西暦20000年ッ!
201世紀の近未来ッ!
全てが歴史になった未来の果てでも、天に輝く五つ星ッ!
西暦20000年ッ!
201世紀の近未来ッ!
世界の平和は、五星戦隊ダイレンジャーが守っていたんだァ!
五星戦隊ダイレンジャー。それは、ダイ族の子孫によって構成される平和の守護者。
20世紀も、21世紀も、25世紀も、28世紀も、その後もずっと世界の平和は彼らが守ってきた。
家族を守ると決めた男が、恋人を守ると決めた女が、人々を守ると決めた警察官が、あまりにも強すぎる巨悪に脅かされた―――そんな時。
悪と対になる正義として、彼らは必ず現れる。
「悪いな各道、また奢って貰っちまってよ」
「いいんですよ、いつもアイツらから街を守ってもらってるお礼です。
金欠ならいつでも頼って下さい、頼ってもらえて正直嬉しいんで」
「へへっ、マヨマヨ」
「……まあなんというか、マヨラーもほどほどにしたほうがいいですよ、リョウさん」
彼の名はリョウ。
天火星の戦士であり、天火星の赤き戦士は21世紀から数えると始めて――つまり180世紀ぶりの赤き天火星の戦士――ということで、仲間内でもちょっと評判の男だった。
とにかく強いが、とにかく不器用。
真面目だが常に金に困っているという情けないチームリーダーだ。
各道はダイレンジャー、その中でも特にリョウを支援していた。
彼の先祖は20世紀から21世紀にかけてのダイレンジャーに助けられ、それを恩に感じてダイレンジャーの支援を徐々に開始し、子孫にもダイレンジャーを助けるよう命じたのだという。
角田家はそれはもう真面目で義理堅い家系だったもので、それから180世紀以上経っても真面目にダイレンジャーの支援を続けていたというトンデモ一族だった。
そんな180世紀以上の時の間にダイレンジャーが角田の一族を助けたりするパターンも増え、ダイレンジャーがまた助けられ、悪の組織がまた湧いて……の繰り返し。
かつてのダイレンジャーの戦いは、既に記憶でも思い出でもなく、歴史になっていた。
「うまうま」
「マヨラーのリョウさんはそれでいいかもしれませんけど……
俺ぁ、あの大神龍ってやつのせいでストレス溜まりっぱなしですよもう」
「ん、そうか」
大神龍。
それは、大昔からダイレンジャーの戦いの傍らに在ったもの。
宇宙の秩序を守るため、大宇宙が生み出した宇宙の化身であると言われている。
宇宙そのものであるため打倒は事実上不可能であり、争う者全てを否定し、正義と悪の戦いに横から殴り込んでは正義も悪も滅ぼしてから去っていく。
争いを止めれば一時的には去ってくれるが、正義と悪が争わないなんてことないわけで。
正義だけの宇宙も悪だけの宇宙も歪んでいる、とばかりに正義と悪のどちらかが勝ち切る結末を潰していく。
正義が無くなることも、悪が無くなることもない。
それすなわち宇宙の法則、太極也。
今代のダイレンジャーと悪の組織の戦いにも、大神龍は既に介入を始めていた。
ダイレンジャーが何度勝っても悪の組織はまた生える。
悪の組織が勝ち切ろうとしてもダイレンジャーはまた蘇るだろう。
そしてどちらかが極端に勝ち切ろうとすれば、それを大神龍は許さない。
正義を傍らから眺めている各道からすれば、ストレスが溜まって仕方がなかった。
「犯罪者を処罰するのを否定してるようなもんじゃないですか、アレ?
正義ってのは一応『皆』に支持されてるもんであって。
悪ってのは一応『皆』に迷惑かけて否定されてるもんであって。
いいじゃないですか別に、正義のヒーローが最後まで勝ち切ったって」
「んー」
リョウはマヨ丼を頬張り、飲み込み、口を開く。
「俺は……まあ、マヨラーだ」
「知ってますよ」
「一般的にはこんなにマヨをかけることはおかしいことだ。
栄養士とかなら、俺にマヨ禁止を言いつけるだろうな。
俺の健康を考えるならそれが正義で、一番優しい判断だ。
……でも、食いたいもん食いたいな、って思ってる俺から見れば悪じゃないか?」
「え」
「あいつらは悪で居てくれてる。
俺は皆の自由と平和を守る正義でいようと努力してる。
でもな、俺は自分が間違いなく正しい存在だーとか思ったこともなくてな」
リョウは更にマヨをぶっこんだ。
丼の中はコメが1、マヨが3という割合である。
そんな健康に悪いゲテモノを、リョウは心底美味そうに口へかっこんでいた。
「お前にとっての正義はどっちだ?
俺の健康を守ることか?
俺に食いたいもん食わせることか?
で、お前の中でどっちかが正しければ、もう片方は間違ってんのか?」
各道は言い淀む。
「正義と悪なんて、マヨネーズと同じだ。
割かしあやふやで、大神龍にとっちゃ同じようなもんなんだろうよ。
俺はマヨネーズが好きだから食ってる。
皆が好きだから人を守る。
平和が好きだから悪と戦う。
そんなもんでいいのさ。きっとそう自然に考えるのが、悪の敵ってことなんだろう」
「でも……でも! それでも!
それじゃ何の意味も無いじゃないですか!
正義が最後に勝ち名乗りを上げるのもダメで!
倒したはずの悪はその内蘇ってまた人々を苦しめて!
ダイレンジャーは永遠に戦ってなくちゃいけないなんて、そんなの!」
意味がないじゃないか、と凡人は言う。
んなこたーない、とヒーローは言う。
「意味はある。意味はあるのさ。
少なくとも俺は、お前の平和を守れた。
何の罪もない人の命と平和を守れた。
最後に大神龍が来て台無しになっても、その事実だけは絶対に変わらない」
「―――!」
「勝ちきれなくちゃ意味が無い?
悪が復活するなら悪を倒しても意味は無い?
おいおい、冗談キツいぜ。
俺達は悪の高笑いを潰すためじゃなく、悪から笑顔を守るために戦ってきたんだ」
これまでも、これからも、な。
そう言って、リョウは箸を置いて店を出る。
どこかの誰かの悲鳴でも聞こえたのかもしれない。
各道はヒーローの気高さに感極まりながら、ヒーローには絶対になれなそうな自分の気質を蔑んで、正義と悪が常に並立するこの宇宙の悪辣さを呪う。
どんな世界でも、善悪の片方だけが滅びることはない。光と闇は常に並立する。
ヒーローと悪が常に争う世界の形は、まるでヒーロー物のTVシリーズのようですらある。
人の心にいつも光と闇が有るように、人の世界はいつも善と悪が争っているのだ。
大神龍は、それをその身で知らしめている。
「マヨネーズと同じ……か」
各道は目を閉じ、心の中を整理して、それからリョウの後を追った。
野次馬が集まっている公園の真ん中で、人々を脅かす悪とリョウが対峙している。
「リュウレンジャー! 天火星、リョウッ!」
名乗りを上げ、単身ドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥエとおっそろしい動きで悪を追い込むリュウレンジャー。
だが、なんと敵まで似たような恐ろしい動きをし始める。
その動きはこの近未来で発達した未来武器の性能をもってしても、まるで敵わないという領域の動き。
現代の兵器技術の発展に合わせ、ダイレンジャーとその敵の強さもインフレしていた。
「頑張れ、ダイレンジャー!」
「がんばえー!」
「まけんなリュウレンジャー!」
正義が強ければ悪も強い。
悪が滅びれば正義も消える。
いつだって正義と悪は釣り合うよう宇宙の法則に調整されていて……その上で、ダイレンジャーは勝つ。頑張って勝つ。努力して勝つ。
正義と悪が拮抗する宇宙の法則の中、彼ら正義は必ず勝つ。
その勝利は宇宙が決めた事柄ではなく、"勝つ"と決めた彼らの心が招いた結果だ。
「おう! そっから動かず応援してろよガキンチョ共! 今日も勝ち星見せてやるッ!」
意味はある。
意味はあるのだ。
守れた物が意味になる。守れた者が意味になる。
正義が勝ち切ることがなく、悪が勝ち切ることがなくても。
各道はダイレンジャーを尊敬し、ダイレンジャーに死んで欲しくないと思い、ダイレンジャーにいつだって勝っていて欲しいと思う。
「おぅらダイレンジャー大好きマンのお通りだ道開けろ道! 邪魔だ野次馬ァ!」
西暦20000年、201世紀の近未来。
ダイレンジャーは滅びることなく、悪と戦う正義として人々の世に寄り添っていた。
人の寿命が尽きるとも、星の寿命は尽きまじに―――天に輝く五つ星