朝。そう、朝である。それも火曜日の朝である。...いや、別に曜日とか関係ないんだけども。とにかく朝が弱い俺にとって平日の朝ってだけで辛いから、「月曜日よりマシだな。」なんて考え方出来ないし。...朝から必死こいて誰に説明してるんだ俺は。
「...起きよう、うん。いつもこんな感じで時間ギリギリまでベッドの中で粘っててもどうせ遅刻しそうになって焦るだけって俺は学んだんだ。」
学習できる俺、えらい。...まさかとは思うが、むしろ15年間生きてきて今更覚えたのかなんて野暮なこと言うやつは居ないよな?
「っといかんいかん。俺としたことがまたしてもくだらない事考えて時間潰すところだった。」
くだらない事考える癖を何とかする方が先決な気もするが、それはこの際置いておく。クローゼットから制服を取りだして着替え、部屋を出る。
「ん?おお、おはよう。もうそんな時間か。...って、いつもより早いじゃないか。珍しいこともあるもんだな?」
「おはよ。...いい加減俺も学習したんだよ。なんてったって天才だから。」
新聞を読んでいた親父と挨拶をかわす。新聞を読む日とテレビでニュースを確認する日がある親父だが、今日は新聞の気分のようだ。
「あんたが天才ならあんた以外の全人類はきっと神様かなんかでしょうね。...馬鹿なこと言ってないで顔洗ってきなさいバカ息子。」
久方ぶりに早起きをしてテンションが少しばかり高くなっていたところに、母上から容赦ない言葉の矛が飛んできた。
「おまっ、言っていいことと悪いことがあるだろ!馬鹿っていったな!しかも2回も!実の息子になんてことを!」
およよ、とわざとらしい泣き真似をしながら洗面所に向かおうと方向転換して歩き出すと、後ろから「フッ」と鼻で笑われた。解せぬ。
顔を洗ってリビングへ戻ると、テーブルに朝食が並んでいた。朝食らしくトーストとベーコンに目玉焼き。実に俺好みでテンション上がる。
「「「いただきます。」」」
3人一緒に食べ始める。普段はギリギリまで寝ているので、起きてきたら基本的に両親は既に家を出ているため実に1年くらいぶりの3人揃っての朝食である。まあ別にだからどうというわけではないが。
「ごちそうさま。...さて、今日はもう学校向かうわ。いってくる!」
「あら、出るのも早い。いってらっしゃい。」
「ああ、いってらっしゃい。」
基本的に食事中は無言で食べ進めるタイプの我が家は会話があまり発生しないのだ。別に仲悪いとかじゃないからね?
一足早く食べ終えた俺は、なんとなく出来るだけ早く学校へ向かいたくなったため家を出る。とはいえ走ったりはしない。焦る必要はどこにも無いからね。
「...っと。」
横断歩道で赤信号を確認し、立ち止まる。ポケットからスマホを取りだし、通知が溜まっているRINEを確認する。友達(ネ友)へ軽く返信し、スマホをしまい込む。
「....ん?んん?」
信号を渡り学校への道を進んでいると少し前を歩く1人の女子生徒が目に入った。あのウェーブがかった茶髪、間違いない。昨日俺が無謀にも話しかけてしまった...あのー、えーっと、そう。なんとか沢さんだ。
結局なにも力になってあげれなかったしもう一度声をかけるべきか?昨日の光景を見られている時点で今更誰に何言われても変わんないし。いや、悪口はあまり言われたくないけども。
「あー...っと、そこの君。昨日少し話した神山だけど。...大丈夫だった?」
メタル凪だけど。...謎の電波を受信してしまった。それはさておき結局勢いで話しかけたが名前がわからないことに声をかけてから気がついた。だがもう引き返せない。久しぶりに朝早く家出てナンパまがいのことしてて泣きそう。何度も言うけどナンパじゃないからね?いやマジで。
「...っ!!あっ、ええと、その....」
「ああ、ごめんね?まだ名前も知らないから。って、そこじゃないか。はは」
くっ...沈黙に耐えきれない陰の者特有の無理やりな場繋ぎをしてしまった...!!そもそも余計なお節介だったのだ。ここはこのまま無かったことにしてここを立ち去るのが吉か。
「...北沢です。北沢志保、2年です。歩きながら話すには少し長くなりそうなので、お昼休みにお時間頂いてもいいですか」
おおう、昨日とは打って変わってすごくクールな返しされた。まあ昨日は誰が見ても錯乱してるなって感じたしこっちが素なのかな。何はともあれ嫌がられなくてよかったぁ。本心はどうであれ、せっかく頼られてる(?)んだから期待には応えたい。
「もちろん。...じゃあ購買横の自販機で待ち合わせでいいかな?多分下級生が上級生の教室に急に来たら変に注目されちゃうだろうし。逆も然りで。...きいてる?」
アイドルということをしってるのは他の生徒の中にも何人かはいるだろうから、変に周りの目を集めるのは良くないしね。我ながら賢い判断だと思う。賢いのハードル低いなおい。というかこの子、ボーっとしてる?体調が優れないのだろうか。え?俺と顔合わせたから体調が悪くなりましたって?やかましいわ。
「...っ、ええ。それではよろしくお願いします。」
言い切ってスタスタと校門を通っていく北沢さん。...ふぅ。ここまで俺は「誠実で人当たりが良さそうな優しそうな先輩」を必死こいてたのだが、出来ていたのだろうか...。初対面(正確に言えば昨日からだけど)の男の先輩に接点ないのに急に話しかけられたら絶対怖いよね。これで家族とかネ友に話す時のテンションで接したら絶対逃げられる。通報手前まで行くかもしれない。まあ北沢さんと長い付き合いになるわけでもないだろうし、個人的には疲れるが、取り繕ってでも丁寧に対応すべきだろう。そもそも俺が勝手に首突っ込んだ上に怖がらせちゃマズいしね。
「(何はともあれ、今日もボッチとして学校生活を満喫しますか。...泣きてえ。)」
泣きてえよほんとに。誰か、僕と契約して友達になってよ。いや契約なんてしなくていいからリアルの友達ください。切実に。
─────
教室のドアを開け中に入ると、いつもの如く何人かのクラスメイトが一瞬こちらに目を向け、すぐに興味をなくしたように視線を外す。特に女子によく見られる。陰口言われてそうでこわひ。そんな中、一人だけ俺に視線を合わせたままこちらに向かってくる奴がいた。
「おは~。神山昨日の宿題終わってる?写させてくんね~?俺に残された救いはお前しかいないんだ。助けてくれよ神様仏様神山様~!...神だけに。」
「......」
クソ寒いダジャレで思わず固まってしまった。
「...一応聞くけど、自分でやるっていう選択肢はなかったのか?まあ別に貸してやるけども。」
「助かるぅ~。やっぱ頼れるのはお前だけだぁ!良い友達を持ったぜ俺は。」
「聞けよ」
こいつは
「てか!俺昨日みちゃったんだよ!あれはどういうことか説明しろ神山ぁ!」
「え、ちょ、なに?つーか落ち着け、揺らすな。首とれる。」
「お前、昨日の下校中に下級生ナンパしてたろ?しかもあの北沢さん!急に大胆なことしてて俺びっくりして何も無いとこで躓いちまったよ!しかもあっちもあっちで別れ際満更じゃなさそうな顔してたし!」
「ナンパじゃねーよ。...困ってそうだったから声かけただけ。つーか知り合いなの?」
「はぁ?お前北沢さんのこと知らねーの?仕方ないから教えてしんぜよう」
満更じゃなさそうに、それでいてウキウキした様子の笹木に嫌な予感がしたが、既に遅かった。
「え、いや、やっp「まず北沢さんはアイドルなの。最近じゃテレビにも少しずつだが出るようにもなった新人アイドル!あの765プロダクションに所属してて、それからなんと言ってもあの演技力!表情や体の細かい動作から繊細な演技をするって評判なんだぞ!それから────」
「」
は、早口すぎる...!!てかいつも俺とこんなに会話しないだろ。いつもなら宿題借りてサッとフェードアウトしてくのに。よっぽどアイドル好きなんだな...。あと北沢さんって765プロだったんだ。アイドルあんま詳しくない俺でも知ってる事務所じゃん。そもそも北沢さん新人アイドルなんでしょ?最近テレビに少しでてきたくらいの知名度なんでしょ?なんでそんな詳しいの。ガチの古参ファンなのか?しかも昨日のことばっちり見られてるし。それに加えて案の定誤解されてるし!もう何が何だかわかんねぇや!
「─────ってわけ。おい、聞いてたか?」
「いや...色々ツッコミたいとこあったんだけど、ひとつ聞かせてくれ。笹木お前昨日どこで俺の事盗み見てたんだよ」
「人聞き悪いこと言うな!普通に近くに居たわ!つーか盗み見なんて言うけどな、校門の端でであんな事やってたらいやでも目に付くわ!周りの女子が色めきだってたぞ。けっ、これだからイケメンは」
「それは俺がイケメンだから色めきだってたんじゃなくて気持ち悪くてどよめいてたんだぞ。そこんとこ間違えんな。」
「はぁ...行き過ぎた謙遜は皮肉に聞こえるぞ。」
「??」
思ったよりも俺の行動はまわりにしっかりと見られていたようだ。そりゃそうだよな。いつもぼっちの奴が急に下級生の女子に話しかけてんだもん。みんな胡乱な目で見てたに違いない。つーか俺がイケメンとかいう誰がどう見てもお世辞だと分かることを言っていたが、俺知ってるからな?お前がバレンタイン12個貰ったの知ってるからな?友達いなくても周りが話してるのが聞こえてくるくらいその話題聞いたんだからな。お前が顔面良くてユーモアがあってよくモテるの知ってるんだからな?女子とかちょいちょい話してるし。ちくしょう、神様は不公平だ。
「まぁそれは置いとくとして...実際のところ、どうなんだ?手応えあんのか?大っぴらに禁止されてはなさそうだけど、アイドルだし恋愛はタブーなんじゃねえの?それともそんなの神山にかかればちょちょいのちょいってことか?」
「何を誤解してんのか知らねーけど昨日は本当に下心で話しかけたわけじゃねえよ。困ってそうだったから声かけた。それだけ。それ以上もそれ以下もない。おーけー?」
「...まあそこまで言うならひとまず信じてやろう。そもそもうちのクラスの男子も女子もお前がいる手前そんなにでかい声で言ってないが、昨日からお前と北沢さんのことで話題持ちきりなんだぞ。お前と普段会話してる奴が俺くらいしかいないから俺に話聞けって押し付けられたんだよ。まあ俺も気になってたしそれはいいんだけど。...そのうちお前男子から刺されたりしないように気をつけろよ?」
「悪かったな友達いなくて。なんも面白いことなんてねーから周りにしっかり伝えておいてくれ。あと恨まれる覚えなんか俺にはないからな。みんな気になるなら話しかけりゃいいのに。」
「そんな肝座ってるやついねーよ...。ま、いいや。後でまたなんかあったら聞かせろよな!」
「はいはい。なんもねーけどあったらな。」
朝からドッと疲れた。何この質問攻め。つーか下級生一人に話しかけただけでこんなに大事になんの?まあアイドルだったからしゃーないとこもたしかにあるけども。...さすがに昼休みに悩みを聞くなんて爆弾投下したらろくでもないことになるのは目に見えていたので大人しく隠すことにした。うん、賢明だ、俺。つーか浮かれてたとはいえ、助けになりたいという気持ちの他に有名人と話してみたいと多少の下心があったこと、正直北沢さんに失礼だな。こういう所改めないとだな。
朝から色々とありすぎて早く登校して来たことを若干後悔しつつ、少しでも疲れを取るため、授業が始まるまで仮眠をとることにした。
─────
そして迎えた昼休み。クラスメイトがテーブルをくっつけ弁当を広げるのを視界に入れた俺は、これ以上自分が悲しい思いをしないように、そしてなにより約束に遅れないために購買へ向かうことにした。
階段を下り、購買に到着する。適当にパンとおにぎり、そして炭酸飲料を購入して自販機横の椅子に座り込む。
このままここで食事をしてもいいのだが、正直人がよく通るので視線が痛い。北沢さんと合流したら人気のない場所まで移動してから食べるべきだろう。...あれ?なんか北沢さんを人気のないところに連れ込んで飯食おうとしてる奴に見えない?これ平気か?おれはかんがえるのをやめた。
「...あっ」
そうこうしているうちに、北沢さんがこちらに気づいて近づいてくる。改めてみるのクッソ美人だな。...ほんとに年下?
「...おっ、来たね。昼食はもう食べた?...ってこんなに早く食べられないか。ここに集まっておいてなんだけど、良かったら他の場所に移動しない?ここじゃ人の視線も気になるし。」
「はい。ですが、いつも教室で昼食をとっているので、人気のない場所が分からないのですが...良ければ案内していただいても?」
ふむ。人気のないところが知りたいとな?任せなさい、なんてったって俺は生粋のぼっちだからね。それくらい熟知しているんだよ。...悲しいことに。
「ん、ああ、そっか。じゃあ、そうだな...屋上なんてどうかな。あんまり知られてないけど、実は屋上って閉鎖されているように見えて、入れるんだよね。」
「それは...問題になりませんか?あとから先生方に見つかったら...」
「ちょっとくらい平気だよ。...そろそろ行こう。人が増えてきた。」
「えっ...ちょ、ちょっと...!!」
階段を上り、屋上まであと少しのところで、後ろから動揺した声が聞こえてきた。
「あ...あの....う、腕を...!!」
「ご、ごめん、いきなり掴んだりなんかして。どうにも人の視線が気になっちゃって...」
「い、いえ...少し驚いただけですから。」
周囲の人からの目線を集めていることに気づき、直ぐに人の視線から逃れたいという欲求から、思わず彼女の腕をひっぱり歩き出していた。...うん、待って欲しい。そのスマホを頼むから置いてくれ。話せばわかる。俺も焦ってたんだ。昨日と同じように周りに見られながら会話するのキツかったんだ。
少し気まずくなってしまったが、無理やり空気を断ち切る為に屋上の扉に向き直り、ドアを思い切り押す。少ししか扉は開かなかったが、人が通るには十分だろう。
「めちゃくちゃ扉重いんだけど、こうやって開くんだよね。...さて、行こっか。」
2人で屋上に入り、扉を閉めた。
なんだか長くなりそうなので中途半端ですが切りました。それと、2話を投稿するにあたって1話も少し修正しました。...4年前の僕には志保が黒髪に見えていたようです。失礼いたしました。