アルテラ・レガシー=セファール
昔、昔のこと。
宇宙に存在する知的生命体のほとんどが恐れた、二つの破壊神があった。
片や、アザルドと呼ばれる者。
星から星へと渡り歩き、娯楽のように全てにぶつかりことごとくを壊す破壊神。
片や、セファールと呼ばれる者。
捕食遊星ヴェルバーの端末として活動し、星を破壊するという形で収穫する、文明のリセッターと言っても良い破壊神。
かつて宇宙は、この二柱の破壊神によって蹂躙されていた。
目を付けられれば手遅れ、手を伸ばされれば破滅、触れられてしまえば終焉。
大昔に一度、この二つの破壊神がぶつかりそうになったこともあったが、結果から言えば二つの破壊神はどちらも死に至ることなく終わった。
一説には他ヴェルバー端末の介入があったと言うが……事実は、定かではない。
事実として存在するものは、ヴェルバーの中に記録された、セファールとアザルドの最後の会話のみ。
「アザルド」
「てめえは初めて見つけた俺と対等の遊び相手だ。俺以外の誰にも負けるんじゃねえぞ」
やがて、セファールはヴェルバーの指示に従い地球という星へと向かい、それを耳にしたアザルドもその後を追い―――どちらも、帰っては来なかった。
二柱の破壊神は消えた。
宇宙の誰もが、こう思う。
滅びたわけがない。あの二つが滅びるわけがない。だが……地球には、どれほど恐ろしいものがいるのだろう? どんなに異常なものが居るのだろう?
ああ、なんと恐ろしい。
ヴェルバーの抱える神の如き端末と、不死身の神の如き怪物を、倒してしまうだなんて。
セファールが星の聖剣エクスカリバーによって打ち倒され、その一部が独立した『アルテラ』という人間として認識され、英雄としての記録を残してから永き時が経過した。
アザルドが星の結晶キューブホエールによって打ち倒され、封印されたアザルドが宇宙外からの飛来生物によって地球に落ち、大地に埋まり果ててから永き時が経過した。
実に、数万年にあたる途方も無い時間が過ぎる。
彼らは宇宙を蹂躙し、神にも勝利し、地球に敗北し、人に敗北した。
されどその程度で滅びる存在などではなく。
人類史を動き回るという形で、あらゆる時、あらゆる場所を駆け回る者達にとって。
ヴェルバー・セファール・アルテラ・アザルドの物語は、いつか必ず触れるものだった。
アザルドが目を覚ます。
既に封印は残っていない。
力には何の枷もなく、あれほど動かなかった体が嘘のように自由だった。
途方も無い時間の経過が記憶も、力も、寝ぼけた頭のように胡乱にしていたが……アザルドは眼前の『普通の男』、そして『褐色肌の女』を見て、その意識と記憶を完全に覚醒させる。
「マスター、頼みを聞いてくれて感謝する」
「それはいいけど……大丈夫なのかな?
俺は破壊神、って聞くだけでちょっと尻込みするけど」
「分からない。ただ、私には分かる。『可能性』はなくもない」
「そっか。じゃあ俺も、アルテラの判断を信じるよ」
「ありがとう」
アザルドは、かつて決着がつかなかった強敵を見て歓喜し、自由になった体を起こして力の充実感に笑み、やがて"彼女に助けられた"ことを理解して困惑した。
「……『セファール』、か? まさかてめえが……」
「今の私は、アルテラと呼ばれている」
「アルテラ、ね。ああ、なんだか知らねえが、悪くねえ。かなり悪くねえぞ」
何度も変性を迎え今の形となったアルテラと違い、今のアザルドは
因縁も、信念も、大昔のそれをそのまま保持している。
アルテラに襲いかからんとするアザルドの迫力に、カルデアのマスターはその身を震わせ、アルテラは眉一つ動かさずにその威圧感を受け止めた。
「なんだか知らねえが、てめえのお陰で最高の気分だ。さあ、あん時の続きをやろうぜ!」
「嫌だ」
「……あ?」
「私はお前と戦いに来たのではなく、仲間に勧誘しに来たんだ」
「舐め腐ってんのか? 俺とてめえはそんな関係じゃなかっただろうが」
アザルドの知る
目の前のアルテラは、確かにそれそのものなのに。
何かどこかが、決定的に違っている。
「俺は不死身だ! 俺は破壊神だ!
だからこそだ、分かるだろ? 肝心なのは『対等』だ!
俺が認めたそいつと俺が対等で、何かを競っていくってことだ!」
彼は本質的に破壊者であり、狩猟者である。
彼の中では狩る対象である弱者と、狩りを競う同格者がハッキリと区分されている。
彼の視界の中では黒髪のマスターが弱者、その横のアルテラが同格の強者と、ハッキリと区分されていた。
「お前はどうだ、アルテラ!
俺と戦った時、心は踊らなかったか?
対等の野郎を見つけて、そいつが自分を楽しませることを期待しなかったか?
前の冷てえてめえならともかく、今の冷たくなさそうなてめえはどうなんだ?」
ふぅ、とアルテラが深く息を吐く。
「分からない、でもない」
「だろう? てめえと俺に、敵として戦う以外に何が有る」
「それは分からない。そもそも私は、私に戦い以外の何があるかも分からない」
「何言ってんだ?」
アザルドには破壊しかなかった。アルテラには破壊しかなかった。
今もアザルドには破壊があるのみだが……今のアルテラは少なくとも、破壊以外の何かを求める心がある。破壊以外で自分を表現する何かがある。
破壊することでのみ自分を表現するアザルドから、彼女は少し離れた場所に居る。
「アザルド。
お前は対等の者と殺し合いたかったのか? 潰し合いたかったのか?
高め合いたかったのか? 競い合いたかったのか?
対等の者が消えることをお前は望むのか?
対等の者が死に絶えることをお前は望むのか?
記録に残るお前の姿を、かつての私ではなく、今の私が眺め、思ったことは……」
アザルドは弱者を蹂躙し、強者も蹂躙し、何かを守ることにも向いていない、タイプとしては悪に分類される……カルデアでは珍しくない、正義の敵に適した男だ。
その男の嗜好を、アルテラはよく理解している。
「お前が望むものは、敵も味方もお前と対等である、皆がお前を楽しませる環境だ」
「―――」
アザルドの雰囲気が変わった。おそらく、いい方向に。
「私が保証する。この男の隣はおそらく、壊すものだけは事欠かない」
アルテラが背を向け、歩き始める。
その後を追うようにして、アザルドがマスターの横に歩み寄った。
「はっ。あいつ何言ってんだ。
あいつが一人居りゃ、俺が殺す者も壊す物も残らねえだろうによ」
「いや、ダメなんだ」
「何がダメなんだ? ハッキリ言えよ」
「アルテラが居てもまだ足りない。
だから俺はここに来たんだ。
アルテラが強いと断言した、宇宙の破壊神に力を貸して貰うために」
"壊すものだけは事欠かない"というアルテラの言葉がチラついて、"とにかく暴れたい"というアザルドの欲求と、マスターの要求が脳内で噛み合う。
アザルドは興味を持った。
眼前の弱っちそうなマスターに、ではない。
そのマスターが挑もうとしている敵に、だ。
「敵はどいつだ?」
「この星を、皆の歴史を、滅ぼしてしまえるような奴らだ」
「……はっ」
笑える話だ。
悪い冗談のようだが、どうやらやってしまえるような連中がこのマスターとやらの敵で、見方によってはそれは完遂されたらしい。
アザルドは興奮と不快感の両方を覚えた。
滅ぼせなかった。
負けた。
封印された。
自分も、自分が認めたセファールもだ。
だからこそ、地球の命の力とやらをアザルドは心の底で認めてはいた。
それがこのザマだ。
自分達を撃退した力と命の全てが『お前達の歴史は間違っていた』という否定に負け、一切合切消し去られかけたのだという。
だからこその興奮と不快感だ。
そんな強者とぶつかり、叩き潰せるのだという高揚。
自分達に勝ったような者達があっさり負けたということへの侮蔑。
それが興奮と不快感に直結しているのだろう。
だからこそ、彼の感情は沸騰した。
(この星の全てを狩り尽くすのは、この破壊神アザルドだ)
彼が納得する結末は、自分かアルテラのどちらかがこの星を破滅させる結末以外にありえない。
「俺を楽しませろ。俺を楽しませてる間は、俺もお前を楽しませてやる」
「……ああ、よろしく。バーサーカー・アザルド」
アザルドという破壊神は、きっと平行世界の者達を皆殺しにしても狼狽えない。愛ゆえに滅ぼす人類悪を潰そうとも後悔しない。善い想いを命ごと踏み潰しても罪悪感は抱かない。
好き勝手に暴れて何もかも壊す破壊神が、ここでは誰かと共に戦える。
バーサーカー・アザルドが、カルデアの戦力に加わった。
「なんだこれ邪魔くせえ」
(パンツ脱いだ!?)
封印中、アザルドのムキムキな体躯は封印アイテムであるキューブと、何故か布っぽい黒パンツによって覆われていた。
キューブっぽい部分はキューブによる封印のため納得もできるが、股間を包む謎の黒パンツがキューブ由来でないことは間違いない。謎の黒パンツであった。
アザルドは体表に残っていたよく分からないそれを脱ぎ捨てたが、そのせいでマスターに"人前でパンツを脱ぎ捨てる破壊神"として認識されてしまう。
以後しばらく、『アトラス院の破壊神』という彼の異名がカルデア内で定着した。
第一部で仲間イベント起こしても第二部で仲間イベント起こしても運用法が基本「敵陣に放り込んで適当に暴れてもらう」になっちゃう系実体持ちタイプサーヴァント