某日、ヒナガリシティにあるユーリの探偵事務所。たまたま他の職員が出払っていたからか、ユーリは手持ちのピケと共にある動画を見ていた。
延々と探偵帽をかぶったピカチュウが踊り続ける動画である。
それは名探偵ピカチュウの映画のものなのだが、ユーリとピケにとって名探偵ピカチュウとはとても重要なものである。
そう、何を隠そうユーリがそもそも探偵を志したのは名探偵ピカチュウの影響だった。
まだ幼い頃に連続ドラマ、名探偵ピカチュウの影響を受け、将来かっこいい探偵になると一人と一匹は誓いあい、今こうして探偵事務所を構えている。
要するに大ファンなのだ。
それが時を経てイッシュ地方で映画化されることになり、密かに見に行きたいと思いつつまとまった時間が取れずにこうして動画を見ていたのだが……
「なあ、ピケ……お前も踊れるか……?」
極めて真面目な声音のユーリ。一緒に画面を見ていたピケは「ぴっ!?」と驚いた反応を示すと無理と言いたげに首を横にぶんぶんと振った。
「できるだろ……なあ……お前ならできるはずだ……」
「ぴかぁ……」
無理と強く否定され、ユーリは少しだけしょんぼりし、再び画面を見る。
「円盤が出てからかな……」
映画館に行く時間がない。というかユーリが行くと嫌でも目立つのでそれも忌避している理由の一つなのだが仕事が終わったと思っても映画館の上映時間と合わないしとにかくタイミングが合わない。
「頼むぞピケ~。俺に癒しをくれ……」
だいぶ疲れているのか机に突っ伏したユーリを見たピケはしょうがねぇな……とため息をつきながら事務所の少しだけひらけた場所に立ち、自分専用の探偵帽を被る。
「さすがだぞ! よし! ミュージックスタート!」
端末のカメラを構えながらPCから音楽を流すとピケは軽やか……とは程遠い動きでダンスというより盆踊りを始める。しかもその盆踊りもお世辞にはいいとは言えない出来栄えで傍から見ると奇妙な儀式をしているかのようだ。
「おい……ピケ……もうちょっとこう、なんとかならんのか……」
カメラを構えつつもあまりのキレの悪い動きに苦言を呈するユーリは(戦闘ばっかりやらせていたからか……?)と自分の育成方針に不安を抱く。
「ぴ……」
苦言にムキになったのかピケは今度は技を使ってのかげぶんしんと高速移動で複数のピカチュウが踊っているかのような状況を作り出すも、動きそのものがやはり儀式か何かの踊りにしか見えない。むしろ数が増えたことで邪教の集会感が増してしまった。
「ううん……ピケ……俺が悪かった……」
あんまりにもあんまりな絵面だったのでユーリが制止するとピケはぷくぷくと頬を膨らませてユーリの足を叩く。
するとユーリは撮った動画を不満そうなピケに見せ、次第に沈黙していくピケと顔を見合わせた。
「な……?」
「ぴ、っかぁ……」
ひでぇ……という声が聞こえてくるような低い、悲しそうな声だった。はたからみた自分の姿が意外だったのか顔をしわくちゃにしてしょぼくれるとユーリも申し訳なさそうに口を引き結ぶ。
「うーん……練習すればいける……んだろうか……?」
尋常じゃない落ち込み方に改善できるかを考え始めたユーリは再び元の動画を見て指を鳴らした。
「よし、俺も一緒にやるからピケは動きを真似してみろ。お前は物覚えはいいはずだからこれならいけるだろ」
PCに映るピカチュウダンスを見ながらユーリは少しだけ肩を回すとピケの横に立って軽快な動きでピカチュウダンスをやってみせる。ピケも感心しながらそれに習うと先ほどの邪教踊りから辛うじて動きが鈍いダンスへとランクアップした。
「さすがだぞピケ!」
「ぴかっ!」
一緒にその場でターンしてジャンプしたピケとハイタッチをするとガンッという音に反応してユーリもピケも動きを止める。
事務所の入り口の方の扉が不自然に少しだけ開いている。ユーリは嫌な予感がしつつ一歩、二歩と近寄ると気まずそうな表情のイオリがそこにいた。
「あ、どうぞ続けて……?」
ポケフォン片手に明らかに撮影しているのがわかるその姿を見てユーリは自分が踊っていたことを思い出し、一瞬で顔が赤くなった。
「ばっ、馬鹿野郎! 今すぐそれを消せ! 早く消せ!」
「え、なんのことかなー。よくわかんない」
「おいこら逃げるな! 待て! クソ、ピケあいつのポケフォンを奪え!」
キレたユーリの後ろ姿を見ながらピケはやれやれと手を広げずっと鳴り続けているダンス用BGMを止めてからユーリとイオリを追いかけるのであった。
その後めちゃくちゃジムトレと事務所の職員に動画拡散された。