ガンバライダーReflection   作:覇王ライダー

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第14話

-リョウヘイが着いた頃にはもう遅かった-

戦地は炎に焼かれ、道は砕かれて周囲には倒れるガンバライダー、そして魔導師たちがいた。

彼女たちは傷だらけの状態で倒れ込み、その場で起きたことの深刻さを物語っていた。

炎で燃え盛る戦地の中、そこでただ一人立つ少女がいた。

「高町・・・。」

なのははただ一人その場で立ち尽くしていた。そして彼の言葉に応えることなくただただ遠くを見つめていた。

自分がもっと早く来ていれば。そうリョウヘイ自身の心の声が聞こえる。彼の中の罪悪感は1秒ごとに強くなっていく。

「・・・。」

黙り込む二人はただ立ち尽くした。きっとそれぞれの思うことは違う。しかしその本質は似たように感じた。

「救護班を呼ぶ。少しだけ待っていてくれ。」

リョウヘイはそう言ってその場から立ち去った。

リョウヘイが去って電話をかけようとしたその時だった。

「ん?」

彼の通信のバイブが鳴った。しかも彼の知らない番号だ。

何かの間違いだろうかとリョウヘイは思い、その着信を取った。たとえ間違いでもそれに出るのは礼儀だろうと感じたからだ。

「・・・もしもし。」

「もしもし。」

その声の主はユーノだった。リョウヘイはそのまま話を続けようと声をかけようとした時だった。

「リョウヘイさんにお聞きしたいことがあります。」

リョウヘイはその意図をすぐに汲み取った。自分の資料の中に-アレ-があったことも。

 

なのはは呆然としていてリョウヘイが言った言葉には答えなかった。

彼女の心の中は無力さでいっぱいだった。きっとリョウヘイがどんな言葉をかけても答えなかっただろう。

-助けたい人を助けられなかった-その気持ちだけがなのはを責める。

彼にもきっとその無力さは伝わることはなかったのだろう。

 

ボロボロになったガンバライダーたちは救護班によってホテルまで運ばれた。またそこで共に戦った魔導師たちも然りだ。

先に起きた守護騎士、そしてタケシチロウはクロノ、そしてヒサキと連絡を取っていた。

「悪いな副社長、俺たちの弱さ故にこんなことに」

「気にするな。」

落ち込むタケシチロウをヒサキはそう宥めた。

「敵が敵だ。仕方がないさ。」

クロノも追うようにタケシチロウを慰めた。

タケシチロウは小さく「あぁ。」とだけ返した。

「大事なのはこれからだな。」

クロノと守護騎士はヒサキの言葉に頷く。

夜天の書が奪われた今、それの奪還と首謀者たちの捕獲が優先されるのは明らかだ。

「はやては?」

「主人は・・・。」

シグナムたちは後ろを見た。はやては先程から眼を覚ます様子はなく、ずっと眠ったままだ。しかし

「・・・起きてるよ。」

ゆっくりと体を起こして立ち上がった。シグナムたちが支えようとするが大丈夫と彼女たちを止めた。

「私もとんだ失態や・・・申し訳ない。」

そしてクロノが話そうとした時だった。ドアがゆっくりと開く音がした。

「・・・。」

「リョウヘイさん・・・。」

入ってきたのはリョウヘイだった。リョウヘイとヒサキはバツが悪そうに少し眼をそらした。

「・・・すまない。」

リョウヘイが頭を下げると、ヒサキは後ろを向いて少しずつモニターから離れた。

「リョウヘイ、お前はこのミッションから外れてもらう。」

「!!?」

全員の背筋が凍り、場は静まり返った。ヒサキはそんなことお構いなく話を続ける。

「ちょっと待ってください!それは」

はやてが止めようとしてもヒサキは言葉を続ける。

「そしてお前には査問がある。こちらに戻り次第話を聞かせてもらうぞ。」

「待ってくださいよ!!」

タケシチロウがヒサキへと叫んだ。タケシチロウの拳の力は少しずつ強まっていく。

「リョウヘイさんは何も悪くない!俺たちの力不足でこうなったのであれば外されるのは俺たちの誰かだ!だから」

「お前も外されたいのか?」

その瞬間タケシチロウは黙り込んだ。リョウヘイはタケシチロウの肩を叩いて後ろへと押した。そしてヒサキの映るモニターへと近づく。

「分かった。だからタケシチロウは任務に残してやってくれ。奴にしか指揮は出来ない。」

ヒサキは分かったと頷いた。リョウヘイもそれを見て良しと部屋を出ようとした。

「待て。」

それを止めたのはヴィータだった。ヴィータは物言いたげにリョウヘイへと近づこうとした。

「待てヴィータ。」

止めたのはザフィーラだった。ザフィーラはリョウヘイへと近づいていく。

「俺たちからも聞きたいことがある。それを答えてからにしてもらおうか。」

リョウヘイは少し頷くと開こうとしたドアから手を離した。

 

なのはとアリサはバルコニーで佇んでいた。

「なのは大丈夫?」

「大丈夫。」

なのははアリサの心配そうな声に対してあまりにも淡白で静かに答えた。アリサはでもと話を続ける。

「撃たれたって聞いたよ?」

「大丈夫、ジャケット纏ってたから。」

なのはの頰の傷がその無茶を物語っていた。

少女の頰に着いたガーゼは彼女の悲しそうな表情も相まってこちらまで痛くなってしまう。

「でも・・・悲しそうだよ。」

アリサがそう言うと、なのははアリサに背を向けた。

「助けたい人を助けられなかった。悔しいよ。」

アリサにはその背中はあまりにも弱々しく小さく見えた。彼女を励ませないかと彼女も言葉を選んで話しているつもりなのだ。

「でも次があるんでしょ?」

「うん。次は負けないし絶対に助ける。」

アリサの背を向けたなのははそう答える。

-彼女の背中はどこか遠くに行ってしまって二度と帰ってくることがない-アリサにはそう見えた。

その姿は魔導師となったばかりのなのはを見ているようだった。

もう二度と見ることのないと思っていたその背中、だから

「ほらっ!!」

「っ!!?」

アリサはなのはの尻を思い切り叩いた。なのは驚いて数センチ飛び上がった。

「絶対帰ってくるのよ!夏休みはまだ始まったばっかなんだからね!」

アリサは笑顔でなのはにそう伝えた。なのはは元気よく「うん!」と伝えた。

彼女を見守るのは自分たちなんだ。彼女が-帰る-場所を作るために。

 

そんな光景を後ろで見ていた奏夜はそっとバルコニーから立ち去って部屋に入ろうとした。

「・・・野暮だねぇ。」

「・・・いつからそこにいた。」

そう声をかけたのは虎だった。虎は立ち去ろうとした奏夜と背中合わせに立った。

空を見上げた虎の目の前には無数の星が広がっていた。

「なあ、この世界にもし偽物で弱々しい力に守られているとしたらお前はどう思う?」

奏夜には質問の意味がわからなかった。偽物?弱々しい力?彼の頭の中でいくつもの疑問符が浮かんでいく。

「お前は何か知っているのか・・・?」

さあな。と虎は返す。

「ただ、この世界は妙だ。夜を見れば俺にはわかる。」

奏夜ーもそっと首を空へと向けた。

もし妙だとしたらこの世界に何が起こっているのか。彼らはそれを知る必要があるのかもしれない。

 

フェイトとリンディ、そして闘真はホテルを出て海辺のベンチで座り込んでいた。彼女たちの耳に潮の満ち引きの音が響き、静かにザーッと言う音が耳へ届いてくる。

「キリエさん・・・昔の私にどこか似ているんです。」

大切な人のためと思って動いた結果が沢山の人達を巻き込んで、辛いを思いをさせてしまった。

それは二年前に起きたプレシア事件、そしてそれに関わっていたフェイト自身と重ね合わせてしまうものがあった。

「フェイトさん・・・。」

闘真はフェイトへと少し視線を向けた。闘真の頭の中にはアクートから言われた言葉が響いてくる。

-お前は俺と同じ道を歩むな-彼が言ったこの言葉には何の意味があったのだろうか。もし彼が誤った道を辿り、それと同じ道を辿ろうとしているのなら。

彼の中にはそんな不安が押し寄せてきた。

「それに」

フェイトは話を続ける。

「あのアクートという人、彼に触れた時私の頭の中に自分じゃない記憶が流れてきたように感じたんです。」

「えっ?」

リンディと闘真は驚いてフェイトを見る。

彼女が見たのは幻影などではなく間違いなくどこかで起きた"自分の出来事"だったという。

「もしあの人と私たちになんらかの関係があるならそれも知りたい。」

フェイトは立ち上がってリンディたちの方を向いた。彼女の象徴的な金色のツインテールが潮風で靡いている。

「助けたいです。取り返しのつかないことになる前に。」

リンディはフェイトの手を握る。闘真もそれを見て頷いた。

「えぇ、助けましょう。"みんなで一緒に"。」

フェイトははい。と頷く。

闘真も知る必要がある。この世界、そしてアクートたちにどんな過去があって"何が"起こっていたのか。

 

葉月はベッドからゆっくりと起き上がった。

彼女の中で前の戦闘は鮮明に覚えていた。

自分へと振りかざした相手はアクートであり自分の大切な友である。

助けなくてはならない人を助けられなかった。

彼女がセイオウやリョウヘイ、そしてこのベルトを託してくれた氷菓の期待に応えなくてはならない。そして-彼も-助けねばならない。

葉月が外に出ようとした時だった。

彼女のドアの前に待っていたのはガンバドライバーを巻いた未来、否別人格の-もう一人の未来-である。

「何の用?」

そのまま通りすがろうとした時、葉月の前に蹴りが飛んだ。未来の前蹴りは葉月の腹スレスレに飛んできて、下手をすれば彼女に直撃するところだった。

「危ないだろ!!」

「お前、どこに行くつもりだ?」

未来の言葉に葉月は立ち止まる。未来はやっぱりと足を下ろした。

「お前ほどのバカだったらアクートと話に行くだろうなと思っていた。」

「バカじゃない!!」

葉月が間髪入れて否定する。葉月はそのまま下を向いて言葉をなくした。

自分が救おうとしているもの、それは自分の敵であって世界を滅ぼしかねないものであることも分かっている。それでも

「それでもお前は行くだろうな。」

「っ!!?」

未来は葉月に背を向ける。そしてそのまま立ち去ろうとした。

「待て!」

葉月の言葉に未来の足が止まった。葉月は後ろを向いて未来から離れていく。

「僕は君が嫌いだ。でも今回は感謝する。」

葉月が歩き去ったことがわかると、未来はフッと笑ってしまった。そしてガンバドライバーをそっと外した。

-嫌い-なんて言葉を-もう一人の自分-が聞くとどう思うだろうな?

そんなことを考えながら彼はそっと人格の奥底へと眠った。

 

流は一人で黙々と作業を続けていた。

彼の扱っているPCにはアクートの様々は映像が送られており、もう一つのモニターにはそこで発見された成分などがズラリと羅列している。

たった一人でここまでの情報を見れるのは流たちのように情報を扱うものだからこそ為せる業なのであろう。

先程リンディから貰ったお菓子が今そこにあるわけだが、それにすら一切手をつけずずっとパソコンとにらめっこしていた。

「こんな時に仕事とはお忙しいやっちゃなぁ。」

当たり前だ。と後ろの水谷に返す。

「九重さんが送ってくれたデータを無下に終わらせるわけにはいかないからな。」

-九重 一成-

ガンバライダー研究の第一人者としても知られ、彼自身もかつてガンバライダー"ノヴェム"としてアクートと戦闘、彼の野望を止めたこともあるとされるガンバライダー内のちょっとした有名人である。

勿論彼の後輩にあたる流や水谷もその存在は認知しており、微々たる時間ではあるが話をしたこともある。

「やけど、アクートはあくまで対ガンバライダー専用に作られとる。ウチらがどんだけ強なっても」

「だからあの人が対抗出来た力が必要なんだろ?」

水谷はふーん。となんとなく分かったような分からなかったような雰囲気でそう返した。

辺りを見渡していると水谷があるものを見つけた。流の部屋の端に置いてあったのでちょっとだけ近づいて行く。

「ジャズ好きなん?」

「えっ?」

振り向いた後に何となく意味を要約して"あぁ。"とだけ返した。

「ホントはジャズを聴いていたいんだが、そういう状況でもないからな。」

「んじゃ、ウチが聴いてええかな?」

流がどうぞ。と適当っぽく返すと水谷はプレイヤーにイヤホンを刺してジャズを聴き始めた。

流はそのままPCの方に振り向いてまた作業を再開した。

アクートが何者でどういう因果で復活したのかは知らないし今は関係ない。

ガンバライダーの力、そしてこの星を守る力はここにある。それ故に絶対に諦めてはならないのだ。

そう詰めているとふと横にあったリンディからのお菓子が目に入った。

食べないのも失礼だと一つだけ手元にあったチョコレートを手にとって口に入れた。

「・・・美味い。」

そう一言だけ呟いた。


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