イリスとキリエは廃墟に戻ると早速イリスがキリエの腹に包帯を巻いていく。
押さえ込まれていたとはいえ自分ごと撃つなんて無茶な真似をしてくれる・・・。イリスは不安な表情を浮かべながらキリエを丁寧に治療する。
「そんなに深刻そうな顔しなくても大丈夫よイリス。私は全然歩けるから。」
「・・・うん。」
拭えぬ不安の表情。イリスは重たい口をそっと開いてみることにした。
「ねぇ・・・後悔してない?お姉ちゃんと喧嘩して仲悪くしちゃってそれで」
キリエはイリスの頭を撫でた。そっとキリエの方を向くと、彼女の表情はどこか一つ階段を踏んだ大人に見えた。キリエは優しく語りかけた。
「イリス覚えてる?私が小さかった頃のこと。」
イリスは少し嬉しそうにえぇ。返した。
「キリエがまだ癖っ毛でボッサボサだった頃。」
キリエはうなずいて空を見上げた。見上げてみると幾つもの星が一つ一つ綺麗に光を見せている。この星から見る天体はすごく綺麗で、昔の故郷を思い出す。
「あの頃は冴えない子だったから・・・。でもイリスが色んなことを教えてくれたんだよ!?」
イリスもまたキリエにつられるように空を見た。そしてまた話を始めた。
「放っとけなかったからね。私がたった一人であの遺跡版に眠ってたところに来てくれたのがキリエで本当に嬉しかった!」
キリエはうなずいてゆっくり立ち上がる。イリスもそれと同時に立ち上がった。
「じゃあ、封印を解いちゃいましょ!」
そう言っていると部屋のドアの音が鳴る。二人が身構えたがそこにいたのは火牙刀だった。
「なーんだ。管理局かと思ったじゃない!しかも他の二人は?」
火牙刀はさあ?と困り顔でイリスに返した。
これだから身勝手とバカと男は嫌なのよ!イリスは向けられぬ怒りの矛先を無理矢理収めると、そのまま夜天の書へと近づいた。
イリスが夜天の書へと近づくと、周囲には波動が飛ぶと同時に本からページが何枚も飛び去っていく。
「-ウイルスコード起動-眠っているのは構造の奥の奥。」
イリスがそうしていると火牙刀が少しずつ近づこうとする。火牙刀の中で何かが危険を察知しているのかそれとも何か違うことが起きているのか。彼ですらそれを確かめるには情報が不足していた。でもとにかく動かねば。そう走り出そうとした時だった。
「待って。」
そっと声をかけたのはイリスだった。火牙刀の手を握りしめて彼女は訴えるように火牙刀を見つめた。
「・・・わかった。」
数秒見つめると火牙刀は座り込み再びその鍵とやらが開く瞬間を待っていた。
イリスの笑みが増していく。
そうだこの瞬間を待っていた。これこそが自分の求めていたものだ。
-封印の鍵 起動-
生み出された闇は周囲に衝撃波を生んだ後、自らの自我を持って話し出した。黒い葉のような霊体はそのまま不気味に浮いたままだ。
それの周囲を動き回る赤と青の霊体もまた同じように葉のような形をしていた。
「ここはどこだ?」
「あなたは長い間、この本の中に閉じ込められていたの。あなたは王様で周囲を回っているのは臣下よ。」
「臣下?」
イリスは頷いて説明を続ける。
「私たちはあなたたちに力を与えにきた。あなたたちの求めるのは無限の力、その力を手に入れる手段も与えてあげる。」
イリスがそう説明すると、闇の書のページを一枚霊体へと飛ばした。霊体に取り込まれたページは黒い葉の形から姿を変化させ、少女へと変化させた。
「おぉ・・・。」
火牙刀とキリエが驚いていると、イリスは振り向いて二人を手招きした。
「闇の書の主人のデータをインストールさせたわ。キリエ、二人のデータもちょうだい。あと」
「あと?」
イリスは火牙刀へと指をさす。火牙刀は頭にクエスチョンマークを浮かべた。
「男はみるな!!」
火牙刀は数秒フリーズした後に小さくあっ、と呟く。
「うん見ないようにする。これは失礼した。」
霊体から少女になった王は服も着ていない全裸の状態だった。王の気迫に圧巻されてか火牙刀の脳みそからそんなことが飛んでいたのだろう。
しかしデータをインストールするだけでこうも人の形を保てるとはねぇ。火牙刀は王を名乗る少女に驚きを隠せずいた。
キリエは頷いて歩き出す。そして渡したページに赤と黄色のデータ物質をページに与えてそのまま赤と青の霊体へと飛ばした。
赤い霊体はなのは、青い霊体はフェイトに近い形をした少女へと形を変えて目を覚ました。イリスは王へと問いかける。すると王もそれに返す。
「思い出した?」
「あぁ、色々とな。我らが求めるのは無限にして無敵の力。無限にして無敵の王に我はなる!!」
黒い衝撃波は周囲の物質を吹き飛ばし、闇の光を周囲へと放った。
オールストン・シーの近くは工業施設となっていて周囲にはコンテナやら機材やらが沢山並んでいる。
そのコンテナを掻き分けながら進んでいたのは葉月だった。彼女がここに来た理由はただ一つだけだった。
コンテナが置かれていない広間のようなところに立ち止まって、そっと後ろを向いた。そこには一人の男が立っていた。
「やっと会えたよロード。いや、水樹奏と呼んだ方がいいか?」
「・・・いや、ロードで構わない。」
-水樹奏-
かつてガンバライダーロードとして戦い、様々な世界を救ったガンバライダーであったが、彼は先の戦いで自らの力であるワールドコアの宿命やアクートと共に消滅・世界の崩壊を生んだ。
葉月は別世界の人間だったため生き残ることが出来たわけだが、彼女には彼に聞きたいことが山ほどある。
「ロード、なぜ君が生きている?」
ワールドコアとして消滅した彼が生きている理由などどこにもありはしない。無限書庫でさえ抹消された歴史がなぜ再び動き出しているのか。彼女には到底理解できない。ロードはゆっくり話し始めた。
「確かにワールドコアは消滅し、世界を崩壊させた。しかし消滅した世界に"バグ"が残り続けているとしたら?」
「バグ・・・?」
ロードの言葉に葉月は何一つとして理解できなかった。その世界のバグとは何なのか。異常を誰が知らせたのか。彼の答えは不明点だらけだ。
ロードはさらに話を続ける。
「ワールドコアの上位階級には統制者のような者が存在する。そいつらはワールドコアが消えた時、世界のバランスを取るために物質や記憶の全てを消し去るのが役目だ。」
「でもそれが成されていないと・・・?いや待って!?」
葉月の頰に汗が滴る。ロードは俯いて帰ろうとした。葉月はロードの元へと走って彼の手を握った。震えがずっと止まらない。ロードにもその振動が伝わる。
「もしかして・・・僕なのか?僕が君を覚えていたばかりにこんなことが起きているのか!?」
「・・・。」
ロードは無言で葉月の手を振り払った。そしてさらに歩き出す。ロードが立ち去ろうとしたその時だった。
「つれないじゃないかロード。」
ロードがそっと振り向いた。そこにいたのは柳リョウヘイだった。
「リョウヘイ・・・。そうかアンタはイレギュラーの存在だったな。」
彼はそっとベルトを腰から取り出してみせた。
"ディサイドドライバー"
彼が持つ仮面ライダーのベルトであり、これを使用することで仮面ライダーディサイドとして戦うことができる。
ディケイドと同じの為、その階級は彼のワールドコアや統制者すら凌駕する。
リョウヘイはベルトを腰元に戻すとロードをへと近づいた。
「お前が望んでいたのは本当にこんな戦いか?フェイトやなのは、葉月みたいな大切な人たちを消してでもお前のその望みは叶えれるべきものなのか?」
「俺はこの世界に残ったバグを取り除く。俺がやることはそれだけだ。」
リョウヘイの言葉にそう答えたロードは立ち尽くす葉月を取り残して去って行った。葉月から遠くへ遠くへ飛び去った。
沈黙の中、コンテナの端から影が動く。呆然とする葉月を庇うようにリョウヘイが前へと出た。
「いやつれないもんだねアイツも。」
そう陰から現れたのは朱崎だった。朱崎は空を見上げてゆっくりとリョウヘイの方へと歩き出した。リョウヘイもまた朱崎の方へと歩いていく。
「ありがとね。怜を守ってもらってしまった。」
「気にするな。アンタからのツケは今度返してもらうことにする。」
そう言って二人とも飛び去った。また二人も葉月から遠く遠くへと飛び去った。
葉月は静かに立ち尽くすしかなかった。何もできない。何もしてやれない。
そう立ち尽くしていた時だった。
空の奥で黒い線が立ち伸びていった。
空へと羽ばたいたなのはたちを見守った後、フェイトはモニターの方へと歩き出す。
アミティエから指名された尋問なわけだが、何故自分なのか、他の状況も聞かねばなるまいと少し息継ぎをして椅子へと座った。
「では、これから尋問を始めます。この会話は調査のために録音されますのでご了承ください。」
アミティエが頷くと、フェイトは話を続ける。
「あなたのお名前と出身世界をお願いします。」
「アミティエ・フローリアン。親しい人はアミタと呼んでいますのでよければそう呼んでいただければ。」
アミティエは更に話を続ける。
「そして出身世界は惑星エルトリア。エルトリアは緑豊かな星でしたが近年は環境汚染、砂漠化が進んで人が住むには難しい星となりました。キリエは私の妹でこの星でエルトリアを救う鍵を見つけたと言っていました。星の命すら操る"永遠結晶"、はやてさんやなのはさんたちからその力を無断で借りようとしていました。僭越ながらキリエが見ていたデータを私も閲覧させていただきました。」
クロノははやてへと通信を回した。
「はやて、永遠結晶という言葉に聞き覚えは?」
「無いよ。この二年で夜天の書の解析はしたはずやけどな。」
過去に起きた闇の書事件、その際に闇の書の闇と共に葬られたページがいくつかあったと聞く。もしかしたらその中にあったのかもしれない。シャマルはボソッとつぶやいた。
「あの子なら・・・リインフォースなら何か知っていたかもね。」
かもな。とザフィーラもそっと返した。
「半日遅れで私もこちらに着いてキリエを追っていましたが・・・遅かったようです。」
落ち込むアミティエへとファングが話しかける。
「遅いなんてことはないよ?だって僕たちはアミタさんがいたから助けられたんだからね。」
テイカーとナハトもそれに頷く。
「失敗は取り返せばいい。しょげてても前を見失うだけだ。」
「それにこっからは僕たちのターンだ。こっから超協力プレーでクリアしてやればいいだけでしょ?」
デュアルとファングかけたその言葉にアミティエは頷く。フェイトはそうだ。と思い出したようにアミティエへ話しかける。
「キリエさんが言ってたイリス。って子、あとあの青いガンバライダーは・・・。」
あぁ。とアミティエは問いへと答える。
「遺跡版のことですね。こちらでいうコンピュータのようなものです。キリエは彼女をイリスと呼んでいました。あの青い戦士はこちらの人ではないようです。」
なるほど。とフェイトはうなずいた。
「ところで、尋問の指名が私ということだったのですが、それは何故ですか?」
「あぁ・・・それはフェイトさんは優しそうな方なので穏やかに聞いてもらえるかな。と」
EXEがなのはを方をそっと見てフッと笑った。なのははそれを見逃さずにいた。
「あっ、今流さん笑った!」
「いやごめんごめん、他の人だとどうなってたんだろうなぁって。」
EXEが謝罪するとなのは頬を膨らませてそっぽを向いた。やれやれこれは時間がかかりそうだとEXEもまた困った表情を浮かべた。
それに。とアミティエは会話を進める。
「フェイトさんの過去や触れられたくないことにキリエが触れているようなことがあったら謝罪しておかないといけないと思いまして。」
「お気遣いありがとうございます。大丈夫ですよ。」
影から尋問を見ていたリンディは安堵の表情を浮かべる。フェイトが上手くやっているのを見ると自然と親として嬉しくなるというものだ。
尋問を聞いていたジーの表情が陰る。先ほどのブリーディングからやはり様子がおかしい。恐らく何かがあったのだろう共に飛翔していたはやては彼へと問いかけた。
「あの・・・、何があったか聞かせてもらえませんか?」
「え?いや、大丈夫だ。」
はやては通信を切って一度そのまま歩みを止めた。
「私はあなたと話がしたいんです。共に動く上で私は知る権利があると思います。」
ジーは渋った表情を浮かべたあとあぁ。と陰った表情のまま話し始めた。