魔法少女リリカルなのはViVid ooo ~欲望を司る魔王女~ 作:ハナバーナ
エーリが誕生日プレゼントとしてデバイスであるアンクを授かった翌日。この日は休日のため、ラフな私服をしたエーリは、リュックを担いでアンクとともに街に出かけていた。
「ん~いい天気。より一層いろんなことに集中できそうだよ。」
『お前に不調な日などないと思うがな。』
褒めているのか蔑んでいるのかわからないアンクの発言だが、エーリは全然気にしていない。ふんふーんと鼻歌を歌いながら、ゲームセンターの中に入る。
『一企業のお嬢様がゲームとはな。』
「別にいいでしょ? あたしだってゲームしたいときぐらいあるよ。見てて。」
エーリが真っ先に目を付けたのは、ガンシューティングゲームだ。始めるやいなや、エーリは標的を正確に、そして素早く撃ち抜いていく。
『ほう、うまいもんじゃねえか。』
「へへーん、よくやってるからね。それに実戦でも、遠距離からの砲撃に対応できるから
結構重要なんだよね、このゲーム。」
『(なるほどな…この小娘、娯楽でも戦いのヒントを見出すタイプか。面白い。)』
「おっと、まだまだあるよ。」
シューティングゲームを終えたエーリが次に向かうのは、クレーンゲームだ。
『まさかとは思うが、これも実戦に役立つとかいうんじゃねえだろうな?』
「少しは役に立つよ? ほら、あのフィギュア入りの箱。」
言いながらエーリは、フィギュアが入っている四角い箱にクレーンを動かす。上に上がる際、爪先は箱を滑らかに滑っていくが、開け口の隙間に引っ掛かり、景品の獲得に成功する。
『何かと思えば、運がいいだけだろ。』
「え~、そうでもないよ? 確かに運も絡むけど、配置してある箱の位置、クレーンを止める
位置、排出口までの距離とか、いろいろ考えないとなかなか取れないんだ。これは実戦で、
相手との距離の間にどんなことをしようかって考える時間とかも関わってくるから。」
遊んでいるはずなのに、なぜか遊んでいる感じではないと、アンクは思うのであった。
午後になりエーリは、中央四区にある公民館にやってくる。
「ここは格闘技、ストライクアーツの練習場になってるんだ。一応おじさんの会社にも
特訓場はあるんだけど、ここはより格闘技に集中してる人が集まるから、偶に特訓で
来るんだ。」
『強い奴とのスパーリングができるってことか。』
「そゆこと。」
公民館の脱衣所に入り、スポーツウェアに着替え、練習用グローブを付けたエーリは、練習場に出る。中は広く、いくつかのトレーニング器具やランニングスペース等もあるため、快適と言える。
「あれ、もしかしてエーリ?」
エーリの元へ駆け寄ってきたのは、エーリと同い年に見える三人の少女。話しかけた来たのは、三人のうちの一人である虹彩異色の目をした金髪の少女である。
「あっ、ヴィヴィオ、コロナ、リオ。」
「エーリも練習しに来たの?」
「うん、まあね。」
エーリは笑顔で、ヴィヴィオの質問に応答する。
『エーリ、こいつらは?』
「あたしの学校の同級生。虹彩異色の子がヴィヴィオ、おさげの子がコロナ、八重歯の子がリオ。
いつも三人でいるんだ。」
「ねえエーリ、それってもしかしてデバイス? 個性的だね。」
「うん、誕生日におじさんからもらったの。アンクっていうんだ。アンク、挨拶して。」
『ふん、精々よろしくな。戦うんならこのバカマスターと渡り合うくらいには
強くなってくれよ?』
「馬鹿は余計!」
エーリとアンクの漫才じみた会話に、ヴィヴィオ達三人娘は苦笑する。
「なんだ、お前らの知り合いか?」
四人の元へ、赤毛の女性が二人歩いてくる。
「はい、ノーヴェさん。エーリ、この人は私達の格闘技の先生でノーヴェさん。髪を
まとめてるもう一人の人が、ヴィヴィオの友達のウェンディさん。」
「先生はやめろって、コロナ!」
先生呼ばわりが苦手なのか、ノーヴェがコロナに注意を促す。
「初めまして、ノーヴェさんにウェンディさん。あたし、エーリ・コウガミっていいます!」
「よろしくっス!」
「よろしくな。ヴィヴィオから評判は聞いてるぜ。結構腕の立つお嬢さんなんだってな?」
「ヴィヴィオそんなこと言ってたの!?」
「えへへ、だってエーリって組手強いから。」
エーリが顔を赤くし、ヴィヴィオは微笑して頬を掻く。アンクも、エーリの恥ずかしげな表情を見れて満足している。証拠に目が弧を描いている。
「じゃあよヴィヴィオ、あたしとの組手の前にさ、エーリと軽くスパーリング頼めるか?」
「わたしはいいけど、エーリは?」
「あたしもいいよ。代わりにヴィヴィオとノーヴェさんの組手、見学させてね。」
交渉成立し、小学生四人はさっそくスパーリングに入る。お互いスパーリングしているリオとコロナは、ヴィヴィオとエーリの方を時々見る。
「改めてみると、ヴィヴィオもエーリもすごいよね。運動も勉強もできて。」
「うん、案外似た者同士なのかも。」
ノーヴェやウェンディも、二人のスパーリングを見て感心している。
「ヴィヴィオ達三人もそうっスけど、エーリもなかなかいっちょ前っスね。」
「ああ、結構筋がいい。対戦では厄介な相手になりそうだな。」
ヴィヴィオとエーリの二人も、スパーリングしながら会話している。
「ヴィヴィオはさ、やりたいこと見つかった?」
「全然。何したいのか、何ができるのかわからないから、色々やってみるの。エーリは?」
「いろいろあり過ぎる! だから今は、一番やりたいことを決めてる最中!」
「そっか!」
エーリが蹴りを繰り出し、ヴィヴィオが拳でそれをバシッと受け止める。
「今年はヴィヴィオも出るんでしょ、DSAA? あたしも出るんだ。」
「お互い今年で10歳だからね。その時はライバルだね。」
「うん。対戦することになったら、絶対に負けないよ!」
「こっちこそ!」
二人はニッと笑いながら、先ほどより強めのスパーリングを行う。
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それからしばらくして、ヴィヴィオとノーヴェの本格的な組手が行われた。ヴィヴィオのウサギ型デバイスであるセイクリッド・ハート(愛称クリス)と変身した大人モードのヴィヴィオとノーヴェの組手は、周囲の人間を集めてしまうほどに迫力あるものだった。
「二人ともやるっスね~。」
「凄いです! 衝突で起こった風がこっちまで飛んできて…‥!」
『感心してる場合かエーリ。今後はお前があんな試合を何度もやる羽目になるんだぞ?』
「そんなこと言ったって、凄いものは凄いもん!」
アンクが注意しても、エーリは目を輝かせるばかりである。アンクは呆れていた。
「なあ聞いたか? 例の傷害事件の話。」
「あれだろ? 妙な女が実力ある奴に喧嘩吹っかけてるって噂。」
「これも噂なんだがな、そいつ『覇王』って名乗ってるらしいぜ?」
「なんだそりゃ、変な奴だな。まあ噂だから気にしちゃいねえが、一応帰りは気を付けとくか。」
「はは、本当だとしてもまだまだ弱っちい俺らじゃ相手にされねえって。」
エーリたちの近くで、二人の男性がそんな会話をしていた。
『‥‥‥‥。』
アンクはその二人の会話を聞き、なぜか半目になっていた。
夕方ごろだろうか、ヴィヴィオ達より早く練習を終えたエーリは、背伸びしながら公民館を出る。
「さてと、コンビニで軽い食べ物でも買って帰ろうかな。」
『おいエーリ、少しいいか?』
近くに誰もいないのを確認したアンクは、エーリに話しかける。
「なに、アンク?」
『お前、最近起こってる傷害事件の事はわかるか?』
「なんか、噂になってたよね。強い人が襲われてるみたいな。」
『‥‥‥‥。』
「アンク?」
『エーリ、今からコウガミに少し遅れて帰ると連絡しろ。』
「えっ、どうしたのいきなり?」
わけがわからないエーリは、その意味をアンクに問いただす。そしてアンクから出てきた答えは、衝撃的なものだった。
『…‥今夜、その襲撃者とタイマンを張るぞ。』