「…でっか」
俺達の目の前には、全面ガラス張りの巨大建造物がそびえ立っていた。どっから金出てんだろなホント。今日、2/26は実技試験の日だ。筆記の方は霞が勉強手伝ってくれたこともあって、何とかA判定取れている。実技で合格点を上回れば受かるだろう。多分。
人の流れに沿って講堂を目指す。歩くのが面倒なので後ろの方の席に座った。優に1万人以上を楽に収容出来そうな巨大講堂は、早く来たからかまだ三割程度しか埋まっていない。
「あと30分か…暇だな」
「血早…やること無いの?」
「人事を尽くして天命を待つー」
霞の正論に諺で返した俺の目の前に、ドンッと重い音を立てて何かが置かれた。
「えーっと、霞、これは一体?」
「参考書」
霞は真顔で言い放った。いつも真顔だけどな。
「ちゃんと…人事尽くす…」
「ハイ (´・ω・`)」
この後めちゃくちゃ勉強した。
難易度高めの問題を数個解き終えて、始まってもないのにぐったりしていると、何の前触れも無く講堂中の照明がパッと点灯した。中央に設置されたステージの舞台袖から、コツコツと足音が聞こえてくる。出て来たのは、長い金髪をトサカの様に逆立て、全身をロックテイストの黒の革で固め、サングラスをかけて首回りにスピーカーを付けた中年男性だった。
ボイスヒーロー【プレゼント・マイク】
雄英教師兼任で、深夜ラジオの放送もしているプロヒーローだ。そのままステージ中央に歩み寄り、演台につく。
『今日は俺のライヴにようこそー!!! エヴィバディセイヘイ!!!』
シー・・ン
個性を使用したとおぼしき爆音が講堂内に響き渡るが、帰ってきたのは静寂であった。
『こいつあシヴィーー!!! 受験生のリスナー! 実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!! アーユーレディ!?』
それでもめげずに説明を続ける精神力はさすがプロヒーローというべきか…などと感心していると、プレゼント・マイクがプルプルと震えているのに気づいた。さすがに一万人超のフルシカトは堪えたらしい。
『YEAHHHHHH!!!』
シーーン!!
ついに自分で答え出すプレゼント・マイク。そして再び返ってくる静寂。というか受験当日のピリピリした受験生に深夜ラジオのノリを求めても無駄だと思うんだけどな…
その後もハイテンションで説明が続く。
要約すると、
・時間は10分
・試験の場所は市街地を模した演習場
・それぞれにポイントが割り振られたロボット、仮 想
・他者への攻撃などは禁止
途中、一人の少年が手を挙げて質問した。
曰く、三種と説明された仮想
プレゼント・マイク曰く、0Pのお邪魔虫、スーパーマリオブラザーズで言うところのドッスンだ、と。
『俺からは以上だ!! 最後にリスナーへ我が校”校訓”をプレゼントしよう』
『かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った! 「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と!!』
『”
『それでは皆良い受難を!!』
説明も終わり、皆ゾロゾロと講堂から出る。これから演習場別に分かれてバスに乗り、各演習場へと向かう。
「そーいや霞はどこなんだ?演習場」「私A。血早は?」「俺G。見事に真反対だな」「うん…じゃあ血早、また後で」「おう」
簡単な会話を交わし、それぞれのバスに乗り込む。
〜少年少女移動中〜
「「「広っ」」」
バスから降りた俺達は、異口同音に呟いた。目の前には高い塀に囲まれた広大な敷地、そしてその中に立ち並ぶ建物。つまり、「街」だ。これが8個もあんのか…マジでどっから金出てんだ?まぁんなことよりさっさとスタート地点着こう。ストレッチストレッチ…足攣ったらシャレにならんからな…
念入りに筋肉をほぐしていた俺は
『ハイスタートー!』「へ?」『どうしたあ!? 実戦じゃカウントなんざねえんだよ!! 走れ走れぇ!! 賽は投げられてんぞ!!?』
不意打ち気味の合図に見事に乗り遅れた。
「やっべ急がにゃ」
出遅れた俺は、集団に追いつくべく走り出す…訳ではなく、細い路地裏に入る。先に行った奴等の後を追うより、人がいない所の方が効率良くポイントを稼げるはずだ。路地裏を抜けて、開けた所に出る。そこには受験生は誰一人いなかった。その代わり、仮想
1P
一輪走行の軽量級ロボット。機動力が高いが脆い。
2P
四足歩行の中量級ロボット。鞭の様な尾が武器と思われる。
3P
二輪+アーム走行の重量級ロボット。ミサイルポッドを装備しており、自走砲の様にも見える。
『標的捕捉! ブッ殺ス!!』
『フルファイヤー!!』
『悪ィガコッカラ先ハ一方通行ダ。侵入ハ禁止ッテナァ! 大人シク尻尾ォ巻キツツ泣イテ、無様ニ元ノ場所ニ引キ返シヤガレェェェ!』
『スクラップノ時間ダゼェェェ! クッソ野郎ガァァァ!』
誰だこんなプログラム組んだの。
個性を発動し、血液を体外に流出させる。刹那、血液を凝固。両方の前腕部が真紅の籠手に覆われ、握り拳の先から鋭い切っ先が伸びる。籠手と一体化した剣、インドの武器「パタ」である。これにより攻撃力とリーチが大幅に増す。俺は凶器と化した両腕を構えて吼えた。
「スクラップになんのは…てめえらの方だぁぁ!!」
〜霞視点〜
私はプレゼント・マイクの合図と共に走り出した。走りながら個性を発動。肌から溢れ出した黒い粒子を翼の形に固め、それを羽撃かせて一気に上昇する。
(東側に
そのまま突っ込んだ。
「機械相手なら、加減はいらない…」
翼を消し、追加の粒子を放出する。大量の粒子が私を中心に渦巻く。十分な回転が付いたところで、一気に解放する。
「削りきる…」
”
〜霞視点out〜
じつは霞、隠れ厨二である。幼少の頃、必殺技を書き留めたノートを血早に見られ、羞恥のあまり殴り倒したのも今となっては良い思い出だ。
全てを薙ぎ倒す死の嵐が収まった後には、ロボットだったモノが転がっていた。
暗闇の中、声が響く。
「今年はなかなか豊作じゃない?」
「いやーまだわからんよ」
「真価が問われるのは…
声の主は、「YARUKI SWITCH」と書かれたスイッチをグッと押し込んだ。その瞬間、8個の演習場全てに巨大な影が現れる。
0P
これからさ!!」
「ドッスンにしちゃあ…でかすぎるなぁ」
今の持ちポイントは41。多分合格ライン乗ってるだろうが、ポイントが多くて困ることは無い。赤黒血早はクールに去るぜ。
「いったぁ…」
「ッ!」
女子が一人、瓦礫に足を挟まれていた。
グルリと方向転換し、一人0Pに向き直る。
何がポイント、何がクール。そんなものが人の命よりも大切なのか?
否。
否!
否ッッッ!!!
〜霞視点〜
「ぐっ…闇が、足りないッ」
「ッ!」
男子が一人、瓦礫に足を挟まれていた。
グルリと方向転換し、一人0Pに向き直る。仮にもヒーロー志望が、人を見捨てて良いのか?
否。
否!
否ッッッ!!!
「「クレバーな撤退なんぞ犬にでも喰わせろ!」」
血早は全身の血液を右腕に集め、血圧を限界まで高める。
霞は全ての粒子を頭上に集約し、一本の砲身を作り出す。
「”
「”
雄英の空を、紅と黒の閃光が切り裂いた。
すみません、戦闘シーンは苦手でして…
あ、今回出てきた「パタ」については、「パタ 武器」で検索すれば出てくると思います。