人類最強の小娘の日常〜この世界の不条理には別世界の不条理で対抗します!〜   作:黒須 英雄

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旅路の冒険 2ー2

「……全ては決まったことなの?……死ぬのも全て決められているの!?」

「い、イア?」

「だって! 今まで過ごしてきた時間も、これから過ごす時間も全て決められていたなんて……私は耐えられない!」

「そうだよ。耐えられない。だからーー変遷が起こったんだよ」

「っ、どういうこと?」

 

 彼女は変遷を知っている。何が起こったのか、何のために起こったのかを。

 その表情は明るくもなく暗くもない。まるでその当時の光景を頭に浮かべるように、遠い目をしていた。

 

「まっ! ともかく君達が因果律に操られていることは無いよ! 変遷は因果律を破綻させる為の現象だった、全て過去の出来事さ」

「じゃあ【因果律操作魔法】は……」

「人間には死で終わりを迎えるという因果律が存在した。これは人間という種族が生まれ出されたその瞬間から刻み込まれていたもの。その因果律を消し去ったのがこの魔法の正体さ」

 

 なんだ、因果律で人生が決められている訳じゃないのか。まぁ、俺の【輪廻転生魔法】は因果律を完全に覆していそうだけどな。

 

「本当に決められているわけじゃ、因果律なんてないのね?」

「無いよ! 本当に!」

 

 心底安心したような顔を見せたイアの瞳は潤んでいたが、そこに言及する無粋なやつはいなかった。

 

「…………ごめん」

 

 俺はとても小さな声でラプラスの口からそう呟かれたのを聞いた。

 そこでようやく本題を切り出した。

 

「ラプラスは何のために人間の国に行きたいの?」

「……かつての親友に会いたいだけさ。大丈夫、足でまといにはならないよー!」

「なら、これからよろしく」

「うん! よろしくね!」

 

 こうしてあっさりと戦力を増強した俺達は迷宮の外に出た。

 日差しが顔を照りつけてくるようなことはなく、日が沈んでいた。時刻は午後七時半、辺りは真っ暗だ。

 

「んー! 久しぶりの地上だー!」

「そう言えば研究はもう良かったの?」

「まぁね、ほとんど完成してたし。ほらっ! 私の所に来るまでにやたら強い魔物と会ったでしょ?」

 

 全員が全員【結界魔法】を身に纏うという離れ業を成していた魔物達だ。あんなものが溢れれば国に対する兵力として脅威になり兼ねない。

 

「あったよ。はた迷惑だったね」

「あれが私の研究の成果みたいなものかなー。【結界魔法】を埋め込むことで、供給源からの魔力が切れるまで結界を身に纏える。これは無属性魔法が使えなくてもいける所がすごいんだよー!」

 

 なるへそ。供給源を別にすることで組み込まれた魔法陣を何であろうと発動することが出来るのか。

 自分の魔力とは異質の魔力ならば拒絶反応が出てしまうだろう。

 他にも、魔法陣を体に刻み込むことは容易ではない。リスクと痛みを背負わなければいけないだろう。

 それを克服してこその研究か。

 

「それに研究室ごと持ち歩いてるしね〜。いつでもどこでも研究出来るからそこまであそこに未練はないよ」

「じゃあなんであんなところにいたのよ」

「神代の魔力が溢れかえっていたし、魔力が不自然に集まっていたから興味が湧いちゃったんだよ〜。まさか一人の女の子が血だらけで立ってるとは思わなかったー…………うっぷ」

 

 そんなに悲惨な状況だったのか? あくまでも人体改造をしている研究者だろうに。

 

「吐かないでよ」

「うぅ、もう大丈夫だよ。彼女にしたら目覚めたと同時に魔人達が襲ってきたんだからしょうがないよね」

「ん? なんで魔人達が襲ってきたの?」

「分からないなー? そんな感じの命令でもあったんじゃないの?」

 

 王だったニュクスはパンドラの復活を目的として動いていた。王の命令ではないとしたら……王妃の命令? リーダーは二人いた? ……それは考えすぎか。

 

「魔人達は何体くらい死んでたんだ?」

「さぁ? 水溜りが何杯のバケツで作られたかシャルテアちゃんは分かる?」

「ごめん。聞いたのが間違いだったよ」

 

 その時の光景を頭に思い浮かべて、謝った。

 そんな状況は何度も思い出したくないだろう。

 

「どのルートで人間の国に行くの? それとフェーカスとタイトと合流しなくてもいいの?」

「あれっ? 二人のことなんで知ってるの?」

「ふふっふー! 私の力を言わなければならない時が来てしまったようだなー!」

 

 やっぱなんかあるのか。てか、そこまで話したそうにされたら聞きたくなくなるな。

 

「いや、言わなくてもいいよ。今まで秘密にしてたんだしね」

「別に言わなくていい。それよりも二人との合流が先」

「あれれ? ちょっと〜聞いて、聞いてくださいー!」

 

 こんな感じでイアも聞きたくなくなっていたようだ。やがて……一人でに話し出した。

 

「つまり、直接見た人の過去が見られるってことでいいのね?」

「うん! 前世とかそんなものは見れないからシャルテアちゃんのご期待には答えられないと思うけどね〜」

 

 過去が分かるかもっ! と一瞬期待したのだが、そこまでの性能はないのだろう。

 

 魔力探知でフェーカス達の居場所を調べ、合流した。

 近くに川が流れていたらしく、そこで休んでいたそうだ。合流した時は川辺で寝ていた。

 何事も無かったようで何よりだ。

 

 翌朝

 

「ぷっ、あはははは! 人間の国に歩いて行くって? それが一番現実的じゃないよー?」

「もう分かったってば、ここまで来れば誰でも分かるわよ」

 

 朝から、俺達はこれからの方針を話し合っていた。その上で問題となったのが移動面だった。

 俺達は近づけるだけ近づいて、船か何かしらの方法で島国に渡る予定だったのだが、それは不可能らしい。

 

 野生の幻獣種が溢れかえる海を船で渡れるのか? と聞かれるともう黙り込むしかなかった。

 

「ふふっふー! ここで私、ラプラスから提案があるのであるー!」

「何?」

「人間の国から吸血鬼の国に派遣される予定の飛行船があるのは知っているかい?」

「うん。知り合いもそれで帰るって言ってたよ」

 

 睦月先輩とカラミア先輩もそれで帰還する予定のはずだ。

 

「そう、その飛行船に私達も乗り込めばいいのさ!」

 

 自信満々で膨らみの乏しい胸を張るラプラス。

 確かに、そっちの方が現実的な手段だと思う。俺もそれに異議を唱えるつもりは無いが。

 

「そもそも飛行船は吸血鬼の国に降りられるの? 吸血鬼の国からしたら格好の餌食だよ?」

「それについては大丈夫みたいだね。人間の国から乗ってくる者も、迎えに来てもらった吸血鬼の国にいる者も只者ではないらしいからねー」

「そうなの? 私が知っている二人は特に強くなかったと思うけど……」

 

 先輩達は、自分自身の身は守れるけど戦力にはならないと言っていた。

 あの王や、吸血鬼達を相手に勝機があるとは思えない。

 

「そんなはずはないと思うよー! 人間の国を支配する五大財閥の一角、睦月財閥のお嬢様とその従者がいるはずだよ?」

「別に偉いから強いわけじゃないんじゃない?」

 

 上の位にいるからと言って、武が強いと決まっている訳では無い。この世の強さは武力以外にも権力という大きな、それこそ最も大きな力がある。

 

 それにしても、まさかカラミア先輩が従者で、睦月先輩がお嬢様とは。普段の態度から見るに逆にしか見えなかった。

 

「昨日も言ったけど、人間の国は普通じゃない。財閥なんてその中でも頭一つ飛び抜けて狂ってる。彼らの出産はただの兵器を生み出す過程にすぎないのよ……」

 

 ラプラスの言葉を聞いて、どこまで酷い国なんだ? と思いつつも吸血鬼の国を思い出した。

 うちの国も変わらないか、それ以上なのだと。

 

「どちらにしろタイミングは良かったよ! 飛行船が吸血鬼の国を出発するのが明日の朝、今からなら充分間に合うからねー!」

 

 こうして、俺達は飛行船への侵入計画を細かく話し合った。

 そうして、結局俺とラプラスがフェーカスに【飛翔魔法】と【隠密魔法】を付与し、乗り込むという強行手段が作戦となった。

 

 翌朝、俺達は飛行船が通るはずのルートの真下で待機していた。

 その時はまだ、俺達は飛行船の異変に気づくことは出来ていなかった。

 

 太陽の光に照らされ、黒いシルエットを浮かび出した飛行船は、目視できる距離まで近づいていた。

 




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