いずく1/2   作:知ったか豆腐

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いずく1/2 その8(心操戦)

 レクリエーションが終わり、第三種目。

 本選ともいえるこの種目は単純明快に1対1の決闘だ。

 その第一回戦の第一試合で、出久は普通科の心操と相対していた。

 

「へぇ、個性を使わないと本当に男になるんだな」

 

 ゴングが鳴る前の前哨戦。

 この心操の挑発に出久は口を閉ざし答えない。

 当然だ。

 

 彼の個性は“洗脳”。シンプルにして強力な個性であり、一度でも喰らえば勝負は一気に傾く。

 クラスメイトの尾白のアドバイスがなければどうなっていたか……

 

『男に“なる”じゃないよ! もともと男だよ!』

『落ち着け、主様よ。この程度の挑発にのるな!』

 

 内心穏やかでない。

 おそらく一発でキレていたろう。

 ただでさえ先ほどからナチュラルに女扱いされていたのだからして。

 

 そんな出久の内心など知ったことではない心操。

 

「性別不明ってわけわかんねえよな。どっちかはっきりしろよ」

「男になったり女になったり、たしか雌雄同体っていうんだったか? ミミズとかカタツムリみたいな」

 

 煽る。

 煽りまくる!

 怒りの導火線に火を点けるどころか、油田にナパームを打ち込んでやるくらいの勢いで出久の怒りに火をつけようとしていく。

 

『はっきりしてるよ! 男だよ、僕は!!』

『ミミズ!? カタツムリ!? クソが! ぶち殺すぞ!!』

『あ、主様ーッ!? また口調が爆発小僧に!?』

 

 出久の堪忍袋は暴れ回っていまにも緒がキレそうだ。

 しかし、出久ここは耐える。ひたすら耐える。

 この程度の暴言、10年以上続いた爆豪の暴言に比べればまだ可愛いものだ。

 そう言い聞かせて心を落ち着ける。

 さぁ、もうすぐゴングだ。開始早々にヤサシク蹴散らしてあげればよいのだ。

 

 レディィィィィイ START

 

 試合開始!

 出久は飛び出そうとしたが、心操の一言につい反応してしまった。

 

「なぁ、毎回女装することになって恥ずかしくないのか?」

「めっちゃ、恥ずかしいに決まってるじゃないか! ……あっ」

『思わす口に出してしまったのぉ……』

 

 とうとう耐え切れず返事をしてしまう出久。

 だが、ここで返事をせねば好き好んで女になっていると思われるやもしれぬ。

 そう考えると答えざるをえなかった。

 何せ出久を女にしたがる輩はいるのだから。現在、幻術にかかっている二人とか。

 

「終わりだな。俺の勝ちだ。

 ……振り向いてそのまま場外まで歩いていけ」

 

 心操の言葉に従い歩き出す出久。

 彼の個性によって頭にもやがかかったようにはっきりとしない。

 これを解除するには体に衝撃を与えればいいが、1対1の対決で他者からの援護が期待できない以上、それは不可能だ。

 普通なら詰みの状況。

 だが、出久には心強い相棒がいる。

 

『仕方ないの、ほれ、交代じゃ』

 

 返事をしたのは出久。つまり返事をしていない乙音には心操の個性は適用されていない。

 彼女が身体の支配権を奪ってしまえばどうとでもなるのだ。

 イズクに瞬く間に狐の耳と九尾の尻尾が生えてくる。

 

「なに!?」

 

 完全に支配下にあったはずの相手が個性を発動させてきたことに驚きを隠せない心操。

 その驚愕に見開いた目は、化け狐の妖女の瞳を真正面から見てしまった。

 

「あっ……」

 

 ガクリと膝をつく心操。

 そのまま崩れ落ち、うわ言をつぶやきながら動けなくなったため戦闘不能とみなされた。

 言葉と視線を交わすだけの(地味な)静かな戦い。

 

 こうして第一試合は終わったのだった。

 

 

「びっくりするほどユートピア……」

「心操君、どんな幻術を見せられているのかしら?」

 

 苦悶の表情というよりは至福のだらしない表情で倒れている心操。

 主審のミッドナイトの疑問に答えられるのは心操と乙音だけである。

 

 

オマケその1 モフリスト麗日

 

 第一回戦の最終試合。麗日VS爆豪。

 爆豪の見てから対処できる優れた反射神経に手も足も出ない麗日。

 相手の爆破を利用し布石を積み上げ続けた必殺の流星群も、爆豪の渾身の一撃で破られたいま、もう後がない。

 

 だが、負けられない。少なくとも爆豪に一撃を喰らわせなければ気が済まない。

 なぜならば……

 

「モフモフの仇ーッ!」

 

 すべては第二種目で黒焦げにされた子ぎつねたちのために!!

 さすがモフリスト麗日。ブレない。

 

「真面目にやれや、丸顔がァ!!」

 

 渾身の爆豪のツッコミ(爆破)が決まるまでに、麗日はきれいなドロップキックを決めて満足そうに気絶したのであった。

 

「どこがか弱いんだよ……」

 

 爆豪の一言はとっても切実だったらしい。

 

 

オマケその2 夢の世界

 

「負けちまったが、頑張ったな。心操」

 

 クラスメイトから賞賛を浴びる心操。

 その表情は満足げであった。

 

「ん。まあ、いいところまでいったんじゃないか?」

「だな。相手が悪かったよ。あれはすげえ強い個性だからな」

「ああ、あれは仕方ない。幸せすぎて立てなかった」

 

 友人の言葉に頷く心操だが、その口から出た言葉に納得のいかないワードが飛び出してきた。

 何故に幸せ?

 もちろん、気になるのでそれについて聞いてみると……

 

「大量の猫に埋もれる幻を見せられた。あれには勝てねえよ」

「心操、おまえ……」

 

 すげえバカだろ。

 そう続けたかったが、彼の顔が本当に幸せそうで何も言えなかった。

 心操人使。彼もまたモフリストの一人なのだろう。

 

 ……モフリストってなんだっけ?

 

 

 ちなみに後日、相澤先生はその話を聞いて非常にそわそわしていたとか。

 無類の猫好きの称号は伊達じゃない。

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