人類最強の小娘の日常〜この世界の不条理には別世界の不条理で対抗します!〜   作:黒須 英雄

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魔王城の双子姫 6ー1

「完璧にやられた」

 

 この駄犬を連れてきた意味はありそうで良かった。

 

「っ、邪魔」

 

 魔人達の力は私にも、駄犬にも及ばないけどっ、数が多い。この数の前には眷属たちも押し切られている可能性が高いか。

 となると、魔王城も落ちている可能性が大きくなる。

 

 あの城は私達の妖力を支柱とした防衛能力が備わっている。裏を返せば、私達の妖力が切れた時点で、ただの建造物へと成り下がる。

 

 私以外の三人は何処に行ったのかは分からないけど、妖力の供給が途切れている。私だけの妖力でこの数を押しとどめているわけだけど……そろそろ限界が近い。

 

 魔王様の能力の前には数の暴力など無にも等しいが、単騎としての力が強い者にはそこまで強くはない。

 真相としての覚醒をすれば話は別になってくるが。

 

 真相としての覚醒、それは神になることだ。

 神となれば自身の力の、真相として根源を具現化する、【顕現】が使えるようになるだろう。

 

 それは誰も模造品を作ることができない、世界で唯一の魔法となる。

 

 しかし、魔王様にはまだ無理だ。彼女を突き動かすのは意思ではなく力。

 自身の力を振るうための強い意思がなければ覚醒はできない。

 

 そんな可能性の少ない希望に縋るよりも、現状の打開策を模索するべきか。

 いや、撤退策を模索するべきだ。

 

「駄犬!」

「ワンっ! って、何やらせんだ!」

「口の中に武器とかないの? あればかして」

「ほらよっ!」

 

 狼姿のフェーカスは思っていたよりも頼りになった。以外にも強い。

 

「ありがと、貴方強いわね」

「今は魔王城から魂が溢れかえってるから強化できるのさ!」

 

 自慢げに言っているが、ようはドーピングか。

 いつまでもこのままでは前に進めない。

 

「ちょっと力を借りる」

 

 ーーーーええ、好きなだけ使ってちょうだい! この体はイア、貴方なのだから。

 

 魔子回路が開放される。体に力強く、優しい魔力が流れ始める。

 

「我ここに還らん、我ここに至らん。万象は地へと還り、森羅は我とならん。我はただの地の守り手、その力は森羅万象、神をも打ち崩す力となる」

「ちょっ! 待って!」

 

 目の前にいた狼が急いで避難した。そこまで馬鹿ではなかったか。

 

「エーデル・フレミア!!」

 

 地面に通っていた龍脈の魔力が足から流れ込み、手の先に凝縮されていく。

 目に見えるほどの風が集まり、手毬程の大きさに凝縮された。

 

 私は拳を引き、その球体を殴りつけた。

 拳に押し出された球体はまっすぐ、速度を出しながら魔人達に飛び込んでいった。

 魔人達がその球体を脅威と判断したのか、軌道上に立ち塞がるが、肉を抉りながらその球体は直進していく。

 

 二百メートル程進んだであろうところで、魔法を解放した。

 

 同時にその球体は膨張し、凝縮され刃物のように研ぎ澄まされた風が放出された。

 

 ドッガァァン!!!!

 半径百メートル程の木々が吹き飛ばされ、その範囲内にいた魔人達は一人残らず、文字通り跡形もなく吹き飛んだ。

 

「げっ、これは多すぎ!」

 

 魂が見えているであろう駄犬はその多さに驚いているようだが、そんなことは無い。

 雑兵をいくら倒しても状況が好転しないを理解していないのは、この駄犬くらいのものだろう。

 

「急いで走る」

「分かってるよ!」

 

 心無しか駄犬の体が大きくなっている気がしないでもない。魔法陣から生み出された生物にも魂はあるのか、と妙に変なことが気になりもした。

 

「山岳地帯」

「口に入る?」

「嫌。自分の足の方が早い」

 

 この力を行使している時点で駄犬よりも遥かに速い速度を出せる。

 非常時は移動のみに力を使っていたが今は体全体だ。いつもよりも速くなっている自信がある。

 

「魔王様!」

 

 主人の姿を瞳が捉えた。漆黒の、この世を飲み込まんとする深い黒髪は乱れ、顔には切り傷がいくつもついている。

 

「へぇ、こんな子がさっきの攻撃を?」

 

 三人が魔王様を囲っている。前の男は居ないみたいだが、実力的には三人共が引けを取らないレベルだ。

 真祖の卵、魔王様と同格だろう。

 

「イア、逃げろ」

「ダメです。貴方はここで死んでいい人ではない」

 

 私は所詮作り物、魔王様あっての存在だ。双子が二組同時に作られた。魔王様の最高傑作の一つ、それが私だ。

 確か、口数が少ないが行動的な姉性質を持つ次女っていう設定だったかな?

 姉も妹もないというのに妹達はその設定に振り回されてばかりだった。

 このことを知っているのは私だけだろう。

 

 私達眷属が死ぬと力は魔王様の元へと戻る。私達がそれを死ぬ時に望めばだが。

 しかし、私達の力が魔王様に吸収されれば……もしかしたら魔王様だけでも逃げられるかもしれない。

 

 それくらいしか考えられないほどの戦力差があった。

 

 

 気温は高いにも関わらず冷たい風が顔を冷やしていく。打開策はない……私には悪いが死んでしまうだろう。

 

 ーーーー私のことは気にしないで。これは貴方の人生、私はただの付属品よ。

 

 そんなことない。たまたま被さってしまっただけで、私が来なければ、この体は貴方が使うはずだった。

 

 ーーーーそうね。あなたが来なければこの体は私のモノだった。でも、この体は貴方のために作られた器、私は紛れ込んでしまっただけの、不要物。貴方に開示してこなかった記憶を、力を解放するわ。

 

 

 その瞬間元々知っていたかのように情報を受け入れた。私自身は知らなかったとしても、その魂に刻み込まれた想いは消えなかった。そういうことなのだろう。

 

 ーーーーお姉さん眠たくなっちゃった。少しの間眠るわ。

 

 まるで、死ぬ様な言葉を吐かないで。

 

 ーーーー死ぬわけないじゃない。貴方の中で少し眠るだけよ。

 

 そう、おやすみなさい。

 

 ーーーーええ、そうさせてもらうわ……。

 

 彼女の意識が頭の中から消える。この間、約五秒。

 その短い間に私は大きな力を手に入れた。

 それでもこの三人を倒すことは叶わないのが悔しいが、逃げるだけならどうにかなりそうだ。

 

「逃げろイア! 奴が来た!」

 

 魔王様の声にはっ、として後ろを振り向く。

 そこには黒い剣を手に持ったあの男がいた。記憶にも現れたパンドラの箱から生み出された呪いそのもの、ニュクスだ。

 

「死ね」

 

 思い出した力を行使する間もなく殺されるだろう。

 母、パンドラを殺した世界への恨み。そして、母の復活だけを生き甲斐としてしか生きられない、悲しい化物。

 

 救われるべきだが、その進む先の未来には破滅しか残っていない。

 もう一人の私はそう言っていた。

 

 ああ、ここで終わってしまうのか。作られ、作られた道筋を通ってしか生きてこなかったこの人生。

 願うならば、多くの心に触れてみたかった。

 ーーーーまだ、死にたくなかったな。

 

「ーーさせないよ!!」

 

 希望の光が、天から差し込んだ。

 その太刀筋は、死の太刀筋の方向を変え、私を救った。

 

 そんな感傷に浸る間もなく剣戟が始まった。

 黒と鋼の剣は互いに傷を入れながら何度も衝突する。

 腐敗と爆発が衝突し、私は吹き飛ばされた。

 

 それを合図に紛れもない総力戦が始まった。




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