「大人が旅をするのはね、子供に世界の良さを語って聞かせてあげるためなんだって、最近ちょっと思うようになったかな」
一つ、話をしよう。
八百年の初代オーズ、欲望の王の話だ。
彼は極大の欲望の渦からグリードを生み出し、グリードのコアメダルを力とするオーズに変身、その圧倒的な力で最強の王として君臨した。
小国の王だった彼があまりにも強かったがために、逆に大国を一方的に押していたというのだからそのデタラメさは伺える。
そこに、一つ視点を加えてみよう。
1228年にネクロノミコンのギリシャ語版がラテン語翻訳される。
だが1232年には教皇直々の命令により、ネクロノミコンのギリシャ語版とラテン語版は出版禁止となった。
この四年の間に何があったか、想像するに難くない。
アブドゥル・アルハザードの死が伝記として語られたのも12世紀であるからして、八百年前の王の耳に入っていたことはまず間違いないと思われる
まあ、一言で言ってしまうなら。
オーズドライバーには、それ単体で『外なる神の干渉』を弾く仕組みが施されている、ということだ。
火野映司は旅をする。
ちょっとのお金と明日のパンツだけを手に、今日訪れるはかの有名な地セイレムだった。
「思ってたより綺麗だなあ」
全体的に、思った以上の都会らしさが並んでいる。
魔女らしい風情ある建物でさえ、こまめに綺麗にされているせいか、なんとなく出来の甘いビンテージジーンズのような印象を受けてしまった。
ただそれはマイナスイメージだけではなく、観光地として過ごしやすい街・セイレムのイメージもしっかりと伝えてくれている。
「もしかして魔女博物館よりそうじゃない博物館の方が良い……ってわけでもないか」
魔女狩りの地セイレムには、映司も前から興味があった。
なにせ、魔女狩りと無縁だった日本ですらよく知られているのがセイレムだ。
人の醜さ、愚かさ、弱さ、そして集団心理の凶悪さ。
人の負の面を知るためにはあれほどの教材はそうそうない。
「ふむ……なるほどなあ……」
映司は多くの人間を見てきた。旅の中で多くの歴史も見て来た。
ただ今は、昔のように自分の歪みから来る目的だけでなく、『ある友人』を復活させる方法を探す旅でもあったりする。
セイレムに何か無いだろうかと、映司は割れたタカメダルを握って強く想っていた。
なのに。
見つかったのは、ヤミーだった。
「……え」
何故居る、とまずは戸惑った。
だがヤミーがセイレムの路面に何かを仕込んでいること、それを見た人間が悲鳴を上げる前にヤミーが殴って気絶させていること、それを見れば瞬時に戸惑いは消えた。
これで見逃す、なんて選択肢はありえない。
「まいったな。こんなの、見過ごせないじゃないか」
所持メダルがあんまり多くなく、オーズの最大の強みである細かな調整の利く圧倒的汎用性は活かせないが、贅沢を言っていられる状況ではない。
《 SUPER! SUPER! SUPER! 》
《 スーパータカ! スーパートラ! スーパーバッタ! 》
《 スーパー! タトバ タ・ト・バ! SUPER! 》
と、言うか。これで文句を言うのは、流石に贅沢が過ぎるというもの。
《 SCANNING CHAGE! 》
「セイヤーッ!!」
「グゲゲーッ!?」
仮面ライダーオーズ・スーパータトバコンボ。
諸説あるが、オーズの最強フォームと見なされるものの一つ。
時間停止能力からの150tキックがめちゃんこ恐ろしい。
「ヤミー? でも今のヤミーは動物らしさも恐竜らしさも……
なんというか、ごちゃ混ぜ感はガラのヤミーみたいだったな」
昔、将軍様や江戸時代の人達と一緒に戦ったヤミーのことが思い出される。
あれは合成ヤミーであったが、作れる者は作れるのだろうか。
「げげっ、オーズ!?」
「ん?」
「いや、そのメダル……外見こそ似ているが、技術体系がまるで違う。偽物か!」
映司が油断せず変身を維持していると、時代がかった服装とパッとしない容姿の合わせ技、といった感じのオッサンが現れた。
「えーと、あなたは?」
「貴様のよーな偽物のオーズに語ることはない!
我輩は本物のオーズ、本物の王に仕えた偉大なる錬金術師であるぞよ!」
「錬金術師……?」
映司にはそのワードに関して、ピンとくる情報が一つある。
(そうだ……確か、初代オーズの下には三人の錬金術師が居て……
ガラは一番強いメダルを作れる錬金術師だった、って話があったはずだ)
メダル作り以外の分野でガラと同格かそれ以上の錬金術師が二人居る可能性がある、という話はあったのだ。
このオッサンがそうであるという確証はまだ持てていないが。
「メンドーな! お前なんぞ、試運転で吹っ飛んでしまえ!」
とかなんとか思っていると、突然
地面がメダルのようにひっくり返り、裏が表に、表が裏に。
場所と時間がひっくり返るこの感覚は、映司にも馴染み深いものだった。
「うわこれ懐かしい感か―――うわああああああああっ!」
今度はどの時間かな、と映司は実はちょっとだけワクワクしてたりもした。
そしてちょっと後悔した。
以前この現象が起きた時は、現代の都内と江戸時代の江戸がひっくり返り、現代の都内と恐竜時代の土地がひっくり返ったのだ。
となれば、当然現代のセイレムから飛ばされた先は。
(まさか魔女裁判当時のセイレムに飛ばされるなんて……)
セイラムの魔女裁判が1692年、映司が江戸時代に飛ばされた時共闘した将軍の在位期間が1716年以降なので、遠そうに見えて意外と近い。
魔女裁判当時に飛ばされる可能性は、元々そんなに低くなかったのだ。
「すみませんカーターさん、こんな怪しい人間を拾って面倒を見てくれて」
「構わんよ。私としても、君のことが知りたかったところだ」
「知りたいことがあったらどんどん聞いてくれていいですよ!」
映司が自分を拾ってくれたカーターという男に感謝しているのは、本当のことだ。
だが、心のどこかで彼を疑っているのも本当のことだ。
映司は村に何かを感じている。異常な何かを感じている。
正しい表現をするならば、村の中に足を踏み入れた全員が等しくおかしくならないといけないのに、映司だけが正常なままで居るような。
(なんだろう、この違和感)
ズレない。引きずられない。影響されない。
そんな映司に出来ることは、周りと程良く合わせつつ、カーターに頼まれた『アビゲイル』という子と遊んであげることだった。
「旅人さん、旅人さん、今日はどんなお話をしてくださるの?」
カーターの姪、アビゲイル・ウィリアムズ。
彼女は外の世界に興味津々で、小さなことでも飛び上がるほど喜んで、映司の旅の話をいつも聞きたがっていた。
「じゃあ今日は、海の中で光るクラゲの話をしようか」
「まあ、海の中で光るクラゲなんているのっ!?」
映司は旅する人間だ。
いつだって、どこにも見つからないものを探して旅をして、その過程を心に残した。
綺麗なものも、醜いものも、旅の中で山ほど見てきた。
だからこそ、火野映司は誰よりもリアルに『世界の良さ』を語っていける。
「あ、そうだ。知世子さんに貰ってたやつなんだけど、双六やってみる?」
「すごろく? なんだか、とても楽しそうね」
双六は幼い子供でも楽しめるパーティーゲーム……だが、実は"分かっている"人間からすればもっと大きな意味のあるゲームだ。
これ、作り方さえ知って入れば、いくらでも新しい形の双六にマイナーチェンジしていけるのである。
コマの文章だけ入れ替えてもいいし、大きな紙に一からマップを作ってもいい。
そして世界中を旅した映司の経験が下地にあれば、世界中の街を舞台にした双六を、いくらでも作っていくことができる。
「わぁ……!」
映司は"手を繋いでいける外の世界の良さ"を、超ドストレートにアビゲイルへと投げ込んでいった。
ランドルフ・カーターが帰宅する。
そろそろ計画始めようかなー、なんて思いつつアビーにただいまの挨拶をしようとするが、いつも真っ先に出迎えてくれるアビーの姿がどこにも見えない。
「アビー?」
アビゲイルちゃんの消失。
この世界に出口はないはずなのに……と思っているカーターは、錬金術師がちょくちょく地面を小さくひっくり返していることを知らなかった。
過去のセイレムがあり、まだ無事な現代のセイレムがあり、カーターが下準備しているこのセイレム――過去のセイレムのパチモノ――があり。
出れるわけがない、と彼はたかをくくっていた。
「アビー、どこだい?」
しかしアビーはどこにもいない。
ちょっとどころでなく心配になってきた。
「アビー……」
心配が、焦燥が、不安が膨らんでいく。
「アビー! アビー!」
カーターが焦りに焦っている頃、一方アビーは。
「私、私、こんな美味しいもの初めて食べたわ!」
「そっか、よかったね」
「オイオーズの偽物、約束通りその未来のメダルの話早く聞かせろよ」
現代の方のセイレムに遊びに行って、観光をバリバリ楽しんでいた。
ランドルフ・カーターは武装する。
彼本来の力を使うわけにはいかない。
あくまで姪想いのおじさんとして、彼女を取り戻さねばならない。
「私の愛するアビーを取り戻さねばならん」
「カーターさんそのロケットランチャーどっから持ってきたんですか」
あくまで人間として取り戻さなければならないのである。
でなければ計画が破綻する。
何もかもが破綻する。
このまま計画が破綻すれば、その情けなさはゼパル以下の醜態ではないか。
絶対に、諦めたりはしない。
姪大好きおじさんにしか見えないランドルフ・カーターの家族奪還作戦が、今実行に移されようとしていた!
ホームズ「彼の出現位置と行動ルートの特定? 何、初歩的な推理というやつだよ」