お正月企画三題噺シリーズ・ネクスト   作:ルシエド

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 お題は『解凍』『ウルトラマンベリアルアーリースタイル』『君の名は。』。
 遠い昔、ベリアルがまだアーリーでケンの背中を守っていた頃の物語。

普通の魚は、綺麗過ぎる水の中では生きられず、泥水の中でこそ自分らしく生きられる


十八回:君の名は、ウルトラマン、―――

 ある時代のウルトラマン達が、口を揃えて言っていたことがある。

 以後の時代のウルトラマン達が、絶対に言わなくなったことがある。

 

「ケンとベリアルは無敵のコンビだ」

「あの二人こそ平和の守護者」

「どんなに強い相手でも、あの二人がいればなんとかなる気がする」

 

 かつては、誰もがそう言っていたのだ。

 エンペラ星人がウルトラの星に攻め込んだ、あの大戦争の時ですらも!

 

「行け、ケン!! このユグニア回廊を進め!

 その先にエンペラ星人が一人だけで居るはずだ!

 お前の力で……ウルトラの星を守り、平和を守り、この戦いを終わらせろ!」

 

「だが、ベリアル! お前をこの怪獣軍団の前に置いていくわけにはいかない!」

 

「行けと言ってるのが分からないのか、ケン!

 俺はお前が皇帝を倒すと信じている!

 なのにお前は、俺がこの程度の怪獣ごときに勝つことを信じられないのか!」

 

「……っ、死ぬんじゃないぞ、ベリアル」

 

「馬鹿なことを言うんじゃない、愚か者が」

 

 後にウルトラの父と呼ばれる男、ケンがユグニア回廊を進む。

 ウルトラマンベリアルは回廊の入り口に立ち、皇帝を助けんとする無数の怪獣を睨んだ。

 宇宙空間に大気はなく、光は減衰せずに突き進み、遠くの怪獣もよりハッキリと見える。

 億……いや、おそらく十億の怪獣。

 帝国を作り上げたエンペラ星人の配下は、その何割かでさえ十億の域に達していた。

 

 信じられない数の怪獣達は、一斉にベリアルに殺到する。

 

「108万1322勝108万1322敗、452万8946引き分け。

 お前との模擬戦で勝ち越すまで……この俺が死ぬものか!」

 

 ベリアルは全ての怪獣を長時間足止めした。

 ケンはエンペラ星人との一騎打ちに打ち勝ち、互いに深い傷を負い、光の国と皇帝の帝国の大戦争を集結させた。

 そして、平和がやって来る

 ケンとベリアルはウルトラマン達に揃って賞賛され、ケンが初代宇宙警備隊の隊長に選ばれ、宇宙警備隊とウルトラマンが宇宙の平和を守る時代がやって来た。

 

 それは、宇宙の新たな時代の幕開けだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの大戦争から、一年が経った。

 ようやくまともに前線に出られるようになったケンを連れ、ベリアルは『永久氷塊の星』へと飛んで行く。

 ケンの体を気遣う者も居たが、そんな者達も"ベリアルが居るなら大丈夫か"と納得していた。

 

「古傷はもう治ったか? ケン」

 

「ああ、触れなければ痛みも感じない。

 すまないな、ベリアル。任務もお前との模擬戦も、ずっと休んでしまった」

 

「構わん。模擬戦の時も、そこは攻めないでおいてやろう。

 そんな場所を攻めてお前に勝っても意味は無いからな……」

 

「お前は本当に、ウルトラマンというより戦士と言うべき考え方をしているな」

 

 ケンは周囲から尊敬される者で、ベリアルは周囲から変わり者と見られる者だった。

 それは、ベリアルが他のウルトラマンからどこかズレた者であり、ケンが他のウルトラマンの清廉な精神の延長線上に居る立派な者である、ということを意味していた。

 

「皇帝はまた攻めてくるかもしれん。

 ベリアル、私達もより力を高めなければならないな」

 

「ああ、全くだ。次は負けないようにしないとな。

 二度と俺を見下させたりはしない。

 だが、あの絶対的な闇の力には、学ぶことも多かった……」

 

「ベリアル。闇の力には学ぶことなどない。我々は光であるべきだ」

 

「……ああ、そうだな。

 あれは強いだけだ。強いから弱いやつを全て見下せるし、誰にも見下されない。それだけだ」

 

 ベリアルとケンは氷塊の星に降り立ち、膨大な光を熱に変えて星を解凍していく。

 

「一体何があるんだろうな、この中に」

 

「星を包むこの永久氷は我々でなければ溶かせない、明らかな人工物だ。

 この永久氷とそれが封印に用いられたものの正体を知らなければ分かるまい。

 我々ウルトラマンにとって、冷気は大敵だ。それが封じているものとなると……」

 

「俺達ウルトラマンの類が封印されてしまっている」

 

 答えを求める、それ自体はいい。

 解凍には慎重になっている、それ自体はいい。

 だが失敗だった。

 彼らはこの解凍の先にあるものを知らなかった。

 

 知らずにいれば、彼らは今までの自分達で居られたのに。

 

「何!?」

 

 氷壁に封じられていた機械が、『対象』を見つけて起動する。

 

 対象に選ばれたケンとベリアルが、機械の光に包まれた。

 

「なんだ、攻撃か!?」

 

「ベリアル、気を付けろ!」

 

「「 ……ん? 」」

 

 ケンがベリアルのように、ベリアルがケンのように話している。

 

「俺たち」

 

「私たち」

 

「「 入れ替わってる!? 」」

 

 その体の中に入ってる、君の名は?

 

 

 

 

 

 しょうがないので、ウルトラの星に帰って状況報告。

 二人の体を調べたことで、体を入れ替える光の無効化方法も、入れ替わった体が時間経過で元に戻ることも分かった。

 どうやら、大したことにはならないらしい。

 ベリアルはケンの体で、散歩に出かけた。

 

(やはりよく鍛えてある。流石はケンだ)

 

 自分の体とは違うケンの体に、ベリアルは素直に感嘆する。

 

「おーい、ケン!」

 

 そこでケン(ベリアル)に声をかけてくるウルトラマンが数名いた。

 ベリアルにも見覚えのある、ケンの友人のウルトラマン達だ。

 

「遅れたけど宇宙警備隊の隊長に就任おめでとう!」

「初代隊長はお前しかいないと思ってたぜ」

「ベリアルも頑張ったけど、やっぱ上下はハッキリさせないとな。しょうがない」

 

「……ああ」

 

 エンペラ星人との戦いの後、ケンだけが宇宙警備隊の隊長に選ばれ、ケンが上でベリアルが下、という認識が一般化していた。

 

 いつも同格だった。

 いつも一緒だった。

 肩を並べて戦ってきた。

 今日までの日々の中、ベリアルはケンと同格扱いされても不満に思ったことはなかった。おそらくケンより格上に扱われても文句は言わない。

 けれどベリアルは、ケンの格下として扱われることが苦痛だった。

 ケンと同じならいい、ケンの上ならいい、ケンの下だけは嫌だった。

 それは地球人であれば、当たり前のライバル意識だったと言えるもの。

 

 ベリアルはウルトラマンの誰もが嫌ったエンペラ星人の闇の力にすら惹かれ、キングを除いたどんなウルトラマンよりも強かった皇帝にすら、見下されたくはなかったのだ。

 

(見下されている)

 

 ケンを素直に褒めているウルトラマン達を見て、ベリアルの中に滲む闇があった。

 

(ケンと比べられ、見下されている)

 

 地球人のプロスポーツ選手には、たびたびこういうことがあるようだ。

 優秀なプロが居る。駄目なプロが居る。

 プロの時点でプロ以外の人達よりは確実に上手いはずなのに、一般の人達はこのプロ達を比較して駄目なプロをけちょんけちょんになじるのだ。ヘタクソだと罵るのだ。

 ベリアルは、ケンと比較されてケンの下に見られていた。

 下に見られていた。

 一般的なウルトラマン達が、ベリアルを下の者であると見なしていた。

 

 けれどウルトラマン達は、ベリアルがそこを気にしているだなんて気付かない。

 それも当然。

 このウルトラマン達はベリアルを自分の下だなんて思っていないし、ベリアルの強さも認めているのだから。

 ただ、ケンを上に置いているだけ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「まあでもベリアルは力量自体はケンより高かったんじゃないか、なんて俺は思うんだよな。

 どうやって皇帝を倒したんだ?

 お前が皇帝を倒せたなら、ベリアルだって皇帝を倒せた未来があったと思うんだよねえ」

 

「それは……」

 

 ウルトラマン達は去っていく。

 ベリアルは今の肉体に秘められた力を探った。

 ケンの肉体には、ベリアルの肉体にある力以上の力はない。

 むしろ肉体のスペックと戦闘技術を比べれば、明確にベリアルの方が上だっただろう。

 なのに、何故ベリアルが倒せなかったエンペラ星人をケンが倒せたかと言えば、その理由は一つしかない。

 

(ケンの、強化形態)

 

 ケンはエンペラ星人との戦いの中で、自身の真の力に目覚めた。

 強化形態となったケンは暗黒の皇帝と拮抗し、皇帝に深き傷を刻み込んだのだ。

 あの強化形態がなければ、ケンは今でもベリアルと同格のはずで。

 あの力があれば、ベリアルはケンと同格のはずで。

 

(あの力さえあれば……いや、それ以上の力があれば。

 俺がケンに代わり宇宙警備隊の隊長に選ばれるだろう)

 

 肉体のスペック、戦闘技術だけを比べていたベリアルは、"ベリアルとケンは心を比べられた"ということにも気付けない。

 

「ケン。少しいいかしら」

 

「マリーか」

 

 ウルトラウーマンマリー……後にウルトラの母と呼ばれる女性が話しかけてくる。

 ベリアルも認めている女性であり、その能力に疑うところはない。

 最近はケンとも仲が良いと聞いていたが、所詮噂だ。ベリアルは少し悪戯心を出した。

 

「『私』じゃなくてベリアルには声をかけなかったのか? 奴に頼むといい」

 

 ケンを演じて、今はベリアルをやっているケンの方に話を誘導する。

 そうしてベリアルにマリーが相談したところで、ベリアルの肉体を使っているケンが種明かしして、マリーをびっくりさせて……その程度の、悪戯心だった。

 何気ない、一時の気の迷いだったのに。

 マリーは言う。

 

「私はベリアルじゃなくてケンに相談しているの。ベリアルじゃなくてケンがいいのよ」

 

「―――」

 

 胸に、小さな穴が空いたような気がした。

 

「……からかって悪かったな」

 

「え?」

 

「オレはベリアルだ。まあなんだ、色々あってな」

 

 何もかもが、どうしようもなかった。

 

 

 

 

 

 ベリアルの肉体を使うケンが、軽く走り込む。

 

(流石はベリアルだ。ここまで鍛え込んでいるウルトラの肉体を、私は他に知らない)

 

 ケンはいつもよりも軽い体に、少し高揚する自分を自嘲していた。

 普段の自分の体よりもベリアルの体は高性能で、少し動かすだけでもそれがよく分かる。

 

(怠けることなく、精進しなければな。

 与えられた地位に満足していれば、私もすぐにベリアルに置いていかれてしまう)

 

 ベリアルの存在が、ケンを強くしてくれる。

 正しくあろうと、思わせれくれる。

 

「ようベリアル! 今日も訓練か?」

 

 走り込むケン(ベリアル)の横に並ぶようにして、数人のウルトラマンが現れる。

 ベリアルの友ではない。

 ベリアルが心許した者ではない。

 だが、ベリアルに敬意を表しているウルトラマン達だった。

 

「お前ほど居残りで訓練してる奴は他に居ねえよ」

「誰よりも早く訓練場に来て、誰よりも後に帰るもんな」

「俺さ、宇宙警備隊の初代隊長はお前の方が相応しいと思ってたよ。

 ケンは尊敬できるけどさ、お前の強くなろうってスタンスを皆が見習うべきなんだぜ」

 

 ベリアルの肉体に向けられたベリアルの褒め言葉を聞いていると、ケンはほんのり胸の内が暖かくなり、誇らしいという気持ちが湧いてくる。

 

「ケンもお前にいい影響を受けてたと思うよ。

 ケンの隊長就任はお前達二人で勝ち取ったようなもんさ。

 隊長になったケンの背中を信じて任せられるのは、お前だけだ」

 

「……ああ。『俺』も、心底そう思う」

 

 ケンはベリアルを演じ、"ケンの背中はベリアルにしか任せられない"という言葉に同意した。

 

(相棒が褒められているのを"自分のことのように"受け止めるのが、こんなにも楽しいとは)

 

 分かれ道で去っていくウルトラマン達。

 今の褒め言葉をその内ベリアルに伝えてやらないとな、とケンは思う。

 

 ベリアルはケンへの賛辞で心を傷め、苦しみを抱き、己の内に闇を育んだ。

 ケンはベリアルへの賛辞が誇らしく、胸を暖かくし、光の想いを強くした。

 それだけの話で、だからこそどうしようもなかった。

 

 

 

 

 

 人間としての視点で見れば分かる。

 ……いや、逆に言えば。

 何千年、何万年と生きたウルトラマンではなく、十数年だけ人間の中で生きてきた十数歳のウルトラマンでもなければ、この気持ちはウルトラマンには絶対に分からない。

 理解を示すことが出来ても、共感することはできないだろう。

 

 ベリアルは普通だったのだ。

 光の国は警察が要らない国だった。

 理由がなければ犯罪はしない、理由があっても犯罪はしない。感情に流されてルールを破ることはなく、自分のために他人を踏みつけにすることもない。

 それが()()()()()()()()()()()()()だったのだ。

 

 ベリアルは普通だった。普通でしかなかった。

 宇宙警備隊の初代隊長に選ばれる者は清廉潔白な聖人でなければならず、感情に流される者も悪を行いかねない者も選んではならない。

 普通の心の持ち主では駄目なのだ。

 人間基準であれば、"そんな人間は存在しない"と言い切れる。

 "どんな人間でも悪には堕ちる"と言い切れる。

 

 だからこそ人間の組織には腐敗というものが存在し、人間には悪人というものが存在し、堕落という言葉が存在するのに、光の国は上から下まで綺麗なままなのだ。

 

「私は、ウルトラマンキングは、間違っていたのかもしれない」

 

 カプセルの中で、キングは想う。

 

「あの時、もう少し待つべきだったのかもしれない。ベリアルを封じたあの時に」

 

 カプセルの中で、キングは悔いる。

 

「あの時、ケンは全力を出していなかった。

 ベリアルと戦うことを躊躇っていた。

 私があの時手を出さなければ……ケンとベリアルは決着をつけ、あるいは……」

 

 カプセルの中で、キングは省みる。

 

「強者は迂闊に動いてはならない。

 力ある者は無自覚に他者から奪ってしまう。

 ゾウが無自覚にアリを踏み潰してしまうように。

 私がケンとベリアルから決着の機会を奪ってしまったように。

 ウルトラマンとウルトラマンの戦いが、地球人を巻き込んでしまうように」

 

 あの時、誰もが気付いていなかった。

 ケンですら気付いていなかった。

 ベリアルが闇に堕ちたのは、ケンの優秀さと、ケンの優秀さを認めていたベリアルの両方があって初めて成立したのだということを。

 

 ベリアルが心底認めるケンには、プラズマスパークがなければ勝てないという確信。

 ケンの力量に対する最大の賛辞と評価と信頼があったからこそ、ベリアルはプラズマスパークへと手を伸ばした。

 ケンがもう少し弱ければ、ベリアルが鍛錬で超えられる領域に居れば、ベリアルがプラズマスパークに手を伸ばすことも、レイブラッドに堕ちることもなかったかもしれない。

 

 偉大な光の父であるセブンが実父だと知る前は単純な力を求め、知った後は父と自分を比較しながら光の道を選んだゼロとは、同じであると同時に対照的でもあった。

 

 光があった。

 自分の比較対象になる光があった。

 ベリアルはケン。

 ゼロはセブン。

 ゼロは『ウルトラマンらしく』、父と同じ光の道で父を超えていこうとした。

 ベリアルは『ウルトラマンらしくなく』、光から目を逸らした。

 地球にはありふれている普通で人間らしい弱さと闇が、ベリアルの中にはあって。

 人間世界では埋没するようなありふれた苦悩が、ベリアルの中にはあって。

 

 地球人とは何の関係もないベリアルの遺伝子から作り上げた生命体の成功作は、何故だか不安定なところもなく、異形である部分もなく―――地球人のような、心と姿をしていた。

 

 

 




セブン&ゼロや父&タロウは時々しか「俺はお前の父親だ」「お前は俺の息子だ」って言わないけどベリアルはジードを前にすると笑っちゃうくらい父親だ息子だって連呼しますよね
多分あれウルトラマン価値観基準だとめっちゃ異常
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