-その男は悩んでいた-
男は一杯のコーヒーを天に掲げて悩ましい笑顔を浮かべていた。
幾百ものコーヒーの淹れ方を試してきた。その可能性は自らの可能性を無限に広げてきたに違いない。
しかし、その可能性に求めた答えはなかった。
さらなる進化を求めなければならない。こんなところで止まっているわけにはいかない。その先に答えがあることが見える。だからこそ戦わなければならない、生きなければならないのだ。
「なあ。」
虎が振り返るとそこには男が一人コーヒーを飲んでいた。
男は静かに光る龍のような尖った目で彼を見つめた。
「あんたが俺を呼んだ割には話の一つもくれないんだな?」
「おーっと失礼した。君が「秋津奏夜」くんか。」
秋津は少し笑みをこぼすと、虎の肩を叩いた。
「朱崎から話は聞いているよ。腕利きの傭兵だったと聞く。」
虎は苦笑いしながら、その手にナイフを持った。
「まあ昔の話さ。今は腕利きのマスターってところだな。」
ナイフは静かにホールケーキを切り、そのカットされたケーキは皿へと綺麗に置かれた。
「まあ、マスターとしてはまあまあだな。」
そう言うと、秋津の肩には苦笑いした虎の手がポンと置かれた。
「ほら見ろよ。あのお宅お出かけだぜ?」
秋津がその方向を見ると、車へと人が乗っていくのが見える。
その人たちは彼も世話になっている高町家の家族だった。
「・・・なのはちゃん達に何をするつもりだ?」
その龍の目は鋭く虎を睨みつけた。
「危機が迫ってる。俺たちがそれを救ってやるのさ。」
二人はコーヒーを飲みながら走り去る車を見送った。
「ダゴンが関わっているって言いたいのか?」
さあな。と虎は秋津の質問を受け流した。
「だが、危機が迫っていることに変わりはない。君もあのコーヒーが飲めなくなるのは痛手だろう?」
事態を予期したかのようなその口振りは、まさに獲物へ余裕の目を向ける虎そのものだった。
なのは、アリサ、フェイト、すずかの四人は高町家の車に乗せられて高速道路から見える綺麗なビル群を眺めていた。
「今日はアリサちゃんのお父さんの仕事場に行くんだよね?」
「えぇ、ちょっとした社会見学ね。」
なのはとアリサはそう話していると、なのはの携帯の着信音が鳴った。
「はやてちゃんからだ。」
なのはが携帯を開くと、はやてからメールが届いていた。
「はやてちゃんは後で来るってさ。」
「忙しいのねはやても。」
なのはとアリサがそう話していると、フェイトはどこか別の方向をじっと見つめていた。
「どうしたの?」
すずかがそう聞くと、フェイトは少し驚きながらすずかに笑顔を向けた。
「ううん、楽しみだなぁ。と思って。」
そっか。と静かに返したすずかもどこか遠い空へ目を向けた。
車から流れるラジオからは様々なニュースが飛び交っていた。
「ここでニュースです。昨夜、工事現場から大量のトラックがなくなったという情報が入りました。警察は何者かによる盗難とみて捜査を続けています。」
全員がそのニュースに耳を傾けた。
「これって・・・。」
「うん。」
なのはとフェイトは同時に目を合わせた。
何台ものトラックが一晩で盗まれるなどあるはずがない。彼女達が関わる「魔法」に等しい力がない限りは。
「パパが慌ててたのってこれのことか・・・。」
アリサがボソッとそう呟くと三人はアリサの方を向いた。
「アリサちゃんのお父さんの会社のことなの?」
アリサが頷くと、そのまま話を続けた。
「何でか分かんないけど、運搬用にあったトラックが何台か無くなってるって言ってたから多分これだと思う。」
「物騒だね・・・。」
すずかの不安げな言葉になのはとフェイトは言葉を投げかけた。
「大丈夫だよ。」
「私たちが解決するから。」
なのはとフェイトは一転して、先ほどまでは見せなかった少し険しい顔で、またどこか遠くを見つめるのだった。
-GRZ社-
ガンバライジング社の社長室には幾つものモニターが付いており、いつどこでも駆けつけられるよう何本もの電話も付いている。
その社長室の座椅子へと腰を掛けるのは「朱崎勇気」その人である。
「あぁ、計画は順調だよ。後でまた連絡する。」
朱崎が受話器を置くと、後ろの影に気付いて声をかける。
「君から頼みがあるなんて珍しく・・・ないか。」
そのドアにもたれ掛かり、如何にも偉そう。という態度を取るのはリョウヘイだった。
リョウヘイと朱崎は、ミッドチルダで起きた「クロス事件」の一件以来こうして連絡を取り、共に行動することも珍しくない仲だった。
「どうだい?俺の派遣した闘真の実力は。」
「俺が聞きたいのはそんなことじゃねえ。」
リョウヘイはバッサリと切り捨てて朱崎へ本当の問いを投げかけた。
「どうして地球で別の魔力反応が起きた?」
リョウヘイの問いに朱崎は俯き黙り込んだ。リョウヘイはさらに言葉を続ける。
「アンタならこの大きな次元の歪みにも気づき、すぐ対応出来た筈だ。」
少しずつ俯く朱崎へと近づき、その座椅子に手を付けた。
「今回ばかりはあんたを疑うよ。何が目的で侵入を許した?」
「・・・君に告げることはないな。」
リョウヘイは強く拳を握りしめた後、ゆっくり座椅子から手を離した。これ以上踏み込めない。そんな自分への弱さがどこか見えるようだった。
「ただし、俺もこれを見逃すことはしない。」
朱崎の言葉にリョウヘイ少し眉を細めた。
コイツは何を言っているんだ?自分で仕掛けた罠を自分で取り外そうというのか?
一抹の疑問と不安が頭に残る中、朱崎は話を続ける。
「虎くんに頼んで何人かのチームを招集してもらってる。君にもそこに参加願いたい。」
リョウヘイは静かに去ろうとした。朱崎は少し声を大きくして彼へ問う。
「君もクロス・オブ・ファイアを得たから知っている筈だ。失ったものは戻ってこないことを。」
リョウヘイは足を止めた。そして自らの持つベルト「ガンバドライバー」を見つめた。
「俺[ クロス]は死ぬべくして死んだガンバライダーだ。俺は記憶を持った者として奴の守ったものを守る義務がある。」
そう、自分は示さなければならない。本来彼らが望んだ平和と自由。自分たちガンバライダーがぶつかっていかなければならない大きな使命なのだ。
「俺はフーカたちに託さなきゃいけない・・・この未来をな。」
そう言い、ドアを開けるとそこには二人の男女が壁にもたれかかっていた。
「ミッションとお呼びがかかってな。参加させてもらうぜ。」
「僕の師範が起こした罪と罰だ。お詫びと言っちゃ何だけど参戦させてもらうよ。」
二人を見てリョウヘイは愕然とした。そして朱崎の方を向いた。
どうやら、彼の罠はとことんまで本気でやるようだ。
男は一人、森の中で剣を振るっていた。
その剣は静かに虚空を引き裂き、ただただ鋭く振るうその風を切る音だけが空へ響いていた。
「こんなところにいたのか。」
「・・・デュアルか。」
ガンバライダーデュアル「結城未来」はその男を知っていた。
ガンバライダージー「片桐タケシチロウ」は静かに振るった剣を未来へと向けた。
「俺は向かわぬと言ったはずだ。」
「そこまで拒む理由がどこにある?これには未来がかかってるんだぞ?」
未来は向けられた刀に恐れぬような物言いと態度で片桐へと近づいた。
片桐はそっと刀を下ろすと、未来を強く睨みつけた。
「俺はどちらかの未来を奪うような選択は取りたくない。俺に殺しなど頼むでないわ。」
未来は少しずつ近づき、片桐の腕を掴んだ。
「なら、お前が誰かの未来を守れなくても良いって言うのか?」
「それは・・・。」
言い返せなかった。奪うことから逃げた先には誰かが奪われた未来で暮らすことが見えているからだ。
それを分かって言っていた情けなさからか、片桐は刀を手から離した。
「俺に未来が守れると言うのか?」
未来は刀を拾い片桐に差し伸べた。
「だったら、お前が誰の未来も奪われぬ未来を描いてやれば良い。それが出来るのはお前だけだろ?」
片桐はその刀をそっと持ち、納刀した。
「ならば良いだろう。誰の未来ももう奪わせない・・・!!」
片桐と未来はお互いのバイクへと跨り、そのまま森の中を駆け抜けていった。
人々が行き交う街の片隅に大きく建つ雑居ビル。いや、誰も使わぬ廃墟と言うべきか。
中は汚く、来るとするなら眠りを必要とするネズミかゴキブリくらいであろう。
そんな汚い廃墟にアクート、イリス、キリエはいた。
彼らは静かに外を眺めながらその時をじっと待っていた。
「奴らを襲撃するにしても我々が最初から出向くのか?」
「いいえ、私たちが出向くのはもっと後よ。あくまで戦力を確かめないと。」
「でも、相手がわからないようでは戦力の取りようがないわ。」
アクートとイリスの会話へとキリエが斬りかかった。
確かに情報はあるとしても対策と戦術のない彼女たちにとってはこの戦は不利そのものだった。
「攻撃が効かないように細工は出来るけど、それだけではねぇ?」
「ならば俺から手下をくれてやるとしよう。」
そう言うと、アクートの手から幾つもの黒い物質が流れ出て、そこから何体ものモンスターがゾンビのように生まれていく。
「やるじゃない。」
イリスの言葉にアクートはフン。と鼻で笑った。
「これで戦力にはなるだろう。」
キリエは座り込んで外を見つめた。
「地球・・・こんなきれいな星にエルトリアはなるかしら?」
イリスはそっと肩を撫でた。
「大丈夫よ。あなたの望んだ未来へと私が連れてってあげるから。」
「破滅に向かう未来、救う少女と未来へと導く伝道師様。随分と良い話だな。」
三人が一気に声のする方向へ向いた。そこには一人の青年が粉々に砕けたドアの先からそっと見えた。
「貴様・・・何者だ?」
男はアクートへと近づいていく。そしてアクートの胸ぐらをつかんだ。
「自己紹介なんてザラじゃない。」
そう言い、突き放すとイリスとキリエの方へと近づいていく。
「何・・・?」
怯えるキリエの手をそっと握った。
「ただ、安心しろ。俺はあんたを助けに来た。」
イリスがグッと男のシャツを握った。
「だから名乗りなさ・・・」
男のシャツを握った瞬間、彼から微量に流れるそのエネルギーからか、イリスはすぐに手を離し距離をとった。
「しゃあねえ。名乗ってやるか。」
男はガンバドライバーを手に掲げ、腰に装填した。
「変身。」
"DEUS BEGINNING"
変身音と共に男はアクートと似た姿へ変身し、彼の周囲には五芒星を光が描いた。
「俺の名はガンバライダー "デウス"「葵火牙刀」だ。」
火牙刀はそのままキリエを背に剣を持った。
彼の目的は何か。それを知る者は誰もいない。