「智也が浜咲だったら」   作:高尾のり子

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第10話

 

 

 翌日の昼休み、中谷はサッカー部の部室で一蹴を待っていた。

「遅いなぁ…」

 苛立って意味もなくシュートフォームで壁を蹴っていると、やっと一蹴が現れた。

「よぉ、中谷。なんだよ、二人で話って?」

「ああ…」

 中谷は昼休みが残り五分しかないので、単刀直入に本題へ入る。

「オレ、………好きな女の子がいるんだ」

「え…あ、…おお……そ、…そっか…、……じゃあ、オレで相談に乗れることなら、何でも言ってくれよ」

「ああ…………じゃあ、……一つ、………鷺沢、お前さぁ……陵さんと、やっぱり正式に付き合ってるのか? 本気で好きなのか?」

「っ………」

 ここまで言われると、一蹴も呼び出された理由がわかった。

「ど………どうかな……まあ、……一応、付き合ってるっぽいけど…」

「………。本気で好きなのか?」

「……そ……そう言われると…………いや、…一応、好きっていうか……」

「オレは本気で彼女が好きだ!!」

「っ……」

 大声を出されて一蹴は後退った。

「……中谷……お前……」

「だから、オレは彼女に伝える! お前が……どう思うか、……悪いとは思うが……けど、オレは筋は通したつもりだ」

「中谷………、………」

「彼女に伝えて、どうなったとしても……お前とサッカー部は続けたいから……、チームワークは乱したく……ないから」

「中谷……わかった。……お前……いいヤツだな」

「バカ野郎……いいヤツなわけないだろ」

「いいヤツだよ。オレ、中谷が好きになった」

「……気持ち悪いこと言うな」

 中谷が軽く殴ってくるのを、受けとめて一蹴は笑った。二人とも爽やかに笑った。

 

 

 

 放課後、いのりは一蹴に呼び出されて校舎裏の焼却炉前に来ていた。

「どうしたの、イッシュー、こんなところで待ち合わせなんて……」

「ああ、ちょっとな。話があって……」

「………」

 ここって、ほたるさんが伊波先輩のために作った手作りのお菓子、捨てられてたイヤなところなんだけど、イッシューは知らないのかなぁ、知らなくても、こんなところに呼び出さなくても話なら普通にしてくれれればいいのに、結局、ほたるさんは一度は付き合ってもらえたけど、ほんの半年で捨てられちゃって、今はウイーンに、いのりは悲しい気持ちで燃え残りのゴミを見下ろした。何か、イヤな予感が胸に溢れてきそうなのを、押し留めて可能な限り平静を装う。それでも不安は消えてくれない。あんなに仲の良さそうだった先輩カップルも一夏で崩壊した、まして一蹴とは交際して日も浅い、やっぱり気に入らないとか、他の女の子が好きになったとか、言われるのかもしれない、そんな思考に取り憑かれそうになるのを、いのりは必死で押さえ込み、微笑んだ。

「それで、話って何かな? イッシュー」

「ああ、……それはオレからじゃなくて、あいつから。オレは、あっちにいるから……二人で話してみて……」

 一蹴は離れたところにいた中谷を指すと、いのりの返事を待たずに立ち去った。

「……イッシュー……」

 いのりは恋人の背中が小さくなるのを見つめ、中谷は緊張した顔で彼女に近づく。

「み……陵さん…」

「…中谷くん……、……」

 いのりは相手の顔色を見て、どんな想いを自分に持ってくれているのか、自惚れでなく気づいた。

「お………オレはっ! 君が好きだ!」

「っ………」

 いのりは告白されて、予想していたけれど、そのストレートさに驚き、顔を赤くして、そして困った。

「…わ……私は……イッシューと………付き合ってるから……知ってるでしょ…」

「わかってる! でも、オレは本気で陵さんが好きなんだ! だから、言いたくて! 伝えたくて! 好きだ! オレは陵いのりが大好きだ! オレと付き合ってくれ!」

「……………………。………イッシューは……何て、言ってるの?」

「陵さんが決めてくれれば、いいって。どっちだったとしても、オレらは友達やめないって話つけてある」

「そう…………………………そうなんだ…………」

 いのりは瞳を右へ落とし、左へ動揺させ、それから答える。

「……ごめんなさい……私、……イッシューが好きだから」

「……………………くっ………、わかった。ありがとう……ごめん!」

 中谷は背中を向けると駆け出した。いのりから十分に離れ、誰もいないことを確かめると雄叫ぶ。

「うおおおおおおおおおっっっ!」

 通りがかった野良猫が跳びあがって逃げていくほどの慟哭をあげ、ポケットに入れていた十五万円もする密造医薬部外品を握り締め、投げ捨てようとして、やめた。

「……、勇気の御守りには、なったよな……、所詮、かなわぬ恋か………」

 最初から分の悪い勝負だと思っていたところもあり、告白が失敗に終わったのに不思議なほど爽快な気分だった。

 

 

 

 夜、いのりは同級生の勅使河原早絵に電話をかけて泣いていた。

「イッシューは…私が…中谷くんを選んだら、それでいいって…っ…ひっく……そのくらいの気持ちしか、もってくれて…ないの…」

「いのちゃん……、男ってバカだから、そこまで考えてないんだよ。それか、あいつ顔いいから余裕こいてるだけだって。うん、私が鷺沢でも余裕こいて中谷にチャンスあげるフリするね。だって、中谷と鷺沢なら、だんぜん鷺沢だもん。中谷、メタボだしね。ちょっとパス」

「そーゆー…問題じゃ…」

「そういう問題だって♪ もしも、中谷じゃなくて中森先輩みたいなカッコいい人だったら、鷺沢だって焦って守りに入るって。中谷なら、ま、一発、フリーキックさせてみてもゴールには届かないなぁ、って予想できるじゃん。だから、もう泣くのやめて、ね。いのちゃんは可愛いから鷺沢もまんざらでもないって、ね?」

「……私は可愛いってことは…」

「ご謙遜ご謙遜♪ 中谷を泣かせておいて、罪つくりな女め♪」

「早絵ちゃん……もう…、からかわないで」

「それに、この前、鷺沢と廊下でチューしてたってね? 聞いたよ。白昼堂々、思いっきり抱きついて、キスおねだりしたって」

「っ! あ、…あれは!」

 いのりが慌てて釈明しようとしていると、早絵は母親に呼ばれて立ち上がった。

「ちょっと、ごめん。家電話が私にってママが呼んでる」

「うん、じゃあ、切るよ」

「いいよ。ちょっと待ってて。どうせ、家電話なんて変な勧誘か、連絡網だと思うし。ちょっとだけ、待ってて。………ママぁっ! 誰からなの?!」

 早絵のよく通る声がケータイを離していても聞こえてくる。いのりが待っていると、再び早絵がケータイを耳にあてた気配がして、声がする。

「サッカー部の天野君からだって。なんで、私に………どう思う?」

「天野くん? ………、早絵ちゃん、可愛いから告白されちゃうかもね」

 いのりは先ほどの仕返しにからかったけれど、早絵も可能性としては考えていた。

「まあ……天野君、本人か、その友達の仲介役…………まさか、中谷のリトライだったら、どうする?」

「どうするって、早絵ちゃんが告白される番だよ?」

「そんないい話かなぁ…」

 早絵が迷っていると、母親の急かす声が響いてきた。

「いのちゃん、いっしょに聞いてて!」

「聞いててって…」

 いのりが戸惑っていると、ケータイと固定電話の受話器を密着させる音が聞こえ、早絵と天野の声が響いてきた。

「もしもし、早絵です」

「あ、さぇ…て、勅使河原さん?」

「うん」

 いのりは二人の会話を聞きながら、これって盗聴なのかも、と思いつつ、少し前にカナタと正午の電話を似たような状態で聞いていて、余計な口出しをしてカナタが烈火の如く怒り狂ったことを思い出し、今回は絶対に黙っていようと心に決めて、口を手で覆った。

「私に、何の用なの?」

「あ……明日、……時間、あるかな? 放課後、とか」

「……ないことも……ないけど」

「じゃあ、ちょっと話があるんだ。………いいかな?」

「うん……いいよ。………天野君が…一人でくるの?」

「え? …ああ、うん……そのつもりだけど……、勅使河原さん…誰かと約束ある?」

「ううん、ちょっと聞いただけ。……あ、私のケータイ、教えるから、これからは、そっちにかけて。もしも、明日、待ち合わせ遅刻しそうになったら連絡するから、天野君のケータイも教えてよ」

「うん、わかった」

 いのりは二人がケータイ番号を交換するのを聞きながら、すでに明日の答えが出ているような気がした。

 

 

 

 翌日の9月22日、いのりは夜になるのを待って早絵へ電話してみる。

「早絵ちゃんと天野くん、どうだったのかなぁ~…」

 心配よりも他人の幸福を期待しつつ、いのりは受話してくれるのを待ったけど、早絵は電話に出てくれなかった。いのりが諦めてコールをやめると、すぐにケータイが鳴った。

「早絵ちゃ…、……カナちゃん……」

 着信はカナタからだった。

「………………………」

 いのりは着信音を聞きながら、受話せず、ケータイを気持ち悪そうにテーブルへ置いた。かなり長い間、コールが鳴った後、ケータイは静かになったけれど、家電話が鳴り始める。

「………………」

 一階で母親が応対している気配がして、呼ばれる。

「いのりィ~! カナタちゃんからよぉ!」

「……」

 いのりは階段を降りると、受話器を受け取った。

「もしもし、…私です…」

 いのりは母親に心配をかけたくないので最低限の返事をしながら、受話器をもって二階へ戻る。

「ハーイ♪ いのっち」

「……家電話には、かけてこないで」

「だって……ケータイ出てくれないもん」

「………もう、かけてこないで。切るから」

「待ってよ! ねぇ!」

「さよなら」

 いのりは電話を切って深いタメ息をついた。

「………ほたるさん……私、どうしたらいいの?」

 星空に問いかけても、遠くウイーンにいる先輩は答えてくれなかった。

 

 

 

 翌日の夜、いのりは出席しなかった早絵と天野のことが心配で何度もコールしていた。ようやく早絵が受話してくれた。

「早絵ちゃん、今日、どうして休んだの? 大丈夫?」

「あ……いのちゃん……、うん……平気」

 なんだか、寝ぼけた声だった。

「どうしたの? 具合悪いの? 寝てた?」

「ううん、具合悪くない、具合いいよ。寝てたけど」

「そう、…ごめん…、……あ、天野君も学校、休んでたけど……どう、だったの?」

「うん、うまくイったよ。今も二人で寝てた」

「………そう……」

 いのりは押し潰されそうなほど重い疲労感を覚えてフローリングに倒れ込んだ。

「天野くん、すごいクスリもっててね。超気持ちいいの。ヤバイよ、あれ」

「……ごめん、……そーゆー話……苦手……聞きたくないから……さよなら」

 いのりは電話を切った。

「……………………私も……イッシューと……いつか、……するのかな……」

 嫌悪感と好奇心、何より一蹴への想いを胸に抱えて、いのりがフローリングを転がると、髪の毛が身体にまきついて、蓑虫のようになった。残暑で浮いた汗が身体に張りついて暑苦しい。

「……イッシューのために……伸ばしてるんだよ……」

 つぶやいたとき、メールの着信音が鳴った。

「イッシュー!」

 メロディーで恋人だとわかり、いのりは超絶技巧的なスピードでメールを開いた。

(ここんとこ、元気ないみたいだけど、もしかして中谷のこと、怒ってる? だとしたら、ごめん。オレが無神経だった。ごめん)

「イッシューぅ~…」

 いのりは目を潤ませ、ケータイを抱いた。

「もういいよ。もう、いいの」

 とても幸せな気分で、いのりは返信を打ち込み始めた。その返信文を送信しようとしたとき、カナタから着信が入り、うっかり受話してしまった。

「っ……」

「いのっち! 出てくれた♪」

「……………………」

 いのりは返信文のデータが消えてしまったことで、思わず立ち上がろうとして、自分の髪の毛がまとわりつき、無様に転倒した。

「痛っ!!」

「大丈夫? いのっち?」

「くぅぅ……」

 いのりは頭皮と転んで打撲した肘の痛みに耐えつつ、カナタの声に耐えられなくなり、呪い殺しそうな声で怒鳴った。

「もうかけてこないで!!」

「っ……」

「二度と! 私に話かけないで!! 死んで! 私の中から死んで!! 消えてよ! もう存在しないで! 消えてなくなって!」

 いのりは怒鳴って息が乱れ、その息が整い、顔と身体にまとわりついた髪の毛を払ってから、カナタが泣いているのに気づいて、少しだけ後悔した。

「………」

「…ひっ……ひぅ……ぅ…」

「…………」

 恐ろしく、ひどいことを言ってしまったと自分でも反省する。

「…………ごめん、…カナちゃん…」

「いのっち……」

「言い過ぎた……でも、……もう、かけてこないで…」

「っ…ぅぅ………いのっち…」

「………。せめて……しばらく……かけてこないで」

「……しばらく…って、……どのくらい?」

「………しばらく…」

「…………、……リナのこと………話してないよ………まだ…」

「っ………」

 いのりは胃が痛むのを覚えた。泣き落としがダメなら、今度は脅迫される、まだ話してないということは、いつか、話すかもしれないということ。ほのめかされた脅しに、いのりは唇を噛んで妥協案を提示する。

「お願い、しばらく、かけてこないで………でないと…、私、……何をするか、わからない……、お願い、しばらく、かけてこないで。しばらくだけ……時間をちょうだい、カナちゃん」

「……うん……」

 カナタが電話を切った。

 

 

 

 翌日の9月24日、智也は授業が終わると鷹乃と下校するけれど、シカ電に乗っていた二人は藍ヶ丘駅で鷹乃だけが降りて、別れる。

「アルバイト、頑張ってね」

「ああ」

 ホームに降りた鷹乃の髪を車内から手を伸ばして撫でると、甘く熟れた葡萄のような汗の匂いがする。鷹乃は少し恥ずかしそうに身じろぎしたけれど、逃げずに智也を見つめあげて微笑む。

「今夜は智也の好きなカラアゲにするわ。何時くらいに帰ってこれそう?」

「どうかな。わからない。遅くならないようにする。鷹乃の料理は天下一品だからな」

「あいかわらず、口がうまいのね」

「鷹乃もキスがうまくなった♪」

 シカ電が発車する前に、智也と鷹乃は車内とホームからキスをして、ドアが閉まる寸前まで唇を絡め合った。車掌が迷惑そうに警笛を鳴らし、ドアを閉める。シカ電が動き始めると智也は何事もなかったように空いている席に座る。まわりの乗客も高校生カップルの余熱を受け流して、何事もなかったように咎める視線さえ送らない。

「さてと♪」

 智也は一人になると、内ポケットの重みを再確認してみる。

「……………………オレも、あこぎだな…」

 カナタから五万円、天野と中谷、山王から十五万円ずつで合計50万円もの現金が入っている内ポケットは厚かった。そして、カバンから競馬新聞を出すと赤鉛筆を握る。そのまま考え込んでいると、ふわりと香水の上品な香りが智也を包んだ。

「Bonjour!」

 フランス語で、こんにちは、と声をかけられ、智也は顔を上げて応える。

「グーテン・ターク・フロイライン・クロエ」

 日本人らしい発音でドイツ語を話して、大げさに紳士ぶったポーズで挨拶した。私服姿のクロエは微笑んで本物の淑女らしい板に付いた仕草でスカートの裾をつまみ、挨拶を受けた。

「それはドイツ語ですね。智也先輩はドイツへ行かれたことが?」

「ない。これは、たんにウイーンへ旅立った悪友の影響だ」

「ご悪友ですか……」

「悪友に尊敬の意を添える御を冠する日本語表現はビミョーじゃないか?」

「そうかもしれませんね。では、悪友、お悪い友達とは、どのあたりが、お悪いのですか?」

「うむ。オヤジギャグを言う。つまらないギャグを宝物のようにひけらかしてくれる。そーゆー悪友だ」

「それは、本当に悪友ですね。…お隣に座ってもいいですか?」

「ああ」

 智也が答えると、クロエは上品に、それでいて、ぴったりと智也に身を寄せて座った。それほど混んでいない車内なので、その身体距離は客観的には恋人同士に見えるほど近くなってしまった。

「……。クロエちゃん、その服だと、見事に中学生に見えないな。どこかの大学生みたいだ」

「競馬場は未成年立ち入り禁止と聞いて、気合い入れてきましたから。だから、クロエちゃんはやめてください。智也せんぱ…、智也と、お呼びますね。しばらくの間」

「…あ、ああ」

「智也は、その制服のまま入るつもりですか?」

「ああ、これはな。ネクタイ一本で……」

 智也は借りてきた父親のネクタイをカバンから出した。長く不在している父親のネクタイは流行遅れで、浜咲学園の制服に合わせると、智也の外見年齢を五才は老けさせてくれる。さらに、ポマードで髪の毛をオールバックに撫でつけると、肌の艶だけは少年っぽい違和感あるサラリーマンができあがった。

「あとは万が一にも生活指導に見つからないように、のんに借りた伊達眼鏡をかけて完成だ♪」

「……。智也、ちょっとカッコ悪くなっています。ネクタイも曲がってるし…」

 そう言いながら、クロエが真っ白な両手でネクタイを整えてくれる。クロエから薔薇の香りが漂ってくる。

「はい、これで。あとは髪も…」

 クロエが無惨なオールバックを少しアレンジしてくれるが、智也の目前にキャミソールの胸元や腋が近づき、男性的な衝動を覚えてしまった。

「……、クロエちゃんは…」

「クロエ。ちゃんは無しです」

「………どの馬が勝つと思う?」

 智也は意図的に話題を競馬へもっていくが、クロエは見逃してくれない。

「クロエって呼んでくれないと馬のタテガミみたいにしますよ。智也」

「まいったな……クロエ」

「はい♪」

「どの馬が…」

 智也が話題を続けようとしたとき、シカ電が揺れてクロエがバランスを崩し、見ないようにしていた胸元が智也の顔に押しつけられた。

「ご…ごめんなさい」

「いや……大丈夫」

 わざと、なのか、これは戦略なのか、この子、かなりマセてるよな、っていうかオレのこと好きか、智也は鷹乃の三分の一くらいしかなかった中学生の乳房で冷静になった。見た目は大学生でも触ってみると、胸はパットの膨らみが主で、やはり中学二年生レベルだった。

「……」

 中2の頃の彩花より少し上か、けど、今の唯笑に劣るしな、顔立ちが外人混じりで大人っぽいから混乱するけど、中2は中2、たぶん運悪く初恋をオレなんかにしちまったんだろうな、傷つけないように諦めてもらおう、競馬場を見に行った後くらいに告白してくるかもしれないから、そこが正念場だな、智也は受け流す方法を考えることにしたが、クロエの行動力は想定外に速く強かった。シカ電を降りて競馬場へ向かう道でクロエは智也の腕に身を寄せて微笑む。

「こうしていれば、女子大生とサラリーマンのカップルに見えますよね?」

「……」

 いや、どちらかというとエンコー誤魔化してる新卒社員と女子高生くらいだ、智也はからめられた腕をさり気なくほどこうとしたが、うまくいかない。駅前のメイン通りをクロエと歩くうち、見知った顔を反対の歩道に見た。

「っ…」

 彩花、あいつ、なんで、こんなところに、また文化祭の買い物か、三年生のくせに、ま、まあ、大丈夫だろう、この変装ならオレだと気づくはずもない、ノープロブレム・アイアム・サラリーマン、智也は少し汗をかきながら、顔を伏せる。反対の歩道にいた彩花は肌を焼きたくないからか、白い日傘をさしていて視界が悪いので智也に気づいている様子はないけれど、ゆっくりと横断歩道を渡ってきた。

「……」

 来るな、気づくな、向こうへ行け、智也は祈った。

「智也、具合が悪いのですか?」

「っ…、いや、平気だ。ただ、口うるさい女教師がいて、見つかるとヤバイ、早く競馬場へ行こう」

「はい」

 クロエも顔を伏せて足早に進む。彩花がショーウインドウを見ているうちに、その後ろを足早に通り過ぎた。

「ふーっ…セーフ!」

「ドキドキしました♪」

「ああ、肝が冷えた。見つかったら、何を言われるか…」

「あ、でも、まだ競馬場に入っていないのですから、誤魔化せたのではないですか?」

「…、まあ、それは、な…」

 どっちかというと、クロエちゃんが腕にぶらさがってるのが、見つかると最悪にやっかいなんだけどな、智也が額の汗を手で拭おうとすると、クロエがハンカチで拭いてくれる。

「すごい汗、そんなに口うるさい先生なのですか?」

「ああ、オレの私生活にまで、あれこれと口を出してくる小姑みたいな女だ。クロエちゃんを連れてるのを見られたら…」

「クロエって呼んでくれないと、未成年なのバレますよ」

「……、……クロエ」

「はい♪」

 クロエが嬉しそうに、また、腕に抱きついてくる。あまり豊かではない乳房も押しあてられ、汗ばんだ二人の肌が密着した。

「暑いからさ、…あんまり近づきすぎないで…」

「イヤですか?」

 淋しそうな顔をされると、智也は躊躇したけれど、やはり強引に腕を抜いた。

「行こう」

「……、……」

 クロエが立ち止まって悲しそうに下を向いている。

「早く行かないと、レース、見逃すぞ?」

「………、人がいっぱいいるから、はぐれちゃったら、智也、ケータイもってないから………私、中学生なんですよ。競馬場なんかで迷子になったら……」

 ほどかれた手が所在なげに、垂れ下がっている。手を繋いでくれないと、ここから動かない、という気配だった。

「…クロエ…」

 子供なのか、大人なのか、ああ、まったく、智也は諦めて手を取った。

「ほら、行こう」

「はい♪」

「……」

 これは、さっさと諦めてもらわないと傷を深くするなぁ、どうしたものか、智也が思案していると、クロエは追加の戦術を繰り出してくる。

「せっかくですから、今日はカップルのふりをしてくださいね」

「……」

「その方が自然ですし、バレにくいと思いますよ? ね?」

「………」

 ああ、もうダメだ、ここまで攻め込まれると、もう言うしかない。

「……。…あ…あのさ…」

「智也?」

「カップルのふりは、ちょっと…無理かな…」

「……ダメですか?」

「ああ………オレ、…、同じ高校に彼女いるからさ」

「っ…」

 明らかにクロエは動揺した。智也は握っていた手の力を抜いて、離れる。

「………ごめん」

「…ど…、…どうして、智也が謝るんですか?」

 クロエが澄んだ碧海色の瞳を智也に強く向けて抗議してくる。

「謝るなんて変ですよ。そ…それじゃ、まるで、私が智也のこと好きみたいじゃないですか? 私、そんなこと一言もいってませんよ」

「…ああ…そうだな…、オレはバカだから…」

「ええっ! バカです! 自惚れです! だって…私は…、…」

 そこまで言うと、碧海色の瞳から透明な涙が溢れ、頬をつたった。

「…ごめんな……クロエちゃん…」

「だ…、だから、謝るのは変です……わ、私は……泣いてるわけじゃないです……これは! 汗です!」

「……。ああ、……暑いな」

 智也はポケットからハンカチを出して、クロエに渡した。毎朝、鷹乃が入れてくれているハンカチだった。

「今日は、もう馬を見に行くの……やめようか? また次の機会に…」

「行きまずっ…ぅぅっ…今日っ! ぐすっ…行くのっ…」

 子供っぽい涙声で反論され、智也はタメ息を隠した。

「じゃあ、あっちに手洗いがあるから、顔を洗ってくれば?」

「…はいっ…」

 クロエは泣きじゃくりながら競馬場出入口の横にあったトイレに入っていく。智也が待つこと20分、クロエは戻ってきた。

「お待たせしました」

「…あ、…ああ」

 立ち直り早なぁっ…、智也は泣いていたことがわからないほど顔を整えてきたクロエに感心しつつ、さきほどのことは無かったことにして二人で競馬場を楽しむことにする。クロエも気を取り直している様子で、さらに馬の疾走する姿に元気づけられたが、むしろ、智也が時間が経つにつれ、泣きそうになっていた。

「…ぅっぅ…」

「智也先輩……」

「べ…別に平気だ。もともと、この金はアブク銭だったからな…ははっ! はははっ!」

 来たときには五十万円あったが、レースが進む度に残高が減り、かなり淋しくなっている。

「次こそ! 次こそ勝つ!」

「はい、きっと次こそ勝てますよ」

「よーしっ……3番と8番を中心にかためて……9番も……、…ううむ……2番も…」

 競馬新聞を穴が開くほど睨みながら、智也は勝つために、複数の組み合わせを買っていく。クロエは何度か見ているうちに覚えた倍率から考えて、智也の賭け方に無駄が多いような気がしてきたが、余計な口出しはせず、黙って見つめる。

「よし、単勝3も買っておこう」

「……」

 それでは、たとえ的中しても2.4倍………、賭け金をコストとすると、投資としては手を出しすぎではないでしょうか、でも、真剣に考えておられるから邪魔してはいけませんよね、クロエは純粋に馬を見ることを楽しむ。どの馬が勝つか、ではなく、どの馬が美しく走りそうか、を想像して胸を熱くしているうちにレースが始まった。

「おおっ! 行けっ!! 行けっ! ゴーッ!!! 突っ込め!!! メタルアンジェリカっ!! 行けぇっっ!! うおっ! うおっ! うおおおおおっ!! だあああぁあああああぁ!!!!! ……あ…」

 智也が入れ込んだ馬は最後の最後で追いつかれ、負けた。

「っ……………」

「智也先輩っ?!」

 クロエは怒号をあげて応援していた智也がゴールと同時に失神するように倒れたので、駆けよって抱き起こした。

「智也先輩っ! しっかりっ!」

「……神は死んだ……オレも死んだ…………馬も死んだ……」

「………。神は死にましたが、智也先輩も馬たちも生きてますよっ」

「ああ……オレは、もうダメだ………クロエちゃん、……オレの墓は……海の見える丘…」

「泣かないでください、智也先輩」

「う~ぅ……泣いてない……泣いてないぞ……これは汗だ…」

「なら、汗を拭いて」

 クロエが生温かく濡れたハンカチで智也の涙を拭いてくれる。

「…クロエちゃん………やさしいな……君は…」

 賭け事で沸騰し、散財で霧散しつつある智也の理性は、心配してくれる少女に膝枕してもらうことは不適切だと気づけないまでに弱っていた。

「…ああ……あと一万円だ……」

「………もう、おやめになられますか?」

「……………………、どうせ……無かった金なんだ。五十万円もっていって四十九万円つぎこんだ男より、五十万全部すった男の方が、バカかっこよくないか?」

「……。はい、……男らしいと思います」

「ああ……………………最後の勝負だ」

 智也はクロエの膝から頭をあげると、競馬新聞を見つめる。

「こいつと……こいつは除外……………こいつも除外……」

「………」

「………あとは、……くそっ! ……まあ、こんなのわかれば、馬主にならなくても大金持ちだからな。やっぱり、地道に地主にしよう。今日で競馬は卒業だ。クロエ」

「はいっ」

 はじめてクロエと自然に呼んでもらえ、クロエは、いい返事をした。

「5番と、7番なら、どっちが勝つと思う?」

「ぇ……………………私が……決めるんですか?」

「参考にするだけだ。クロエに責任はない」

「………5か……7、……それなら、あの子が……」

 パドックを回っている馬を見比べ、クロエは7番を選んだ。

「なるほど……7-5-2なら、52.6倍。今日の五十万が戻ってきて、夕飯代がつくな。勝ったら、おごらせてくれ」

「はいっ」

 クロエは智也が馬券を買うのについていく。今まで、ずっと馬を見ているだけで馬券の購入はしなかったが、智也が買うのに合わせて、クロエも財布を出した。

「智也先輩と同じチケットを、これでお願いします」

「これ……全部か?」

 智也は三万六千円を受け取り、戸惑った。

「……、3600円くらいにしないか?」

「全部賭けたい気分なんです」

「……………………ちなみに、一ヶ月のお小遣いは、いくら?」

「ぇ? ……とくに決まっていません。必要なとき、父からもらいます」

「そう……じゃあ、いいだろ」

 智也は四万六千円を一つの組み合わせに賭けた。レースが始まり、二人とも声を上げて応援する。さっきまでクロエは馬の駆ける姿に見とれていたけれど、今度は異質の興奮に包まれる。ある特定の馬に勝ってほしいと賭ける気持ちは、ただ馬を見ているだけとは興奮する脳の部分が、まったく違った。

「さあ、行け。行けよ……行け…」

「もっと速くっ! Arretez!」

「行け…行け…行け! 遅れるな! 食いつけ!!」

 智也とクロエだけでなく、本日最後のレースであることも手伝い、競馬場が声援と怒号に満ち溢れる。

「逃げろ! 逃げろっ! そのままっ、いけぇ!!」

「キャーーッ!! Au secours! ダメっ!!」

「バカ野郎っ! 気合い入れろ!!」

「Oh! もっと鞭をっ! 強く!」

「うわっ……お、おおおっ!!」

 智也とクロエが賭けた組み合わせは、勝った。

「……勝った……勝ったよな…」

「Oui! Felicitations!!」

 はい、おめでとうございます、と叫んだクロエが跳びあがって抱きつくと、智也は受けとめて回転する。

「うっしゃーーっ!!」

「Bravo!!」

 クロエが西洋的な祝福のキスを智也の頬へ送ると、大逆転の勝利に興奮しきった智也もキスを返した。喜び合い、しばらく抱き合っていた二人は勝ち馬券を換金すると、かなり緊張した。ずっしりと、52万6千円と、189万3600円の感触が智也の両手に乗った。

「………。ほら、こっち、クロエの分」

「はい」

 クロエも智也ほどではないものの、やや緊張した面持ちで200万円ちかい現金を受け取るとハンドバックに入れる。とても財布には入りきらない厚みなので、裸でハンドバックの奥へ押し込むと、ハンドバックを持っている右手を智也の腕にからめた。

「日本は治安がいいはず……ですよね」

「ああ……まあ、な」

 ぴったりと寄り添ってくるクロエを今回は智也も腕を組むのを避けようとはせず、自分の勝ち金を左ポケットへ押し込むと、クロエと現金を守るように立つ。

「クロエ、銀行のカードもってるなら、あそこのATMで通帳に入れるか?」

「………。………」

 クロエは迷い、考え込み、そして首を横に振った。

「このまま持っていては、ダメでしょうか?」

「ダメってことはないさ。クロエの金なんだから。ただ、危ないぞ? 現金のままがいい理由でもあるのか?」

「はい……だって、父に知られずに使えるお金がほしいのです。お小遣いでも、洋服代でも、基本的に父へ筒抜けですから……」

「嘉神川社長、けっこう口うるさい?」

「何も言いませんが、知られているだけでも、プレッシャーじゃないですか?」

「……うむ、わかる。その気持ちは、わかるぞ」

 つい、先月まで彩花に家計を管理されていた智也は深く頷いて、クロエに賛同した。

「やっぱ、自分の判断で自由に使える金がほしいよな」

「はい」

 二人は大勝利の余韻に浸りながら、競馬場を出ると、クロエがタクシーを拾い、市街地にある一流ホテルの最上階レストランへ向かった。智也にとって初めて入る高級ホテルだったが、ポケットには多額の現金があるので平然とした態度をよそおい、クロエをエスコートしてみせる。クロエにとっては、ときたま仕事の区切りがついた父が連れてきてくれるレベルのレストランなので、ごく自然にエスコートされるけれど、智也が入口で足を止めた。

「あ……りかりん」

 見知った顔を見つけた智也が、思わず呼びかけた果凛は高級レストランにいるべくしているような華やかな装いで、吉祥寺隼人にエスコートされていた。

「はい?」

 果凛は智也と目を合わせ、それから連れているクロエを見て、お嬢さまらしい記憶力を発揮した。

「あら、嘉神川食品のクロエお嬢さん。お久しぶりですね。お元気そうで何よりです」

「は、…はい…」

 クロエは、まだ未熟なお嬢さま能力をふりしぼって、父親の会社にとって重要な取引相手である会社をいくつも所有している大富豪の令嬢を思い出すことに成功した。

「か…果凛様も、ごきげんうるわしく…」

「わたくしの誕生日に、おうどんを贈ってくださいましたね。両親と美味しくいただきましたわ」

「ぇ…はい…いえ、こちらこそ…」

 お父さんたら商売品なんか贈って、恥ずかしいことしないでよ、クロエは赤面しながら同じ七月生まれの果凛と交遊は一つもないのに仕事上のアピールを狙って、幸蔵が毎年、果凛へ誕生日プレゼントを娘と連名で贈っていることを思い出しながら、自分が何をもらったか記憶をたぐるけれど、出てこない。もちろん、幸蔵が礼状を送っているはずだが、クロエとしても出会った以上、感想と礼を言うべきなのに、思い出せなかった。

「ふふ♪」

 その様子を見て果凛は、やわらかな微笑みを浮かべて、クロエの未熟さを許容して受けとめながらも、自分も必死に記憶を検索する。クロエより先に声をかけてきた同伴者が、誰なのか、わからずに焦っているが、焦っている様子は一つも表情に浮かべない。上流の社交として、呼びかけてくれた相手を思い出せないのは友好関係にとって失点になる、果凛はクロエが紹介してくれることを期待して、まず隼人を紹介する。

「こちらは吉祥寺隼人さん、わたくしの…」

「婚約者さ♪」

 隼人が優雅に微笑み、白い歯を輝かせた。

「隼人さん、それは悪ふざけです。他に婚約者がおられるのに、そんなことをいっていては、あいなさんが泣きますよ」

「親が決めた許嫁さ」

「困った隼人さん……」

 それにしても、うーん、誰だっけ、どこかで見た顔なんだけど、だいたいさ、私のこと、りかりんって呼ぶ人間は、この世に、そんなにいないはずなんだけど、果凛が困っているのにクロエは気づかない。最初に声をかけた智也は、むしろクロエの背後へまわって果凛と距離をとっている。

「……」

 お嬢さまモード中だったか、思わず声かけたのは失敗だったな、知らないフリしよう、っていうか、クロエ連れてるのバレたら、いろいろ面倒だしな、うかつだったぜ、智也は伊達眼鏡を彼らしくない神経質な仕草でなおしつつ、今さら他人のフリを決め込む。

「ところで、そちらの彼は、どなたかな? さっき、ずいぶん果凛ちゃんに親しげな声をかけてくれたけど?」

 優雅ながら、少し敵愾心のスパイスが入った隼人の問いに、果凛も智也も答えない。代わりにクロエが平然と優雅に言い放った。

「ご紹介が遅れました。私の恋人、三上智也さんです」

「はあっ?!」

 果凛が場違いで身分違いな素っ頓狂な声をあげてしまうほど驚き、そして気づいた。

「み、三上くんっ?!」

「まあ……な。けど、恋人じゃないぞ。コラ」

 智也はクロエの頭を軽く叩いた。

「ぅ~…今日一日は恋人の約束ですよぉ」

「正確には競馬場にいる間だけ、恋人のフリをする取り決め、だ。りかりんに紹介の必要はないみたいだけど、オレとクロエの関係は家庭教師と生徒、そーゆー関係だ。いいな?」

「家庭教師っ?! 三上くんがっ?! ぁ…」

 うっかり動揺のあまりお嬢さまモードを忘れていたことに、やっと気づいて智也に対する友人モードを仕舞い込む。

「そうでしたか、三上くんなら、きっといい家庭教師になれますわね」

「うむ、今日は競馬場に社会見学だった」

「……。……」

 果凛が何か言いたそうにして、それを押さえ込んで閉口している様子を見て、隼人が笑った。

「ははっ♪ 果凛ちゃんが高校で、どんな風か、少しわかった気がするよ」

「……、意地悪なお兄様」

 果凛が拗ねると、隼人は笑うのをやめて智也に提案する。

「せっかく運命的なまでに偶然、出会えたんだ。四人で食事をさせてもらえないかな。もちろん、ボクがごちそうするからさ」

「オレとしては、普段なら願ってもないことだから、お誘いにのりたいんだけど、勘定は吉祥寺さんとオレでワリカンにしませんか。競馬に勝たせてくれた幸運の女神に、ごちそうするって約束で連れてきたんだ」

「なるほどね。じゃあ、どっちの女神の幸運が強いか、コインの裏表で賭けよう。君が勝ったらダッチカウント、ボクが勝ったらボクの提案通り。さて」

 隼人は返答を待たずに豪奢なタキシードのポケットから出した金貨を投げ、手の甲で受けとめて隠した。オーストリアで造幣された1トロイオンス、約31グラムの高純度のウイーン金貨を慣れた仕草で扱っている。

「オレの話を……まあ、いいか。そこまで、言ってもらえるなら賭けに乗ろう。裏で」

「裏だね。……表。ボクの勝ちだ」

 隼人が見せてくれたウイーン金貨は、どっちが裏なのか、表なのか、智也にはわからなかった。そもそも、百円玉でさえ、絵柄のある方か、数字の方か、どちらが表か、正確には知らない。けれども、智也は受け入れることにした。

「素直に、ごちそうになろうか、クロエ」

「…はい…」

 クロエが少し複雑な表情をしていると、隼人がイタズラ心を起こして追加攻撃する。

「ボクの女神の方が、幸運は強かったみたいだね」

「いいや、どっちの女神も御利益はあったさ。吉祥寺さんには栄誉の運、オレには金運、強弱は関係ない。二柱とも最高の女神だ。な、クロエ、りかりん」

「はいっ」

「都合のいい考え方をさせたら、三上くんに勝てる人はいないわ」

「はははっ♪ 面白い男だね、君は。果凛ちゃんのご学友はユニークな人が多いみたいだ。カナタさんといい、君といい。実に面白いよ」

「カナタと三上くんだけですわ」

 そう言いつつも、正午や葉夜も普通でないことを思い出したが、表情には出さず、隼人が予約していた個室に四人で入ると、優秀なウエイターは話の流れを察知して四人分の席を用意してくれていた。四人がけのテーブルに、クロエと果凛が夜景の美しい窓側へエスコートされ、その隣にそれぞれの同伴者が座る。いつも果凛を食事に誘っても対面して座ることが多いので、隣席できることを隼人が悦ぶと、クロエは場の空気に乗って、智也の腕に寄り添った。

「……」

 静かに智也を見つめ、女性らしく待っているけれど、果凛が咳払いした。

「お肉と、お魚、どちらにします?」

「オレはラーメン」

「……。ここ、フランス料理のレストラン」

「フランス風ラーメン♪」

 智也がふざけながら、クロエが作ろうとした空気を避ける。そこへ、ウエイターが食前酒を持ってきたが、果凛は遠慮する。

「まだ、未成年ですから」

「りかりん硬いなぁ。いいじゃないか、少しくらい」

「そうだね。少しくらい慣れておいた方がいいよ。果凛ちゃん」

「お兄様まで……、……。クロエさん、何とか言ってあげてくださいな」

「私は……智也先輩がいただくなら……、いただきます」

「ぇ~っと……、クロエさん、おいくつでした?」

「中学の夏、花火見物の後、みんなで呑んだよな。りかりん笑い上戸で大爆笑してたな」

「ぅ、あれは武者が…、…三上くん、レディーの過去を暴露するのは、やめてくださいな。失礼でしてよ」

 果凛は怒った顔をつくって笑っている智也と隼人から顔をそむけ、夜景の方を見ながら食前酒を一息に飲み干した。

「クロエさん、気をつけなさい。女性を酔わせて乱暴した前科者が、となりにいらっしゃいますから」

「ぐっ…りかりん…お前…」

「ふふン♪ 言われたくない過去を知ってるのは、お互い様ですわ」

 果凛は智也を睨みながら、これ以上は何も言わないで、と釘を刺して話題を変える。

「コースはお兄様にお任せしていいかしら?」

「みなさんに異議がなければ、これを」

 隼人がフルコースを選び、注文する。その注文が終わった後、クロエがシェフを呼ぶように頼んだ。呼ばれたシェフはフランス人でクロエの顔を覚えている様子だった。クロエは流暢で早口なフランス語でシェフと食材について話し込む。智也には一切理解できないが、隼人と果凛は半分ほど聞き取ることができた。話の内容は、ニンジンやピーマン、その他かなり複数の食材を自分の皿には入れないでほしいという注文で、シェフは苦笑しながら厨房へ戻っていった。

「クロエ、何を話していたんだ?」

「あのシェフはストラスブールの出身なので、つい懐かしくて」

「ふーん…」

 智也はウソを見抜かなかったが、果凛と隼人は気づかなかったフリをするのに苦労して、微笑みそうになる口元を白ワインのグラスで隠した。食事が進み、交流を深めた四人がレストランを出たところで、クロエが立ち止まり、顔を伏せた。

「どうした? クロエ、大丈夫か?」

「調子に乗って三上くんがワインまで呑ませるからよ。気分が悪いのね。少し休めば…」

 果凛が気づかって支えようとしたけれど、クロエは智也に寄り添った。

「ちょっと、目がまわって……」

「悪い。ワインは中学生にはきつかったな。ビールまでにするべきだった」

「そーゆー問題じゃないでしょ!」

 怒っている果凛の肩に触れて、隼人がルームキーを智也へ見せる。

「少し部屋で休ませてあげるといいよ。果凛ちゃんを夕食に誘う礼儀上、すぐ下の階に部屋を取ってあるからさ」

「お兄様……」

「もちろん、今夜も口説き落とせなかったから役に立たなかったわけだが、クロエさんの酔い醒ましに使ってもらえたら、まったく無駄ということでもなくなるからね」

「……、どうする? クロエ、少し休んだ方がいいか?」

「はい、ご好意、ありがとうございます」

 思ったより、しっかりとした口調でクロエは隼人に礼を言った。その様子で果凛には女子中学生が背伸びをして何を狙っているか、よくわかった。中学で花火見物に行ったときのカナタも何かを狙っていたし、うまく仲間とはぐれて正午と二人になって目的をとげていた。今のクロエから同じ匂いを嗅ぎとった果凛は視線だけで伝えられる限りのことを智也に送り込む。

「………」

 わかってるよね、この子、三上くんのこと好きになって血迷ってるのよ、おかしなことにならないように、傷つけないように、ちゃんと家に送り届けてあげるのよ、まさか、寿々奈さんのこと忘れかけてるわけじゃないよね、わかってるよね、わかってるよね、三上くん、ちゃんと傷つけないように距離をとるのよ、桧月さんや今坂さんのアタックをかわしたみたいに、それとなく、やんわりと断るのよ、わかった?! 果凛の瞳が隼人の前歯より輝いてみえた。

「……」

 わーってる、大丈夫、何も間違いはおこさない、鷹乃への愛に誓って何もしないし、そもそも中学生だぞ、何かあるわけないだろ、智也はアイコンタクトを返し、タメ息を隠してクロエを支えてエレベーターへ向かう。隼人は祝福するかのような笑顔を送りつつ、果凛と駐車場へ降りるエレベーターへ乗ろうとしたが、いさかか強烈に自動扉で鼻を打った。

「ぅっ…」

「お兄様、余計なことをするからです」

 打撲を気づかうことなく怒っている果凛の声は、自動ドアが閉まると聞こえなくなった。智也は揺すらないようにクロエを客室階へ向かうエレベーターに乗せてやり、ルームキーの頭番号にある階へと降りる。その階はレストランのすぐ下でエレベーターを出ると、ポーターが立っていた。

「こちらの階はスイートルームご宿泊のお客様専用となっております」

「ああ……なるほど、……あの人たちの階級なら、そうだろうな。……この鍵でいい?」

 智也がルームキーを見せると、ポーターは二人を部屋へと案内してくれる。通された部屋は80平米もあるスイートルームだった。

「………、クロエ、横になって休むか?」

「はい」

 きらびやかな部屋だったが、クロエは大きく感動した様子もなく、ゆっくりとベッドに横たわった。

「ごめんなさい……急に私が……」

「いいから、ゆっくり休めよ」

 智也が離れようとすると、クロエは手を握って止めた。

「すいません……少し苦しいので……スカートをゆるめてもらえますか?」

「……。食い過ぎか?」

「………お願いします…」

「……」

 智也は茶化そうとしたが、クロエに負けてスカートのフックを外してファスナーをおろし、言われるままにブラジャーもゆるめたが、今度は手をつかまれないように離れて、ソファに座った。

「……………………」

「………………」

 抱かれたい女と、美味しいバイト先のお嬢さんと無難な人間関係を続けたい男子高校生の間に、重い沈黙が漂う。

「…………………………」

「……………………」

「…………………………、今、何時なんだ……時計は…」

 智也が備えつけの立派な柱時計を見て、驚いた。

「もう11時かよ?! りかりんたちと話し込んでたんだなぁ……鷹乃に連絡しとこう」

 あえて鷹乃の名前を口にして、智也は電話機をあげ、自宅へコールする。

「タカノって彼女さんですか?」

「ああ…」

「連絡って…智也先輩の家にいるの?」

「まあな…、ちょっと電話してるから…」

 黙っててくれ、と言おうとして智也は受話器をおろした。まずは、目の前の女子中学生を傷つけないように、はっきりと告げておくことにする。

「オレの彼女、寿々奈鷹乃っていうんだけどさ。……夏休みくらいから、同居してる感じなんだ。卒業したら……まあ……結婚しようとか、思ってたりも、する……かも、しれない。まだ、決まったわけじゃないけど、……まあ、…たぶん、する。……そんな感じなんだ」

「……………………そう…ですか…」

 思ったよりクロエは穏やかな反応をして、ベッドに顔を伏せた。泣いている様子もない、これなら電話しても大丈夫だろうと、智也は再びコールする。今度は、すぐに鷹乃が受話してくれた。

「もしもし……み…三上です」

 三上姓を名乗るのに戸惑っている鷹乃の声に、智也は少し笑って答える。

「オレも三上だ」

「智也。……遅いのね。電話してくるってことは、まだかかるの?」

「悪い。もう少し、遅くなる。っ?!」

 智也の背中へクロエがのしかかるように抱きついてきた。

「どうしたの?」

「い…いや、なんでも…」

 智也はクロエへ抗議の視線を送ったけれど、無視され、クロエは抱きついたまま受話器に耳をあててくる。二人の会話を聞き取ろうとするクロエを引き離そうとすれば、気配で鷹乃が感知してしまうと考え、智也は諦めて話を続ける。

「仕事が片付かなくてさ。まだ、かかるんだ」

「そう……、夕食は? まだ、かかるなら会社へ持っていってあげましょうか?」

「い、いや、いい! 会社で弁当もらったから。悪いな、せっかく作ってくれたのに……あ、明日の弁当にでもつめてくれよ」

「明日のお弁当の分も、いっしょに揚げたわ。今日ね、胸肉が100gで198円だったのよ。たくさん買って冷凍しておいたから、また、カラアゲにしてあげるわね」

「お、おお、それは嬉しいぞ」

「そう。でも、夕食は仕方ないわね。私が二人分、食べてしまうわよ。それとも、お夜食に残しておいた方がいい?」

「悪い。食べてくれ。まだまだ仕事が残ってるんだ。ぜんぜん帰れそうにない」

 智也と鷹乃の会話を聞きながらクロエは古い記憶を刺激されていた。ずっと昔、まだ物心つくか、つかないかの古い記憶が蘇ってくる。仕事と言って遅くなる父、それを素直に待ち続ける母、そして積もり積もって迎えた破局の日、母は何も言わず、テーブルいっぱいの料理だけを残して、私を捨てた。

「…ふふ…」

「っ…」

「誰か、そこにいるの?」

「あ、ああ、みんな残業で残ってるんだ。疲れすぎて変な笑い声まであげてる人とかもいてさ。マジ大変なんだ」

 巧みにウソをつきながらも動揺する智也に抱きついているクロエは腕の力を強めた。

「…ふふ…」

 母は私を捨てた、飼い猫を捨てるみたいに、ありったけのペットフードを皿に出して旅立つみたいに、あの人は、私が全部を食べきれると思ったの、それとも何日もかけて食べて腐らせてお腹を壊すと思わなかったの、それともあれで子育て終了、最後の晩餐ってわけなの…ふふ…おかげでピーマンも、ニンジンも、嫌いになった、みんなみんな嫌いになった。

「…ふふ…」

 父も私と母を捨てた。今でも仕事ばっかり、それとも私にも仕事と言いながら、あの秘書とホテルにいるのかしら、お金だけくれて時間と愛はくれない、最低の父親、ふふ…ふふ…ふふふ…クロエは冷笑しながら、お腹の底が疼くのを感じた。下腹部が熱く疼いて、まるで空腹を訴える胃みたいに淋しく泣いてくる。股間が熱くなって、月経でもないのに奥からぬめって濡れてくるのを知覚した。異常な興奮だった。

「…そっか…」

 今、私は、あの女の位置にいる、そうよ、あの秘書の、私の家を壊した、あの女と同じ位置にいる、すごい、すごいよ、どうして、こんなに身体が熱いの、どうして、こんなに楽しいの、壊したい、絶対壊したい、この二人をバラバラに壊してあげたい。

「……」

 クロエは手を伸ばして勝手に電話を切った。

「ぉ? おいっ!」

「………」

 クロエは抗議する智也を無視して立ち上がると、服を脱いだ。

「おっ、おいっ?! 脱ぐな!」

「シャワーを浴びれば、気分も回復するかと思うのですが……ダメですか?」

「ああ、そーゆーことか……それでも、ここで脱ぐなよ!」

「……、どの道、あのシャワールームでは同じことではないですか」

 クロエが指したスイートルームのバスは全面ガラス張りで視線を遮るものがない。智也はクロエの裸体を見ないように、ソファへ座り直した。

「少し待っていてくださいね」

「……ああ…」

 クロエがシャワーを浴び始めると、智也は黙って帰ろうかと思ったけれど、テーブルに置かれたハンドバックには多額の現金が入っている。おまけにクロエは精神的に不安定な様子で、放って帰ることはできなかった。

「……。今のうちに、もう一度」

 智也は三上家に電話をかけ、鷹乃と話す。

「ごめんな。急に切って。社長に呼ばれたんだ」

「忙しいのね」

「ああ、ごめん。とにかく、そーゆーわけだから、悪いけど一人で先に寝てくれ。本気で遅くなりそうだ」

「そう。頑張ってくれるのもいいけれど、身体には気をつけてね」

「ありがと。じゃ」

 手短に智也はフォローの電話を終え、クロエがシャワーを浴びたら何と言って帰宅する気にさせるか、考えるけれど名案が浮かばない。そのうちにクロエは戻ってきたし、智也の想定内ではあったが、全裸で濡れたまま近づいてくる。

「………」

「…………」

 クロエは髪も身体も濡れたまま、まるで長い時間、雨にでも打たれていたような雰囲気で、いつも優雅に拡がっている髪も垂れ下がり、弱々しく立っている。まるで優しくしてくれないと、このまま私、死んじゃいますよ、という風情で智也は、ますます困った。

「……バスタオルくらい使えよ。高そうな絨毯が濡れてる」

「………うん…」

 うつろな瞳でクロエはシーツを持ちあげると、身体に巻いた。

「………………」

「……月のキレイな夜ね」

 クロエは窓際に座り込むと、そのまま夜空を見上げた。

「……………………」

「……………………。そろそろ気分も回復したか?」

「アルテミス……」

「……、ギリシャ神話の女神だっけか…」

 オレの質問には答えてくれないんだな、この年齢の女子って子供なんだか、大人なんだか、彩花と唯笑以上に扱いにくい子だ、智也はタメ息をつかないように立ち上がり、コーヒーを淹れる。

「たしか、月の守護神で弓の名手だったな。絶対に外さない矢を射るって話」

「………アルテミスは自分の裸を見た男アクタイオンを鹿に変え、犬をけしかけて八つ裂きにさせたのよ。残酷な月の神さま……」

「………」

 オレには、すでに月のかぐや姫がいるから、そーゆー怖い女神様とはお近づきになりたくないぞ、智也はコーヒーをクロエの前に置いた。

「酔いが醒めるから」

「………ありがとう」

 クロエはコーヒーを一口だけ飲むと、また夜空を見上げる。

「………………………………」

「………」

 帰りたいなぁ、君を傷つけずに帰りたいよ、智也はソファへ戻って静かにコーヒーを啜る。

「……………………」

「………………」

 長い沈黙の後に、クロエは立ち上がると智也へ近づき、見つめてくる。

「キス……して、いいですか? ……お願い」

「……………………」

 口に出して否定することも、茶化すこともできず、智也は近づいてくるクロエの唇を避けて、優しく抱きとめて諭す。

「今の自分の気持ちを、あまり本気にしない方がいい」

「……………………」

「うかつだよ」

 抱きしめるというほどには近づかず、優しく頭を撫でて微笑む。

「さ、帰ろう」

「……イヤ……」

「………」

「……………………」

 クロエは帰宅しないことを身体で示すようにベッドへ横になると、身体に巻きつけていたシーツを半分ほどゆるめた。すらりとしたクロエの脚線美が智也の性欲を意外なほど刺激してきた。

「………」

 くっ、落ちつけよ、オレ、たかが中学二年生じゃないか、一昨年までランドセルだぞ、だいたい胸なんかブラジャーなくても大丈夫くらいなんだぞ、いくら脚が女神なみにキレイでノーパンだからって興奮するな、智也は情欲を押し殺そうとしたが、不覚にも男根に血が巡るのを感じた。

「………たはーっ……」

 高まる緊張を解きほぐそうと、力の抜けるタメ息をついたけれど、クロエは場の空気を涙一粒で重くしてくる。

「……好きです…、……会ったときから……ずっと……」

「……………………」

「………もっと早く出会えたら…よかったのに…」

「………………もしも、次に生まれ変わることがあったら…」

「今夜だけ、私の恋人になってほしい」

「……………………。それは、君も傷つけることになるから……」

「……………」

 クロエが黙って身じろぎした。その動作でシーツがめくれあがり、脚の付け根が見えそうになる。智也は視線をクロエの顔へ固定して宣言する。

「オレは鷹乃が好きなんだ。ごめん」

「……………………」

「ごめん」

「……………」

 クロエが諦めた顔をして、泣き出しそうになり、不意にテーブルへ置いたハンドバックを凝視して考え込む。

「…………百万円」

 クロエは起きあがってハンドバックから札束を取り出すと、智也に向けた。

「私を抱いてくれたら、百万円、あげます」

「な………………」

「あげます」

 親から愛の代わりに金銭と贅沢な暮らしを与えてもらった少女は、男との愛をえるのにも金銭を通用させようとしてきた。

「れ……冷静に…なれよ」

「じゃあ、全部」

 クロエはハンドバックに残っている全額を握ると、智也に押しつける。

「あげます。だから抱いて」

「………お…落ちつけって……冷静に…」

 動揺しているのは智也だった。およそ二百万円、自分の勝ち金と合わせれば、242万円になる。

「…だ……だってよ……」

 一千万円の四分の一だぞ、毎月5万円貯金したって4年はかかる、それを一晩でくれるってマジかよ、マジですか、ちょっと落ちつけよ、智也は生唾を飲んで額に汗を浮かべた。胸に押しつけられた札束の量と質感は金銭欲旺盛な男子高校生から冷静さを奪うのに十分な破壊力をもっていた。

「あげます」

 動揺した智也と対称的に冷静なクロエは受け取らない智也の胸元で札束から手を離した。バラバラと一万円札が舞い散り、智也の足元に降り積もる。クロエは智也から離れるとスイートルームの構造に慣れた動きでミニバーからウイスキーの小瓶を取りだし、ワイングラスへ注いだ。

「……………」

 クロエは一息に飲み干すと、もう一本を開けて干したばかりのワイングラスへ注ぎ、今度は智也に飲ませる。有無を言わせぬ女神のような逆らいがたさで、智也の唇にワイングラスを押しあて、金銭に酔いかけている智也を酩酊させる。

「…ふふ…」

 クロエは細く嗤うと、智也に唇を重ね、ベッドへ押し倒した。智也は抵抗せずクロエは騎乗位で処女を卒業した。


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