お正月企画三題噺シリーズ・ネクスト   作:ルシエド

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 お題は『無重力』『怪しい薬』『エイトメロディーズ』。
 パワポケ良いだろ! という作者のパワーと怪しい薬でああなったカズ幸せになれ!という祈りをとにかく詰め込みました。

カズ幸せになれ……正史で幸せになれ……

カズ幸せになれ……正史で幸せになれ……よしこんだけ祈れば叶いますよね多分


第十九回:ヒストリー・パワポケヒロイン

 大江和那は飛んで行く。

 正確には落ちているだけなのだが、飛んで行くと表現する。

 落ちて行く人生が終わってから、和那はずっと自分の能力を飛んで行くと表現していた。

 

 かつての彼女の人生は、落ちて行くだけだった。

 保有する超能力も重力の向きを変えるだけ。

 空を華麗に舞うように見せても、その実空を自由自在に落ちているだけだった。

 敵は増え、降伏は遠のき、かつて夢見たものは失われ、戦いに終わりの無い人生。

 摩耗する中で自分らしさを見失い、非殺と殺人の境界線を行ったり来たりして、正義のために戦った後は悪に媚を売り、正義と善のどちらを信念に据えているかも分からなくなり。

 

 その後もまあ色々とあって、個人の幸せを追求するならともかく、社会的倫理を考えると全く正しくない道を行き。

 終わりなき戦いが終わった後は個人の幸せを求めてみるものの、本当に散々に苦労して。

 何やかんやでなあなあの着地点を見つけ、胸が痛くなる人生を送って、周りの人の善意に救われ何とか幸せをゲットした。

 

「おーす、朱里!」

 

「突然空から降って来ないでよ、迷惑ね」

 

「無重力飛行! あっはっは! まあ落ちてるだけなんやけどな!」

 

 空から"ゆっくり落ちてきた"和那に、和那の親友・浜野朱里は苦笑した。

 

「ウチはなあ、好きな人と結ばれて、アホほど子供作って、年とって……

 んで、孫とひ孫に囲まれて往生するって夢があったんや。叶いそうで何よりやで」

 

「そーですか。あたしは特に祝福とかしないわよ」

 

「けけけ、そーかい」

 

「で、何の用よ」

 

 和那が朗らかに笑う。

 

「うちの子もすくすく大きくなっとるんやが、そろそろ子守唄も必要かなと思うてな。

 んで知り合いの中で子供がいる奴に子守唄のワンフレーズだけ貰って、子守唄作ろ思って」

 

「あんた、このタイミングになってそんなの調べ始めるって本当に母親?」

 

「うっさいなあ、子供生まれる前からウキウキで色々集めてた朱里とは違うんや」

 

「う、うるさいわね」

 

 子供が生まれて結婚するまで色々ゴタゴタしていた和那と違い、朱里は結婚と出産の前にしていた生活が極めて平和で穏やかだった。

 その差は大きい。

 朱里は赤い顔を隠して、ワンフレーズ伝える。

 

「へへ、おーきに」

 

 遠くから、朱里の三人の子供が駆けて来る。

 様子が済んだ和那は、絡まれるのが面倒だからと飛び上がった。

 

「あんたはもう大江和那でもないし、茨木和那でもないのよ。三つ目の名字、大事にしなさい」

 

「へーへー。そんなん、あたしが一番よく分かっとるわ」

 

 時は流れる。

 

 彼女らはもう、落ちていくだけの少女達(ファーレンガールズ)ではない。

 

 

 

 

 

 次に向かったのは、とあるマンション。

 ここにある二つの部屋は二人の旦那・二人の奥様・その間に生まれた子供達が揃ってとんでもなく仲が良い。

 両方の家の子供達が、もう片方の家の子供達をピンクだーブラックだーと相性で呼んでいるくらいだ。

 

「よっすー」

 

「む」

「あ、ダークスピア……じゃなくて和那! 何よ、何しに来たの!」

 

「大した用じゃあらへんて、ピンク。実はな」

 

 かくかくしかじか。

 

「なるほど、分かった。協力する」

「別にいいわよ。そんな苦労することでも無いし」

 

 二人からワンフレーズを貰って、これで三つ。

 

「サンキューサンキュー。それにしても……」

 

「何よ。何か文句でもあるの?」

 

「や、ブラックは人間の姿の方が本体やし分かるんやけど」

 

 和那はピンクの下腹部を見た。

 彼女は人間の思念から生まれた具現化生物であり、ヒーロースーツこそが本体で、今している人間の姿に『変身』している変身ヒーロー……いや、変身人間だ。

 

「スーツが本体なお前に子宮があるっちゅうのが……」

 

「デリカシーっ! いや、確かに無かったんだと思ってるけど。生えてきたのよ多分」

 

「なんでもありやなあ、具現化」

 

 ブラック、芹沢真央。

 ピンク、桃井百花。

 二人は存在そのものが、『人の想いに不可能はない』という証明である。

 

「思えばなんでもできるのよ!

 それがあたしやブラックを生み出した人間ってもんでしょ?

 人間が生み出した人間だって、思えばなんでもできたってだけの話じゃないの」

 

「思えばなんでもできる。せやな、あたしもそう思うわ」

 

 思えばなんでもできる。

 かつて諦めた幸せも今は手の中にある。

 最後の最後に諦めなくてよかった、と和那は思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 飛ぶように落ち、落ちるように飛び、和那は金のかかってそうな屋敷の部屋に飛び込む。

 

「子守唄のフレーズ頂戴な!」

 

「……」

 

 部屋の主、野崎維織が飛び込んで来た和那に目を向ける。

 

「……?」

 

 首を傾げる。

 長い髪が肩にかかって、傾げた首に連動する。

 よく分かってない顔だ。

 

「……」

 

「オイオイオイオイさらっと本をまた読み始めるなや!」

 

「私?」

 

「あんた以外に誰がこの部屋におるんや!」

 

「だけど私は、子守唄なんて歌ったことが……」

 

「あ、そうなん? そりゃ悪いことを……」

 

「……あるけど」

 

「あるんかいっ!」

 

 四つ目のフレーズもゲットした。

 維織は天然なので不安だったが、貰った子守唄のフレーズは至極真っ当だったので安心する。

 

「ほな、さいならな」

 

「和那」

 

「ん?」

 

 維織は本を閉じ、詩を詠むように語り出す。

 

「人間は人生で沢山の人を好きになる。

 きっと私や、貴女のような人種の方が、多分少数派。

 途中で好きになった人と最後に好きだった人が別な人も居る。

 一度に複数の人を好きになる人も居る。

 でも……それなら、最後に好きになって貰えれば、過程がどうであっても勝ちだと思う」

 

 和那は野崎維織の旦那が他の女と最初は結ばれ、旅立ち、女の命と旅が終わってから街に戻って来たところを捕まえたのだ、と夏目准から聞いた話を思い出した。

 

「……おっどろいた。あんたが長台詞吐いたん見るの、初めてやわ」

 

「うん」

 

「あんがとさん。ほな、行くわ」

 

 誰の人生にもドラマが有り、誰の人生にも山がある。

 

 和那は、自分だけが苦労しているわけではない、と何度目かも分からない再認識をした。

 

 

 

 

 

 迂闊に飛び込むように近寄って、痛い目を見たことがある。

 なので和那は、離れた場所に着地して、普通に歩いて近付いた。

 そうしないと危険がありそうだと思えるのが、雨崎千羽矢の怖いところである。

 

「カズさーん、そんな歩いて恐る恐る近付かなくてもいいのに」

 

「うおっ、この距離で背後から近付く足音消したあたしのことが分かるんか」

 

「足音聞いてりゃそりゃ分かるよ。空飛んでるのも音で分かってたよ?」

 

「身体能力すんごいなあ……」

 

「ちなみにLINEで人脈使ってカズさんの目的も判明させております」

 

「人脈もすんごいなあ!」

 

 五つ目のフレーズも、速攻で回収してしまった。

 恐るべし雨崎千羽矢。

 ヤバいヤバいぞ雨崎千羽矢。

 旦那が昔から運動で勝てない、口でも勝てない、まさか夜の生活でも勝てなくなるとは思わなかった……とか言うだけはある。

 

「子守唄に野球とか、チハヤらしいような、らしくないような」

 

「んー、誰が子守唄のワンフレーズとして提案してもおかしくはない、と思うんですけど……

 逆にそのせいで、誰も提案しなくて子守唄に入らないフレーズになる気もしちゃいまして」

 

「あー」

 

「やっぱホラ、野球でしょ。

 息子でも娘でも野球して欲しい……みたいな」

 

「分かる分かる、ウチらはそういうもんや」

 

 野球バカが居て、野球バカに惚れた女が居て、その子供が野球をするようになって。

 自分の子供が野球をやって、知人友人の子供と一緒に野球をするようになったら。

 それはとっても素敵なことだと、千羽矢も和那も思うのだ。

 

「後はそうだね、私もカズさんも子供が化物だったり超能力者だったりしなければいいね!」

 

「うおっ、考えたくないことを!」

 

「能力無けりゃないでいいけど、あるなら野球でズルしないよう言い含めないといけないしさ!」

 

 馬鹿みたいに笑う千羽矢は、そのことを懸念してはいても、心配している様子は全く見られなかった。本当に心の根っこの部分から強い子なんだなあと、和那は思うのだった。

 

 

 

 

 

 突撃! 瑠璃花家!

 もう南雲じゃない瑠璃花さんの家に突撃した和那。

 瑠璃花はツンデレの素養があるだけで地雷要素の無い、性格に関する問題点がほとんどない和那の知り合いの中でも指折りの安牌である。

 不安になることなどまるでなかった。

 

「はぁ、子守唄のワンフレーズですか」

 

「せやせや」

 

「では、こんなのはいかがでしょうか」

 

 手早く貰って、これで六つ目。

 

「今お客さんがいらしてまして、手早く終わらせてしまって申し訳ありません」

 

「ええてええて、忙しいのに時間割いてもらったのが申し訳ないくらいや」

 

「……そうですわ!

 今来ている方は、私も尊敬している方なのです。

 もしまだフレーズを貰う相手が決まっていないのなら、その方にも貰ってみては?」

 

「ええんかな? せやったら、あたしも助かるけど」

 

「ええ、名付け親になってもらうようなものでしょう。

 それでいて名付け親ほど重くもありません。先方の反応次第ですわね」

 

 瑠璃花が聞いてみたところ、快諾してもらえたらしい。

 どうやら良い人であるようだ。

 赤の他人の助けになることを、これっぽっちも迷惑に感じていない。

 実際に顔を合わせてみると、明るい表情と雰囲気にハキハキした話し方で、和那はその女性に好感と"いい女"という印象を受けた。

 

 年齢はもう50手前の女性に見えたが、それでも"いい女"に見えたのだ。

 

「あたしは和那っちゅうんですが、お名前伺ってもよろしいですか?」

 

「あたし? 四路智美。うーん、子守唄に『ロマン』の一言でもあれば良いと思わない?」

 

 先人が和那に言葉を残してくれる。

 

「私はね、色んな男性のヒロインになってきた女の子達を見てきたの。その上で言うよ」

 

 先を歩いてくれた人が、惚れた男と結ばれた和那を祝福してくれる。

 

「頑張れ、ヒロイン! 母親になってからが本番だからね!」

 

 それだけで、和那は嬉しかった。

 

「はいっ!」

 

 

 

 

 

 七つ目を貰って、和那は最後の家に向かう。

 

「やっ」

 

 紫色の髪をした女性が和那を見て、溜め息を吐いた。

 

「ワンフレーズだけやる。早めに帰れ。うちの娘はお前のことが大嫌いだからな」

 

「あんたの懐が異常に深いだけやと思うけどなぁ」

 

 この女性は確信している。

 『彼』が一番に愛しているのは自分だと。

 和那が不安になるのは、彼女と違ってそう言い切れないから。そう確信できないから。

 色々としたゴタゴタがあって、和那は認めざるを得なかった。

 根本的な心の強さというステージでは、この女には絶対に敵わないということを。

 

「ほな、またな」

 

 八つ目を貰って、和那は家に向かって飛んで行く。

 

「ああ、またな」

 

 その背中を、天月五十鈴は優しい目で見送った。

 

 

 

 

 

 世界は主人公とヒロインだけでは完結しない。

 もっと多くの人間が絡み合って、助け合って、敵対し合って構成される。

 そして生まれた家庭の数だけ、お父さんとお母さんという主人公とヒロインが居る。

 ヒロインの物語においては、ヒロインこそが主人公であり伴侶の男は添え物だ。

 物語が、世界を積み上げ編み上げていく。

 

 家に帰り、八つのフレーズを組み合わせ、和那は子守唄を作る。

 お隣さんに預けていた子供を受け取り、子守唄を聞かせていく。

 この子供も、幼い頃に聞いたこの子守唄を、自分の子供に聞かせていくことだろう。

 

 和那の優しい腕の中には、いつかの未来で次のヒロインのために全力を尽くすであろう、次の主人公が寝息を立てていた。

 

 

 




 まあパワポケナンバーワンヒロインはさらちゃんに決定してるんですけどね
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