第二種目の騎馬戦が終わった。
激闘を制した出久は昼休みという束の間の安息を過ごしていた。
「ハァ~。子ぎつね可愛かったなぁ」
「めっちゃ愛でまくってたね。麗日さん」
「そりゃ愛でるさ! だってあんなにモフモフなんだもん!」
定食のコロッケをつつきながら麗日がへにゃりと至福の笑みを浮かべる。
先ほどまで式神の子ぎつねを思う存分にモフりまくった麗日は満足げである。
もはやモフモフ中毒ともいえるほどモフモフの魅力に憑りつかれた麗日を見て出久は苦笑を隠せなかった。
そんな二人の元へ来客が訪れる。
「緑谷さん、麗日さん、探しましたわ」
「あれ、八百万さん。どうかしたの?」
顔を上げると、何かを手に持った八百万がこちらに向かってきた。
その手にあるものが用件のようだが?
「さきほど連絡が来たのですが、ヒーロー科の女子はこれを着て応援合戦をしなきゃならなそうですの。いま皆様にお渡ししているところですわ」
「これって……チアガールのコスチュームやん!」
「や、八百万さん、これ、誰に言われたの?」
チアガールのコスチュームを渡されて顔をひくつかせる出久。
まって、いろいろとツッコミたいことが多すぎる。
「峰田さんと上鳴さんですわ。なんでも相澤先生が朝に伝え忘れてしまったそうです」
絶対嘘だそれ。
なんで騙されちゃうかな!? というか、その二人の時点で怪しいと思おうよ!!
思春期男子の邪な欲望を感じ取った出久。ピュアなお嬢様が悪い男に騙されている……
「まった、八百万さん。あのね……」
「心配ありませんわ、緑谷さん。サイズなら以前測ったものを覚えていますので、ピッタリのはずです。もしおかしなところがあったら後からおっしゃってください。
あ、他の皆さんにもお渡ししなければなりませんので、このくらいで失礼いたしますわ。後で更衣室でお会いしましょう」
出久の不安にあさっての方向で返事をする八百万。
言いたいことだけ言ってすぐに立ち去ってしまった。
別にサイズのことが言いたかったわけではないのだ。
もっと根本的な部分でツッコミをいれたい出久である。
手の中のコスチュームを見て途方に暮れる。どうしようか?
「大丈夫だよ、デクちゃん。きっとデクちゃんなら似合うからさ!」
「麗日さん……」
麗日が元気よく励ましてくれるが、そうじゃない。
何度も言うが根本的なところから間違っていると主張したい!!
「ねぇ、八百万さんもだけど、どうして僕が女の子であることを前提に話すの!?」
涙を流さんばかりに声を大にして主張する出久。
いま男の姿に戻っているはずなのに、どうしてこうも女扱いされるのだろうか。
おもわず自分の身体を触って確かめてみる。
……うん、まごうことなき男だ。男の身体なんだけどなぁ!
『ナチュラルに女扱いされておるの、主様よ』
『あの一週間で僕の立ち位置が決まったのかな……』
男に戻れなくなった一週間で、男としての出久の立場はお亡くなりになってしまったのであろうか。
もう泣きそうである。
「デクちゃん、食べ終わったら着替えに行かなくちゃね」
「あ、あの、麗日さん? 僕はその服は着なくても……」
「恥ずかしがらなくたって大丈夫だって。デクちゃん可愛いもん! アタシが保証する!!」
恥ずかしがってるわけじゃないとか、保証されても困るとかいろいろと言いたいことはあるのに、邪気のない麗日の笑顔に何も言えなくなりそう。
しかし、このあと全国放送で自分の女装?が映し出されるのは避けたい出久。
今大会一番の苦難を迎えていると言っても過言ではないのではなかろうか? プルスウルトラ?
予期せぬところで追い込まれた出久は土壇場で新たな力に目覚めた。
~~~~~~~~~~
昼休憩終了後。
A組女子たちのチアガール姿に会場は驚く。
その反応を見てようやく騙されていたことを知る八百万たち。
「峰田さん、上鳴さん!! 騙しましたわね!?
何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私……」
煩悩全開の二人に騙されてガックリと落ち込む八百万。
それを小さな影が近づいてきて優しく慰めた。
「大丈夫? モモチャン。元気ダシテ」
「……キューちゃんは優しいですわね」
感動して目の前の小さな狐っ娘チアガールを抱きしめる八百万。
このチアガール狐っ娘幼女、その名はイズキュちゃん。通称“キューちゃん”である。
出久がチアガール姿になりたくない一心で新たに能力を開花させた式神の新たな一種。
自立行動型の高度な技術のいるものをそれだけのために造り出した出久の執念はいかばかりであろうか。
ちなみに見た目幼女と侮るなかれ。
尾の数は一本分。すなわち本体の出久の九分の一のスペックはあるのだ。
これはある種の出久のアルターエゴと呼べる存在。
出久の実力が上がればまた数は増えていくだろう。
そのうち九体ぐらいに分かれてイズクナインと名乗り始めるやもしれぬ……
ミコーン! 毛並みがアッープ!?
とにかく、可愛らしい狐っ娘を放っておくわけもなく。
あっという間に女子たちのハートをキャッチしていた。A組だけでなくB組女子たちも当然虜である。
「緑谷の裏切り者ォ!! どうして、チアガールになっていないんだよォ! オイラ楽しみにしてたのにぃ」
「そうだそうだ! 元男ならわかるだろ? 俺たちの気持ちが!」
「だから嫌なんだよ! てか、元男ってなんだ! いまも男だよ!!」
当然のようにチアガールになることを前提で話す二人に怒りをぶつける。
この野郎、いっそ男の姿のままチアガールになってやろうかとやけを起こしそうになりながらも、寸前のところで耐えた。
「上鳴君……いっぺん、死んでみる?」
“瞳術 万華鏡”
とりあえず、『元男』などとふざけたことをぬかした上鳴を新技の幻術で〆る。
“幻術 万華鏡”は相手の体感時間を引き延ばしたうえで短時間に悪夢を見せるという、強力な幻術技だ。
至近距離で目を合わせるという条件が必要なものの、目を合わせてしまえばそうそう破られない強い技である。
とりあえず上鳴には、「動けないところをマッチョなおっさんがキス顔で迫ってきて熱いベーゼを交わす」という悪夢をみせているところだ。
まぁ、出久は寛容な心の持ち主だ。だいたい100回くらいループしたら解放してくれるだろう。
地面に倒れ、ピクピクと痙攣する上鳴の隣で峰田が地団太を踏んで悔しがる。
「狐っ娘のチアガールが見たかったのに!」
「……狐っ娘のチアガールならあそこにいるよ、峰田君」
「幼女じゃねえんだよ! オイラが見たいのはバインボインのワガママボディの女体を包むチアコスがだな――――ギャッ!」
あまりに不快だったのでつい物理的に黙らせてしまった。
日ごろ女子たちがどれだけ不快だったのかよーく理解した出久だった。
「緑谷君。あの子供はいったい? 君にすごく似ているようだが?」
現れたのは生真面目委員長の飯田。どうやらキューちゃんが気になるようだ。
「あ、あの子? あの子は僕が生み出したんだよ」
「産み出した!? 緑谷君、いつの間に出産を!?」
「はぇ!? まって、飯田君、どうしてそうなったの!?」
さすがはA組天然トップスリーの内の一人、飯田天哉。発想が右斜め上である。
女扱いを超えて母親扱いをされるとは……恐ろしい天然ボケをかますものだ。
「緑谷……出産……交合……ハァハァ!」
「峰田君……いい加減にしとけや、クソが!」
“瞳術 万華鏡・鏡花水月”
「ギャース!」
『主様、主様! 口調が爆発小僧になっておるぞ!?』
かなり不快な妄想を垂れ流していた峰田に上鳴よりさらに強力な幻術をかける。
具体的には、上鳴の見ている悪夢に五感も追加してやったのだ。
まぁ、緑谷出久は優しい人間だ。1000回くらいループしたら解放してくれるだろう。
「む、緑谷君。個性をむやみやたらと使うものではないぞ! いくら言動が悪いとはいえクラスメイトを――――」
「ゴメン、飯田君。黙ッテクレルカナ?」
「……失礼した、緑谷君! お互い、良い結果を残せるよう頑張ろう!」
静かにキレている出久を見て、戦略的撤退を決める飯田。
さりげなく彼も逆鱗に触れているのだ。その判断は正しい。
のちに飯田は語る。
「あのときの彼の目は野獣のような目をしていた」
と。
一方、そのころのキューちゃん。
「キューちゃんの親権はウチがもらう!」
「いいえ、育てるのは私ですわー!」
「ちょっと待った! B組にもその権利はあるはずだ!」
「そうデース! Foxy Girlは渡しまセーン!」
「なにおう! 負けるもんかー!」
なぜかキューちゃんの母親役を巡りバトルが始まっていた。
これが傾国なのか?
「もう、勝手にやってよ……」
試合開始前に燃えつきそうな出久であった。
「大丈夫ダヨ。キューのママはイズクだけダカラ」
「キューちゃん、間違ってないけどフォローになってないからね?」