魔法少女リリカルなのはViVid ooo ~欲望を司る魔王女~ 作:ハナバーナ
「ごめんなさい!」
ナカジマ家の宿泊や放課後での用事も重なり、結果的に丸一日かかって帰宅することになってしまったエーリ。コウガミの部屋に入ったエーリは、いつも通りケーキ作りに没頭しているコウガミに深く謝罪する。主な原因のアンクは、相変わらず知らんぷりしているが。
「ふぅむ‥‥エーリ、君が物事に興味を持つことは自由だ。私も事前にそう言った。しかし、
今回の事に関しては、さすがに度が過ぎたね。一歩間違えれば大怪我だった。」
「本当に、ごめんなさい!」
いつもは喜怒哀楽の激しいエーリだが、さすがにコウガミに心配をかけ過ぎたと思い。渋面を作って必死に頭を下げる。
「‥‥‥まあ、お互い大事にならなくてよかったよ。今後は昨日のようなことを
起こさないように。」
「はい、分かりました。」
「分かればいいんだ。ところでエーリ、早くも王の血統と顔合わせしたそうだね?」
コウガミがそう言った瞬間、エーリはバッと顔を上げ、二回うなづく。
「うん、聖王と覇王っていう二人の王様。覇王の方が中学一年のあたしの先輩で、聖王の方が
あたしと同い年の同級生だったの!」
「ふむ。君が昨日の夜喧嘩したのは覇王の方だったと聞くが…‥実力はどうだったかね?」
コウガミがクリームを混ぜながらそう聞いた瞬間、エーリの表情は恍惚としたものとなる。
「すっっっっごく強かった!! 今度はちゃんとした場所で手合わせしたいって思うほど!!」
アンクすらも引いてしまうエーリのテンションの上がりようである。コウガミもクリームをかき混ぜる手を止め、呆然とエーリの方を見るが、
「‥‥‥ハッハッハッハッハッハ、なるほどなるほど!」
と、不安に思っていないと言いたげに、腹の底から大きく笑いだす。
「…‥あんな笑われるほど、おかしいこと言ったかなぁあたし?」
『さあな。』
エーリとアンクが目を合わせてもなお、コウガミは笑いながらケーキ作りを続けていた。
『エーリはさ、お前とほとんど同じなんだよ。』
『同じって?』
『あたしらのドクターが生み出した王様の器‥‥エーリはお前やゆりかごを護る為に造られた、
聖王とは違う、魔王の器なんだ』
アインハルトとのスパーリング後、更衣室でエーリを呼んだ理由をノーヴェから聞かされたヴィヴィオは、簡潔に言うと激しく動揺していた。もしノーヴェの話が本当ならば、血のつながりがないとはいえ、ヴィヴィオとエーリは姉妹のような関係ということになるからである。ウェンディやディエチの前では平然を装ったものの、内心はどうすればいいかわからないという不安でいっぱいである。
「ヴィヴィオ、箸が止まってるぞぅ?」
ヴィヴィオにそう言うのは、彼女の養母である未だ二十代前半の女性、高町なのはである。なのはの声を聴いたヴィヴィオは、肩を大きく動かす。現在二人は、食事中である。
「な、なんでもないよママ。」
「もしかして、エーリちゃんって子の事? ティアナから聞いたよ? 魔王のクローンだって
話でしょ?」
と、勤め先で白い魔王と言われているなのは(本人の前でいうのはタブーである)は、少しいたずらっぽい顔でヴィヴィオに聞いてみる。
「うっ…‥わかっちゃう?」
「これ位はわかるよ。四年もヴィヴィオのママやってるからね。」
クスッと微笑むなのは。ヴィヴィオもそれに返すかのように、苦笑しながらうなづく。
「わたし、どうすればいいかな? 今までずっと友達として見てきたから、そんな見方しか
できる方法が思い当たらなくて…‥。」
「それでいいんじゃないかな? エーリちゃんもヴィヴィオに負けないくらい元気に過ごせて
いるみたいだし、今まで通りに接してあげればいいと思う。まあ、もし拗らせそうな時が
あったらその時は--------」
なのはは握りこぶしを作り、ヴィヴィオの前に静かに突き出す。
「正面からドカーンってぶつかってみれば? 私もヴィヴィオと近い年の頃、フェイトちゃん達と
そうやって自分をぶつけたことがあるから。」
「フェイトママ達と…‥?」
ヴィヴィオが問い、なのはがうなづく。ヴィヴィオは数秒顔を下に向け、笑顔になって上げる。
「うん、ヴィヴィオ頑張るよ! 来週、新しく知り合った人との練習試合もあるし。」
「じゃあ、いっぱい食べて元気付けないとね。」
「はい!」
そうだ、落ち込んでばかりいられない。それではエーリを不安にさせるだけだ。今日戦ったアインハルトという少女を、失望させてしまうだけだ。だから自分は、前を向いて彼女らに今の自分を見せよう。ヴィヴィオはそう胸に誓い、食べるペースを先ほどより早める。
燃え盛る大地…‥草木が枯れ、剣が突き刺さり、数多くの兵が倒れる。そんな、地獄とも表現できる地上に、傷口を抑え、片膝をつく一人の青年と、彼を見据える二人の女性。一人の虹彩異色の金髪の女性は、同じ虹彩異色の青年に微笑む。
『今まで本当にありがとうクラウス‥‥だけど私は行きます。』
『待ってくださいオリヴィエ! 勝負はまだ…‥‥!』
『あなたはどうか、良き王として、国民とともに生きてください‥‥。この大地が、もう戦で
枯れぬよう‥‥青空と綺麗な花をいつまでも見れるような、そんな国を‥‥。』
オリヴィエは笑みを浮かべたまま、後ろを向いて歩いていく。もう一人の女性と同じ位置まで来た時、オリヴィエは立ち止まる。
『…‥別れは済んだか?』
『ええ、行きましょうサイア。役目を果たすために…‥。』
遠のいてゆく二人の女性に、クラウスは痛みに表情をゆがめながらも叫ぶ。
『デサイア、貴女はそれでいいのか!? 貴女だって、オリヴィエを愛していたはずだ!!
この国の民の心を持ち、ともに幸せでいようと考えたはずだ!! なのに何故------』
『知れたこと。』
立ち止まったデサイアは、ゆっくりとクラウスの方を振り向く。その黄金の瞳に宿っているのは、果てしないまでの虚無感と、全てを凍てつかせそうなほどに冷たい狂気だった。
『その愛する者の決意が、余にとって国や民よりも価値ある宝だからだ。』
それだけ言うとデサイアは、再び視線をオリヴィエの方に移し、歩み始める。
『待ってくださいオリヴィエ、デサイア!! 僕は----------』
クラウスは手を伸ばすも、彼女らには届かない。二人の王女は、炎の中に消えていった。
・・・・・・・・・・
「…‥‥‥!」
自室で眠っていたアインハルトは、ハッと目を覚ます。その瞳からは涙があふれており、窓越しの空は暗く、月が出ていることから、まだ夜だとわかる。室内は女の子らしからぬ、トレーニング器具が並べられているだけの部屋だった。
「(いつもの夢…‥一番悲しい覇王の記憶‥‥。)」
聖王と魔王。覇王イングヴァルトの前から二人の王女が去って行く悲しき夢。そんな夢を見たアインハルトは涙をぬぐい、ベッドから起き上がる。
「聖王オリヴィエ‥‥‥。」
アインハルトはそうつぶやき、設置してあるサンドバッグにトンッと拳を軽くぶつける。
「魔王…‥デサイア…‥!」
今度は先程よりも勢いのある拳を叩きつける。オリヴィエを失った悲しみ、彼女を救えなかった自分に対する怒り、そして…‥聖王を止めようとせず、共に過ごした国を捨てた魔王に対する憎しみを込めながら。