お正月企画三題噺シリーズ・ネクスト   作:ルシエド

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 お題は『うわっ…私の年収、低すぎ…?』『空の境界』『GOD EATER』。

 両儀式は夢を見た。あまり意味のない夢。見ても見なくても変わらない夢。だがその夢は、かつて戦った起源覚醒者のことを少し思い出させていて……


第七回:その世界にそぐわぬ起源を両儀式はいかにして理解したか

 夢を見た。

 近いようで遠く、同じようで違い、表裏のようで内外のような。

 自分が今居る場所と、同じようで違うような夢を見た。

 

 両儀式が見た夢の話は、喫茶店にて黒桐鮮花にほどよく聞き流されている。

 

「それ、違う世界の夢?」

 

「それが分からないから、オレはおまえに聞きに来たんだよ」

 

「『鮮花なら分かるだろう』って本気で思ったっていうの? アンタが?」

 

「よく学んでるんだろう、師匠筋の人間から」

 

 む、と鮮花が眉をひそめる。

 式に素直に協力するか、しないか、かなり迷っているようだ。

 だがそれは、『協力するか迷う』であって『まるで分からない』ということではない。

 迷った末に気まぐれを起こして、鮮花は式への助言を決めた。

 

「平行世界も、編纂事象も、剪定事象も、異聞史も。

 というか、定義されるあらゆるもの全ては、両儀から生じているんでしょう」

 

「前に色々と言われた覚えはあるが、さっぱりだ」

 

「ええと、つまりどこか……()()()()()が見えてるんじゃない?」

 

 人間は全て、根源から流れ出す時間という名の川に乗って流れているようなものだ。

 平行世界とは、同じ根源から流れ出た隣の川である。

 川の分岐点でのみ人は違う支流を選ぶことができ、大昔に分岐した川には行けない。

 

 違う川を見る、違う川に移動する、ということができるのは、原則的に根源(源流)に到達した魔法使いか、根源に紐付きになっている式くらいのものだろう。

 

 式は夢見るという形で、違う川を眺めていた。

 違う川で嵐を越えようとしていた者達に力を貸していた。

 全てはおぼろげな夢の記憶で、式もハッキリと覚えてはいない。

 ただ、好感を持てた夢の住人のことくらいは、今になっても覚えていた。

 

 問題なのは、それとは別の夢で、嫌悪感を覚えた相手のことを覚えていないことだった。

 

「どうすればいい? オレは何かできるのか?」

 

「ん……源流を辿ろう、って意識を夢の中でしっかり持てばいいと思うけど。

 あと、世界を川に見立てるなら、川をごっちゃにしないこと。

 川が近くにあっても、ごっちゃにして流れを見ないようにね」

 

 鮮花からの助言を受けて、式はその日いつもより早く寝ることを決めた。

 

「ところでおまえ、コクトーから聞いたが出費と年収が……」

 

「あーあー聞こえなーい! 今年の年収がめっちゃ死んでたなんて聞こえなーい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深海に沈んでいくようにして、夢の奥深くに沈んでいく。

 海に沈むイメージと、無数に並んでいる川をかき分けるイメージが混在する。

 この流れの中を意識的に動き回れるからこその根源接続者といったところか。

 "カルデアにはこの川に触れれば行ける"というイメージが湧く。

 

(これじゃない)

 

 だがそれをかき分け、その世界線に近い川に触れる。

 

(これでもない)

 

 その世界線も違う。

 何度もかき分け、触れて指で理解して、やがて目的のものを見つけた。

 式がアサシンとしてカルデアに力を貸す度に彼女の近くに触れていた、嫌悪感を覚えさせられていた世界線の川があった。

 

(これだ)

 

 触れて、覗く。

 夢見るように覗き見る。

 その世界線もいくつかの平行世界を内包しており、それらの平行世界が次々と途絶え、終わりと新生を繰り返した。

 世界を食う神様と、神様を食う人間が居て、神様が星を食い尽くすとそこで世界の線が終わる。

 

 アラヤが終わって、ガイアは終わらず、世界は一つの終わりを迎えてまた一回り。

 式が見ているその世界は、二つの意味での神喰いの世界だった。

 神様は世界を喰った後、喰ったものを世界へと還していく。

 

(終末を呼ぶバケモノの捕食)

 

 それは原初の食物連鎖サイクルである。

 強い者が弱い者を喰い、強い者は喰ったものを大地へと還し、大地はまた何かを生み出す。

 喰うことで繋がり、喰うことでサイクルを成立させる。

 式はある男のことを思い出していた。

 自分の人生にロクに関わってこなかったくせに、関わってきた時はとことん深く食い込もうとして来た、人喰いの起源覚醒者―――白純里緒のことを。

 

(アレの源流は……これか。この世界と同じ源流部分だな)

 

 覚醒起源の多くは漢字二文字等でシンプルに表されるが、白純里緒だけは『食べる』という起源を覚醒させていた。

 何かが違う。

 何かがズレている。

 リオの動詞起源は、他の起源と何かが違うように感じられるものだ。

 

 起源は根源ではない。

 それはその存在に、最初から定められた方向性を与えるもの。

 おそらくだが、白純里緒はこの『喰うことが大前提の世界』に生まれてくるべきだった存在で、生まれる世界の線を最初に間違えてしまったのだ。

 視点を見れば、唾液が強酸、血液が変種薬物、体が再生する凶悪な怪物となった白純里緒は、いっそのこと"そういう世界"の方が起源に沿っているようにも見えるだろう。

 

 何かを間違えたかのように、変な場所に生まれて来てしまった者という者は居る。

 両儀式がまさにそれだ。

 世界の危機も、大戦争も、極大の災厄もない場所に、時代遅れの両儀のやり方が偶然大成功を収めてしまった。

 根源接続者が戦うべき相手など、彼女が住む街のどこを見ても居やしない。

 

 ズレて生まれた者が居て、ズレて生まれた者も居て、殺し合った。

 ただそれだけの話。

 

(ああ……イカれてるやつには相応の世界、ってのがあるんだな)

 

 式は夢の中で溜め息を吐く。

 根源とは何か。

 何も食わず、ただ外側に垂れ流している根源とは何なのか。

 それは両儀式の内側にある何かと一部を共有しながらも、その当の両儀式にすら知覚されず、何も得ないまま未来へ全てを垂れ流している。

 

(この流れの全部が、一つの源に繋がってるんだな)

 

 そもそも、この世界に存在するものの全ては、根源という過去の発生源から何かを受け取り、未来という何も無い方向に垂れ流すだけのものだ。

 根源から何かを貰わなければ、全てが成立しないようになっている。

 なら、未来には何があるのだろう?

 一万年後には? 一億年後には? 一兆年後には?

 過去に根源があることは分かっていても、未来に何があるかを誰も知らないのはどういうことか?

 

 それを見ようとした衛宮の魔術師なる者達も居たが、その理想は既に絶えている。

 

 未来は保証されない。

 未来の先には落とし穴が待っている、と信じている者も居るだろう。

 根源から流れ出るものがどこに行くのか、確かめようとする者も居るだろう。

 未来は必ず来るものだ。

 未来からは誰も逃げられない。

 この世の全てのものが、根源から発生したという事実から逃れられないのと同じように。

 

(……何考えてるんだか。オレらしくもない)

 

 だが式はそこで思考を止め、根源に到達する思考を止めてしまった。

 もしかしたら真理に到達し、根源に手の先が触れていたかもしれないのに、勿体無い。

 呆れた式の脳裏には、本日年収と支出であせあせしていた鮮花や、それにつられて友人と年収の会話をしていたモブの台詞が蘇っていた。

 

―――うわっ……私の年収、低すぎ……?

 

 すげーバカっぽい、とその時の式は心中にてややバカにしていた。

 けれど本当はそのくらいくだらなくてもいいのだ、人間なんていうものは。

 鮮花のように俗っぽいことで悩んでいいし、一年を乗り切ることだけに必死になっていいし、極論今日楽しむことだけを考えて生きていてもいい。

 年収と明日喰うものだけ考えていても、案外人間は生きていける。

 

 神喰いの世界は、動物的にその辺りの本質を極め切っている。

 世界は喰うか喰われるか。

 自分は今日喰われるかもしれないし明日喰われるかもしれない。

 明日を喰わせるために今日を喰わせるような、破滅思考の狂人まで居る。

 その逆で明日を残すために今日を喰わせてしまうような者も居る。

 ある種、それは非常に動物的だ。

 動物は腹が減ってくれば家族も喰うし、遠い未来の保証など求めてもいない。

 未来に文明が残っている保証を求める者など、人間くらいのものだろう。

 

 そういう意味で、式が見た『百年先を保証するカルデア』はとびっきりのイカれでもあった。

 

 普通の人間は、自分が死んだ後の百年先など興味はない。

 "百年先の子孫が地球温暖化で困るんですよ!"と言われても気にもしない。

 自分が死んだ後の世界なんてどうでもいい―――それが普通の人間であり、近未来の危機を避けられず普通に滅びてゆく人間だ。

 

 コクトーは普通で、鮮花は異常者で、式も本当にイカれている。

 世界の危機を前にして熱血になって叫ぶような精神性はない。

 必死さが微妙に足らなくて、心の熱が足らなくて、在り方のどこかが冷めている。

 鮮花はもしかしたら世界の危機に熱血するかもしれないが、それだけだ。

 それだけに、式が触れて覗いた神喰いの世界で、熱く叫んでいる謎の男の声が胸に届く。

 

『逃げるな!』

 

 分かる。

 式には分かる。

 "世界を暑苦しく救う奴"というのは、自分ではなくこういう奴なのだと。

 

『……生きることから、逃げるな!』

 

 白純里緒とはあまりにも違くて、式は感心してしまった。

 自分だけのために喰うのがリオなら、その男は自分以外のために喰って戦っている。

 カルデアにもこういう奴らがちょくちょく居たな、と式はぼんやり思い出した。

 

『これは……命令だ!』

 

 神喰いの世界から手を離す。

 

 人類史の焼却は完了したものの、完遂はしなかった。

 人類史は燃え尽き、ゲーティアの力になりつつも、それでも消えてはいなかった。

 式もまた、人類史と共に消えたとも言えるし、特異点と化したオガワハイムに生き残っていたとも言える、夢見るような環境でカルデアに力を貸していた。

 夢は終わりを迎えたが、式がそれを望む限り、式の夢は誰かの助けとなるだろう。

 

(よし)

 

 まるで、生前に幸せに生きることを夢見て、その夢を式に残して消えた両儀織のように。

 夢見るように世界を俯瞰し、他者へ攻撃する存在となった巫条霧絵のように。

 式の夢だけが、式の善意と好意によってまだカルデアに力を貸している。

 

 夢が覚めればその多くは忘れてしまうが、忘れずに残るものもある。

 

(行くか)

 

 式がこの世に生まれた意味はあったのか?

 あった。

 コクトーと出会ってくれただけで、ただそれだけで全てが肯定できる。

 彼女に生まれた意味はあった。

 

 式が根源接続者であった意味はあったのか?

 あった。

 それは敵を引き寄せ、引き寄せた敵を倒した時点でプラマイゼロとなり、後に世界を救う力となった時点で大きなプラスと成った。

 その力は、彼女が幸せに生きる未来を取り戻す一助となってくれたのだ。

 

(まだオレの力が要るってんなら……ま、袖擦り合うも多生の縁だ。力くらい貸してやる)

 

 そこに在るなら神様だって喰らう世界。

 生きているなら神様だって喰らう魔人。

 二つはすれ違い、少しばかりの影響を与え、共に世界の命運を賭けた『喰うか喰われるか』の戦いに飲み込まれていった。

 

 

 




 リオ君アラガミ野獣先輩説
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