人類最強の小娘の日常〜この世界の不条理には別世界の不条理で対抗します!〜   作:黒須 英雄

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魔王城の双子姫 6ー2

 ギリギリ間に合った! 遅かったが最後の一線をまもりきることが出来た。

 それはともかく、俺が参戦してもこの戦力差は覆せないだろう。

 

「下がれ、イア! 魔王! 今すぐ撤退するぞ!」

「させるわけがないだろ!」

「っ、!?」

 

 っ、なんなんだその剣は! 【爆裂魔法】の多重展開の衝撃に耐えるだけでなく、押し返してきているじゃないか!

 くそっ、このままでは俺の元の剣が持たない!

 

 しかし【爆裂魔法】が無効化されている気配はない。さらに黒剣の表面は衝突する毎に吹き飛び、再生している。

 それに比べて、俺の方の剣が劣化していっているようだな。

 

 恐らく……死の風で作り出した剣だな。

 魔法剣と呼ばれるものがこの世には存在する。

 放出された現象を魔力で操作し、特定の形で留まらせるというものだ。並の集中力でなせる技ではない。

 

 だが、ニュクスが持つ黒剣はそれに該当するものだろう。それも神代の魔法で構成されたものだ。

 こちらの剣が勝る道理がない。

 

 しかし、俺だって対抗策がない訳がない。知識としてあるのだから、対抗策を考えておくのは当たり前のことだろう。

 とうの昔、そういう系統の攻撃の対抗策として【氷獄魔法】を生み出したのだ。

 もちろんの如く、奴はそれを知らないみたいだがな。

 

「ネタがわれればなんてことはない!(【氷獄魔法】の魔法陣を構築、展開、発動!)」

 

 辺り一帯とまではいかないように制御しているが、半径五メートル圏内の魔力が停止する。風だろうがなんだろうが、魔力で出来ているものはすべて凍りつく、そういう魔法だ。

 

 これでニュクスの黒剣はただの強度の低い棒と変わらなくなったが、こちらの【爆裂魔法】の多重展開も停止してしまっている。

 

 この魔法の難点は最低範囲が広すぎることだ。

 大雑把な操作しかできないため、自身への付与魔法などはすべて停止してしまった。

 

 そのため、停止と同時に新しい【身体強化魔法】を自身の体に付与しなければならないという手間がはっせいしてしまうのだ。

 この人間の娘の筋力は並の人間以下しかない。そんな危険な状況をもたらすような魔法はできるだけ使いたくないのだが、状況が状況だ。

 仕方がないこともある。

 

 蛇足になるが、そんな難点をどうにかしようとした過程で過去に生み出したのが【特殊付与魔法】だ。

 これでデメリットを克服できた。

 

 そして現在、俺は魔法の展開速度だけならば、神にも負けないという自信がある。

 ましてや、神の眷属程度の存在に負けてなどいられない。

 

 俺はニュクスの持つ黒剣に向かって剣を振り下ろすそのコンマ数秒の間に【爆裂魔法】の多重展開、【威力累乗魔法】付与付きの魔法陣を構築した。

 

 俺が振り下ろした剣は、それこそ風を切るように黒剣を砕いた。太陽に照らされ黒い結晶が地面に落ちるまでの一時、奴との目が合った。

 

 ほぼ同時に魔法陣を展開する。考えていたのは相手も同じ、どのくらいの時間をかけて構築したかは知らないが、あらかじめ準備していたようだ。

 

 身体中の力の速度が上がる。それだけで体温が上昇し、血の流れが、思考が速くなった。

 後は構築された魔法陣に魔力を流し込むだけ。その動作が遅かった方が、次の攻撃で大打撃を受けるだろう。

 

「遅い!!(全魔法陣発動!)」

 

 俺が振り下ろし、そのままニュクスの心臓部に向かって剣を突き出した。その剣先に紅蓮の魔法陣が五重になって現れた。

 そして、魔力は圧倒的な熱へと変換され、破壊の極地に到達する。

 

 しかし、その光景を数十センチ先に突きつけられているニュクスはーーーー笑っていた。

 

 急激に嫌な悪寒が背筋に走る。だが奴にこの攻撃を止め、反撃するだけの時間はない。

 

 奴は剣の軌道上に、心臓を守るように左手を被せてきた。

 心に残った不安を振り払い、俺は剣先をニュクスが心臓を守ろうと防御に使った左手の平に突き刺した。

 同時に魔法が発動し、視界が無の白色に染まった。

 

 手応えはあった。それでも奴は残った魔力をその剣先の部分の防御に当てていたため、仕留めたとは言いきれない。

 確実にトドメを与えるためには追撃を緩めてはいけない!

 

 俺は再び【爆裂魔法】の魔法陣を展開し、吹っ飛んだニュクスの体を追いかけた。

 左手は既に吹き飛ばされ、おびただしい量の血を振りまきながら飛んでいく……魔王がいる方向に。

 

「ただでは……死なない!」

 

 残った右手から灰色の、この世界に来てから最大の魔法陣が現れた。

 

 魔法陣はある程度の大きさ以上になると維持が格段に難しくなり、発動前に破綻する可能性が高くなってしまう。

 そのため、魔法陣を紙に書いた上で発動させるなど、色々な工夫を施す。

 しかし、奴の魔法陣の大きさは【不老不死魔法】の魔法陣と同級の大きさだ。

 そんな魔法陣を維持するための集中力を乱せば、阻止するのは容易い。しかし、今の俺にその術は持っていない。

 あれほどの魔法陣だ、この戦いに突入する前から構築していたはずだ。阻止するためには、俺もそれなりの魔法陣を構築しなければならない。

 しかし、そんな時間は残されていない。

 

 見た感じ、恐らく攻撃系統だ。しかも、かなり範囲が広くしか指定できないタイプのものだろう。一国くらいなら余裕で吹き飛ばせるのではないだろうか。

 しかし……範囲には完全に味方であろう三人も含まれている。

 

「魔王っ! 逃げろっ!」

 

 それでもニュクスは止まる気配はない。味方諸共魔王を殺す気だ。

 

「……イアを頼んだ」

 

 最後にそう微笑んだ。優しい、子の行先を見守っているような……母親の表情だった。

 直後、魔王の瞳には強い力が宿り、最後の抵抗に意識を切り替えた。

 それでも一秒後、彼女の命はこの世にないだろう。

 イアも必死で叫びながら走り出すが、間に合う道理はない。

 

「【顕現】ゲイル・ユートピア!!」

「【顕現】死獣・ディザイア、奥義・デスゲリュル!!」

「「なっ、」」

 

 正真正銘最後の一撃。文字通り命をかけた二人の攻撃の衝突。強敵であるはずの三人は、声と共に存在を掻き消された。

 

 世界の終わりを連想させるような灰色の咆哮。その大きさは魔王が背中に背負う魔王城を覆い潰す程大きかった。

 

 刹那、灰色の閃光と華やかさな紅の壁が衝突した。

 凄まじいエネルギーの衝突。しかしその衝突がもたらした衝撃は無に等しかった。

 

 両攻撃のエネルギーが底を突いた。

 同時に一つの命の灯火が……儚く消え去った。

 

 辺りには優しさ、温もりを与え、全ての怨恨を飲み込むような紅蓮の花弁が舞い散っていた。

 あの魔王はこの土壇場、最後の最後に真祖として覚醒した。

 それはつまり、力の根源となる感情を自覚し、受け入れたことを指し示す。

 

 幻想的な、それであり哀しみを覚える光景だった。

 

 まるで死者からのエール。これからを生きていく我が子への最後の贈り物のように感じたのは気のせいではなかっただろう。

 

 作り物の少女の頬には二筋の光が煌めいていた。

 

 その瞳には、紅蓮に彩られた、親が命懸けで遺した故郷が映っていた。

 唯一の思い出としての光景として忘れることは無い、彼女はそう心に誓った。

 

 




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