人類最強の小娘の日常〜この世界の不条理には別世界の不条理で対抗します!〜   作:黒須 英雄

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日常研究部 2ー2

 数日前ーー

 暗い、暗い洞窟の中。闇に紛れる生物がいた。

 人型で、額には角が生えている。鬼のように力を秘めているものではなく特に使い道のないものだ。

『魔角』と言われているその角を持つ生物はどの世界にも一つしかない。

 

 魔人。

 数々の厄災をもたらし、他種族から恐れられ、虐げられてきた種族だ。

 悪と決め付けられた理由は簡単、魔人は優劣をつけるならば完全に他種族よりも『優』だからだ。

 

「そろそろ、計画を次に駒に進める。異議はないな」

 

 沈黙、誰も異議を唱えようとする者はいない。

 三本の魔角を生やした魔人は異論がないことを確認しゆっくりと話し出す。

 

「我々はやらなければならない……あの方の為に。たとえこの命を犠牲にしようとも、成すべきことをなせ!」

「「「はっ!」」」

 

 三本の魔角を生やした魔人に跪き、こうべを垂れる複数の魔人。

 彼らは等しく、同じ旗を背負っている。

 

「手始めに例の人間を使い冒険者を一人殺せ。それを合図に……計画の実行を始めるとしよう」

 

 闇に紛れて鼠達は動き出す。

 一つの旗、……あの方の名のもとに。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「殺した人間、全盛期はなかなかの手練だったようで、その関係者と思われる集団が嗅ぎ回っております」

 

 暗闇に潜む三本の魔角を生やした魔人の元に報告が入る。

 

「あれはこの国の王族の側近だと聞いた。邪魔ならば容赦はするな」

 

 何者だろうが計画の障害となるものは全て切り捨てる。……それが仲間だろうが関係ない。

 

「それと今夜招集をかけてくれ。その時までに、そうだな……嗅ぎ回っている奴らの中から一人無力化して連れてこい」

 

 この国を落とす為の最新の情報が欲しい。

 それが揃えば、大詰めだ。

 

「了解しました。別働隊を動かしてもよろしいでしょうか?」

「ああ、構わない。時間は今夜八時だ」

「了解しました」

 

 伝達役の魔人が去り、ポツンと一人残る。

 伝達用の魔具にはまだ連絡は入っていない。他の所はどうなっているのだろうか。

 

 ここは大した戦力はなさそうだが、第一学園付近には冒険者ギルドの本部があると聞いた。

 

 ……でもこれがある限り負けることはないか。

 

 ひとつの古びた本を胸のポケットから取り出す。

 

 ただの教本の複製品。

 表紙には我らが背負う旗が描かれ、あの方の名前が刻まれている。

 

 ーーニュクス・エピメテウスーー

 我らの王の名をなぞり魔力を注入する。

 魔人特有の魔力だ。その魔力に応じてこの本は姿を変え、原典の力を再現する。

 

 もちろん完全なる再現とまではいかない。何分の一、何百分の一しか再現出来ていないのかもしれない。

 さらにここに刻まれている『神代の魔法(ロストマジック)』を使用するには長ったらしい詠唱をしなければならない。

 これは他の『神代の魔法(ロストマジック)』にも共通のデメリットだ。

 

 

 それでも現存する『神代の魔法(ロストマジック)』の中でも最強クラスの魔法に凡庸性がもたらされたなどと世界に知れ渡ったならば……全面戦争が起きかねない。

 

「俺も出るか……」

 

 集合をかけた時間まではあと二時間ほど猶予がある。

 そろそろ一度街に降りておかなければ。

 地形を頭の中に把握していても、実際には誤差があるかもしれない。

 それに、地図には記されていない、実際に見ないとわからないものもあるかも知れないしな。

 

 で、街に来たのだが予想以上に人が多いな。

 このくらいならば障害どころかメリットにしかならないが、これ以上増えてもらっては困る。

 

 ん? 魔角はもちろん隠しているぞ。

【変化魔法】を使っている以上別人にしか見えないはずだ。

【変化魔法】は魔人特有の魔力でしか発動できない。そのため、通常、人が変化しているなどとは考えていない。

 

 つまり、混乱をもたらすには一番いい魔法だ。

 といっても、油断出来るほどではない。

 

 昨日の魔力災害級の魔力反応……悔しいがあの方の魔力と同等と見ていいだろう。

 

 その後他の魔力反応の中に紛れたことから、考えたくはないが……魔力量をコントロールし、この国に化け物が潜んでいる可能性が高い。

 

「そこの御仁、止まれ」

 

 なんだ?学生か? 裏道に繋がるであろう道からこちらを見つめている。

 

「付いてきてもらえるか? 少し聞きたいことがある」

「俺のことだよな」

「そうだ」

 

 なんで帯刀しているんだ? 裏道への女子学生からの誘い、売春などという雰囲気では無いな。

 

「いいだろう」

 

 学生が何人いた所で負ける気はしない。

 制服を見るに第三学園だな。

 内情を知るためにも……生け捕りにしておくか。

 

 これから戦闘になる。経験がそう訴えかけてきている。

 

 それを無視し、その女子生徒を追い裏道に入った。

 裏道を抜けると貧民街の一角に抜け出た。

 

 そこは人気の無い広場だった。

 空き地と変わらない為、戦闘を行うのに充分な広さは確保できている。

 

 なぜだ? こんなにも戦闘の気配がするのにも関わらず伏兵の気配はない。

 

「安心して、ここには貴方と私しかいない」

「確かに伏兵は見当たらないが……まさか、一人で戦うつもりなのか?」

 

 楽に越したことはないのだが、本能はこの異常なまでの平穏さを不気味さとして感じ取っている。

 

「貴方は吸血鬼でも、忌み子でもない……魔人。間違っていたならごめん」

「いや、どうやって見破ったのか知らないが大したもんだ。……それで?」

 

 正体をもはや隠す必要などない。

 戦闘、生け捕り、終了、それで終わりだ。

 

「良かった、ーー討伐する!」

「生意気な!」

 

 ーー始まった。

 

 互いに地面を蹴り距離を詰める。距離は十五メートルほど、衝突までは一瞬だ。

 相手の得物は一メートル以上の刀。大して俺は素手。

 よって、刀を抜かれる前に懐に潜り込む!

 

 ザシュッ!

 

「っ!? 速いな!」

 

 一太刀、皮膚に浅い傷がついたが、想定内、それほど驚くほどではない。

 腕に自信があるような口振りだったので予想はできた。

 

 次だ!

 

【真空魔法】の魔法陣を展開、真空刃の発射と同時に突撃した。

 真空刃の数は五本、凄腕の剣士ならば防ぎ切るだろうが、学生では無理だろう。

 仮によけられたとしても俺の攻撃を防げはしない!

 

「……舐めすぎ」

 

 フッ。

 真空刃の射線から少女の姿が消える。

 左かっ!? 右かっ!?

 

「残念、ド真ん中」

 

 目の前には居合斬りの構えで今にも抜刀しそうな少女の姿があった。

 

 まずいっ!

 風の壁を作りつつ、思いっきり後ろに飛ぶ。出来るだけ軽減するためだ。今から防御では間に合わない。

 

「ハァハァ、舐めすぎなのはお前の方だ! ……何者だ?」

 

 傷は深くはない。浅くもないが、生きている時点でこっちの勝ちだ。

 悪いが……使わせてもらうぞ!

 

「ただの学生、そっちこそ何者?」

 

 チッ! 【変化魔法】に回す魔力を遮断!

 

「答える義理はないなーーA forbidden box, a box of 」

 

 教本に魔力が注ぎ込まれていく、内容は姿を変え、一つの魔法陣を形成してゆく。

 

 しかし、もちろん相手がそれを待ってくれる訳もない。

 

 砂埃を立て離脱、逃げの一手だ。

 

「troubles, times come true, now bringing disaster into here!悪いがここまでだ! 発動せよ!!」

 

 超高速でひとつの光の玉が打ち出される。

 教本を媒体にし魔導書が出来上がり、魔導書の魔法を自身の体を発射台代わりにして打ち出した。

 

 俺達の切り札、吸血鬼殺しの『神代の魔法(ロストマジック)』だ。

 悪いが対抗策はない。

 

「くそっ!」

 

 少女も素早く避けるが、それは追尾機能つきだ。

 刀で斬るがすぐに再生し少女の胸を穿った。

 

 必中の吸血鬼を殺す為だけの魔法……この国を落とすだけではない、吸血鬼を絶滅させるのに充分だ。

 

 バタン。

 力なく地面に倒れた少女。

 心臓部に当たった時点で即死は確てーーーー

 

「なぜ、なぜ生きている!?」

 

 力なく倒れた直後、彼女は立ち上がった。

 

「まさかこの力を使う羽目になるとは思ってもいなかった……終わらせる!」

 

 

 ーーーー獰猛な赤眼の少女は力の限りで抜刀した。

 

 第二ラウンド、本気の戦いの幕が開けた。




「A forbidden box, a box of troubles, times come true, now bringing disaster into here!」
(禁断の箱、厄災の箱、時は来たれり、今ここに災厄をもたらさん!)

読んでくださってありがとうございます!!
途中の詠唱の日本語訳は上に載せた通りでございます。
感想等宜しければお願いします!
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