人類最強の小娘の日常〜この世界の不条理には別世界の不条理で対抗します!〜 作:黒須 英雄
バキッ! 剣が砕け散った。
しかし、油断は禁物だ。武器がない体術だけでも相当なものだと予測はつく。
「くっ!
ん? お姉ぇ様達に?
どちらにしろ面倒なことになる前に……。
「大人しくお縄につけ! (【束縛魔法】と【拘束魔法】に【威力累乗魔法】を付与!)」
二人の体には光の輪がはめられ、白い包帯が体を拘束した。
包帯はクルクルと体を余すことなく隠していき……二つのミイラが出来上がった。
ウ〜ウ〜とうめき声が聞こえるが気にしていられるほど俺に猶予は……残されていない。
『アルフォードくーんー助けてっ!!』
【念話魔法】の有効範囲に入ったのかフェーカスからのSOS信号が入る。
『なんだ? そこまで魔人達が強かったのか?』
『違うよ! 僕が着いた時には魔人達は死体になってて、あの二人がいーーーー』
ノイズのような音がフェーカスの声を遮る。
この現象は知っているーーーー妨害だ。
『あーあー、割込めた! えっとー、こんにちは!』
『ああ、状況を教えろ。こっちには二人、人質がいるぞ。嘘はつくな』
『こっちだってオオカミさんがいるもん!』
アイツ……まぁ、ペットに強さは求めちゃいないが。
それにしても面倒なことになった。これでは人質が使えない。
「うっ!?(やばい、この感覚はそろそろ……)」
感覚は体の芯を絞られている感覚だろうか。
量的にあと数分も持つかどうか……。間に合わなければ最悪、死ぬ。
『こちらに敵意はない。お前らの王の手助けに来た』
『手助け? 頼んでないけど?』
『王を出してくれ、お前達も早く人質を交換したいだろ?』
ここまで来れば分かる。俺の姿を固定した張本人の魔力が至る所から感じられる。
例えば、今片手に担いでいるミイラとか。
『む〜、じゃあお城に来て。先に行って待ってるから!』
視線を正面に戻す。そこには巨大な壁がそびえ立っていた。
どうやらこの森は最低でも二重の囲いがあるようだ。一つ目は黒色の木々。二つ目は目の前に立ち塞がっている壁だ。
「入り口もなしか……仕方がない」
敵感知の為など、常時使用していた魔法を全て解除する。急に二人を担いでいた肩に重みを感じるようになった。
そして、その魔力を足と手の握力の強化に回す。【魔力凝縮魔法】を解除した為魔力を失う速度が上がる。
この先にもう一枚壁があった時点でーー終わりだ。
力の限り踏み込んだ。
姿が無理やり元の姿に戻ろうとしている為か、外見以外は全てシャルテアに戻っている気がする。
地面を蹴る。
地面はその反動を受けるように粉砕されクレーターが出来上がった。
風圧を顔で受けきり、余裕で壁を飛び越えた。
そこで魔力が完全に切れ、力が抜ける。
二人の少女にかけていた魔法も解けた。
視界にゴスロリが二着、そして城を捉えた。
そこには隣にいる二人の少女がフェーカスの上に乗っている姿があった。
そこで視界は暗転し、身勝手にも、誰かが絶望的な状況をどうにかしてくれて、死なないことを願った。
その思考が死神と呼ばれていた彼とはかけ離れていることに、彼自身は気づかない。
その時、俺は夢を見た。
いや、夢というほど優しいものではなく、走馬灯と言った感じだ。
一面に広がる赤、血で埋め尽くされた戦場に終わりはない。そこに俺である者はなく無く、ただひたすらにその光景を作り出していた。
絶望はなく、幸福もない。
己を失う、いや、己を侵食されていた。しかし、そのぬるま湯に浸かるのは楽であり、このまま眠ってしまいたかった。
そう思うたび目の前の人が肉塊となる。
愛する人、愛してくれる人、尊敬してくれる人、尊敬している人、彼らはその度に立ちはだかり、手を伸ばす。
情景が変わる。
変わったのは時間、その景色は変わらない。
ただ一面の赤、別の戦場となっただけだ。さっきの時より立ちはだかる者が一人減った。
変わる、減った。変わる、また減った。
そうしてたった四人、二十人以上いたがそれも過去……。
高らかに笑い声が響く。それは勝ち誇り、欲にまみれた豚が発する音と良く似ていた。
既に目の前に立ちはだかる者はいない。それなのに俺はふと知れず雫で頬を濡らした。
自分の手を初めてみた。血塗れの汚い手。
その時、この声の主を初めて知った。
思い出される瞬間。
目の前の女の子が体から血を吹き出しながら……視界を赤に染めながら何かを呟き倒れるその瞬間。
俺はーーーー死んだ、そう確信した。
視界は暗転することもなく、ただひたすらに霞んでゆき、やがて無となった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
体がだるい。まぶたが重くて上がらない。唇がと唇が真空となったように離れない。
現状を言おう。
俺は生きていたみたいだ。
数分後、皮膚がなにかに触れられた感覚を感じた。
それと同時に体に力が巡る。徐々に解凍されていくように体の隅々まで行き渡った。
目を開けると、白い光でしばらく視界を埋め尽くされ、やがてぼんやりと見えてきた。
そして、初めに目に映ったのは、いつかの怪しいエリスフィア先輩だった。
「先輩……無事だったんですね」
「起きた! シャーちゃんが起きた! 無事かどうかって? 見ての通り無事さ」
確かに外傷はないようだ。布団の上に寝かされているのは前提として、予想外にだだっ広い部屋の中央にいるようだ。
「うっ、いたた。ここは」
「無理しちゃダメだよ! ほら、横になって! ここは魔王城の空き部屋、僕達は名目上捕虜ってことかな?」
起き上がるだけでも体の節々が悲鳴をあげた。
それにしても捕虜って言ったか!? バッチリ失敗してんじゃねぇか!
「……私は何日ほど?」
「丸々二週間と二日だよ。もう七月だね」
そんなにっ!? そこまでの……重症だったな。
そこを反省していても始まらない。魔王城に着いたならばさっさと魔人達のことを。
バタンっ!と扉が開け放たれた音がした。カルナムート先輩かと思ったが、足音が違う気がする。
ティナ先輩当たりかなと思っていた俺は次の瞬間、度肝を抜かれた。
怪奇現象、そう思っても仕方がなかったと思う。
「「「「大丈夫?(なの)(かしら)(かな〜)」」」」
少女が四人に分身していた。
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