お正月企画三題噺シリーズ・ネクスト   作:ルシエド

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 お題は『ガリアンのマーダル陛下』『ライブ・ア・ライブ』『#帰ってきた伝説のヒモ鷹山仁』。

 敗者の憎しみ、世界を越えて魔王に至る絶望。

捕食とは闘争、闘争は悪、悪こそが人を育て、それは日常の中にある


第二十回:敗者の憎しみ、オディオ

 引き寄せられるように、世界の守り手とオディオはぶつかる。

 

 オディオは時に魔王であり、時に欲に溺れた人間であり、時に周囲を傷付けるようになった被害者である、時に恐ろしい化物であり、総じて倒すべき敵である。

 オディオでなかった者は、オディオに至りこう語る。

 

 それは太古の昔より、はるかなる未来まで在るもの。

 平和なる時も、混乱の世にも在るもの。

 あらゆる場所、あらゆる時代に戦いの火ダネとなるもの。

 それは人間が存在する限り、永遠に続く『感情』

 その感情の名を……『憎しみ』あるいは『オディオ』という。……そう、語るのだ。

 

 オディオの名を冠した者はどんな世界にもどんな時代にも現れる。

 それを止める者も対になるように現れる。

 例外はない。

 討つ者と討たれる者、オディオとそれを止める者は世界を超え、自分の世界ではない場所でぶつかり合うことすらある。

 

「あんたがオディオって奴か?」

 

 どこかの世界で、独裁者マーダルは豪華な王座に腰を降ろしていた。

 オディオ、と鷹山仁の名を呼ぶ。

 マーダルがオディオと召喚されたことは一度も無い。

 なのに何故か、その呼称が妙にしっくりと来る自分が居た。

 

「……誰もそう呼んでいなかったというだけで、余はそう呼ばれるべきだったように思える」

 

 マーダルは自身の名を捨て、オディオという名を使い始める。

 ここが自分の居た世界ではないという確信が、オディオの胸の中にあった。

 

「ジョルディ王子……ディ、オージ……

 『席が埋まっていたから』か。

 余がオディオであったか……

 それとも王子がオディオとなる可能性があったか……

 いや、そんなことを考えることに、意味はないのだろうか」

 

 物語に主人公と宿敵というものがあるならば、主人公がオディオとなる物語も、宿敵がオディオとなる物語もある。

 

「余はあの平和を否定するために生まれ、生きたのか。

 余はあの世界が許せなかった。

 与えられた平和の中で、何の欲望も目的も持たなくなった者達の世界が!

 怒りで攻撃もせず! 希望で立ち上がりもせず! 絶望を激情で吹き飛ばしもしない!

 だから闘争をあの世界に放り込もうとした!

 あんな平和を享受し、水に溶かされる塩のように呑まれる未来の自分など、許せるものか!」

 

「ああ、分かる。おかしい世界の中で……何もしない自分が憎かった」

 

「無力なまま何もせず、間違っていると思っている状況を肯定するなど許せなかった。

 何もしない自分が憎い、許せない。

 ゆえに世界をひっくり返した自分しか許せない……

 あの結末で、余は余を許さぬまま、後を託して自らの信念と心中したのだ」

 

「……いいんじゃないか、自分を許さないまま死んでいっても。上等だろう」

 

 オディオは平和が腐らせた人間の世界を否定した者である。

 彼は闘争の肯定者。

 食らい合う闘争ではなく、混沌を前提とした闘争、悪を否定しようとする闘争だ。

 

「生命は闘争を好む。それは闘争の中から生命が生まれたからだ。彼らは戦い続ける……」

 

 鷹山仁が初めて意外そうな顔をした。

 

「初めて意見が分かれたな。

 生命が闘争を好むは……食ってやろうとするからだ。

 相手の体の肉を、土地という肉を、金という肉を。

 で、自分の肉を食われる痛みに抵抗するため、食らい合う闘争が始まる」

 

 闘争の中から命が生まれたがゆえに、命に罪は無い。

 だからこそ何も考えられず与えられる平和に悪がある、とオディオは言う。

 仁はそれに対し、そこまで善く人間を見られないのだと言う。

 命は食うからこそ罪深く、食うからこそ戦い、罪の無い作られた者ですら、他の命を食うという罪を重ねずにはいられない。

 

「闘争の中から生命が生まれたって言ったな。

 そんなことはなかったよ。

 俺が闘争のないビーカーの中で生み出した命は……ずっと、戦っていた」

 

 仁の視点から解釈すれば、オディオが居た世界の平和に毒された豚の人間は、何も喰わない生命という欠陥品に近いものがあったのだろう。

 オディオはこれ以上語ることもない、と言わんばかりに、鼻を鳴らす。

 

「永遠に腹が一杯な生き物は、必ず破綻する。それだけのことだ」

 

 王座から立ち上がるオディオの姿は、仁には恐ろしい異形に見えた。

 魔王になった人間に見えた。

 憎しみの名が、オディオでなかった者をオディオに至らせる。

 仁はこれを倒せば元の世界に戻れるだろう。

 この戦いを記憶に変えて。

 その邂逅を教訓に変えて。

 自身とアマゾンに関する憎しみを捨てられず、それをもって終わりなき戦いの火種となってゆくならば、鷹山仁もオディオと成り果てる可能性はある。

 

「俺も一歩間違えたら『そう』なるのか……

 あるいは、俺もその内『そう』なるのか……

 ……もしかしたら、もう『そう』なってるのかもな」

 

 ベルトを巻いて、起動する。

 

「アマゾン」

 

《 アルファ 》

 

 切り刻み、切り刻み、切り刻んだ。まるで野獣のように。

 

「お前は人間であることをやめたのだな」

 

「……人間を守るには……人間をやめないと、な」

 

「覚えておけ。

 お前は怪物を狩れない人間であることが嫌になったのだろう。

 だが、人間である以上、人間であることが嫌になったなら……おしまいだ」

 

 拳を握り込み、憎しみを噛み潰し、硬い床に踏み込んで。

 

「知ってる」

 

 終わった世界の残り香である憎しみの首を、仁の刃が刎ね飛ばした。

 

 

 




●五常の徳・仁
 他人に対する親愛の情、優しさ。人を思いやること。愛すること

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