大和たち、艦娘にとって天敵の先輩が執務室でのんびりとくつろいでいた。
「よぉ〜久しぶりだな! で、俺の言ってた“好感度UPマスク”はどうした?」
いや、つけようと思ってたんだけど…みんなが奪っていってしまったんだ。
虎の顔のマスクだから、みんな面白がると思ったんだけどなぁ……
「いや、みんなが持っt「どうも久しぶりです〜 駿河支部の提督さん?」」
どうしたんだろう? 今日の秘書艦の大和がこれ以上にないほどの笑顔で先輩に話しかけている。
そっか、大和は先輩と仲がいいんだろうな。
先輩は他にもよく赤城とか長門、加賀とも話しているからね。
ここは気を効かせて僕は去ることにしよう。
「大和も先輩と話したそうだし、僕は一旦席を外すよ。 終わったら、執務室で集合って事で。お茶を淹れて待っておくよ」
「はい、提督♡」
うん、いい笑顔だ。……あれ? どうして先輩は顔を真っ青にしているんだろう?
うーん…心当たりがないな…
「提督、恐らく彼は船酔いでもしたのでしょう。 なので私の方から酔い止めを渡しておきますから、心配はご無用ですよ」
大和がそう言うのなら、大丈夫だろう。
僕も大和のことを信頼しているからね。
「あ、提督。 すいませんが、執務室からペンを持ち出したままだったので、持って帰っていただいてもいいですか?」
それぐらいなら全然大丈夫。
分かったと言って、大和からペンを受け取り、胸ポケットの中に入れる。
それじゃあ、僕は執務室にでも戻ろう。
ーーーーー
「ターゲット、艦娘から距離をとりました。 今なら行けます」
「そうか、ならアレを使って捕獲しろ!」
のんびりと歩いているターゲットにアレを放つ。すると、ターゲットは糸が切れた操り人形のようにその場に倒れた。とりあえず縄で縛り、回収する。
「捕獲に成功。 今からアジトに戻ります」
「よくやってくれた。 これでこの鎮守府も終わりだ!!」
この一部始終を見たものは誰もいない。
演習と遠征。それらが被り、他の艦娘が戻ってこられない中で行われたからだ。
しかし、彼らは知らない。ここの鎮守府にいる艦娘は普通の艦娘とはひと味もふた味も違うことを………
ーーーーー
「「「「ーーーハッ!!」」」」
今まで砲撃戦が繰り広げられていた演習場では、珍しく静寂に包まれていた。
皆が一斉に弾を撃つのをやめたからだ。
「……皆も気づいた?」
赤城が周りの皆に尋ねる。そして、その全員が首を縦に振った。
「「「「提督が連れ攫われている(ような気がする)!!!」」」」
そう勘付いた彼女たちの行動は早かった。彼女たちの持つ端末から大和の声が響く。
「大和! こちらも異常を察知!提督に発信機をつけています!!」
「了解、すぐに明石に連絡を。 提督に付けた発信機の情報を送るように指示して!!」
「連絡が出来ました! 位置情報、出ます!!」
そして彼女たちの目の前に大きなマップが表示される。
「提督はここから400メートル先を高速で移動中。 今すぐにでも出れば、3分15秒程で追いつきます!」
「ここは高速艦に先導を頼むわ。 島風に連絡を。 3秒で支度させるように。敵の本拠地が判明するまで手出しは厳禁よ。」
「了解。 てか大和が隙を見せたからこんなことになったんでしょ!?」
「分かっているわよ! そのためにも保険も兼ねて提督に発信機を付けたのよ!?
しかも、あのクソ野郎の処分をしていたのだから仕方ないじゃない!!」
「「「「それなら許す」」」」
こんな感じで彼女たちは、提督のことについてのみ、連携が早いのである。
勿論ここまで追い詰められていることに拐った敵は気づいていない。
ーーーーー
「ここまで上手くことが進むとはな」
「ああ、これで我らの悲願は達成することになる!!」
「しかし、本当にこの男を持って帰る意味などあったんですか?」
「何を言っている、当然だろう?
奴には無数の妖精というものが取り囲んでいる。それが奴が妖精に愛されている証拠だ。
そのためにも、わざわざ妖精が避ける物質が含まれている弾を特別に用意した。
妖精の加護がなければ奴は一般人と変わらん。
後で生きたまま解体して、なんとしてでも妖精に好かれている理由を判明させねばならんのだ。
万が一、こいつの艦娘共が気づいたとしても、奴は提督としてすでに手遅れってこった」
「成る程。 この男の秘密さえ分かれば、我々の計画は上手く行くんですね?」
「そうだ。これで我々の目指す、妖精を取り扱った商売が出来るってことだ!!」
「確かに妖精を扱う商売は聞いたことがないですし」
「ああ、全くだ。この男とすれ違う度に捕まえていた妖精たちが一斉にこいつの元へと逃げ出していく。これでは商売にならんからな!!」
「これで妖精を効率よく集められますね」
「フハハハハ!! これから先は、俺たちの時代だ!!」
「ああ、そのためにも急いでそちらに向かうとするよ」
「それでは、本拠地で待っている」
「了解」
ブツッ…………
ーーーーー
これはとんでもない話を聞いた。
まさか妖精を商売の道具に使っていたとは。
とはいえ、先輩の貸してくれた漫画に、銃弾を指で挟んで止めるシーンと縄から抜け出すシーンが書いてあってよかった。ぶっつけ本番でやってみたけど、おかげで上手くできた。
本当に先輩にはいつもお世話になっているよ。
もしその銃弾が体内に入れば、僕も提督業を辞める羽目になっていたのだろうけど、そうさせるわけにはいかない。
だって、まだみんなと別れたくないしね。
言っておくが、妖精のことについては全く心当たりがない。毎回みんなピンク色のオーラを纏って僕のところに来てくれているだけなんだし。
とりあえず、僕が気絶していると勘違いしてくれているし、この地図に書いてある本拠地まで行こう。
声真似も上手くいったようで良かった。
現在、艦娘に尾行されているこの船には二人の男がいる。
一人は、今船を運転している白い軍服を着た男で
一方でもう一人は、縄で縛られている全身黒ずくめの男であった。
ーーーーー
「おっそーい!! まだ攻撃出来ないのー?」
そう言うと、島風は酸素魚雷を撃つそぶりを見せる。
「島風。 もう少し待ってくれ。 あと少しの辛抱だから!!」
長門が島風を必死になだめている。
「しかし、妖精の皆も気を効かせてくれたおかげで、敵は勘違いしてくれているようだ」
「でも、まさか提督にあの弾を撃とうとするだなんて……」
提督が機転を効かせたのだろう、攫われたと思われる現場には撃った弾丸が転がっていた。
それを明石が調べた結果によると、妖精の嫌う成分を体内で放出させる特殊な弾だと言うことが判明した。
これが当たっていれば、提督は提督でいられなかっただろう。
もしそうなっていれば…と思うと殺気を抑えられずにはいられない。
「とりあえず、提督は生きていることが分かっただけでも大きな収穫だ。
提督のことだし、きっと誘拐犯を逆に縛って本拠地に向かっているに違いない。
だから、本拠地が見え次第、砲撃を許可する!」
「りょーかい! 長門さんも私に負けないように頑張って下さいねー!!」
「う…うむ。(私は一応低速艦なのだが……)」
そう思いながらも前を走る船を尾行する。
このことに提督は気づいていない。だが一方で、彼が船を運転しているだろうと言うことは、彼女たちは何となくで分かっていた。
提督は鈍感なことさえ除けば、超ハイスペックな人なのだから。
ーーーーー
「あれ? どうしてこんな所にゴミが落ちているんでしょうか?」
明石は原型を留めていない何かを見つけた。
「………」
ピコーン!!応急処置女神が発動しました。
すると、どうだろう、今までゴミ屑にしか見えなかった物がみるみる人間の形へと戻って行くではないか!
「ふぅぅぅぅ! 毎回のことだが死ぬかと思ったー!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
明石が驚くのも無理はない。 ゴミ屑が突然人間にへと変わったのだから。
しかも、あろうことかその全裸の変態は明石に話しかけようとしたのである。
「すいませんがお嬢ちゃん? おr「きゃぁぁぁぁ!!来ないでぇぇぇぇ!!」グヘェ!」
そこには顔に紅葉をつけて飛んで行く変態と、走って逃げ出す明石の姿があった。
ーーーー
「そういえば大和? あのクソ野郎はどうしたの?」
瑞鶴がふと思い出したかのように大和に質問する。
すると、大和は華が咲くかのような微笑みと共に
「丁寧にマッシュしました☆」
と返事をした。
言っておきますけど、前回の話で話してた人と提督は…………
いえ、これについてはまだ口を閉ざしておきましょう