人類最強の小娘の日常〜この世界の不条理には別世界の不条理で対抗します!〜   作:黒須 英雄

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日常研究部 1ー3

「そろそろ、次の標的をやるか」

 

 暗い、暗い洞窟の中。一人の男は一つの本をパタンと閉じ立ち上がった。

 その背中に一つの旗を背負い、計画の駒を一つ進めるため街へと姿を現す。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 翌日、学校では追悼が行われた。ケーンサフ先生はなぜ死んでしまったのか、その疑問を心の内に秘めつつも、今考えることではないと思い直した。

校長の合図と共に目をつぶり手を合わせた。

 

「病気で亡くなってしまったのか。原因が何にせよ皆さんにも危険が降りかかることは大いに考えられます。気をつけてください」

 

 教室で担任の先生からの注意喚起、何に注意を払えば良いのか分からないが、この国に何かがやってきたのは分かる。

 病気なのか未知の魔法なのか。鍵を握っているのはナーサス・コメラただ一人。

 

「ここ百年くらい魔人は現れていませんが、奴らが現れても対応できるように強くなりましょう」

 

 魔人か……久しぶりに聞いた種族だ。

 悪と罵られ、悪と決めつけられ、悪として打倒される種族。悲しき歴史を辿ってきていたがこの世界の魔人はどうなのだろうか?

 

 

 

「ただいまキール、今日は来てないみたいだね」

「ええ、多分仕事ですよ」

 

 スーツ男はいない。しかし、いつもの温かい夕食は用意されていない。

 

「キール、どうしたの?」

「……何でもありませんよお嬢様。お金が少し溜まったので今日は外食にしませんか?」

 

 元気なキールはここにいない、喪失感が顔から滲み出ている。

 そして、また嘘をついた。

 

「貧民に料理を振舞ってくれる店なんてあるの?」

「港の方にあるんです。ある知人の店です」

 

 悲しげに笑うキールにかける言葉が見つからない。

 キールは俺のことを生まれた時からずっと知っているが、俺はキールのことを何も知らない。

 

「そう。うん、行こう」

「ありがとうございますお嬢様。少しばかり寄りたい場所もあるのですが」

「いいよ、ついていく」

 

 この言葉に嘘偽りはない。むしろ心の底から安心しているように感じる。

 

 キールは道中の店で花を買った。

 

 港に着く。人一人いない異様な静かさを誇っている海岸だ。海岸と港には激しい戦いの跡が残っている。

 そしてーー花。

 

「昔の同僚が今日……ここで亡くなりました」

 

 珍しい、どころか初めて見るかもしれないキールの涙。

 きらめく雫は頬をつたい、花をつたい、その地面にしみとなった。

 

 キールの瞳には激しい喪失感だけではない、確実に怒りが含まれていた。

 

「何があったの?」

「……学生が、襲いかかってきたそうです」

「死因は?」

 

「衰弱死、周りにも多くの被害が出たそうです。片腕を失った少年もいたとか」

 

 学生、衰弱死、繋がる。ケーンサフ先生と同じ、そして犯人の特徴もナーサス・コメラに一致する。

 しかし、いくら中等部のナンバー持ちだとしても元王室の執事に勝てるとは思わない。

 

 何か……あるのだろうか?

 

「失礼します。やぁコニー久しいですね」

「あっ、ああキール!」

 

 店の中に入ると毛むくじゃらのヒゲを生やした男性が涙を流していた。

 他にも複数人の客が涙を流している。

 

「私は端にいるから、今日くらいはその執事を」

「お嬢様、ありがとうございます」

 

 どうやら俺以外の客は全員亡くなってしまった執事の元同僚っぽい。

 話を聞いていると、育ててくれた恩人なんだそうだ。

 

 一同からは激しい怒りが漏れ出していた。このままでは犯人を殺してしまうのは時間の問題なのかも知れない。

 

 ナーサス・コメラがどんな手段を持っていたとしても十人以上の執事達に勝てるとは思わないが……もしもが怖い。

 

「お嬢様、私は犯人探しに加わりたいと思うのですが」

「無茶をしない限りでなら。それと……」

「何でしょう?」

 

 正直興味が湧いている。俺がほぼ全滅まで追いやった吸血鬼の死因。

 心当たりがない訳では無いが……、もしそうなのだとすれば俺はーー。

 

「何なりとお申し付けください。我が主はお嬢様でございます、さぁ遠慮なさらず」

「条件は二つ。一つは私に逐一現状報告すること」

 

「お嬢様!? それは危険過ぎます!」

「二つ、必ず……無事に帰ってきてくれ」

 

 しーん……静まり返る店内。何故かはいまいち分からないが、頭は冷えたようだ。

 

「分かりましたお嬢様。この案件すぐに解決してみせましょう、我々『ザ・執事ズ』の力で!」

 

 拍手喝采、歓声と意気込みを叫ぶおっさん達。

 ちょーっと待て! どうしてこうなった!? 完全に感動して、情報提供も承諾する流れだっただろうが!

 

「き、キール、私は」

「分かっていますともお嬢様! 貴方は私たちの後押しをしてくれた、お嬢様のお手を煩わせることなく解決して見せますとも!」

 

 はぁ〜、何を言っても無駄そうだ。犯人を捕まえてくれる分にはいいのだが、最悪の想定ならば……全滅も冗談では無くなってくる。

 

「分かった。頑張ってくれ」

 

 俺は諦めた。アルコールが入った大人達を止める術を持っていないのでは対抗のしようもない。

 

「嬢ちゃんも飲むか?」

「いえ、私はサモラ茶で」

 

 頬が赤く染まった毛むくじゃらのおっさんの手によってカラになった容器に麦色の液体が注がれる。

 ゴクリ、あれっ? なんか味がちがーー

 

「実はエールでした! 飲まなきゃ損だぜお嬢様」

「なっ!?」

 

 エールは立派なお酒だ。度数はきつくないが、この体には……少々キツい。

 頭がホワホワしてきた、ああ、制御が上手くいかーーない。

 

「「っっ!?!?」」

 

 み〜んな俺のことを見てる? やった〜!!

 

「ふぇ、ほぁぁ〜」

 

 バタ。そこで俺の意識は途絶え、その前後の記憶は残っていない。

 

 次に目を覚ました時、それは翌日の朝だった。

 




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