艦娘出てこなくて草
艦娘として現代に現れるのは第二次世界大戦に参加した艦艇のみらしい。現状では例外は確認されていない。そして人類の敵である深海棲艦は通常兵器で撃破することが出来ない。
そういう意味では中華人民共和国は、世界で最も割を食った国家と言えるかもしれない。
深海棲艦が現れるまで、つまり現在から20年ほど前のかの国は好景気に沸き、軍拡と近代化を進めていた。
そこに現れたのが深海棲艦である。
ご自慢の空母遼寧は何の役目も果たせないまま海の藻屑と消え失せ、新型のステルス戦闘機も、深海棲艦にダメージを与えることはできずにお役御免となってしまった。しかし、当時はどの国も似たようなものだった。そのうちに日本において深海棲艦に有効な打撃を与えられる艦娘と言う存在が発見され今に至る。ここで問題になるのが第二次世界大戦時の中国軍の艦艇である。
はっきり言って貧弱と言わざるを得ない。
しかし、我々日本国に所属する当時の提督連中は、日々共産勢力のセルを使って裏に表に蠢動する総元締めの国について良い感情を抱いてはおらず、日本海近海に現れた深海棲艦は中国大陸の方へと追いやるだけで済ませていたと聞く。
もちろん感情論だけで語るほど提督諸氏も堕ちてはいない。むしろその他の理由の方が大きい。
日本国の領海内に入ってくれば話は別だが、そこから深海棲艦が出てしまえば、当時の日本国憲法に照らし合わせると日本国所属の艦娘は敵の追撃が不可能だった。
今でこそ憲法が改正されて、そのおかげと言うべきか、そのせいでと言うべきか難しいところだが、大規模な海外派兵が可能になったわけだ。ああめんどくさい。
当時の中国は深海棲艦を中国大陸に追いやってくるなとの声明を幾度も出したそうだが、憲法の改正に手間取った日本国によって同じ状況が幾度も繰り返され、中国大陸沿岸は焼野原となり、人っ子一人住まない地域となってしまったらしい。
「……なるほど。そのせいで中国大陸沿岸部は深海棲艦の巣になっていると」
外務省の役人から説明を受けた各鎮守府を任されている提督のうち、佐世保鎮守府を預かる別府千明大将が白々しくも言葉を返す。
そんな事実は、ここにいる全員がとうの昔から知っている。前任の提督や先輩提督から同様の話は幾度も聞かされたものだ。
彼らの建前としては深海棲艦に対して攻勢に出るとして、現有戦力を磨り潰されてしまえば元も子もない。しかし、領海から外に追い出してしまうのであれば、当時の法律では対応できない。よって敵の撃滅を狙うのではなく、外に出してしまうこと。そうしてしまえば後は政治屋どもの仕事なので、我々は関知するべきところではないとのことだった。
文民統制の裏をかく、と言うほどの事もないが、賢い判断である。普段から手柄は横取り、多少の金銭の出入りを横領扱い、艦娘は人外の化け物、提督は兵器に欲情する変態扱い、挙句仕事だけは無駄にさせる政治屋や官僚に対する細やかな嫌がらせとしては十分だ。相手もそれを分かっているらしく、苦々しい表情で集まった提督たちを見やる。
それにしても別府大将は良い足をしている。いつか踏まれたいものだ。
そう。別府大将は名前の通り女性提督である。
俺のような男性提督ならば兵器に欲情する変態という悪評だけで済んだであろうものが、彼女の場合はそこに同性愛者という尾鰭までついてしまったことだろう。そういう嗜好の人間でないのならば、実に気の毒な話だ。
それにしても欧州救援作戦が終わってまだ二か月も経たないというのに、またしても大規模な作戦行動の指令ときたものだ。
しかも外交の失敗を押し付けられる形の尻拭いである。はっきり言ってやってられない。
常任理事国の名前を与えられただけではしゃいでしまっているお坊ちゃまは我々を何だと思っているのか。頭をたたき割って一度中身を診断してやりたいものだ。しかも拒否権のない常任理事国。どうせまた加盟金をより多く負担しろとか世界の警察様が言ってくるに違いない。いつも矢面に立たされるのは我々なのだ。武官を統制する文民が阿呆では文民統制もクソもない。提督という職に就いている以上、その統制をする上役の方々には責任を取るという言葉の意味を是非ともよく知ってもらいたい。辞任しさえすればそれで良いと思っている連中には、少しばかり難しい言葉なのだろう。
「確かに大陸の、我々から見て対岸に敵の本拠地があるのは好ましいものではありません。しかし前回の大規模作戦から二か月も経っていない上に、肝心の中国は情報すらも寄越してこない。この現状では我々としましても対処が難しいと考えます」
こう見えても俺はあの激戦の欧州救援作戦では、総指揮を任され、轟沈した艦娘は無しという実績を引っ提げている提督だ。その言葉を無下にすることも出来まい。というか無下にしたら〆る。
一応武官の端くれである。戦闘能力は人並み以上にはあるはずだ。少なくともインテリの官僚の首の骨を折るくらいは容易いことだろう。
「江田元帥の仰ることはもっともです。しかしわが国の欧州での活躍を聞いた臭主席が是非にと……」
「なるほど東夷の軍隊を自国に受け入れるほどの度量があると。さすがは大国の首席様は剛毅な事ですなあ」
舞鶴鎮守府の永倉康二大将が笑い飛ばすように言う。しかし目はまるで笑っていない。
自分で言っておきながら、対岸が敵の本拠地であるという建前は酷いものだ。そこにいるのが深海棲艦だろうが中華人民共和国であろうが、いずれにせよ敵なのだ。目に見える敵か、潜在的な敵かという違いでしかない。永倉大将もそれを分かった上で煽っている。深海棲艦と艦娘にトラウマのある中国にはどうせなにも出来まい。その程度の相手なのに君たちはちゃんと仕事をしたのか、と暗に問いかけている。
まあ大方米国の圧力に屈したのだろう。カード大統領の威圧にビビッてうちの首相様はクソでも漏らしてしまったのかもしれん。まあそれはいつものことだが。なるほど。二重の意味で尻拭いというわけだ。勘弁してくれ。
やれと言われたらやらなければならないのが、この職業の悲しいところだ。ましてや自分から望んで掴み取った職業ではない。日本人一億人の中の一万分の一なのだから、俺の代わりはざっと一万人くらい入るはずなのだが、辞めてしまっても未来はないので辞められずにいる。
せめてマスコミ対策や平和活動家対策をしてから、交渉のたたき台にする程度の事はして欲しいものだ。いっそのこと速やかに威嚇射撃の許可を出してくれるのであれば、中国救援も吝かではない。一発だけなら誤射かもしれないのだ。なら百発も一万発も同じことだろう。
結局その日は議論が平行線で終わった。どうせいつかやらされるんだろうが、引き出せる譲歩は多い方が良い。
どうせ不合格なので書く。高卒公務員でええやん。
こんなもん書いてる奴が公務員とか笑えてくるなw