。南無。

 

「あ、そうですわ。出久ちゃん、念の為これを渡しておきますわ。何かあったらこれを使ってください」

「これって、防犯ブザー?」

「ええ、変質者が出たときのために!」

 

 手のひらに収まるそれを見て苦笑いを浮かべる出久。

 小学生のとき以来だと懐かしく思いながら、それが似合う姿になっている自分に心で泣いたのだった。

 

 

 

「おー、雄英の子じゃん。スゲー!」

「ど、どうも」

 

 皆と離れて自由行動を始めたところで、声をかけられる出久。

 体育祭以来、よく声をかけられるのでなれたもの、と、思っていたらいきなりしゃがみこんできて肩に手をかけられた。

 馴れ馴れしさに戸惑う一方で、野生の勘が危険を告げる。

 

「あなた、いや、おまえは!」

「へえ、勘がいいな。やっぱり野生動物ってところか?」

 

 気がついたときには首に手をかけられ、絶体絶命の状況になってしまっていた。

 この人物の正体は――

 

「雄英襲撃以来になるか? 緑谷出久」

「死柄木、弔!」

 

 ヴィラン連合のリーダー。

 危険な雰囲気溢れる男の出現に、出久の手に力がはいる。

 警戒心を隠さない出久に、死柄木は諭すように声をかけた。

 

「慌てるなよ。俺はおまえと話がしたいだけだ。だから……

 

 防犯ブザー(それ)から手を離せ。殺すぞ」

 

 出久の手に握られているブツを見て若干、顔を引きつらせる死柄木。

 彼はヴィラン。犯罪者だ。

 犯罪者だが、かといって、不審者・変質者と同等には扱われるのはゴメンなのである。 

 

 

オマケ『恐怖の一言』

防犯ブザーを握る手に力が入る出久。だが、それを死柄木は見逃さなかった。

 

「それから手を離せ。殺すぞ」

 

 死柄木の言葉に従わざるを得ない出久。

 “殺す”という脅しには、出久本人だけに向けられたのではないと理解していたからだ。

 死柄木の視線が、周囲の何も知らずに日常を過ごしている一般市民を示していた。

 人質を前に出されては、ヒーロー志望としては無視することもできない。

 苦々しい思いを噛みしめながら、手の力を緩めた。

 その様子を見た死柄木は、出久に抵抗させないようにさらに言葉を投げかけた。

 

「それと言っておくが、抵抗しようなんて考えるなよ? ……俺は“ペド”だ!」

「クッ! ……えっ? ええっ?」

 

 さらに脅しをかけられたと唇を噛みしめる出久であったが、死柄木の言葉に変なものが混じっていることに気が付き、困惑する。

 最初は意味がわからなかったが、数瞬後に頭がようやくその言葉の意味に追いつく。

 感じたのは今までにないほどの身の危険だった。

 

「〜〜〜〜ッ!!」

 

 声にならない悲鳴を上げながら、出久は迷うことなく防犯ブザーのピンを引き抜いたのだった。

 

『本日、午後××ごろ。木椰区ショッピングモールにて、フードを被った20代位の男が幼女に「お茶でもしないか」と声をかけてくる事案が発生致しました。不審者は被害者の女の子が持っていた防犯ブザーの音に驚き、逃走。警察では不審者の足取りを追うとともに周囲への警戒を呼びかけています』




・出久と爆豪、赤点を免れる。
・死柄木とエンカウント
・オマケ、死柄木通報される。
 以上、今回のお話でした。

戦闘シーンがないと筆が進むなぁ……

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