後、今更ですが私のBFは装甲などの設定をバトルにも反映しています。そのため、BF本編とは少しバトルの様子が違うかもしれませんがご了承ください。
第四話 道化師と夜叉
真っ暗闇な空間。そこに一人の少年が居た。そこはまるで深海の底を模しているかの如く、暗く冷たい空間であった。
到底人が居る場所ではないそこに居るのはレンだ。その顔からは一切の表情は消滅し、能面の様な無表情となっている。
重く、狭くるしい場所。常人ならば顔を歪めることは必定。しかし、彼の表情からそれは到底伺えるものではなかった。実際、彼が此処に囚われるのは始めてでは無い。それこそ数年前ならば、毎日囚われていた場所である。
程なくしてレンの正面にナニカが投影され始めた。それは、映像であった。一人の幼い少年が出てくる。
始めは、何て事の無いありふれたムービーが流れる。それが一変したのは、その少年がとある場所に連れて行かれてからであった。
少年には友達が出来た。共に戦う親友だ。その親友と組んで少年は戦った。そして、常勝無敗と呼ばれ始めた。それが、少年の周囲を一変させた。
羨望は妬みへ。妬みは憎しみへ。憎しみは憎悪へと姿を変え―――最後には殺意へと変貌した。
少年にはありとあらゆる絶望が与えられた。打撲や擦り傷、痣はは軽いもの。ある時は火に炙られた、ある時は突き落とされた、ある時は溺れさせられた、ある時は轢かれた、ある時は毒を盛られた・・・・・・。
凄惨極まる光景。それを目にするレン。その表情は相も変わらない無表情。だが、握り締められたその両の拳は震えていた。
そして、少年は全てに裏切られた。親も大人も何もかもに。映像はそこで終了した。
空間が消滅し始める。浮き上がって行く感覚をレンは味わいつつ、褪せる事の無い映像に苦悶した。
少年は誓う。自らから全てを奪ったモノへの復讐を。憎むべきものへの報いを。例え、その手や足が砕けようとも憎悪に身を焼き滅ぼしてでも。その全てを費やして。
生徒会室。レンはそこに居た。
例によって例の如く、生徒会長による強制連行のためである。レンとしては百式鬼夜行の修復作業をしなければならないのだが、出来る限りの協力を約束している以上、断ることが出来なかったのである。
レンの眼前では、アンツィオ高校の対策会議が開かれていた。
「河嶋、次のステージは~?」
「はっ!アンツィオ高校との対戦は山岳、荒地ステージです!」
山岳、荒地。そう聞いてレンの脳裏に蘇ったのは、08小隊とスターダストメモリーだった。
08小隊はノリスさんのイメージも強いが陸戦型ガンダムの造形は嫌いじゃなかったし、山や森のゲリラ戦は面白かった。スターダストメモリーはガトーとコウの掛け合いがまた何とも言いがたい面白さを持っていた。
つまりなにが言いたいかと言うと、山岳や荒地の戦いは性能よりも戦い方で勝敗が決するということだ。
「んーと、たしか創始者がイタリア人だったはず」
どうやら話はアンツィオ高校についてに移っていたらしい。話を全く聞いていなかったレンは少し首を傾げた。
アンツィオ高校は、ベースがイタリアだと言われている。コロッセオなどの建築物がある他、料理やオペラをしたりとテーマパーク染みている。町並みも含めたそれは紛う事なきローマ。日本にローマがある事は可笑しいだろうか。いや、ローマで無き者は存在しない。何故ならば世界はローマであるのだから。と仰られた英雄もいる。何の問題も無い。
レンがここまでアンツィオに詳しいのには理由がある。彼が実際にアンツィオにいった事は一度しかない。が、ある者が頻繁に近況報告をしてくる御陰ですっかり詳しくなってしまったのである。
「アンツィオはイタリア風の高校だ。だから、戦車もイタリア製を使っている。先の一回戦では、CV33とセモベンテM41を使用している」
「わたくしCV33大好きです!お花を活けるのにピッタリです!」
何を言っているのだろうか。本当に戦車で花を活ける心算か。レンがそういう視線で五十鈴を見、唖然とした。その目は明らかに輝いており、活ける気満々だったからである。
「・・・・・・本当に大丈夫なのか、これ」
故に、レンが小さく呟いたのもむべなるかなであった。幸いにして、誰にも聞えていなかった様ではあるが。
「しかし、新型戦車が入ったと聞いたが・・・・・・」
「どんなの?」
どうやらまたもや話題が移ったらしい。今度はアンツィオが手に入れたという新型の話になっている。
新型というモノも厄介だ。データが無いという事は何に警戒して、何処を突くかという事が分からない。相手の情報如何では戦い方が大きく変わるからだ。だが、新型と言うものは思いも因らない欠点を抱えているものだ。そう、ギャプランやディスティニーシルエットの様にネ!
「ま、いいよ。そのうち分かるから」
ティターンズが開発したMSについて思い出していたレンに、意味深な発言が届いた。
仄かに漂う否な予感。会長はまたスパイでもさせたのだろうか。するのは勝手だが、ばれたら不味いのではなかろうか。出場停止処分などを掛けられた日には笑えない結果になるのだが。
「え?どういうことですか?」
武部が会長に言葉の真意を問いただす。それと同時に、会長室のドアが勢い良く開かれた。突然開かれたドアに全員がビクっと飛び上がる。レンも飛び上がりこそしなかったが、目を見開いて驚いた。
ドアを開いたのは秋山。その手にはカメラを携えている。・・・・・・思いっきり予感が当たっていた。
「秋山優花里、ただいま戻りました!」
勢い良く敬礼じみた格好をとる秋山。それに対して、迎える言葉を放つ一堂。
「優花里さん、ひょっとしてまた?」
「はい!」
躊躇いがちに質問をする西住。それに対して秋山は元気たっぷり返答をした。
そして、秋山はプロジェクターへとカメラを接続。映像を流し始めた。タイトルまで入れて手の込んだものだった。
動画が終ってエンドロールが流れ始めた。終盤の掛け声はなんというか、良い言い方をすればカリスマがある。悪い言い方をすれば狂気染みているとしか言えなかった。まさしく、これは酷いである。それよりもレンが驚いている事があったのだが。
「・・・・・・なんでアイツも映っているんだ・・・・・・」
噴出さなかったことを褒めて欲しい位だった。何となく、いやな感じはしていたのだ。あの高校に居る事は分かっていたが、それでも映っているなど誰が分かろうか。しかも超ノリノリで。
それよりも、最後の声に秋山の声が混じっていた気がしたのだが。
「ちょっと強そうですね」
「ちょっとじゃないだろ!」
ずれた言葉が交わされる。脱力が強いられる空間ができあがりつつあった。
「こりゃ、も少しガッツリ考えないと駄目だねぇ~」
会長の言葉が本来の議題に戻す。それに反応したのか片眼鏡がレンへと言葉を放った。
「おい、イオリならどう戦う!」
「何で俺・・・・・・?まぁ、データが無いので何とも言いがたいですがね。俺なら・・・・・・・・・・・」
この後、レンは西住ととともにカエサル達が居るという下宿先に向かわされた。P40の資料を手に入れるためだった。
翌日。戦車道チームによる練習が始まった。レンは見ているだけだが、P40の資料から西住が立てた作戦がどの様に機能するのかが気になったのだ。アドバイザーとしては気になる所だ。
キュラキュラとキャタピラの駆動音を響かせ、砲弾を放つ戦車たち。その光景は勇壮であり、一種の美しさを感じる程だ。
そんな光景を見つつ、レンは手元のクリアパーツを削っていた。先の第一回戦を終え、破損した箇所の修復を終了させたレンは、新たな武装を作製する事を決めていた。ベースとしている細剣も置いてある。
クリアパーツを使用し、プラフスキー粒子を最大限活用出る装備。恐らくこの選手権で切り札になりえる武装だ。
二回戦までの時間は残り少ない。しかも、対戦相手はアンツィオと来た。ならば、必ずアイツが出てくる。油断は出来ない。
レンがその思いを抱きつつ、武装の作製をする手を急いでいた。
高が武装一つと思われるかもしれない。しかし、その武装一つとしても完全なものを仕上げるのには大きな時間がかかる。
事実、レンが削っているクリアパーツは一つではない。箱の中には、薄くなったクリアパーツが何十も置かれていた。その色合いは殆ど同一であり、その武装の色を殆ど決定付けていた。
「・・・・・・使わない事に越した事は無いんだけどなぁ」
その言葉は半分組み立てられた武装へと注がれていた。
「よし!練習終わり、解散!」
号令が響く。どうやら今日の練習が終了したらしい。その声を聞いたレンも道具を片付け始めた。
普段ならば終了を待つことなく帰宅するのだが、なぜか西住に呼ばれていたのだ。
幸いにして、武装は殆ど完成している。後は、実戦で試して微調整をするだけだった。
故に、呼び出され時間をとられるとしても、ある程度の余裕はあった。
呼びたされた場所で待っていると話しながら歩いてくる西住たちが目に入る。どうやら向こうも気付いたらしく、此方へと歩いてきた。
「あ、イオリくん!待っててくれたんだ」
「まぁ、呼び出された身分だしな。で、なんの用事だ?」
レンが用事を聞くと、何故か西住が冷泉の方へと視線を向けた。恐らく、本題は西住ではなく冷泉が握っているのだろう。
当の冷泉は視線を向けられたからか、顔を背け武部を前に押し出した。
「・・・・・・へたれめ。イオリ、今日私たちと料理を作らない?」
「・・・・・・は?意図が分からないのだが」
行き成り何を言っているのだろうか。レンが硬直する。硬直しているのはレンだけで、西住たちは笑顔だった。
「今日の練習の話も聞きたいし、麻子もお礼がしたいって」
武部の言葉に冷泉は一層後ろへと逃げる。武部の言っている事は本当だろう。
それに彼女たちはレンが来ることを確信している様子だった。それに、レンもお礼を無碍にすることを良しとする人間ではない。
「・・・・・・了解だ。で、何処だ?」
「沙織さんの家だけど・・・・・・どうしたのイオリくん」
「・・・・・・なんでも無い」
女子の家へと招かれてしまったレン。軽く傷む胃を抑えつつ、西住たちについて行くのであった。
ちなみに、作ったのはイタリア料理。料理スキルが皆無なレンは料理を作る彼女たちを感心して見つつ、晩飯を馳走になったのであった。
得てして時と言うものは早く流れていくように感じるものだ。レンは感慨深く感じていた。
時は過ぎて、バトル当日になっていた。前日に行なわれた戦車道二回戦、大洗は見事に勝利した。レンも一緒になって頭を抱えつつも作戦を練った甲斐があったというものだった。
試合前の精神統一を終えたレンは、バトルシステムの前へと足を動かす。その足取りは何処か弾んで見えた。
バトルシステムを挟んで見える対戦相手。それはレンにとって好敵手の他に無かった為である。
眼鏡を掛け、不敵に笑って歩んでくる相手。その名はヒイロ・ソラだった。
「やあレン。楽しみにしてたよ、今日のバトル」
「それは俺もだよ。で、アレは何だよ」
システムへと辿りついた二人。優雅に会話をしている様だが、それは違う。彼らの周囲には溢れんばかりの闘気が蔓延し、渦巻くほどであったからである。
レンが指差した先、それは観客席であった。そこには、列の端から端までを使った大弾幕が張られていた。書かれている文言は当然の如く、ソラを応援するものであった。
そして、それと共に応援の指揮を執っているのはマガクイノタチのような髪型をした少女である。
ソラはその光景に苦笑を浮かべると言葉を返した。
「やー、ドゥーチェのする事だからね・・・・・・うん」
「つーか、何でカプレーゼ?伝統とは知ってたけどよ、他の名前にならんかったのかよ」
「それについては仕方ないんだよ。最初に作った料理がアレでさ。それで」
ソラの言葉にレンは納得の頷きを返した。ソラの特技は料理である。特技とするだけあってその技量はすこぶる高い。昨今の料理漫画やアニメにある様に、服が脱げれば勝ち的なレベルである。ソラは元々料理をするのが好きであったらしく、ひとりで作っているうちにメキメキとその技量を上げていったらしいのだ。料理が駄目なレンにとって羨ましい限りであった。
つられて苦笑を浮かべるレン。二人は苦笑をつき合わせて笑い――その表情を一気に引き締めた。
バトル前故に引き締まる顔。だが、ソラのそれは何時もよりも格段に引き締まっていた。
そして、二人は示し合わせたかのように手にしたコンテナから機体を取り出す。その動作に少しの動揺も無く。
「今回は勝たせてもらうよ、レン」
静まってゆく会場に響くソラの声。その音には強い気迫が宿っていた。その気迫を感じ取ったレンは、心の内で笑みを強くした。激しくなるであろうバトルへの愉悦の笑みを。
「・・・・・・いいぜ、返り討ちにしてやるよ」
故に、彼も全力の気迫で以って応えた。ソラには負けられない理由があるのだろう。だが、それはレンも同じ理由を手にした。学園を無くさない為にも、もう一つの理由の為にも。
《PLEASE,SET YOUR GPBASE》
機械音声が行動を示す。もう既にレンもソラも数百では効かないほどの回数を耳にし、手順を踏んできた。
両者ともに、澱むことなくGPベースを定位置へと設置する。設置されたGPベースは光を放った。
《BEGINNING PRAVUSKI PARTICLE DISPERSAR》
ベースが設置された事を確認したバトルシステムはプラフスキー粒子の散布を開始した。
六角形の角全てから立ち昇る青白い光の線。バトルステージの端から端までをキッチリと示すものだ。
そして、そこを境界線として青白い粒子が立ち昇り始めた。粒子が乱舞する姿は何度も見ている彼らもを魅了した。
《FIELD3 FOREST》
一瞬の閃光。そして、姿を見せたステージは森だった。鬱蒼としたそこはレンにもソラにも見覚えがある場所だった。
ファースト及びZに登場した場所。Zで核爆発によって吹き飛ばされた経歴を持つその場所の名は、ジャブロー。かつての一年戦争時にはドックとしても機能した基地がある場所だった。
そのステージ設定にレンは冷や汗を滲ませた。別にレンがゲリラ戦が苦手と言うわけではない。問題は、ソラが相手の時にこのステージが出たことだった。つまり、このステージはソラにとってのベストプレイスと言うわけなのだ。
冷や汗を感じるレンの周囲を、プラフスキー粒子によって構成されたコクピットが覆う。
《PLEASE, SET YOUR GANPURA》
冷や汗を垂らしつつも、レンは指示に従ってガンプラを置く。無論、置かれた機体は百式鬼夜行。一回戦時に負った損傷を完全に修復した姿だ。が、その姿は前回とは違う箇所が存在した。それは、リアスカートだった。一般的な宇宙世紀シリーズに限らずガンダムタイプのリアスカートは左右別々になっている。違う箇所は別々になったリアスカートではない。それを繋ぎとめる真ん中の部分だった。本来そこには何も無いはずであるのに、膝裏を越え踵まで届く長さを持った細長い純黒の棺桶が存在していた。あたかも尻尾が生えたかのようだが、全くその姿を損なう事は無い。
置かれた百式鬼夜行に青白い粒子が流れる。足元から頭頂部まで、満遍なく奔った光。それが完了した事を示すように、百式鬼夜行のツインアイに火が灯った。
《BATTLE START》
ソラも所定の動きを終えたらしく、システムがバトルの開始を機械的に告げる。すると、機体の周囲が戦艦から発艦する様にリニアフィールドを作り出す。
そして、二人は全く同じタイミングで言葉を放った。
「イオリ・レン!」
「ヒイロ・ソラ!」
光る球形のコンソールが機体へと指示を伝達する。百式鬼夜行が前傾姿勢になり、発艦の体勢を取った。
それと同時に、ソラの操る機体も発艦の体勢を取る。
「百式鬼夜行!出撃する!」
「カプール・クラウン――出るよ!」
急加速から、一気にフィールドへと二機のMSが放たれた。
森の中へと降下した百式鬼夜行。レンは密集する木々の中をゆっくりと移動させていた。
緑のフィールドに暗いカラーリングとは言え金色は目立ちすぎ、ホバー移動をすればバックパックにビギニングガンダムのビームサーベルの様に設置されたドラグーンが引っかかってしまうためであった。
索敵には細心の注意を払いつつ、前進する。ソラが使用する機体は全て水陸両用だ。その為、宇宙フィールドで戦闘する際はそれほど脅威たり得ない。しかし、フィールドが地上やそれに順ずるとその評価は一変する。
水中からの奇襲や、引きずり込み。ホバー移動を用いないトリッキーな攻撃。それら全てが恐ろしいものになる。
故に、レンは水辺を避けて行動していた。理由はいわずもがなである。
牛歩の如き歩みを続けることしばし。森が切れる場所へと到達した。
灰色のコンクリートによって舗装、整備されたその場所はジャブローの飛行場。核爆発によって吹き飛ばされる前には、スードリなどの航空機が止まっていた場所である。
森の中から飛行場を窺ったレン。開けている場所は百式鬼夜行にとって戦いやすい場所である。が、その反面として周囲のブッシュからの奇襲には滅法弱くなってしまうのだ。自分からは見えない敵に、一方的に攻撃される。それは、=敗北となる等式になりかねない。それを阻止するためにはブッシュを焼き払う、つまりフィールドの破壊をしなければならない。
その行為は百式鬼夜行をあらゆる意味で全力稼動させれば不可能ではないが。
ともあれ、飛行場を見渡したレンはその中央に位置するものを発見し、目を見開いた。
そこに座した物。それは一機のMSだった。
モスグリーンに塗装されたまん丸なシルエットに、不釣合いなほどに長い手。右手には細長い筒を装備しており、左手にはアイアンネイルの上部にガトリングガンをマウントしている。その他も元の機体である、カプールのイメージを壊さない事に執心しつつも強化され、モノアイ周辺にはピエロの如く道化師のような化粧が施されていた。
両の腕をダランと伸ばし、戦闘態勢を全くとっていない様に見受けられるカプール。しかしそのモノアイはミリ単位で動くことなく百式鬼夜行のカメラを通してレンを凝視していた。
「・・・・・・誘っているのか?ソラらしくも無い・・・・・」
ふと漏れ出す言葉。それは普段のソラの戦闘イメージとはかけ離れていたからである。
ソラの戦闘スタイルはゲリラ戦を主としている。奇襲をかけて混乱を誘い、相手本来の戦い方を出来なくさせる。一回の会敵で倒すのでは無く、その戦いの全てを使って戦う。それは、緻密な計算の上で成り立つ一種の芸術だ。人によっては卑怯と考えるかも知れない。しかし、ガンプラバトルは自由である。不正を働く事無く、ルールを守って戦うのならばそれは立派な戦術だ。
その上でソラの今回の戦闘スタイルは奇妙と言う他無かった。事によっては一時撤退すらするソラが、不退転の決意を以って佇んでいるのである。それは、つまりソラが本来の戦い方を棄ててまで何かを示す必要性があると言うことにほかにならない。
ソラの考えをそう推察したレンは百式鬼夜行を操作した。右手に装備した雷鳴を構えるのでは無く、カプールの下へと歩いて向かうために。
ガチャンと駆動音をたてて、百式鬼夜行はカプールと相対した。
彼我の距離はセイバーフイッシュ二機分、もうこの距離になると彼らレベルのファイターになると無に等しいものだ。
普段ならばすぐさまにでも戦闘が開始される。しかし、レンもソラも手を出さない。
何故か。それは二人共によく理解していたからである。話があると。
「なんの心算だ。お前らしくも無い」
《・・・・・・そう、だろうね。けど、今回はこうしなきゃならないんだ》
苦笑の雰囲気と共に返される言葉。それは一見しておどけているかの様に感じられる。が、レンはその声色に篭もった思いを受け止めた。即ち、ソラは本気だと。
「・・・・・・お前がそこまで言うんだ。よっぽどのことだろう?」
《・・・・・・レン、こないだの相談。憶えてる?》
軽い口調で問うたレンに、ソラは的外れな答えを返した。全くの脈略もなく返される言葉。それはレンを混乱させた。
混乱したとは言え、それも一瞬。すぐさま立て直したレンは言葉を返す。
「ああ、アレだろう?アプローチが云々の話」
《それだよ。それでね、あの後よく考えたんだ。本当は僕がどう思っているのかって》
訥々と語られるソラの心情。そこには普段の様におどけた響きは一つも無かった。
レンも真剣な人間を茶化す様な人間ではない。ソラと同じだけの真剣みを以って語られる言葉を聴いた。
《確かに最初は僕の事を何て思っていたんだ。・・・・・・実際の所彼女らを手伝っていたのは誰もしなかったからだし、そうしておけばメリットがあるかもってね。中学の頃はアレだっただろう?だからさ。けどね、彼女はそうは取らなかったんだ。純粋に僕が手伝っているって思ってくれていたんだよ。最初は、驚いたよ。で、なんて無駄な事をって思った。でもね、僕がどんなに鬱陶しがっても彼女は諦めなかった。それからはだんだんと彼女に惹かれて言った。実はね、この間に相談した時にはそんな風に思っていたんだよ。だから!僕はここで宣言する!―――僕はドゥーチェが好きだ!君の諦めない心と熱意に心を奪われた!この気持ち、正しく愛だ!》
怒涛のセリフにレンは硬直を強いられた。ソラは執着心が薄い人物だと思っていたからである。特に異性関係はそうだった。中学の頃に罰ゲーム告白を何回もされたからこそだろう。だが、今の彼は違った。迸る熱意を込めたセリフ。前半は滔々と、後半に至るにつれ熱意を込めた口調へと。仕舞いには乙女座のあの人化だ。抱き締めたいのだろうか。
「・・・・・・・・・・・」
ガンダムの話で盛り上がる事はあったが、それ以外ではこんな形で話すことは無かったソラ。その思いはレンの心に突き刺さった。紛う事なき『本物』の思いが。
《だから、僕はレンに勝ってこの思いを告げる!その為に僕は此処に居るんだ!!》
迸る裂帛の意思。その声はびりびりとレンの耳朶を振るわせた。そして、その意思は彼の戦意を刺激する。ソラが勝ちたいと思う様にレンにも勝ちたいと云う意思が湧き上がっていた。レンにはソラのような目的は無い。しかし、彼は本気の意思に背を向けるような人間ではなかった。
アンツィオの観客席から歓声が上がる。あれだけの大声でのたまったのだ。聞えもしただろう。
だが、どうやらソラはそれに気付いていないらしかった。なんともソラらしい行動にレンの口が三日月を描く。
対峙したカプールが筒を構える。そして、その先端からビーム光で構成されたサイスの刃が出現した。どうやらソラは千党体制に入ったらしい。それを受けてレンも百式鬼夜行の全兵装を起動する。
《行くよ!レン!》
「受けて起つまでだ!ソラ!」
最初に動いたのは百式鬼夜行。前述の通り、二機の間はほぼ無いようなもの。そして、ソラがガトリングガンを構えるより先んじて雷鳴を構えた。
銃口から迸る緑色のビーム光。レンはこれが命中するとは到底考えてはいない。にも拘わらず先制をかけたのはガトリングガンを警戒していたためだった。ガトリングガンは弾切れを起こし易く反動が大きい銃種だ。しかし、その銃弾が連続して命中するならば並みの機体ならば即スクラップだ。故に、レンは左腕を警戒しての牽制。からの近接戦闘を仕掛ける心算だった。サイスという武器は切れ味が凄まじい反面、懐に入られればリーチが仇となる。故の処置。
愚直なまでに直進するビーム。果たしてその光はカプール・クラウンに掠ることなく――などと言うことは無く、確りと命中しあっさりと飛び散った。
「・・・・・・は?」
自分でも間抜けな声だと断じるに値する声がレンの声帯から迸った。確かにビームは命中した。だがどうだろう。クラウンの表面には僅かな焦げだけであり、その姿は健在である。
混乱を極めるレンにソラの声が響く。
《レンなら、ビーム主体の攻撃をしてくると思ったよ。だから、このカプール・クラウンには実弾への耐性を一切無視して対ビームだけに強化したんだ。・・・・・・これでお得意のドラグーン攻撃は封じたよ》
ソラのその言葉はレンに、百式鬼夜行にとって致命を告げた。レンは弾切れを起こし易く、また機体の重量を上げてしまう実弾系武装を使用することが少なかった。それは百式鬼夜行も同じである。頭部の六十mmバルカンは取っ払ってしまったし、残る武装もその殆どがビーム系の武装だ。ソラの言が確かならば、クラウンの装甲は対ビームに特化させている。ならば、その反面として実弾系への耐性は低くなっているはずだが、カプールの装甲はガンダリウム合金。あまり期待は出来ない。そして、百式鬼夜行には実弾系武装は無い。現時点で有効な武装は雷鳴の刀と後一つだけと言う有様であった。
そのためにレンの戦法は限られてしまう。ドラグーン突撃も含めたオールレンジ攻撃や射撃は封じられ、近接戦闘しか仕掛けられない状態へと。
レンは素早くアームレイカーを操作、百式鬼夜行をクラウンへと吶喊させた。それと同時に、背部に収納している七つのドラグーンをパージし、地へと落とした。その理由は明白だ。既にドラグーン攻撃の有利性は無い。ならば、デットウェイト化を避けるためにもパージし、機体の機動性を少しでも高める必要があったのだ。
百式鬼夜行の吶喊。それに対してクラウンも反応を見せた。左腕のガトリングガンが音を立てて回り始める。それは死神の足音に似ていた。
百式鬼夜行がクラウンの元に到達するより早く、向けられたガトリングガンか火を噴いた。ガトリングガンの弾、一発一発は恐ろしくない。しかし、その銃弾が大挙して襲うことによってもたらされるのは機体のスクラップ化だ。
「ツッ!?」
寸での所でSEEDを発動させたレンは、その行動に対しての対処を可能にした。ガトリングの射線からギリギリでサイドステップ。からのスラスター全開による射線を取らせない移動へのシフトだ。
だが、その行動は読まれていた。レンがSEEDを発動させた様にソラもゼロシステムをONにしていた。
スラスターの出力や関節への付加などを瞬時に計算したソラは、その射線を正確に回避行動を取る百式鬼夜行へと合わせ、その魔弾とも呼ぶべき射撃を放った。
その射撃は紛う事無く百式鬼夜行へと殺到、その右足を捉えた。が、しかし百式鬼夜行はソラのゼロシステムが予測していなかった行動を取った。
グルグルとクラウンの周囲を回る機動から、上空へと飛び上がったのだ。故に、銃弾は百式鬼夜行の左足へのダメージを与えるに留まり、残弾をゼロにした。ポップしたその表示を受けたソラはガトリングをパージし、サイスを構えた。
表示がポップしたのはソラだけではなかった。レンにも表示がポップしていた。それは百式鬼夜行が受けたダメージを示すものだった。それに因ると内部へのダメージはほぼゼロ。しかし、装甲はボロボロであった。しかし、ガトリングの攻撃を受けたにしては軽いほうである。その事実にレンはほっと息をついた。
レンがガトリングからのダメージを最小限に止めた理由。それはSEEDに因る危機察知だった。回避行動をとっていたレンの脳内に走った閃光。それは明確にレンに危機を告げた。その危機察知に従ってレンが百式鬼夜行の行動を変化させた途端、ガトリングの銃弾が殺到したのであった。
ほっと息をついたのもつかの間、レンは素早く百式鬼夜行を操作した。クラウンはガトリングガンを失った。ならば近接戦闘がしやすくなったというものだった。よって百式鬼夜行を再び地へと降下させる。
思惑は一致。二機はサイスと刀を構え、激突した。サイスでの薙ぎ払いをしゃがんで回避。お返しに、起き上がり様の斬り上げを見舞う。
しかし、ソラはそれを察知。体勢を崩しつつも、空いた左のアイアンネイルでそれを受け止めた。
サイスと言う武器は鋭利な刃と大きいリーチ、そして中々の重量をもった武器だ。真正面から刀で勝負を挑もうものなら此方の攻撃範囲に入るより先んじて切り裂かれるだろう。そんなサイスも弱点がある。それは、ゼロ距離での弱さだ。中距離でのアドバンテージたりえる刃はゼロ距離では諸刃の剣たり得るし、大振りになった攻撃は避けやすい。
その為のゼロ距離近接戦闘。このゼロ距離戦闘はもう一つのメリットを抱えている。それは、胸部のミサイル・ランチャーを使用し難くするというメリットだ。幾らガンダリウム合金とは言え、至近での爆発は少なくないダメージになる。それはソラも望まない事だ。
ギリギリとアイアンネイルと雷鳴が悲鳴を奏で、激しく火花が散る。押しているのは百式鬼夜行で、押されているのはクラウンだ。カプールの腕や足は伸び縮みをするだけの伸縮性を持っている。が、それが今仇となっていた。フレキシブルな関節が禍して、シンプルかつ剛性のある百式鬼夜行に力で負けているのだ。
むやみにサイスを振るえなくなったソラは右腕を操作する事を止め、胸部のランチャーポッドを開いた。
それを百式鬼夜行のツインアイで捉えたレンは目を見開いた。すわ、ソラは自爆でもやらかすのではないかと。
それはある意味では正しかった。先ず、クラウンのランチャーから発射されたのは煙幕。
もうもうと立ち昇る黒煙に百式鬼夜行の視界は閉ざされた。それと同時に押し込んでいたはずの雷鳴から抵抗が消えた。
ふっと力の行き場を失った百式鬼夜行は堪らず体勢を崩す。が、それも一瞬の事。素早い操作により、リカバーする。
油断無く、雷鳴を手にした百式鬼夜行が煙幕の中央に佇む。この様な状況下で無闇に行動する事は避けるべきだと判断したからである。それにソラにはゼロシステムがある。恐らくこの行動は全て計算の内であると思考したのも一助であった。
視界が遮られている中、索敵はほぼ意味が無い。ならばと、レンは百式鬼夜行の空いた左腕を操作。リア・スカートからビームサーベルを取り出して発振。二刀を構えた。最早決め手にならず、ダメージを与える事も難しい武装だがサイスを受け止めるには十分足りえる。後はソラが仕掛けてくる事を待つだけだ。周囲に沈黙が満ちる。
程なく、それは果たされた。煙幕を切り裂いて出現する緑色のビーム光。背後に出現したそれは、メインカメラには映りようも無い。回避は不可に近い一撃。
しかし、SEEDによって強化された超反射がそれを受け止めさせた。上段から下段へと唐竹割りの要領で振り下ろされたサイスを左手のビームサーベルによって受け止めたのだ。しかもその先端をサーベルの中央で。
サイスと言う武器は刃の中ほどを受け止めても湾曲した刃の所為でダメージを負うかも知れない。だが、先端は別だ。力は込めやすいかもしれないが、刃は届かない。
サイスを受け止めた体勢から、百式鬼夜行が動く。サイスの先端を振り払って右手の雷鳴による薙ぎ払い。サイスの出現場所からおおよその位置を推測して放たれる斬撃。だが、それは硬質な鋼の悲鳴と火花に阻まれる。アイアンネイルによって防御をしたのだろう。弾かれた衝撃でかるくノックバックした百式鬼夜行。それと同時にサイスは再び黒い海へと沈んだ。
「煙幕とはな・・・・・・。熱源索敵を使わないことが仇になったかッ」
熱源索敵は視覚的索敵よりも使用頻度が圧倒的に少ない。故に、レンはその機能をほぼオミットしてしまっていた。
それを愚痴りつつ、警戒に戻るレン。再び静寂に戻るフィールド。
唐突にけたたましくアラートが響いた。普段ならば、ミサイルやビームライフルなどにロックオンされた事を示唆するアラートが響いたことにレンは舌打ちをした。煙幕内では何処から飛来するのかは分からない為だ。
黒い海を切り裂いてアラートの元凶は飛来した。その正体は八発のミサイル。カプールの標準武装ではあるが、目立った改造はされていないらしかった。
ミサイルが視認できたか、百式鬼夜行との距離は短い。しかし、レンは焦りはしなかった。
先頭に位置するミサイルへと射撃し、撃墜。元々が連射性能を上げている雷鳴だ。八発程度のミサイルに対して対空防御をする事は難しいことではない。
続けざまに三射。それも全てミサイルに命中し火球へと姿を変える。これならば容易い。レンがそう考えた瞬間にそれは起こった。
《逃がさないっ!》
「なにッ!」
四発残ったミサイルも巻き添えに飛来したのは、極太のビーム。一般的にはメガ粒子砲と呼ばれるものだ。
一瞬切れた煙幕から見えたクラウンの腰部フロントに位置したものから放たれたのだろう。
メガ粒子砲は強大な破壊力を保有する代わりに、燃費が非常に悪かった。クラウンに搭載されているものと同型であるサザビーに装備されているものもそうだった。逆襲のシャアでは二発撃っただけでパワーダウンを起していたのだから。
ともかく、飛来したビームにレンは反応が一瞬遅れた。そのため、回避が一瞬遅れたのもむべなるかなである。
サイドステップが遅れた百式鬼夜行の右手にビームが擦過した。勢いに巻かれ百式鬼夜行は軽く吹き飛ばされる。その際に右の装甲にピシリと皹が入った。
慌てて体勢を立て直すレン。百式鬼夜行の状態を確認して、すぐさま雷鳴を放り投げた。
ビームが掠ってしまった雷鳴が火花を噴いてしまっていたからである。アンダースローで投げられた雷鳴は、そう遠くない場所で爆発した。
武装を一つ失ってしまったが、レンはそれを機とした。雷鳴の爆発を利用して煙幕を取っ払うことに成功したのである。今度はしっかりとクラウンをロックし、百式鬼夜行の全スラスターを爆発させて突撃した。
左のビームサーベルを引き、右手を突き出して体勢は半身。俗に言う突きの体勢だ。
それを察知したのか、クラウンも行動を開始する。が、その挙動は何処か精彩を欠きサイスの出力も落ちていた。
「どうやら、パワーダウンしたようだなソラ!」
《・・・どうかなっ!》
返答するソラの口調はどこか焦っている様にレンには聞えた。理由は明白である。クラウンがパワーダウンを起しているからである。元々の出力がサザビーより低いカプールだ。ならば、あの規模のメガ粒子砲は必ずパワーダウンを引き起こす。レンのその鎌賭けは果たして正解であったのだ。
百式鬼夜行とクラウンの距離は短い。右脚に違和感があるとは言え、百式鬼夜行の速度は相当なもの。仮にクラウンが回避行動を取ったにしても十二分に仕留められる。
スラスターを全開にした百式鬼夜行がクラウンに迫る。その刃が射程に入ったその時、クラウンが動いた。
胸部のロケット・ランチャーが起動。そこから放たれたのは一つのミサイルだ。
だが、その一発はレンにとって脅威たり得ない。たった一発のミサイルの軌道を読む事など容易いからだ。
十分に引き付けてから回避しようとしたレン。その耳朶をソラの大声が打つ。
《光れぇっっ!》
「ぐうッ!?」
声と共に弾ける閃光。その時にレンには得心がいった。ソラが無駄とも思える攻撃をした理由が。
あのミサイルは閃光弾。此方の視界を奪ってからの一撃。レンは焦り、咄嗟に百式鬼夜行の足を止めてしまった。
瞬間、ガギンと装甲同士が接触する音が響いた。視界が戻ったレンが見たもの。それは、百式鬼夜行に組み付くクラウンの姿であった。モニター一杯に映ったモノアイが禍々しく光る。
「――ソラ、まさかッ!」
《油断したね、レンっっっ!》
そして、クラウンから何かが飛び出―――爆音ともに自爆の炎が上がった。
「・・・・・・やりやがったな、あいつ」
再起動に成功した百式鬼夜行のツインアイの片方に光が灯る。レンは、アームレイカーを操作しながら愚痴った。だか、その声は非難ではなく、何処か喜悦のような響きが含まれていた。事実、レンはソラの行動に賞賛をしていたのだ。パワーダウンした機体を有効活用し、百式鬼夜行に致命傷を与えたソラに。
クラウンの自爆によって百式鬼夜行は虫の息にまで持っていかれていた。ツインアイの片方は破損。装甲は皹だらけ。ビームサーベルも無い。
レンは瓦礫にもたれ掛かるようににして倒れていた百式鬼夜行をゆっくりと立ち上がらせ、周囲をモニター越しに見た。
「此処は・・・・・・町?いや、ジャブローの内部か!」
多少薄暗いが確りと町並みを確認したレンはそう叫んだ。ジャブロー内部には市街がある事を知っていたためである。そして、それは上にツインアイを向けても確認できた。上部は爆発の影響で大穴が開き、そこから日の光が射していたためである。
そして、そこにはモノアイを覗かせる機影があった。
《あの爆発に耐えるとはね・・・・・・》
「そうそう柔ではないさ。・・・・・・だがヤバイな」
前半はソラに。後半は自嘲するようにレンは呟いた。
事実、
爆発の大穴からレンを見下ろす機体。その姿はクラウンに酷似していた。それも当然である。その機体の銘はカプル・クラウン。ターンAガンダムにて発掘された機体を元に改造されたものだった。カプルはAMX―109カプールのサイズダウン機である。その癖、型式番号や武装は変化していないと言う面白い機体だ。恐らく、ソラはカプール・クラウンの内部にインジェクション・ポッドの様にカプル・クラウンを内蔵させていたのだろう。万が一を考えて。
レンが焦燥交じりにクラウンを見る。百式鬼夜行のダメージは大きい。恐らく歩行だけで装甲は落ちてしまうだろう。
打つ手を必死に考えるレン。そこに、ソラからの言葉がかかる。
《まだ、諦めないんだ・・・・・・。いいよ、全力で――倒す》
その宣言と共にソラはクラウンを穴へと投げ出した。降下と言うより落下に近い格好だが、クラウンの腰回りに配置されたブースターが姿勢制御。危なげなく、百式鬼夜行の正面へと着地する。
《ゼロシステム!虫の息のその機体に、回避出切るものかよ!》
ソラがスロットのSP欄を選択。クラウンの周囲を紅い円が回る。ソラが使用したのは、自身の持つ異能では無く機体の性能を向上させるゼロシステム。ソラは此処で止めを刺す心算だと容易に推察する事が出来る行動であった。
腰部のブースターに点火、飛び跳ねる様にしてクラウンは接近する。右手にはカプールの際の半分程の長さを持ったサイスが構えられている。
《これで――》
百式鬼夜行を刈り取る凶刃が迫る。飛び跳ねる様にして移動するクラウンは何処か微笑ましいが、その攻撃を貰えば敗北は必至である。
レンはその事実に笑みを零し、牙を剥いた。そして、自身の内にとある感情が発露した。発露したその感情は明確に〃負けられない〃と叫んでいる。そして、レンも同じくSPスロットを選択し、浮かび上がったキーボードに高速入力を開始した。最後まで取って置きたかった――欲を言えば決勝まで――手を使用するために。
《お仕舞いっ!!》
一際大きく飛び上がった後、落下しながらの一撃。最早満身創痍の百式鬼夜行を仕留めるにはオーバーキルである一撃。その一撃が百式鬼夜行を捕らえんと疾る。
「・・・・・・間に合った!ESシステム完全解放!目覚めろ――
それは唐突だった。百式鬼夜行の額を貫くまで後何ミリと無い時にそれは起こった。先ず熾ったのは百式鬼夜行の全装甲の排除。内部から弾ける様にして吹き飛んだそれは、風圧も相まってクラウンをも吹き飛ばす。同時に立ち昇るのは紅黒く染まった粒子の竜巻。それ止んだとき、その機体は現れた。
殆ど全てを輝く純黒で染められた装甲。悪人面に思える四本の角を持ち、目の下から鮮血を流している様に見えるガンダムフェイス。大きく張り出たブースターを備えた両肩。背中からは百式然としたボックスタイプから解放された黒と金で彩られた翼が広がる。サイド・スカートは隠蔽から解放され、二丁のナイフ付き拳銃を見せる。脚部はブースターを増設しつつも確りと原型を残すシルエット。
ベースをORB―01アカツキとしつつも、GAT―X105E+AQM/E―X09Sストライク・ノワールのパーツも利用した機体。それこそがレンの作製した百式鬼夜行という銘のチョバム・アーマーを纏っていた機体の本当の姿。暁憑鬼・黒夜叉である。
その暁憑鬼は純黒の装甲に薄っすらと紅黒い粒子を纏い、額の角を固定するパーツから粒子で出来た一本角を備えていた。それこそがESシステム専用機体として作製した事を如実に示していた。
ESシステム。正式名称は
これに対応するためには多くの苦難があった。調整に失敗すれば機体そのものが自壊してしまうのだ。その為にレンは辛うじて対応できた百式鬼のレプリカ内部に機体を格納。ESシステムに強制的に慣れる機体を作成したのだった。シナンジュ蝕鬼はなんとか動かせる程度であり、及第点ではなかった。その点、暁憑鬼はうまく言ったといえた。その秘密はアカツキの装甲、ヤタノカガミだ。これをVPS装甲とあわせてフレームに転用。何とかESシステムに耐えられるだけの強度を獲得するに至ったのだった。そしてその弊害として、ESシステムを完全起動した際には再び百式鬼夜行となる事は出来ない。パージの際に採寸が合わなくなり、幾ら枷を付けても勝手に吹き飛んでしまうためであった。
唖然として棒立ちになるクラウンを他所に、暁憑鬼は更なる行動を取った。右手をリア・スカートへと回したのだ。其処にあるのは唯一パージされなかった棺桶。暁憑鬼がそこに手を翳すと棺桶が開き、中から剣の柄が現れた。それを暁憑鬼は躊躇無く引き出す。引き出された剣は細身の両刃剣だ。
この剣の銘はアマノハバキリ。アストレイシリーズが装備している実体剣トツカノツルギの改造品である。
鍔などはそのままに、突く事に特化した剣から突いても斬っても使える物へと昇華させたのだ。このアマノオハバキリはVPS装甲とクリアパーツを使用して作製されており、その切れ味は雷鳴を大幅に上回るほどだ。
それを片手にゆるりと構えをとる暁憑鬼。暁憑鬼の構えに危機感を覚えたのか、クラウンもサイスを構えなおす。
双方共に仕切りなおしとなった格好。それなのに二人から漂う気は次の一撃で止めを刺すと言う意思だ。
「・・・・・・さてと、用意はいいか?ソラ」
《さっきのには驚かされたけどね?でもまぁ・・・・・・次で決めるのには同意かな。レン》
カラリと上の大穴から破片が落下する。それがゆっくりと内部へと落ちてゆく。そして、それが地に落ちて砕けた瞬間が合図となった。
先に動いたのはソラ。ゼロが示した予測に従ってクラウンの胸部ミサイル・ランチャーを乱れ撃つ。そのミサイルは暁憑鬼へと殺到し、爆発した。
爆炎が上がる中、ソラはクラウンにサイスを構えさせる。ソラもゼロもあれでレンを倒したなどとは到底考えてはいない。彼が狙っているのは爆炎から飛び出てくる暁憑鬼。周囲を建物に囲まれている以上、クラウンに攻撃するにはそうするしかないと推測が立ったからである。爆炎から出てきたところ瞬間に機体を落とす心算で。
何時でも出てきて良い様に索敵をONにしていたソラ。それが反応を示した。ソラはその情報へと目を遣り、驚愕した。
その場所とは上空。ゼロも上昇する事を知覚していなかった為排除していた可能性だった。
慌てて上空へとモノアイを動かすソラ。そして、彼は夜叉を見た。
光の翼――七色に発光するヴォワチュール・リュミエールを稼動させて突撃しながら剣を振りかざす鬼。額から生えた角がそれをより禍々しく際立たせる。
恐ろしいのはその速度。クラウンのモノアイが向いた時には回避不可の距離へと接近されていた。
放たれる袈裟斬り。それをクラウンは防御も回避もする手段を持っていない。
「は、早すぎる・・・・・・!」
斜めに、真っ二つになった機体が爆発する。それは彼の、ソラの敗北を如実に表していた。
《BATTLE END》
敗北が決定したソラ。だがしかし、その胸のうちは澄んでいた。
「いや~、負けた負けた。完敗だよレン」
バトル終了後。機体とパーツを回収したレンとソラは握手を交わし、会話をしていた。
負けたにしてはやけに清々しくしているソラに、レンは首を捻った。なんかあっさりしてると。
「あっさりなんてして無いよ。・・・・・・でもね、バトルをしている内に思ったんだ。そんな事よりバトルを楽しむべきだって。だからね、僕は告白を先延ばしにするよ。負けちゃったし」
そう言って笑うソラ。それに対してレンは――ソラに軽くアッパーをかまし、悶絶する彼に言葉をかけた。
「お前、自分で言ったことを覚えてるか?好きなものを偽るなよ。それじゃあ唯の偽者だ。お前は違うだろう?あの啖呵は紛れも無く本物だった。・・・・・・それによ、お前負けても勝っても告白をする心算だっただろ?」
レンのその言葉にソラはビクリと肩を震わせる。どうやら図星らしかった。
それを確認したレンはソラを強制的に立たせる。そして、アンツィオの観客席へと引っ張るとソラを・・・・・・投 げ 飛 ば し た。
「なら、さっさと告白してこいやァ!」
「お、憶えてろよ!レンんんんっっっ!!??」
その光景に何故か盛りあがるアンツィオ生徒達。その姿をレンは、羨望の眼差しで見た。今を生き生きと、自由に生きている彼ら彼女らに。
踝を返し、背後の喧騒に口元だけに笑みを浮かべると歩き始め――
「イオリく~ん!!」
唐突に大声が掛った。その発生源は観客席に居た西住。彼女だけではない。他の何人かも両手をブンブンと振り、アピールをしている。そんな光景にレンは何故か、心が軽くなったような感じを受けた。一時的にもアンツィオの生徒たちのようなノリに同化したような感じを。
一般的にはバカ騒ぎと呼ばれるのかも知れない。だが、不思議と悪い感じのしないその光景を。
「・・・・・・悪く、無いな」
そう、一言呟いてレンは歩く。幾らか軽くなった歩みで、彼女らの元へと。
控え室を出たレン。身支度をして長い廊下へと足を踏み出し、歩き始めた。
コツコツとリノリウムに足音が反響する。幾らか歩いたレンの前に人影が現れた。それは一人の男であった。長身痩躯、全身をスーツで固めた眼鏡の男。髪型はぼさぼさであり、何かの研究者のような雰囲気を漂わせていた。
「イオリ・レン君だよね・・・・・?」
「・・・・・・はい、そうですが?」
自然と警戒した口調になってしまうレン。それもその筈だ。先ず見も知らない人間が声をかけてくれば誰でも同じ様な反応をするはずだし、何故か目の前の男を警戒すべきという声が頭の中で響いていたからであった。
そんなレンに構わず、男は口を開く。
「良い戦いだったよ。次も魅せて欲しいな」
「・・・・・・どうも」
それだけ答えてレンはその場を去る。男といると何か、妙な感じがしたからであった。
レンが居なくなった廊下。一人残されてしまった男はニヤリと笑みを浮かべると言葉を続けた。
「ああ、次も魅せてくれ。
そこには無邪気な悪意が込められていた。
AMXs―109 カプール・クラウン
ソラが作成したMS。空間戦闘能力を一切排し、大気圏内戦闘に特化した機体。内部にカプル・クラウンを内蔵しており、非常時には本体を自爆させ戦う。
武装(カプル・クラウン時もほぼ同じ)
アイアンネイル 胸部ロケット・ランチャー×8 ガトリングガン デスサイス 腰部メガ粒子砲
SP
ゼロシステム
MSNー100改F 百式鬼夜行 → ORB―x壱A 暁憑鬼・黒夜叉
レンが開発したフルESシステム専用機。百式鬼夜行はあくまでチョバム・アーマーとして扱われる。暁憑鬼のバックパックにはディスティニーのモノを使用しており、十全にその性能を引き出せる。ESシステム使用時は額から角が生え、自壊したプラフスキー粒子がまとわりついている。
武装
共通 雷鳴 ビームサーベル×2 ドラグーン改×7 以下暁憑鬼のみ アン&メアリー(ビームショーティ)×2 アマノハバキリ 頭部M2M5D12.5mm自動近接防御火器×2 腕部ビームシールド
SP
ヴォワチュール・リュミエール ESシステム改