死柄木により生殺与奪の権を握られた出久は、その恐怖にじっと耐えるしかなかった。
抵抗すれば自分だけでなく、周囲の市民の命も危険にさらしてしまう。
いわば人質を取られたようなものだ。
死柄木の要求に応じるしか選択肢はない。
それでもこの状況は出久にとって屈辱だった。
たとえ不自然でないように話ができる場所へ移動するためだとしても……死柄木に抱え上げられての移動はあんまりだと!
死柄木の右手は依然、首にかけられたまま。しかし、向かい合うような形で抱え上げられている。要は“抱っこ”されているわけで。
精神年齢高校生男子の出久はもういろいろとダメージが大きかった。
「ちゃんとおとなしく出来たなぁ? 偉い偉い。ホント、イイ子だなぁ?」
「くっ、馬鹿にして!」
こちらを嘲るような死柄木の言葉に、出久はただ睨みつけることしかできない。
それが精いっぱいの抵抗だった。
もっとも、見た目幼女が睨みつけたところでまったく効果はないのだけれど。
むしろ微笑ましいくらいだ。
「それで、話って、なんだよ」
「まぁ、慌てるなよ。まったりと話そうじゃないか」
要件を尋ねる出久に、死柄木は落ち着いた様子で話し始める。
語りだした内容は、ヒーロー殺し=ステインのことだった。
「今一番腹立つのはヒーロー殺しさ」
「仲間じゃないのか?」
「俺は認めちゃいないが、世間じゃそうなってる」
仲間ではないのかと問う出久だが、死柄木は気に入らないと言いながら否定する。が、世間の認識についても言及した。
問題はそこだ……と。
「雄英でのことも、保須でも、俺たちがやってきたこと全部奴に喰われた。誰も俺を見ようとしない……何故だ?」
このショッピングモールに来る前、アジトには連合への参加希望者がやってきていた。
……ステインの思想に惹かれて。
そいつらのことを思い出す死柄木。
『ステ様になりたいです! ステ様を殺したい! だから入れてよ弔くん!』
ステインの在り方、姿に魅せられてヴィラン連合に近づいてきた人格破綻者。
『ヒーロー殺しの意志は、俺が全うする』
ステインの思想に感化されて、その思想の拠り所とみて連合への参加を望んだもの。
『ここに来たら幼女をペロペロできると聞いて!』
ステインの風評(被害)を聞いてやってきた……こいつはいいや。速攻で刺されて燃やされて塵になった奴だし。
二人が示す通り、世間はヴィラン連合よりもステインを注目している。
今の状況は、“ヴィラン連合にステインがいる”のではなく、“ステインがいるヴィラン連合”という認識だ。
これではステインが主、ヴィラン連合が従だ。
そのことが、死柄木には気に入らない。
「いくら能書き垂れようが、結局やつも気に入らないものを壊してきただけだろう? 俺と何が違う?」
納得できない疑問を口にする死柄木。
だが、出久の答えは答えとは言えないものだった。
「そんなの、僕が知るもんか。僕はおまえのことも、ステインのこともよく知らないんだから」
知らない相手のことなど答えようもない。
これで出久がステインと直に相対して何かを感じ取っていれば何がしかの答を返すことも出来ただろう。
しかし、出久には直接の面識はないのだ。答えなどあるわけもない。
そして、それは死柄木も分かっていることだった。
だから、質問する相手を変えた。
「おまえには答えられないだろうよ。だが、化け狐……おまえなら答えられるだろ?」
「何を……!?」
出久ではなく、出久に取り憑いた個性、羽衣狐の乙音に答えを求める死柄木。
驚いている出久に、乙音が応じる意思をみせる。
『主様、妾が答える。代わるのじゃ』
『でも……』
『大丈夫じゃ。むしろこのまま妾が答えないほうが、相手を怒らせるかもしれん』
危険を避けるためだと主張する乙音に出久は同意するしかなかった。
次の瞬間、出久の髪が緑から金に変わる。
「お望み通り、主様と交代したぞ。だが、妾が答える前に一つ問いたい」
「いいぜ。言えよ」
「何故、妾に聞く? いや、そもそも妾の存在をどこで知った?」
ヴィラン連合の首魁である死柄木が、隠しているわけではないが多くには知られていないはずの自分のことを認識していた理由を確かめる乙音。
死柄木の答えは、乙音の予測した中で最悪の答えだった。
「“先生”から聞いた。おまえ、昔“先生”のところにいたんだろ?」
「その、“先生”というのは、やはりあやつのことか? あやつは、まだ妾のことを……」
かつて自分を恐怖で縛りつけた男が、いまだに自分のことを忘れていないと知り、背筋が凍る乙音。
そんな乙音の心情を慮ることなく、死柄木は問いの答えを急かす。
「俺は質問に答えたぜ。次はお前の番だ。俺とステイン、何が違う?」
「……ステインとやらのことはよく知らぬ。だが、“あの男”のことならば話せるが?」
ステインとの比較ではなく、“先生”との比較になると前置きする乙音に、死柄木は了承の返事をする。
とにかく疑問を解消したい死柄木にとって、その答えのヒントとなるならば何でもよかった。
「おぬしは、ただのガキじゃ」
開口一番、飛び出したのは痛烈な一言だった。
普段ならばすでにキレていてもおかしくはないはずなのに、何かを感じたのか黙ってその先を促す死柄木。
乙音の語りは続く。
「気に入らないと暴れるだけ、駄々をこねるのならば童でもできよう」
今の社会が気に入らない・満足できないと好き勝手するのは“先生”も変わらない。
しかし、“先生”と死柄木には大きな違いがあると告げる。
「まだ超常黎明期のころ、人の規格が崩れた混沌とした時代……あやつは現状に不満を持つ者を集め、己の力を振るうことを是としておった」
現状の秩序を否定する。不満を持つ者を集めて、徒党を組む。
ここまでは死柄木もやっていること。
足りないのはその目的。ゴールだ。
“先生”は、超常を持った人間が増え始め、人の規格が崩れ乱れた秩序に対して、『自分を中心とした新しい秩序を作る』という大義名分を掲げていた。
事実、彼の力のおかげで救われた人間もいたのだろう。
それがたとえ彼の支配という名の秩序だったとしても、その理念・考えの下に集まった人間もいたはずだ。
「それがあやつの本心かは知らないし、それが正義だと言うつもりもないがの。じゃが、対外的にはそういう大義を持っておった」
翻ってみて、死柄木はどうかと言えば……その目的が分からない。
例えば保須市の事件。あれは何が目的だったのだろう? どんな理由があって脳無という改人を暴れさせなければならなかったのか?
答えは何もない。強いて言うならヴィラン連合の存在をアピールすることだろうか?
だが、何か犯行声明を出したわけでもなく、メッセージを出したわけでもない。
特に主張もないのならば、当然、同じく事件を起こしたといえど自らの主張を大きく広めることとなったステインに注目がいくというものだ。
「ステインの野郎は信念がどうとか言ってたな。そういうことか?」
「じゃから、ステインのことは知らんと言っておる。まぁ、こうだろうと予想は付くが」
ステインの言っていた信念についての言葉を思い出し、尋ねる死柄木。
乙音は知らないと言いながらも、耳にした情報から予測するステインの考えを口にし始めた。
曰く、「オールマイト」であると。
「一言で言えば“オールマイトがすべてのはじまり”ということじゃろう。オールマイトというヒーローの理想を見て、その理想と程遠い
やり方は間違っているが、それでも理想に生きようとしたのだろう。
そう告げた乙音は、死柄木の顔を見て表情を凍らせる。
「ああ……すっきりした。わかった気がする……全部、オールマイトだ」
心の底から笑っている、なのに見るものに怖気を走らせるような不気味な笑顔を見せる死柄木。
それは歓喜の表情だ。暗い、暗い怒りを孕んだ……
「救えなかった人間などいなかったように! ヘラヘラと笑っているからだよなぁ!!」
「ぐっ!」
オールマイトへの、否、今のヒーローという正義に対する怒りで手に力が入り出久の首を絞める。
だが、周囲の市民への被害を考えれば耐えるしかない出久。
拷問のような時間は、そう長くは続かなかった。
「デクちゃん?」
「お知り合い……ではなさそうですわね」
現れたのは麗日と八百万。
単独行動を認めたものの、不安になって戻ってきたのだ。
そして目にした光景に警戒心をあらわにする。
「なっ、二人とも、来ちゃだめ……」
「なんだ、迷子じゃなかったのか。ごめんごめん」
二人の身を案じて声を上げようとするが、死柄木がパッと手を離し素早く離れていく。
追ってこないよう脅しをかける死柄木に、なお何か問いかけようとした出久であったが、心配する二人に気を取られている間に見失ってしまった。
そうして一人になった死柄木はほくそ笑む。
出かける前までの不機嫌は吹き飛び、今は踊りだしそうなほど上機嫌だった。
なぜなら、彼は自分の信念と理想を見つけることができたのだから。
『オールマイトのいない世界を創り、正義とやらがどれだけ脆弱かを暴く』
彼がこれから掲げる、理想・信念の下に今の秩序にあぶれた人を集めるのだ。
ステインの理想・思想を踏み台にしても……
悪は、再び動き出そうとしていた。
オマケ~小ネタ集~
『出久は笑顔で……』
話をする場所へ移動するため、死柄木に抱えられる出久。
ヴィランに身を任せなければいけない危機的状況と、幼児扱いされる屈辱に顔を歪ませる。
そんな様子を嗤うように死柄木が声をかけてきた。
「ちゃんとおとなしくできたなぁ? 偉い偉い。ホント、イイ子だなぁ?」
「くっ、馬鹿にして!」
よしよしと、あやすような動き。完全に幼児扱いだ。
出久の嫌がることを的確にやってくる死柄木。
効果覿面の様子に死柄木はさらに調子に乗った。
「なんなら、“お兄ちゃん”って呼んでもいいんだぜ?」
ニヤリと嫌な笑みを浮かべる死柄木。
その表情を見て、出久は……
笑顔で防犯ブザーを見せつけた。
「おい、俺が悪かったからやめろ」
『出久は黙って……』
話をする場所へ移動するため、死柄木に抱えられる出久。
ヴィランに身を任せなければいけない危機的状況と、幼児扱いされる屈辱に顔を歪ませる。
そんな様子を嗤うように死柄木が声をかけてきた。
「ちゃんとおとなしくできたなぁ? 偉い偉い。ホント、イイ子だなぁ?」
「くっ、馬鹿にして!」
よしよしと、あやすような動き。完全に幼児扱いだ。
出久の嫌がることを的確にやってくる死柄木。
効果覿面の様子に死柄木はさらに調子に乗った。
「なんなら、“お兄ちゃん”って呼んでもいいんだぜ?」
「誰が呼ぶか!」
「そう睨むなよ。舐めまわしたくなるだろ」
ニヤリと嫌な笑みを浮かべる死柄木。
怒る出久に死柄木がふざけた様子で返事をした。
対して出久は……
黙って防犯ブザーの紐を引き抜いた。
『何かを射抜く音がした』
「ちゃんとおとなしくできたなぁ? 偉い偉い。ホント、イイ子だなぁ?」
「くっ、馬鹿にして!」
よしよしと、あやすような動き。完全に幼児扱いだ。
出久の嫌がることを的確にやってくる死柄木。
効果覿面の様子に死柄木はさらに調子に乗った。
「なんなら、“お兄ちゃん”って呼んでもいいんだぜ?」
ニヤリと嫌な笑みを浮かべる死柄木。
その表情を見て、出久は……自棄になった。
「ありがとー。しがらきおニイちゃん」
「は!?」
ニパーっと、満面の笑みに甘ったるいロリっ子ボイスで告げる出久。
その言葉を受けて死柄木はピシリと固まる。
ズキューン、と何かが胸を射抜いた音がした気がした。
「し、死柄木。どこへ行くつもり!?」
「……黙ってろ」
目的のベンチを通り過ぎて、出久を抱えたまま歩き去ろうとする。
思わず出久が声を上げるが、気にした様子もない。
そして、その目的を告げた。
「決めたぜ、お持ち帰りだ」
「…………救けて!? 誰か、救けて~!!」
なお、ギリギリにセコムと保護者が駆けつけてなんとかなったとか?
『あぶないセコム』
単独行動を認めたものの、やっぱり不安になって出久の元へ戻ってきた麗日と八百万の過保護コンビ。
何か胸騒ぎがすると戻ってきてみれば、目にしたものは……
フードを被った怪しげな男が、幼い女の子の肩に手をかけて何か話しかけていた。
出久の青ざめた表情を見る限り、まともな状況ではない。
二人が目と目で語り合って行った麗日・八百万(魔女)裁判の結論。
「なっ、二人とも来ちゃダメ……ヒィ!」
「……マジかよ」
女子二人に気が付いた出久と死柄木。
だが、二人を見て出久は悲鳴を上げ、死柄木は顔が引きつる。
だって――
「デクちゃんに……触るな、外道!」
背後に不動明王のヴィジョンが見えそうなほど濃厚な怒りのオーラが出ていた。
その手にした日本刀はどこから!?
あ、八百万さんですか……そうですか……
「緑谷ちゃんから離れなさい! さもなくば……分かっていますわね?」
一方、八百万も鬼気迫る表情で死柄木に自らが創り出した銃を向ける。
ただし、手にした銃は拳銃などではなく……10mm以上の口径に全長は1.5mはあろうかという大型の銃。
いわゆる対物ライフルと呼ばれているような品であった。
間違っても人に向ける物ではない。
おい、ヒーロー志望。おおい!?
これ、警察が駆けつけたとして逮捕されるの死柄木じゃないんじゃなかろうか?
なんかまた本編よりもオマケがメインになっているような気がします(汗)
なんで(拙作の)シリアスすぐ死んでしまうん?
最期のセコム&保護者コンビは中の人ネタを使ってみたり。