「お、刺さった」
首相の写真の額のあたりに刺さったダーツを見ながら思わず口を突いて出てしまった。本音を言うならこれが写真ではなく本物の首相で、ダーツではなく鉛弾なら最高の結果だったことだろう。
「……提督。またそんな遊びをして……。悪趣味よ」
ストレスとともに日々上がっていくダーツの腕に苦笑しているところで声をかけられた。我が横須賀鎮守府で二番目に練度の高い戦艦ビスマルクである。
欧州救援作戦では第二艦隊旗艦を務めた最精鋭である。その後ろにいるのはプリンツ・オイゲン。ビスマルクを姉と慕う後輩系重巡だ。欧州での作戦で最後に現れたボス級、便宜上、欧州棲姫と呼ばれている深海棲艦に止めを刺した艦娘でもある。
「ビスマルクか。お前のために用意した分もあるぞ」
そういうと俺は机の中からドイツの某女首相の顔写真を取り出し、日本の某首相の顔写真の横に並べて貼り付け、ダーツの矢の尻の部分をビスマルクに差し出す。針の方を向けないのは日本人らしい気遣いみたいなものだ。俺は部下を思いやることのできる提督なのだ。このくらいは造作もない。
「くだらないこと言ってないであなたにお客さんよ」
そう言いながらも、ビスマルクが矢に手を伸ばしかけたのを俺は見逃さなかった。それも仕方のないことだろう。ドイツの首相を務めるケルメル氏は、第二次大戦時の記憶を持つドイツ艦娘をナチスの再来と言って憚ることなく国外へ追い出したわけだ。当然、そんなババアに良い感情をドイツ艦娘が持っているはずもなく、行き場を失った彼女らはナチスに対する反感の薄い日本に渡ってきた。
ケルメル氏が欧州で批判されている記事を読みながら宴会をしていたドイツ艦娘たちの顔は晴れやかであったことは記録しておこう。
「お客さん?今日の業務はすべて終わりのはずだ。遠征も終わり」
ちなみに夜は艦娘を遠征に出すことはない。深海棲艦の活動に対する警戒のせいではなく、鎮守府を取り囲む自称平和活動家どもへの”配慮”である。
遠征を務める駆逐艦娘は幼い子も多い。そんな子に対して心無い言葉を投げつけ、邪魔をするのが連中のお仕事である。連中はこちらが民間人に手を出せないのを良いことに何をしてくるか分かったものではない。だから早く殺せと言ったのに。昼間なら海上保安庁の職員が出張ってくれるので補給に支障は殆ど無い。しかしそのせいで予算を食いまくっているらしく、鎮守府の管理を行うために新設された『鎮守府庁』の役人から毎日のようにお小言を頂いている。もう早くあいつら消えればいいのに。
「アドミラールさん!出来ました!」
不毛な苛立ちから脱却して声のした方を見ると、オイゲンちゃんがハートに切り抜いた紙に『かば』と書いて熊坂とケルメルの顔写真の間に貼り付けていた。
恐らくバカと書きたかったのだろうが順番を間違えたのだろう。可愛いので許す。そして俺はおばあちゃんの方の写真にビスマルクが受け取らなかったダーツを投げつけた。これまた額に命中である。やったぜ。
「ほう。この国でもそういう皮肉が通じるのか。私もすぐに馴染めそうで安心した」
「こんなのはここのアドミラールだけよ。間違っても他の艦娘の前で同じような悪ふざけをしてはダメよ」
なるほど。お客さんとは彼女の事だったのか。
しかしなぜこうもこの国には海外から艦娘がやってくるのか。この間も鎮守府庁の方から世界中の艦娘を独占しないように通達が来たというのに、国同士で通達はしているのだろうか。下痢便バカ首相には何の期待もしていないが、実務を担う官僚様は優秀なことで定評のある我が国だ。上手くいっていると思いたい。
「……こうして話すのは初めましてになるな。横須賀鎮守府の提督を任されている江田達彦だ。地位は元帥になる」
そう言って俺は執務室に通された艦娘、アーク・ロイヤルに敬礼をして見せる。
「今さら格好つけても手遅れよ……」
ビスマルクが呆れるように言っているのは無視する。ちなみにオイゲンちゃんはダーツで遊んでいる。艦娘パワーで壁が破壊されないか心配になる。壁の修理費用でまた横領だのなんだのと騒がれかねない。
「……それよりもなぜ貴艦はわが国へ?艦娘の扱いはそちらの方が数段上だろうに」
自国から艦娘を排除するという狂気の沙汰を行ったドイツとは違い、イギリスは自国出身の艦娘を即座に保護し、人と同等の権利を与えた。これはアメリカでも同じである。大して日本は前述のとおり艦娘への対応がよろしいとは言えない。国から追い出さないだけマシなのかもしれないが、かつての日本と比べて堕落し、弛緩しきった国民と政治屋どもに呆れ果てて海外に渡った艦も居る。代表格がイギリスへ渡った戦艦金剛と比叡だ。
……そう考えると追い出された方がマシな気もするが。
ちなみに艦娘への扱いが良好なアメリカから日本に渡ってきた艦娘も居る。クロスロード作戦の記憶から母国に対してトラウマを持つ正規空母サラトガと、なぜか日本に興味を持ったらしいアイオワの二人である。
「艦娘の運用に関して世界で最も進んでいるのが貴国と言える。欧州棲姫からの脅威を救ってくれた貴国に、私が個人的に興味を抱いたというのも事実だ」
本当にあの作戦は辛かった。欧州陣営は救援を欲していたし、アメリカはサラトガとアイオワを引き抜いた見返りとして日本政府に出撃するよう圧力をかけてきたわけだ。アメリカの艦娘の練度がどの程度のものかは不明だが、数も艦種も豊富にいる。艦娘の練度と数が国のパワーバランスを決める昨今において、アメリカは未だ変わらず最強の国家と言えるだろう。
欧州への救援にアメリカは戦艦3、空母4、駆逐艦20ほど出したらしいが、基本は陽動。矢面に立ったのが我らが日本の艦娘である。たまたま損害が出なかったから良かったものの、大量の資材を消費し各鎮守府は資材不足に喘いでいるという。斯くしてアメリカは自分の消費は少なく、他者に出血させ、さらに実力と戦術も盗み取ることが出来、万々歳と言ったところだろう。
潜水艦くらい排除しろよと思ったが、口に出してはいけない。寧ろ欧州棲姫までの道のりにいた潜水新棲姫こそ敵のボスだと勘違いしたくらいだ。対潜作戦に一日の長があるイギリスとアメリカのサボりのせいで、いや恐らく日本の艦娘に被害が出ることを期待して敢えて放置したとさえ思えるが、あの潜水艦のせいで欧州の救援には資材と時間を消費してしまった。ファックヤンキー。
「そう言ってくれるのはありがたいが、現在のわが国の状況を考慮すると素直に喜べない相談だな」
何せ正規空母である。週単位で空母を作る国ではないイギリスでは虎の子と言っても良いだろう。しかも日本は常任理事国入りしたとはいえ、拒否権のない名ばかり常任理事国である。そんなもので外交の成果とか、息巻いている首相の脳内お花畑ぶりには呆れてものが言えない。絶対どこかで皺よせが来るのは目に見えている。
「これはわが国で言われたことだが、次の目標は内々に決まっているらしい」
アーク・ロイヤルの言葉に嫌な予感がする。
「私はその先兵としてこの国に来た」
「……外交機密を漏らしても良いのかい?」
「提督は伝えられていないのか?それなら随分遅いな」
先兵として救援するべき国。しかも近くの国と言えば選択肢は少ない。
アーク・ロイヤルの皮肉気な笑みに気づいて気づかない振りをしながら聞く。
「……それはどこかな?」
「隣国の中華人民共和国に決まっているだろう?」
最悪である。
この作品はフィクションかつ悪ふざけの産物です。当たり前だよな。
主人公の名前はランダムで適当です。何かそんなツールがあったので。
後、イタリア艦娘は出しづらい。可愛い女の子とかイタリアの男が放っておくわけないやん。