黒猫とマタタビ。   作:ゆかめ

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新参にわかPです。初投稿です。文才ないです。駄作ですが暇つぶしにどうぞ。


しほすき。


いち。

昼休みが終わり、午後の最後の授業が始まり数十分。ペンを走らせる音と中年の男性教師の穏やかな声音が教室内に響く。

 

「あー...眠い。」

 

教師に聞こえぬよう思わずそんなことを小声で呟いた。

俺達は今年中学3年で、受験シーズン真っ只中である。今は必死にノートをとるのが普通なのだ。しかし、自分で言うのもなんだが聞いてるだけで内容は理解できるくらいには頭の出来は良いし、進学先も行きたいところがあるわけでもないので、必死に勉強する意味が無いのである。我ながらやる気の無さだけはこのクラスで一番の自信がある。

と、下らないことを考えていると授業終了のチャイムが鳴った。

授業が終わり脱力してる奴や、帰りに何処かに寄ろうと友達と談笑している奴らを視界に入れつつ教材をまとめて教室を出る。俺?俺が通る通学路は一緒に帰るような奴なんていない。別に悔しくないし。友達自体はいるから平気だし。登校した時にごく稀に挨拶するくらいの仲の友達いるし。...それって友達なのか?

自分で言ってて悲しくなったのでここらでこの話はやめておく。

 

「今日の夕飯何にしよっかなー...」

 

我が家は両親共に夜遅くまで働いているので基本的に自分で作って自分で食べる。まあ簡単なものしか作れないからインスタントに頼ることも多々あるが。

食べたいものを思い浮かべながら靴を履き替え校舎を出る。

 

「...ん?」

 

学校が大分離れて小さくなった頃。

ふと、ウチの学校の制服を着た女子生徒が視界に入った。

見覚えがないがおそらく下級生だろう。ウチの中学はスクールバッグにつける校章が学年ごとに違うからそこで判断した。そもそも知り合いなんてまともにいないから見覚えがあるない以前の問題だけどな!...さっきからなんで自虐してるのだろうか。

 

「...どうしよう」

 

どうやら困っているようだ。正直買い物をしにスーパーに寄らなきゃなのでスルーをしたいところではある。しかし、女の子を放っておくのは男のプライドが...

なんて、下らない葛藤をしていた時、ふと思い出す。

 

(まてよ...?あの子どっかで...)

 

さっきは見覚えがないとか言ったがよく見るとなんだか見たことのある顔だと思い始めてきた。ていうか、こんなにジロジロ見てるけどバレてないよね?距離かなり離れてるし平気だよね?

 

記憶を必死にたどること数分。

 

(...確か最近テレビに出てたよな?でも...うちの学校に有名人いるなんて知らなかったぞ...)

 

そもそもまともな知り合いが(ry。

非常に整った顔立ち。若干ウェーブがかった長くて艶のある茶髪。中学生とは思えないスタイル。そしてこれまた歳に合わない大人っぽい落ち着いた雰囲気。

 

(最近テレビで見たぞ...新人アイドルの...なんとか沢さんだ...!!)

 

ダメだ。名前が全く思い浮かばない。「沢」がつくのは覚えてるんだが...。まあそれはそれとして、最近勢いづいている新人アイドルが困った表情を浮かべながらスマホを弄っている姿を見て放置することが出来るだろうか?もちろん答えはNoだ。

ということでアホみたいに時間かけた末に声をかける。

 

「...何か困ってるみたいだけど...大丈夫?」

 

話しかけてから気づく。失敗した。それも二千年に一度くらいのレベルの失敗である。なぁにが「なにか困ってるみたいだけど...大丈夫?」だよ。自分の顔面が絶望的なのを忘れてた。有名人に話しかけたいっていう下心で頭がいっぱいだった。よく考えたらキモい男が可愛い女の子に話しかけてる時点で色々やべーじゃん。周りの帰宅中の女子生徒がこっち見てコソコソ喋ってるし。やめろ!これは見せ物じゃないんだぞ!あなた方の目へのダメージを減らす意味でも見るのをやめることを強く推奨します。くっ...

 

「───っ」

 

ほらー固まっちゃったじゃーん。あまりの顔面偏差値の低さに固まっちゃったじゃーん。この世の終わりみたいな表情してるよこの子。...生まれてきてごめんなさい。

とはいえ、このまま固まったままなのも不味いので現状をどうにか変えなければ。

 

「あー...いきなりごめん。余計なお世話だったかな。じゃあ...俺はこれで。」

 

「三十六計逃げるが勝ち」だ。逃げるは恥だが(おそらく)役に立つ。ほらそこ、話しかけといて逃げるのはズルいとか言わない。仕方ないやん、俺にはまともなコミュニケーション能力が備わってないんだもの。ここからどうしろってんだ...。さよなら俺の青春...!!さよなら俺のリア充ライフ...!!

まあ、有名人とお近づきになれるなんて微粒子レベルでしか考えてなかったからいいんだけれど。あ、微粒子レベルでも考えちゃダメですかそうですか。

と、脳内でゴタゴタと下らないことを考えながら背を向けた時、件の女子生徒がこんなことを言った。

 

「あの...名前...教えてもらってもいいですか?」

 

(えぇ〜...)

 

公開処刑でもなされるんですか?

学校中に変な噂でも流されるのだろうか、もっとひどい仕打ちを受けるかもしれない...やってしまったか。

これから来るであろう拷問に頭を悩ませていると俺が口を開かないことにはっとしたのか、再び新人アイドル(?)が口を開く。

 

「...お声をかけて頂いたということは相談に乗ってもらえるのかと思いました。赤の他人のままというのも変かと思ったので...」

 

と、目を泳がせながらそんなことを言った。なんだか取り繕ってるけどテンパってるのが隠せてない、可愛い。落ち着いた雰囲気だったからこんな表情するとは思ってなかった。まあ、人は見かけじゃないっていうからね。決めつけるのは良くないか。ていうか、大丈夫なの?こんなのに悩み話しちゃうの?何もしないけど何されるかわからないよ?普通初めて会った人にこんなに心開けないよ?俺だったら速攻で声張って助けを呼ぶね。初対面で明らかにやばめの見た目してる男が話しかけてくるとかそれなんて悪夢?

それはともかくとして、悪意はなさそうだし(ていうか無いと信じたい)、名前を伝えなければ。黙ってるのもアレだしね。

 

「お、俺は凪。神山凪(かみやまなぎ)、3年。良ければ君の名前も教えてくれる?」

 

やっべぇー。途中から異性に自分から話しかけたことを思い出して緊張してしまった。会話からデュフデュフ聞こえそうな勢いじゃん。どもってんじゃん、キョドってんじゃん、デュフってんじゃん!...デュフってるってなんだよ。

 

「.....」

 

...ああ、そうか。この子新人とはいえアイドルだし、まあまあ人のいるここで名前を出すのは不味いか。...よし。

 

「ああ、無理には聞かないよ。ごめんね?...それで、何に困ってたのか聞いてもいい?」

 

俺にしてはだいぶ頑張ったのではなかろうか。歳の近い異性にこんな優しい言葉をかけたのは今日この時が初めてだ(これが優しい言葉なのかどうかと言われると微妙な所だが)。誇っていいぞ新人アイドル(?)君。うれしさよりも俺の心が傷ついた割合のほうが高いのは触れないでおく。

 

「えっと...連絡先、交換しませんか?」

 

おい。

 

.........おい。

 

冷静になるんだ、俺。

 

何をトチ狂ったんだこの子は。喜んで教えますはい。...ってそうじゃなくて、流石にまずいだろ。一応人目もあるのに。いや、そこじゃなくて...危機感ないのか?...じゃなくて、なんで連絡先なんだ、必要ないだろ、絶対。

 

「...っ!すいません、忘れてください。...失礼します。」

 

そう言って少し早歩きでこの場を離れる新人アイドル。

そうだよな、混乱してたんだよな、良かった。...なんだろうこの虚しい気持ち。上げて落とされたこの感じ。しかもいろいろ手遅れ感が否めない。まあ異性と話せたというだけで大分頑張ったし、この会話に意味はあったと思うぞ、俺は。...コミュ障とか言わないで、自覚してます。

 

「...結局悩み解決してなくね?」

 

まあ、危機感を感じて逃げたんだろう。きっとそうだ。...悲しす。

 

「...ま、いっか。」

 

気を取り直して買い物をするためにスーパーに歩き出し、すぐ隣にある公園の時計に目を向けた。

 

 

肉の半額セール始まってるじゃねえか!

 

 

 

─────

 

 

「ドラマ...ですか?」

 

新人とはいえ、アイドルとして活動してきてそれなりに名前が知られることが増えてきた頃。レッスンルームでレッスンをしていた私の元にプロデューサーさんが来てそう告げた。

 

「ああ、最近勢いづいてきたこのタイミングでドラマのヒロイン役を貰ってさ。恋に悩む女子高生役なんだが...俺なりに考えた結果志保が適任だと思ったんだ。」

 

この人は本当に私が適任だと思っているのだろうか?自分でも感じているが、私は決して表情豊かではないし、柔らかな笑顔をしたりもしない。

それこそ、所さんや佐竹さん等、私より適任の人が沢山いるというのに。しかし、任されたからにはしっかりとこなさなければならない。少し懐疑の目を向けつつ答える。

 

「私が恋に悩むヒロイン...?まぁ、やれる限りのことはしてみます。よろしくお願いします。」

 

「おう。頼んだぞ!じゃあ、俺はこのあと環に付いていかなきゃだから、よろしくな。何か困ったらすぐ言ってくれよ?志保は素直じゃないんだから。」

 

私がムッとした表情を向けるが、プロデューサーは「ははは」と笑い流してレッスンルームを出ていってしまった。

 

...恋、か。

 

私は出来ることはしっかり取り組むべきだと思っている。特に演技には人1倍力を入れているつもりだ。その役の気持ちになり考え、演じることが多いのだが、私は恋をした経験なんてないし、アイドルをやっているうえで恋愛なんて必要ないと思っている。765プロダクション自体は別に恋愛禁止と言っている訳では無いが、やはり世間で認められているかといえばそうではない、むしろ風当たりは悪いだろう。そういうこともあり、恋愛をしているアイドルなんて見たことがない。出来る限りやってみるとは言ったものの、どうしたものか。

困ったらなんでも言ってくれ、とプロデューサーは言ってはいたが、正直、どこか頼りないのだ、あの人は。

この前だって...いや、それはともかく。

あーでもないこーでもないと頭を悩ませたが、結局この日中には答えが出ることはなかった。

 

 

─────

 

 

翌日。答えの出ないまま時間だけが過ぎていく。気がついたらもう下校である。仕方が無い、シアターの人に聞いてみようかとも思うが同じアイドルに聞いても意味があるとも思えない。

 

「...どうしよう。」

 

あれよあれよと考えながら下校している時、無意識にそう呟いていたらしく後ろから声がかかった。

 

「...なにか困ってるみたいだけど...大丈夫?」

 

振り返ると、そこには、私と同じ学校の制服を着た男子生徒が立っていた。下を向いていた目線を、振り返り相手の顔に向ける。

すると、

 

「───っ」

 

どうしてだろうか。身体が動かない。目の前の人から目が離せない。冬のはずなのに、顔が熱い。身体が熱い。

人形のように精巧な少し幼さの残る顔立ち。平均よりやや低いが、しっかりした身体。そしてなにより目を惹くのは病的なまでに白い肌と透明感のある白い髪。その容姿はまるで─────

 

───絵本の中から飛び出してきた王子様のようで。

 

そのすべてから目が、耳が、身体が、抗うことが出来ない。

全てを一瞬にして奪われたかのような感覚が私を襲う。

しかし、ここで少し冷静になった頭で考える。わたしの男性のタイプはもっと渋い大人の男性である。

確かにこの容姿はどんな人でも1度は振り向くだろう。しかし、何故ここまで...

少し冷静になったとはいえ頭はまだまとも考えることも出来ないはずなのに、勝手に自分の口が動き出し、背を向けた彼を呼び止めるかのように言葉を紡ぐ。

 

「あの...名前...教えてもらってもいいですか?」

 

...私はなんてことを口走ってしまったのだろうか。冷静になったなんて全くの嘘だった。基本的に私は他人に興味が無いし、いきなりここまで心を開いたりなんてしたことがない。善意から話しかけられたとはいえ、赤の他人に私の問題を押し付けるなんて都合のいいことをしたりしないし、こんなこと言ったりしない。一体どうしてしまったというのだろうか。

...兎に角、上手く誤魔化さなければ。

 

「...お声をかけて頂いたということは相談に乗ってもらえるのかと思いました。赤の他人のままというのも変な話かと思ったので。」

 

もう少しやんわりと誤魔化そうと思ったが、無意識に言葉がきつくなる。というか、何故私は悩みを聞いてもらおうとしているのだろうか。さっきから考えていることとやってることが全く一致しない、体がいうことを聞いてくれない。

何が楽しいのか、彼は私に生暖かい視線を送ってきた。彼に見られていることを意識すると、またしても身体が熱くなるのを感じる。誤魔化すために私が表情を引き締めたのに気づいたのか、眉を少し八の字にして困った笑顔を見せた後、彼は口を開いた。

 

「お、俺は凪。神山凪(かみやまなぎ)、3年。良ければ君の名前も教えてくれる?」

 

凪。神山凪。目の前の彼の名前が透き通った声と共に頭の中を駆け回る。3年生ということは、歳上だということだ。いや、今はそうじゃないだろう。やはり今日の私は、どこかおかしい。

 

「.....」

 

私はまたしても彼に目を奪われ、思わずぼーっとしてしまった。

はっと我に返ると彼はまたしても困った表情を浮かべていた。

 

「ああ、無理には聞かないよ。ごめんね?...それで、何に困ってたのか聞いてもいい?」

 

気を使わせてしまった。それにしても、こんなことになって今更ながら正直に話していいのかと疑問に思う。顔を知られてないということはアイドルであることから話さなければならないだろう。それに恋について悩んでいるだなんてアイドルという立場から言ったら誤解されそうだ。なにより一番不安なのはこの人にこの事を話したら、根拠はないがもっと私が可笑しくなってしまう気がするのだ。

頭を悩ませていると、またしても勝手に口が開いてしまう。

口を閉じようと必死に脳から指令を送るが、抵抗むなしく声が発せられる。

 

「えっと...連絡先、交換しませんか?」

 

そろそろ本当に不味い。熱でもあるのだろうか。赤の他人で、ましてや異性にいきなり連絡先を交換しないかなどと言うなんて、もはやナンパではないか。もうこれ以上話しているともっと可笑しくなりそうなので、ここから早急に立ち去らなければ。

 

「...!すいません、忘れてください。...それではこれで。」

 

かなり無理やりだが、これでいいだろう。背を向け、少し早歩きで帰路につく。彼が見えなくなったところで頭を振り、思考を切り替えようとする。

しかし、

 

「神山...先輩。」

 

頭から離れない。顔が、表情が、声が、彼の雰囲気が。

だが、これからシアターに行き、大事な仕事の話がある。流石に気持ちを切り替えなければならないだろう。

再び頭を振り、仕事のことで無理やり頭の中から彼を追い出す。

 

 

.....明日には忘れられるだろうか。いいえ、忘れよう。頼むから忘れていますように。

祈るように明日の自分に押し付け、今度こそ思考を切り替えシアターに向かった。

 




志保に先輩って呼ばれたい人生だった。ミリオンの小説もっと増えないかなぁ。

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