Sword Art Online《とある朝田シノの仮想現実》 作:新名国後守
第3話
『
その日。
つまり、自分が。そしてソードアート・オンライン初回購入者1万人が待ちに待ったこの日。
2022年11月6日。
あの日、ソードアート・オンラインにログインしていたユーザーにとって、仮想現実は現実のものとなった。
ゲーム内での『死』は、現実世界での『死』に直結する。
その事実を。真実を。現実を突きつけられて絶望をしなかった者がどれだけいるのだろうか・・・。
リンク・スタート!
という魔法の言葉でベータテストぶりにこの仮想現実へと戻ってきた。
《浮遊城アインクラッド》。
その第1層の主街区《はじまりの街》に意識を飛ばされた自分はログイン時にできるアバターの設定はひとつも弄ることなく、つまりは自分本来の姿のままで異世界の大地に足をつけていた。
自分以外にも数名が転移光を発しながら、異世界へと足を踏み入れていたのだが、ほぼ一番乗りであることには違いないらしい。
初期装備に短剣《スモール・ダガー》・・・うん、間違いなくここはソードアート・オンラインだ。
久しぶりの仮想現実の感覚に手を握りしめながら自分はNPCを探しに早速歩き出す。
とあるクエストを受けるためだ。
その内容は豚の亜人をモチーフとしたモンスターから超低確率でドロップされるレアアイテム【ボアマンの精巣】を3つ納品してほしいという狩猟クエスト。
しかも1度クエストを達成したあとでもそのNPCにまた話しかければ同じクエストを何度でも受注できるタイプのものだ。
そしてこれの報酬がまた美味しいんだ。
第1層では中々得られないほどの
ベータテストの際に発見され、某掲示板や攻略サイトにも掲載されていたため何人ものプレイヤーがこのクエストに挑戦したのだが、ベータテスト期間内にクエスト
その理由は【ボアマンの精巣】が滅多にドロップしないことにある。
クエスト達成に必要なアイテムがドロップしない。
だが、その事実はゲーム内に限って言えば圧倒的な
むしろこのクエストは自分の為だけにあるのではないかと思ってしまうほどだ。
「よし・・・行こう」
クエストを受注した自分は武器屋へ一度寄り《スモール・ダガー》を予備として1本購入してから《はじまりの街》を飛び出し草原エリアへと駆け出した。
向かう先は、はじまりの街からそう遠くはないがベータテスターの中でも限られたごくわずかな人にしか知られていないボアマン(通称、猪八戒)の穴場の
いくら
とりあえずLv.3になったら、もっと先(正確に言うとホルンカの村)へと進もうと考えていたところだった。
その村では片手剣だけでなく、短剣をもらえるクエストも存在する。
ベータテスト時にはそのクエスト報酬の短剣《アニール・ダガー》で3層のボス戦を突破した。是が非でも真っ先に手に入れたい装備だった。
それからゲーム時間で日が暮れ始める時まで狩りを続けていると、レベルは3へ。それもEXPゲージはほんの数ドットで4になるというところまでレベルが上がっていた。
熱中し過ぎてて元々の予定レベル3になっていたのが気づかなかったのかって?
いやいやそんなことはなかったのだが、あまりにもレベリングが順調だったから目標をLv.4にまで引き上げたんだよ。
それに短剣の最下位ソードスキル。単発の突き攻撃《アーマー・ピアース》のクリティカル判定だと確定一回でモンスターをポリゴン片へと変えられるからな。初期装備《スモール・ダガー》の低く設定された耐久値であっても連戦し続けられたというわけだ。
とはいえ、
そんなことを考えていた頃合いだった。
リーンゴーンリーンゴーンという荘厳な鐘の音がアインクラッド内に響き渡ったのは。
そして、それと共にプレイヤーの強制転移が始まったのは。
強制転移によって飛ばされた場所は《はじまりの街》。
その中央広場と呼ばれるところだった。
そこにはすでに強制転移させられたプレイヤーたちが続々と転移光を発しながら出現を繰り返しており、おそらくはログインしたプレイヤー全てが、このはじまりの街の中央広場へと集められているようだった。
「なにがどうなってやがる」
「ログアウトボタンがないからその説明や謝罪だろう」
「早くログアウトさせろ」
「やっと戻れる」
「初日から致命的なバグとか先が思いやられるな」
「はやくしねぇとピザが冷めちまう」
そんな会話が街の広場のいたるところでされており、喧騒としていた。
ただそれもつかの間。
その喧騒は一度静まり返り。
そして、悲鳴。怒号。罵声。恐怖。絶望がその場を支配することとなる。
空を埋め尽くした真紅の幾何学模様。
その中央部分にある隙間から、粘度の高そうな赤い液体が染み出し、流れ出る。
それはまるで血液のようなで、生理的嫌悪感を覚える。
液体はやがて空中で一つに固まり、ローブを着た人間を形成した。
そのアバターはソードアート・オンライン公式ウェブサイトで。そして、ベータテストの時に幾度となく見た、GMの姿だった。
顔の無いGMは、そんな喧騒を遮るように、両手をゆっくりと、仰々しく大きく広げてから声を発した。
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ
私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールすることのできる唯一の人間だ
諸君らの中にはメインメニューから、既にログアウトボタンが消滅していることに気付いている者も多いと思う
しかし、これはゲームの不具合ではない。繰り返す。不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である
諸君は自発的にログアウトすることはできない。また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止或いは解除もありえない
もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる
残念ながら現時点で、プレイヤーの家族、友人などがが警告を無視し、ナーヴギアを強制的に解除しようと試みた例が少なからずあり、その結果二百十三名のプレイヤーがアインクラッド及び、現実世界からも永久退場している
ご覧の通り、多数の死者が出たことも含め、この状況をあらゆるメディアが繰り返し報道している。よって、既にナーヴギアが強制的に解除される危険は低くなっていると言ってよかろう。諸君らは、安心してゲーム攻略に励んでほしい
しかし、十分に留意してもらいたい。今後、ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君らのアバターは永久に消滅し――同時に、諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される
諸君らが解放される条件は只一つ。このゲームをクリアすれば良い
現在、君達がいるのはアインクラッドの最下層、第一層である。各フロアの迷宮口を攻略し、フロアボスを倒せば上の階に進める。第百層にいる最終ボスを倒せばクリアだ
それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え
諸君は今、何故、と思っているだろう。何故私は――ソードアート・オンライン及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか、と
私の目的は既に達せられている。この世界を創り出し、鑑賞するためにのみ私はソードアート・オンライン造った――そして今、全ては達成せしめられた
以上で、《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。――プレイヤー諸君の健闘を祈る』
言いたいことはすべて言った。
そう言わんばかりに不気味なアバターはうっすらと徐々に消え、最後には空と同化していった・・・。
次回は明日。