人類最強の小娘の日常〜この世界の不条理には別世界の不条理で対抗します!〜   作:黒須 英雄

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貧民街の異端児 2ー4

 石造りの空き家の一室。そこが今の俺の帰るべきところだ。

 

「いつまでやってるつもり?」

「で、ですが〜。心配で、心配でもう死にそうでした。本当に良かったですシャルテア様」

 

「あ、ありがとう。でも、そろそろシャルテア様はやめてくれ」

「考えておきます。それより夕飯にしましょう」

 

 円形の机がひとつ。数少ない財産の一つと言えるだろう。

 その上には今日の夕飯が用意されていた。

 ホクホクと言わんばかりの白米と、その身は白くなるまで火を通され皮膚はこんがりと焼かれた魚。どれも美味しいに違いないだろう。

 

「今日の夕飯は焼き魚と白米です! 合格祝いなので少し奮発しました! しっかり食べてくださいね」

「ありがとう。いただきます」

 

 合掌し、感謝の気持ちを一言告げる。これから自身の糧となってくれる命に、その命を育ててくれた命に、そしてそれらを最善の形にしてくれた料理人に。

 俺は箸を魚の身と身のあいだに差し込んだ。

 

「ご馳走様でした」

 

 流石は元王城の執事、それも側近に限りなく近い方だ。料理などお手の物だろう。

 味はもちろんの事ながら健康にも気を使っての料理だということが分かった。

 

「お気に召されたようで何よりです。これからは私もあの話を受けて働こうと考えています」

「いいの? それにパーティとかどうするの?」

 

 あの話、それは一種の呪いとなりつつある。

 あの話とは度々やってくる冒険者にならないかといった勧誘だ。断り続けようが王室執事の経歴を持つ限り避けられはしない。

 王室執事は武術にも優れており、多くの元執事達が冒険者となってその命を散らしてきた。

 

 その勧誘を命をかけてまで受けたくないといった理由で断ってきていたのだがキールは受ける気になったようだ。

 

「そもそもなんで急に?」

「急にではないのですが、シャルテア様は前に進んでいる。シャルテア様だけでなくすべての時間は今も進んでいます」

 

 顔を伏せた後ニコリと笑って。

 

「私も前に進もうと思います。生憎職に就くなら戦闘職が良いと前々から思っておりましたので」

「ごめん、ありがとう」

「シャルテア様が、()()()が気になさることではありません」

 

 ああ、優しいな。この人は本当に優しい家族の温もりを与えてくれる。

 

「なら私もがんばる。これからもよろしくね!」

「ええ、もちろんですとも! あの方々がそばに付けないならば、僭越ながら私がその大役を務めさせていただきましょう」

 

 暖かい温もりで、日中のストレスが溶けていく。

 不快な気持ちを残さず俺は明日に備えて就寝した。

 

 

 

 暖かい日差しが差し込む……なんてことは無い。

 窓からの景色は石造りの壁が見えるだけだ。

 

 あれから一週間が経った。

 クラス分けは驚くこともなかれ、他のナンバー持ちとはばらばらだった。その為、クラスで純粋な力が一番強いのは貧民。

 その地位を侮り、勝負を仕掛けてくる奴も少数いたが、軽く捻ったら代わりに平穏な日々がプレゼントされた。

 

 何やら専属の護衛として格安で雇えるなら優良物件なのでは? という話まで出てきているらしい。

 

 しかし、一番なのは純粋な力でのみ。数と金の力はそれを上回った。

 

 少し憂鬱になりながらも作り置きの朝食を口に運ぶ。

 それからあらかじめ用意していた学校の鞄を持ち家を出る。

 

 外に出ると暖かい日差しが出迎えてくれた。

 ここ三日ほどキールはいない。何やら冒険者の遠出の討伐クエストのパーティに間違って応募してしまい、もちろんの如く合格してしまったらしい。

 その為一週間ほど家を空けると言っていた。

 

 貧民街では俺を見ると金持ちと判断して襲ってくるやつも多い。

 しかし、俺だけでなくここの秩序を重んじる住民の対応に心は恐怖を刻み込み、以来そういったことは怒らなくなった。

 ここは()()の生き残りの街。奴隷に落ちてしまった仲間の分も生きようともがいている人達が住むオアシスだ。

 

「ひゅ〜! 今日も飽きずによく行くなぁー」

「またあんたか。なんか用?」

 

 そのオアシスには一匹の害虫が入り込んでいる。

 それがこの男だ。この国では珍しいスーツを着用し、少しボサボサのくすんだ赤毛。キールと入れ替わるように毎朝現れ、こうしてちょっかいをかけられる。

 

「もう分かってんだろ! ほら訓練訓練。その為に早く出てるんだからさ!」

 

 そう、俺はこいつが現れた二日目から半刻ほど早く出るようになった。初日に殴りかかられ、それから毎日組手を組んでいる。これが日課となりつつあるのが怖い。

 

「魔法は」

「ありだが直接攻撃はなし。行くぞ!」

 

 男が屋上から飛び降り、壁を蹴って突撃してくる。魔法の使用は感じられなかった。

 

「(この速度はすべて吸血鬼の筋力で賄われているのか!)」

 

 こちらも【身体強化魔法】で対応する。着地と同時に響き渡る轟音。住人にとっては目覚まし代わりになっているかもしれない。周りの地面がへこみ粉塵が巻き上がる。

 その粉塵は既に無人だった。着地と同時に跳躍し、屋根をつたって俺は右側面に回り込まれた。

 

「甘い!」

 

 さっきの男の着地が削り取った道の破片は【相対座標固定魔法】で俺の右手と連動して動く。

 俺は右手をなぎ払った。破片は手を振るう速度と全く同じだ。石のパンチが数十個飛んでくるようなものだ。

 

「どうかな!」

 

 しかし、男はそれを難なく避ける。そして俺の背後に回り込んだ。しかし、その場所は既に罠が仕掛けられている。シャルテア特製の『凍結した時の道って滑りやすいよね』だ。

 名前の通り、道を薄ーく氷が覆っている。踏み込めば即座にすってんころりんだろう。

 

「貰った!」

 

 バランスを崩した男に容赦なく殴り掛かる。しかし、男の余裕の笑みは崩れない。

 

「甘いぜ」

 

 男の体は男の影に沈んだ。そして非物体化した影は俺の背後に回り込み、男の姿に変わった。

 

「よしっ! 今日も俺の勝ちだな! あの石粒を飛ばして罠に誘導したのはなかなかよかったぞ」

「今日も負けたか。まぁいいや」

 

 俺は何事も無かったように通学路へと足を戻す。男はそれを止めることは無い。

 後ろを振り向いたら既に消えているのではないだろうか。

 

 俺はこの三日、すべてあの男に裏をかかれている。どうやらこれまでの世界の魔法とは少し差異があるようだ。

 根本的な魔力の質も違っている。その為、俺はこの世界の魔法を習得できない可能性が高いのだ。

 

 深く息を吐き、学園の門をくぐった。




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