人類最強の小娘の日常〜この世界の不条理には別世界の不条理で対抗します!〜 作:黒須 英雄
ザワつく会場。舐め回し値踏みするような視線。何度も体験した貴族からの目だ。
興味本位で見ている者もいるが、敵意を隠さない視線も多い。生徒、教師を含めてである。
「(知り合いもいないしな〜。隅っこの方にでもいよう)」
この雰囲気の中、友達になろうと声をかける勇気は残念ながら持ち合わせていない。静かーに、目立たないようにしておこう。
席順は基本自由だが、一階の前が新入生、その後ろに二年生、二階には三年生、といった大まかな区切りはあるようだ。
貴族達の挨拶回りが終わると各自席に着き始める。
「一年シャルテア! 前に来い!」
わぁーお、全校生徒の視線が痛い今この時に、前方舞台近くの先生からの呼び出しだ。
興味をなくしていた視線は再度好奇心と嫌悪感を込め俺に移る。
「何でしょうか?」
小走りで駆け抜ける。既にほとんどの生徒が着席しているため注目を集めるのは必然のことだった。
先生の様子を見るに不服そうではあるが怒っているわけではなさそうだ。
「特待生は各自スピーチがあるため座席指定がある。お前の席はそこだ」
最前列から二列後ろのド真ん中の席に着き始める一つだけ空席があった。
「分かりました。すいません、前通ります」
前の二列は空席になっている。しかし、席と席とのスペースは短く、自分の席に行くには足を引っ込めてもらわなければならない。
貴族様にとって、貧民相手に道を譲ることは屈辱的なことだろう。
「「チッ!」」
あからさまな舌打ちは聞こえっぱなしだ。会場中から聞こえてくる。不快なことこの上ないがこのくらいのことは覚悟の上だ。
「では今から新入生歓迎オリエンテーションを始める。まずは校長先生からの話だ、静かに聞きなさい」
壇上に上がった校長が一礼。立ち上がった生徒達も一礼。ここら辺のマナーは王城で嫌という程学ばされた。
「今年もこの季節がやってきた。今この時に大きな成長と変化を遂げてほしい。
……貧民や種族間のいざこざが無くなることは期待していない。しかし、その人のレッテルだけで実力を判断している内はいつまでも成長出来ないということを心に留めておいてくれ。以上だ」
一礼。
残酷な人だ。つまり、このスピーチにはふたつのメッセージがあった。
一つ、貴族は見た目やレッテルだけで実力を判断するな。お前達の方が劣っているということを認め、その上で覆せ。
一つ、貧民、他種族という位置付けを理由にするな。そのアドバンテージを実力で補え。
この二つは全校生徒に発破をかけた。その後の当たりが強くなることも予想済みだろう。
実力を満たさぬ者はこの学園を早々に去れ。これしきのことに耐えられないならば必要ない。
俺には校長の意図がこのように感じた。
その後、各自スピーチと言われたが、決められた文章を読み上げるだけだった。
そして、部活紹介が始まった。
「剣術部です! 日々鍛錬を積み重ね、騎士にも劣らぬ剣術を磨き上げ、対抗戦で奴らをぶっ倒したい人は大歓迎だ!」
こんな感じで、魔法研究部、剣術部、フィッチング・ボール部、魔法生物部、三種競技部などがあった。
そして最後は日常研究部、最も謎な部。既に大半の生徒が興味をなくしていた。
「は〜い! 日常研究部です! 活動内容は秘密デスケド、今日はその一部を公開したいと思いまーす!」
ザワザワっと会場に話し声が充満する。話し手のカルナムート先輩は全く気にせず教壇を持ち上げ端に置いた。
「では、今から始めまーす! これはこの部活のある部員が開発した転送機です。これにパンを入れます!」
スクロールの上にパンを置くとパンは跡形もなく消えた。
スクロールには転送魔法陣が刻まれていたのだろう。しかし、それを発動するための魔力は決して少なくはないはずだ。
「この魔法陣は副産物に過ぎません。私たちの活動の家庭に必要だったために開発したものです」
ザワつく、所々で結局どんな活動をしているんだという疑問の声が主にザワついている原因だ。
これには俺も同意する。この人達は何をしに前に出ているのか分からない。
「結局何が言いたいのかと言うとこういうことです」
スクロールからパンが現れる。そしてカルナムート先輩はそのパンを真上に放り投げた。
ブォウ! という音と共に舞台袖から火が吹き出された。その火はパンを捉え消し炭にした。
「私達の活動は結果が残らない。けれど、達成感と充実感だけは保証できます! 吸血鬼族以外限定ですが良かったら入部してみてください!」
ザワつきは最高潮に達する。三年生は慣れているのか大して驚いていないが二年生には少々、一年生には大きな印象を与えることが出来ただろう。
結局吸血鬼は入部できないということしか分からなかったが、興味を一番集めたのはこの部活かもしれない。
その日、俺は先輩達と出会うことなく帰宅した。クラス分けなどは明日発表されるらしい。
興味を持った部活は日常研究部の他には、と言うよりも日常研究部のインパクトが強すぎてほかの部活への興味をすべて持っていかれてしまった。
そんなことを思いながら貧民街に足を踏み入れる。
貧相な街だからといって秩序がなく荒れ果てているという訳では無い。
娼館や薬物が多いのは仕方が無いことかもしれない。しかし、その中でも秩序は守られていた。
その奇妙な平和を保った街のある一角の家の戸を俺は叩いた。
「ただいまキール」
死んだように椅子に座っていたキールが飛び込んできた。
「ど、どうだったんですか!? 合格しましたよね!?」
「合格したよ」
うう、と涙を流し崩れ落ちる男の頭を撫で、俺は暖かいマイホームの中に入った。
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