「血早、起きて。ご飯出来た」 ユサユサ
スー、スー。
「血早…起きて?」ユサユサ
スー、スー。
「えいっ」
「ぐわあっ⁈」ズデーン!
可愛らしい掛け声と共に俺の天地が反転した。
「いたた…何すんだよ
さかさまの視界には、色素の抜けた長髪と赤い目をした幼馴染が写っていた。中学生とは思えない大きさのアレがパジャマを押し上げて自己主張しているが、視線を向けたりはしない。だってバレるし。
「だって、何回呼んでも血早が起きないから…」
「そもそもどうやったら60kgを超える物体をそんな簡単にひっくり返せるんだ?」
「…乙女の嗜み」
「…そうか」
どうも俺と霞とでは乙女の概念が大きく異なるらしい。少なくとも俺の考える乙女は寝ている幼馴染に畳返しを掛けたりはしない。
そんな馬鹿なことを考えながら階段を下りると、味噌の良い香りが漂ってきた。
「おはよー」ガチャリとドアを開けて挨拶をする。
「おはようなのにゃ!」
配膳をしていた幼女がこちらを向いて、挨拶を返してきた。その動作につれて二本の尻尾が揺れる。
そう、ここは私立の孤児院。それも只の孤児院じゃない。
「おはようございます」
「血早兄ぃ、遅い」
先に起きていた子供達から挨拶を受ける。
「悪い悪い。今度から気ぃ付けるわ。」「それ毎日言ってるじゃないですか…」「そーだっけー?」「ほら全然反省してない…」
子供達と軽い掛け合いをしながら席に着く。朝食の献立はご飯、味噌汁、出汁巻にほうれん草のお浸しの和食スタイル。育ち盛りの男子中学生には少し物足りないが、贅沢は言ってられない。
「それじゃ、いただきまーす」
「「「いただきます」」」
皆で食前の挨拶をして、さあ食べy
ガチャリ「ふわぁ…おはよ〜」
食堂のドアを開けて、一人の女性が入ってきた。顔立ちは整っているし、スタイルも良い。まさにオトナの美人と言うべき女性なのだが、低血圧で朝が弱いのが玉に瑕。髪は乱れ、目は半開き。足取りもフラフラして危なっかしい。それでも綺麗に見えるって、美人は得だな…じゃなくて!俺は椅子を蹴って立ち上がった。
「師匠!今起きたんですか⁈」「そうだよ〜」「じゃあ朝ご飯の支度は⁈」「ちびちゃん達がやってくれたよ〜」「あなたそれでも保護者ですか⁈」
そう、この女性
「子供だけで火を使わせて!何かあったらどうするんですか⁈」
「大丈夫、私がちゃんと見てたから…」
「血早兄ぃ、そんなに私達信用ないにゃ?」
うぐ、そう言われると何も言えない。俺は黙って席に戻った。
もぎゅもぎゅもぎゅ…しばらく無言の空間。
「ごちそうさまー」
「ごちそうさま」
俺と霞はほぼ同時に食べ終わった。食器をシンクに運び、水に浸しておく。歯を磨いて、制服に着替えて、身だしなみを整える。…よしできた。霞と一緒に家を出る。霞はフリルとレースの付いた女の子らしい黒い日傘をさしている。こいつは
そろそろ俺達中三は進路を考える時期だな。まあ俺と霞はもう決まってるんだが。
ガラガラ「おはよー」教室の扉を開けて挨拶をする。
「おう、おはよう血早、と
相変わらず俺は名前で霞は名字呼びか。霞は家の外じゃあまり喋らないし、何よりこの美貌だからな。とっつきにくい印象を受けるのも無理はない。
「しっかし、お前ら毎日一緒だな。どういう関係なんだ?」
「「只の幼馴染」」
「いや、息ぴったりじゃねえか。お前らホント仲良いな」
「「それは否定しない」」
「さいで」
クラスメイトとそんな掛け合いをしていると、扉が開いて担任が入ってきた。
「うーっす。予鈴鳴ったら席着けよー」
ガタガタガタ
皆が音を立てて椅子に座る。
「さて、中学生活も大詰めってことで、そろそろお前らも本格的に将来を考えていく時期だ。今から進路希望のプリント配るが、まぁだいたいヒーロー科志望だよな。ほい、後ろ回せ」
配られたプリントに必要事項を書き込んでいく。
「あ、そういや赤黒と御東は雄英志望だったな」
先生…個人情報を勝手に漏らさないでください。
その言葉を聞いたクラスメイト達の反応は大きく二つに別れた。すなわち「やっぱりね、そうだと思ってた」みたいなのと「マジで⁈お前が⁈」みたいなのだ。ちなみに前者が霞向け、後者が俺向けだ。
「おいお前ら、何で俺と霞でそんな反応が違うんだ?」
「「「え、だって御東さん(血早)だし。」」」
「…そーかい」
一体皆の中で俺はどういうイメージなのか物凄く気になった。
「あ、そうだ。赤黒と御東は放課後面談室に来てくれ。」
「「?はい」」
〜授業風景は割愛〜
コンコン「「失礼します」」
放課後、俺と霞は担任に言われた通り面談室に来ていた。
「おう、来たか。まぁ座れ」
「「失礼します」」
担任とテーブルを挟んで反対側のソファに座る。
「で、何で呼び出したかってーと、うん、率直に言おう」
担任は言葉をそこで区切って、頭をガシガシと掻いた。
「お前らは
「「…ッ」」
そう言われることを予想していたとはいえ、面と向かって言われると、やはり辛いものがある。俺達は軽く息を飲んだ。
「まあ御東は品行方正だし、赤黒も…成績は悪くない」
ヒドす。
「だから、お前らのことは信用してるんだが、一応担任として聞いておく」
「大丈夫だな?」
「はい」
俺は言葉を続ける。
「かすm…御東はまだ精神が不安定な所もあり、絶対大丈夫とは言えません」
俺は何か言おうとする霞に先んじて言葉を紡ぐ。
「ですが、もしも何かあった場合は、俺が責任持って何とかします」
うっすらと顔を赤くした霞が続いて言葉を紡ぐ。
「ちはy…赤黒は元気に振舞っていますが、心の傷はまだ癒えていません」
おい霞なn「ですが、もしも何かあった場合は、私が責任持って何とかします」
何これ凄いハズい…これが意趣返しという奴か。自分の顔が赤くなるのを自覚した俺は、個性を発動し顔に上っていく血液を胴体に戻す。
「…わかった」担任は深く頷いた。
「もう帰っていいぞ」そう言った担任は、胸焼けでもしたかのような顔をしていた。
「「失礼しまし…ん?」」
霞も気付いたようだ。扉の外に気配を感じる。それも一つや二つじゃない。恐らくは…うちのクラス全員。にゃろう、盗聴してやがったな。それならこっちにも考えがある。俺は深く息を吸い込み、大声を出した。
「ワーーーーッ‼︎」
「「「ぎゃああ⁈耳が、耳がぁ!」」」
こうかはばつぐんだ!
俺はそのまま扉を開けた。そこには【五感強化】の個性で盗聴していた男子、それを【
「何やってんだお前ら…」
「ぐうぅ、耳がガンガンするぜ…薄井さん、隠蔽してたんじゃなかったの?」「えぇ⁈私ちゃんとしてましたよ?」「なぁ釧路と並川、これ俺らまでやる必要あったか?」「お前らが言い出したんじゃねぇか」「ノリノリだったじゃない」
「そもそも校内での個性発動は禁止だ馬鹿共」
「いや〜それにしても」クラスメイト全員が同じ様なニヤニヤ顔をする。おかしいな、もうシンクロは切れてるはずなんだが…
「何だよ」
「「「別にぃ〜?」」」
うわなんかすげぇむかつく。
「そーいや、何で俺達に気付いたんだ?」
「修行」
「勘」
「なんじゃそりゃ」
クラスメイト達と掛け合いをしながら帰路につく。帰ったら勉強しないとな…霞はともかく俺はまだA判定取れてないし。