翌日の9月28日、智也は朝食が終わったのに鷹乃が制服を着ないので声をかける。
「鷹乃、今日も学校、休むのか?」
「…ええ……行きたくないわ」
ジャージを着てエプロンをしている鷹乃は暗い顔で首をふった。
「そうか。じゃあ、風邪が続いてるって先生には言っておくぞ」
「…ええ、…お願い」
「……大丈夫か? さっきも朝食、ほとんど食べてないだろ? どこか痛いのか?」
「平気……何でもないわ」
気づかれたくない、12キロも太ったなんて、智也には絶対知られたくない、鷹乃は昨日の昼食を抜き、夕食も智也が帰る前に食べてしまったとウソを言って食べず、今もまた牛乳を一杯飲んだだけで夫を見送る。
「…いってらっしゃい。はい、お弁当」
「ああ…」
智也は弁当を受け取り、少し渇いた鷹乃の唇へキスをすると、家を出た。まっすぐ藍ヶ丘駅を目指して歩くと、登校中の唯笑と彩花に見つかった。
「あ♪ トモちゃん! 久しぶりぃ♪」
「よぉ」
「智也、寿々奈さんは? 昨日もいっしょじゃなかったわよね?」
「鷹乃は風邪で休んでる。……昨日もって、よく知ってるな」
「見たくなくても駅までは同じ通学路ですから」
「鷹乃ちゃん、そんなに具合悪いの?」
「いや、たいしたことない。もう元気なんだが、もう一日、安静にしてようってことだ。どうせ、鷹乃は受験しないし」
「どうせって……じゃあ、寿々奈さん、進路は、どうするの?」
「そりゃ……オレと結婚…」
っていうか、もう入籍済みだけど、こいつらに言うとうるさいからな、黙っておこう、智也は結婚したことを幼馴染みに隠すことにした。
「結婚っ?! トモちゃんと鷹乃ちゃん、結婚するのっ?!」
「まあ……このまま順調なら、な」
「いいなっいいなっ! 唯笑も結婚したいなぁ♪ お嫁さんになりたいなぁ! ウェディングドレス着たいなぁ♪」
「彩花にでも頼めよ。結婚してくれって」
「私も女なんですけど?」
「じゃあ、二人でドレス着ればいいじゃん」
「アホ」
「……トモちゃん……それって変じゃない?」
「変だと思うから変なんだ。ちょっと個性的なだけだと思えばいい♪ 唯笑と彩花、お似合いだぞ?」
「どうでもいいこと話してたら、乗り遅れそう。唯笑ちゃん、急ごっ!」
「うんっ! じゃあね、トモちゃん」
澄空学園へ向かうシカ電に乗るため、唯笑と彩花は駆けていく。けれど、彩花は振り返って叫ぶ。
「智也ぁぁ!」
「ん?」
「競馬、勝てたぁぁ? 今度、おごってねぇぇ!」
「ぐっ…」
知ってやがる、気づいてやがった、あの日、クロエと競馬場に行ったこと、くそっ、チェック厳しいな、けど、りかりん情報までは出回ってないな、りかりんが胸の中に止めておいてくれるのか、智也は今後の対策を考えながら浜咲学園へ向かうシカ電に乗った。
「………………」
鷹乃は元気ないし、クロエとの家庭教師は辞められなかったし、りかりんは怒って絶交してきたし、彩花にも目撃されてたし、黒須に相談しようにも軽い絶交な上に様子が変だし、やばいな、オレ、だんだん包囲網が完成してないか、なんとか突破しないと、智也は状況を整理して対策を考えたいのに目の前でキスをするカップルがいたので目障りだった。
「……………………」
朝のラッシュで満員状態の列車内で、熱いキスを交わしているのは雅と歩だった。
「…んっ……ハァ…」
「はふっ…んっ…」
舌を絡めて吸い合う濃厚なキスで残暑が厳しい満員電車の気温と不快指数をあげてくれている。智也は何か文句を言いたくなったけれど、九月の始めに自分が鷹乃とのキスで警告されたことを思い出した。
「………」
あのとき注意してきた二人か、いつのまに、そっちに目覚めたんだ、まあ、他人のことだからいいけど、暑いんだよな、湿度も高いし、こいつら二人とも下も濡れてるな、きっと、智也は二人の下半身を想像したので自分も下半身が熱くなった。
「「……」」
雅と歩が智也の視線に気づいてキスを続けながら目で微笑した。見たければ、ごゆるりと、どうぞ、と雅が目で語り、歩も、うちら見て勃っとるやろ、アホや、と嗤っている。
「………アホは、お互い様だ」
智也は口に出してタメ息をつき、唯笑と彩花との会話を思い出した。
「お前ら、二人でウェディングドレス着られるといいな?」
「「……………………」」
思いがけない発言を浴びて雅と歩はキスをやめ、お互いを見つめた。
「……私たち……どうなるのでしょう?」
「どうって……、せやけど、日本の法律では結婚でけんのと、ちゃいますの? 先輩」
アホと胸中で罵った相手に訊きたいことがあるので臨機応変に先輩あつかいした歩が問うと、根に持たない上に自分の行動にアホの自覚がある智也は親切に考えてやる。
「法的には市役所で受理してもらえないだろうけど、結婚式そのものはホテルとかの金儲けだから対応してくれるだろ。たぶん、あ…でも、キリスト教の教会で神父に祝福されたいってなると、断られるだろうな。あいつら同性婚を神への反逆だと思ってるから」
「日本の神社でもダメでしょうか?」
「……ドレスじゃなくて着物がいいのか?」
「はい」
「ん~………気のいい神主さんなら事情を説明すれば対応してくれるかも、よ? それか澄空弁財天とか」
「弁財天は……女神…」
「雅が着物がええんやったら……でも、うち、ドレスも着てみたい…」
「私も……ドレスも…」
「せやったら教会と神社でダブル…」
「おい、お色直しってものを忘れてないか?」
「あ、せやった」
「ドレスと着物のことは解決したとしても法的には、やはり難しいのですか?」
「ああ。けど、どっちみち二人の気持ち次第だろ? 法的な結婚なんて形式の問題なんだからさ。たとえ結婚してても別居してたり、気持ちがバラバラな夫婦なんて百万といるしさ。そーゆーことじゃないか? って、なんでオレは真剣に語ってるんだ?」
浜咲駅に到着したので智也は一人で歩き出したけれど、雅と歩がついてくる。
「おい? 何か文句あるのか?」
「もうちょい色々と教えてもらえると、うれしいちゅーか、先輩のこと尊敬するちゅーか。てへへっ♪」
「さすが関西人だな」
「いやいや先輩こそ、いろいろと裏道を知ってはりそうですし。ぜひ、そのへんをご教授いただけたらとっ」
歩は褒めて智也を巧く喋らせる。
「そうだな。法的な結婚に、こだわるなら、アメリカの州によっては同性婚を認めてたし、神父も、たまに変わり種がいて同性婚でも祝福してくれるらしいぞ。ヨーロッパでも国によっては婚姻届を受理してくれるから、そーゆー国で国籍とるか、だな。ちなみに、そーゆー国へ旅行して旅行先で結婚するのは無理だったりする。二人とも日本国籍だと取り扱いが現地の日本大使館になるからな。けど、最大の問題は二つある」
「その二つちゅーのは?」
「二つはセットみたいなもんだ。わからないか?」
「んん~っ………」
歩が考え込み、雅が恐る恐る答える。
「……家族の……反対、ですか?」
「おっ、正解」
「………」
雅は正解したのに少しも嬉しそうでなく、歩の手を握った。
「当たり前だけど、両親は反対するだろうしさ。たとえ、父親が加賀みたいなアッパッパーなパパで、母親が黒須みたいなスチャラカ自由放任なママでも、爺さんとか、婆さんとか、親戚とか、普通に周囲が反対してくるだろ」
「……………………」
雅の顔が暗くなったので歩は気づかうように肩を抱いた。
「先輩、もう一つちゅーのも、きつい話ですか?」
「ああ、お金の話だ。これが、一番きつい」
「「……………………」」
「法律が認めなかろうが、家族が反対しようが、とにかく二人でいたいってなったら、親と同居は無理だろ? だったら、アパートを借りるとかして同棲すれば、いい。けど、こうなると必要なのは金だ。家賃って大変らしいぞ? 男と女の結婚なら、たとえ反対されていても同棲しちまえば、そのうち周囲も諦めるし、子供が産まれたら、まあ、両親も渋々認めるのが普通だろ。けど、そーゆー自然の摂理に逆らって生活するとなると、やっぱり大変だと思う」
「……………………先輩、なんで、そんな詳しいんですか? 実は彼女さんはダミーでホンマの趣味は、こっち、とか?」
「もしも鷹乃が男だったら、悩んだろうな。恋愛と性欲は別ものだろ?」
「「……………………」」
「いや、これは男の発想か……まあ、男は恋してない相手にも欲情するから」
「うちら見て勃ってはりましたよね?」
「たはっ♪」
「………」
「いいじゃないか。自分たちの魅力を誇れ。おごれ。自信をもて♪」
「……ま、ええわ。とりあえず、相談したいことができたら、よろしゅーたのんます。お礼は精神的にしかでけませんけど」
歩は抜け道に詳しい先輩という人脈を大切にして雅と一年生の教室へ向かっていく。智也は後輩を見送ると三年生の教室へ向かい、つばめと廊下で出会った。
「よォ。先生」
「……、よォ、という……挨拶は……生徒が……教師に…」
「元気、ないな? どうした?」
智也は今朝の鷹乃と同じくらい顔色のさえない国語教師を心配する。
「ちゃんと朝飯、食べてますか?」
「……、……」
つばめは怨みがましい目で智也を睨んだ。
「98円」
「は?」
「昨日、…あなたに…紙幣を奪われた私…の財布で、オニギリ…一つ買った…後に残った金額…です」
つばめは物欲しそうに鷹乃が作った弁当を見つめる。
「夕食がオニギリ…一つ……朝食は……抜き……」
「やらないぞ。愛妻弁当だからな。中森の弁当を狙え」
「…彼の……母親が彼の……ために作った…お弁当を……私が…食べては……いけない」
「鷹乃がオレのために作った弁当を食べてもいけないだろうが?」
「いいえ……それだけの…理由は…あり…ます…」
「……………………。わかった」
智也は財布を出すと三万円を、つばめに見せる。
「金、貸してやる」
「……え?」
「金を貸してやるから、来月の給料で五万円にして返せ」
「……え?」
「だから、オレが先生に金を貸すから、利息つけて返せって言ってるんだ」
「………そのお金は…私の…」
「オレの、だ♪」
「…………」
「一度、オレに渡した金を受け取らせるなんて侮辱したマネはできないからな♪ 女子中学生でも怒るぞ。誇り高ければ、な」
「…………。だと……しても…一ヶ月で66.6パーセントの…利息と…いうのは、年利になおすと…」
「残り少ないカロリー使って余計な計算するなよ」
「明らかに…利息制限法と…出資法に…違反…」
「ああ、いいんだ。オレは闇金融だから。ぜんぜん金融業の登録、してないから。個人が個人に自由で貸すんだ。民法しか適応されない。それに2万円は利息というより礼金みたいなものだ。ぜんぜん問題ない♪」
「……………………」
「いや、なら、いいんだぜ? 草でも喰って生き延びろよ」
「………………」
つばめの脳裏に朝凪荘に生えている食べられる野草の数々がめぐった。案外、一ヶ月くらい生きていけるかもしれない。けれど、ビタミンは十分でも炭水化物が不足する。穀物がないと苦しい。お米、小麦粉、トウモロコシ、ジャガイモ、カロリーになるものを食べないと生きていけない。
「来月の給料が2万マイナスなだけだろ? そんな元気のない顔してたら中森が心配するぞ? これで何か温かいものでも食べろよ。な?」
智也は五百円玉を三万円につけた。
「……給料日まで……一日……約千円で……。でも、家賃は?」
「伊波に借りれば? あいつなら借りたまま返さなくても大丈夫だから。返せって言ってきたら、白河の話でもすれば居づらくなって逃げるって♪」
「………伊波くん……白河さんとの交際……どうしたの?」
「裏切って捨てた。今は飛世巴っていう女とヤりまくってる。不純異性交遊だ。教育的指導の必要があるぞ」
「………」
「ちなみに飛世巴はトトってアダ名だ」
「…それは…知っていま…す…」
「トトは澄空学園の三年生で藍ヶ丘に住んでる。バスケって劇団の女優だ。小学校のとき淳って弟が交通事故で死んでる。中学は藍ヶ丘第二。そこで白河と親友になってる。っと、このくらいの個人情報があれば、先生なら伊波からバイト代を巻き上げられるだろ?」
「……私と……翔太くん、…中森くん…のこと…も伊波くんは知っている…のに? 脅せば逆に…」
「先生なら、できないか? 巧く話術で言いくるめて金借りて返さなければいい」
「…あ…なたは…伊波くん……に怨みでも…あるの?」
「ある」
「……どんな?」
「オレの友達だった白河を傷つけた。巴に無自覚に白河を裏切らせた。これで理由は十分だろ? んじゃ、来月の給料日に6万円、よろしくな」
「ふ…えて…」
「500円、つけてやっただろ?」
智也は月利2000パーセントの暴利を言い渡すと、つばめと別れて教室に入った。
放課後、智也は下校途中で彩花に捕まって舌打ちした。
「ちっ……待ち伏せたな?」
「まあねン♪」
彩花は逃がさないように智也の袖を掴みつつ、微笑む。
「で、智也。変装してまでデートしてた相手は、誰なの?」
「……。デートじゃない。競馬場の社会見学だ」
「で?」
「………それだけだ」
「で、誰なの?」
「…………バイト先のお嬢さんだ」
「ふーーんっ、キレイな子だったね。あれって日本人?」
「いや、ハーフらしい」
「フィンランドの?」
「フランスだとか」
「ふーーんっ、で、このことは寿々奈さん、知ってるの?」
「ぐっ…」
「タコ焼き、食べたい♪」
彩花が可愛らしく天使のように微笑んだ。すぐそこにタコ焼きの屋台が出ている。中学の頃から、何かあると彩花がねだる店だった。
「タコ焼き、食べたいなぁ♪」
「たかりかよ」
「ううん、食べたいだけ♪ お願い、智也」
「……こんなときだけ可愛い顔しやがって…」
「いつも可愛いと見飽きるでしょ?」
クスクスと笑う彩花から柑橘系の香りがする。着こなしている澄空学園の制服が見慣れた浜咲学園の制服より可愛く見えてしまう。
「……」
ねだるときの彩花だけは可愛いからな、まあ、いいか、智也は財布の紐をゆるめた。
「買ってやるから、コーラおごれよ」
「はいはい」
「この件での、たかりはタコ焼きで終わりだからな」
「念を押さなくても黙っていてあげるわよ。あの嫉妬深い彼女さんには、ね」
「……唯笑にも言うなよ」
「言わないって♪ ………」
微笑んでいた彩花は、智也が渋々出した財布の中を見て仰天した。智也の財布には一万円札が束になりそうなほど入っている。
「ちょっ?! なにそれっ?! いくらあるの?!」
「くっ……しまった」
智也は隠そうとしたが遅かった。
「そんなお金、どうやって手に入れたの?!」
「こ…これは…だな…」
「百万円くらいあったよね?! ちょっと見せて!!」
彩花が財布へ手を伸ばしてくる。智也は避けようとしたが、彩花は避ける軌道も読み切って智也から財布を奪った。ざっと数えても一万円札が50枚以上あった。
「こんな大金……」
「返せよ!」
「どうして、こんなに持ってるの?」
彩花は少し怖くなったので多額の現金が入った財布を素直に智也へ返した。けれど、出所は気になるし、確かめなければ気が済まない。
「いったい、どうやって手に入れたの? どんな悪いことしたの?」
「……これは……競馬で勝ったんだ」
「ウソっ!」
「ウソじゃない! あの日の競馬で大勝ちしたんだ!」
「ウソよ。たとえ競馬で勝ってたとしても、その軍資金の出所が怪しいわよ。それに、競馬で勝っただけのお金なら私が追求したとき、そこまで慌てないはずよ!」
「くっ……名探偵め…」
「付き合いの長さよ。さあ、言いなさい! どんな悪いことして手に入れたの?」
「……………………」
怪しい媚薬を作って売ったのは言えないな、クロエからのバイト代で大勝ち……いや、もう彩花は何かあることを疑ってるから、なにかを白状しないとダメだ、でっちあげるか、それとも国語教師から巻き上げて競馬に行ったことにするか、けど時系列が狂うから、そこからバレるかもしれない、どうする、考えろオレ様、智也が考えを巡らせる間に彩花も可能性を考える。
「…………」
あんな大金、どうやって………錦鯉を盗んで売る? ううん、無理よ、たとえ盗めても販売ルートがわからないし、売りに行けたところで、そこでバレて逮捕されるって自分で言ってたから、じゃあ、株……もっと無理よ、株を買うお金がないもの、そんな正当な方法で手に入れたお金なら、こんなに慌てないはずだから、じゃあ、やっぱり何か悪いことをしてる、盗んだ? まさか、それはないよね、じゃあ後輩を脅した? それも、ないよね、いったい何をしたら、そんな大金を………まさか、あの寿々奈さんを使って援助交際とかさせてる? だから学校を休ませてる? 付き合ってみたけど、すぐ飽きたから……、彩花は心配と不安に、ほんの少しの願望を混ぜて疑惑の答えを探っていく。
「智也、そのお金………なにか、いかがわしいことで手に入れたの?」
「い……いかがわしいって……なんだよ?」
「それは……その………エッチなこと…とか?」
「………………」
智也の沈黙を彩花は肯定と受け取った。
「………最低」
「…………」
「……そんな人だと思わなかった」
「べ……別に、いいだろ。オレが何を売ろうと、オレの勝手だ」
「……………………智也……そこまで言う?」
彩花が悲しくなって涙を浮かべた。
「あ…彩花、泣くなよ……泣くほどのことじゃないだろ? チョークをラムネにして売るのと違って、誰かが腹痛おこすわけじゃないしさ。欺されてることに気づかなければ、誰も傷つかない最高の商売なんだ。な? タコ焼きおごるから…」
「っ!」
彩花は右手を一閃して智也の頬を叩いた。
「いらないわよ! そんなお金で買ったタコ焼きなんかっ! バカっ! 最低っ!! 信じられない!! 信じてたのに! そんなことするなんて! 信じられない!!」
「痛ぅっ……そこまで怒ることかよ?」
「……お…怒ることかって………女の子を……なんだと思ってるの?」
「だ……だからさ、効果なんて無いんだ! 二人とも、その気じゃないと効かないから女の子の意思を曲げてるわけじゃない! 信じてくれ! マジで効かないクスリなんだ!」
「クスリ? ………何のこと? ……まさか、麻薬で寿々奈さんを縛って……」
「おいっ! オレをどんな極悪人だと思ってるんだ?! ただのメ○タームとメン○レータムのハイブリットだって! クリトリスに塗るとスースーして感じるから誤解するだけで媚薬なんかじゃないんだって!」
「………メン……、クリト…………、……何を言ってるの?」
「お前こそ、何を言ってるんだ?」
「………だから、寿々奈さんに援助交際させて手に入れたお金じゃないの?」
「なっ……なんでオレが鷹乃を売らなくちゃいけないんだ?! 怒るぞ!」
「じゃっ…、じゃあ、どうして手に入れたのよ?! そんな大金っ!」
「これは……、……だから、…その………わかったっ! 白状する! 全部しゃべる! だから、誰にも言わないでくれ! 鷹乃にも! 唯笑にも! 誰にも、言わないでくれ! お前にだけは本当のことを喋るから誰にも言うなよ!」
智也は観念して白状することにした。下手な小細工をしても長年の付き合いがある彩花を誤魔化せるとは思えず、そして何もかも話して楽になりたいという気持ちもあって彩花に全てを話していく。ほんのイタズラ心で作ったクスリを鷹乃に試したこと、正午にカナタにも使うよう渡したこと、さらにカナタや下級生たちに高く売ったこと、その金でクロエと競馬に行き、さんざんに負けた後、思わぬ大勝に浮かれ、なし崩し的にクロエと性的な関係をもってしまい、クロエの勝ち金まで受け取る流れになったこと、腹立たしい国語教師を翔太との関係をネタに脅していること、それら全てを公園のベンチに座って語った。
「というわけだ。………」
智也が恐る恐る彩花の顔色を見ると、疲れた顔でタメ息をついている。
「そう……そんなに色々なことが……事実は小説よりも奇なりね」
「彩花こそ、いったい何を、どう考えたら鷹乃を売ったなんて思うんだよ?」
「えらそうに言える立場? 寿々奈さんを裏切ってるくせに。他にも、ひどいことしてるんじゃないの?」
「ぅっ……いや、あとは……裸エプロンを要求したり、ノーパン登校とか…」
「そーゆーのは聞きたくない」
「……とりあえず、オレは全部、話したぞ。ホントに全部だ」
「全部で300万くらいよね? 財布にあるのは50万。他は、どうしたの?」
「大金を持ち歩く気分を楽しみたくて財布に入れてるけど、さすがに不用心だから残りは部屋に隠してある。お前に借りて読んでない本の隣にある辞書の箱の中だ」
「……あの本、貸してあげたの中学のときよね?」
「お前の部屋にだってオレの漫画、あるだろうが?」
「そうね。……そーゆー関係だったわね。この頃、出会うのはおろか、電話さえしてないけど。……その智也が、もう浮気してるとは思わなかったわ」
「う…浮気って……オレは、できればクロエとの関係は解消したいんだ。ちょっと思い込みが激しいっていうか…」
「そうね。聞いてる感じ、そーゆータイプね。ある日、突然、校庭に馬で乗りつけて矢文のラブレターでも射ってきそうな危ないタイプ」
「うぐっ……否定できないところが怖いな」
「嫉妬と疑いの激しい子の次は、思い込みと行動の激しい子……智也、楽しそうね」
「楽しくない!」
「まあ、洗いざらい話してくれたことはだけは信じてあげるけど………」
「とりあえず、腹が減ったな。タコ焼き、喰うだろ?」
「…………」
「コーラも、つくぞ」
「……まあ……いただくわ」
彩花が長い話で硬くなった肩を回しているうちに、智也はタコ焼きとコーラを二人分、買ってきた。
「さっさ、どうぞ」
「……いただきます」
彩花がタコ焼きを頬ばると、智也は条件を再確認する。
「で、だ。彩花にだけは話たんだから、黙っていてくれよ。な?」
「………………智也、まだ、その怪しいクスリとやらを売るつもり?」
「…あ、ああ。まあな。よく、わかるな?」
「智也の行動は、だいたいわかるのよ。……今回は予想外なくらい飛んでたけど」
「せっかくの商売なんだ。もう少し続けたい」
「ぼろ儲けだもんね」
「ああ♪」
「でもさ、洗いざらい私に話したのは、それだけじゃなくて、そのクロエちゃんのこと、私に相談したいからじゃないの?」
「……………………、うむ、そうだ。よく、わかったな」
「えらそうに……」
「なあ、なにか女心を傷つけない方法ないか?」
「……わりのいいバイトも続けたいわけね?」
「うむ。あそこの社長、オレを気に入ってくれててさ。バイト代、すげぇ高いんだ♪」
「………まさか、気に入ってるバイト君が娘を……なんて夢にも思ってないでしょうに……あ、ううん、逆かな。家庭教師にしたいってクロエちゃんが言い出したなら、普通にピンとくるし、気に入ってるバイト君だから娘をまかせて……うわぁ、これは、ますます逃げられないね♪」
「彩花ぁぁ~……」
「こんなときだけ甘えないの!」
「……だってよぉ……オレは、どうしたらいい?」
「全部、身から出た錆でしょ?」
「だからさ、錆を落とす方法を教えてくれ。錆落としのクスリとか、無いか?」
「バカ。まあ、錆は酸化した鉄だから、還元でもすれば? 還るかもよ♪」
「彩花ぁぁ~……頼むよぉ」
「はいはい。う~ん………無難にクロエちゃんとは距離と取る……でも思い込みも行動も激しい子な上に、智也はバイトを辞めたくない……。二律背反ね。クスリの販売は好きなように続ければ? 痛い目見るか、勝ち逃げできるか、自分でも試したいんでしょ?」
「まあな♪」
「………。国語教師への脅迫も?」
「続けられるだけ、やってみる」
「となると、やっぱり、クロエちゃんだけが邪魔になる…か………。可哀想なような……智也をお金で買うなんて許せないような……まあ、家庭環境に問題あるからかな」
そういえば、寿々奈さんも家庭環境に問題があったらしいし、やっかいな子と付き合う女難の相でもあるのかな、彩花は智也の顔を見つめた。
「…なんだよ? オレの顔に、何かついてるか?」
「ソースがね。少しだけ」
彩花はウソをついて智也の頬を指で撫でた。
「ま、現状維持っていうか、クロエちゃんと無難に距離をとりつつ、対応策は私も考えておいてあげるわ。今は思いつかないけど、期待しないで待ってて」
「……わかった。頼む。……話せて楽になった。悪かったな、すまん」
「いいわよ、別に。タコ焼き、ごちそうさま」
彩花と智也は公園を出ると、いっしょに帰宅した。
翌日、ほたるはエリーズに頼み込まれて困っていた。
「いくら、エリちゃんの頼みでも……」
「そんなこと言わずに、お願いっ! 私とホタちゃんの仲でしょ」
日本語が堪能なエリーズとは野外音楽場での演奏がきっかけになり昨夜は意気投合してワインを酌み交わし、日本語のギャグを練り合った仲だった。
「3時間だけ、3時間だけでいいから。ね?」
「……エリちゃんの頼みでも……正午くんを貸せって……それ、エッチなことするつもりだよね?」
「餓えてるの、お願い!」
「………そんな開けっぴろげに認められても……」
ほたるは何度も断っているのに、エリーズが食い下がってくる。後腐れ無く、ほんの少しだけ正午と遊ばせてほしいと、夫と別居中の女が一時的な快楽を希求してくる。
「ね、ホタちゃん、お願い」
「う~……」
「プリーズっ! お願いいたしまするぅ、お代官さまっ! プリーズっ! ファック・ミーっ!」
エリーズが日本式に土下座してくれた。まだヌーディスト施設にいるので全裸で地面に額をつけて乞われている。ほたるはタメ息をついた。
「……たはーっ………、正午くんは、………ほたるが、いいって言っても正午くん、………言いにくいけど、年上の人に、ぜんぜん興味ないタイプだよ。そりゃ、エリちゃんはキレイだし、ほたるより、ぜんぜんオッパイもあるけど、そーゆーことじゃなくて正午くん、うちのお姉ちゃんにも興味もたないくらい、ぜんぜん年上はすべて守備範囲外って人だから」
ほたるは静流が健に興味を持っていたのを感づいていたし、健も少しは惹かれていて、もしかしたらの可能性で静流と結ばれるのもアリかな、という雰囲気があったことに女の勘で気づいていた。けれど、同じく女の勘で正午が静流に興味を一切もっていないことにも気づいている。静流の方は、ほたるが正午と付き合いだしてから、少しばかり正午に興味を持ち始め、いつもいつも妹のものを欲しがる姉と数千キロ離れて、ほっとしている。
「正午くん、誰であろうと年上は、ぜんぜんパスって人だから……年下なら可能性あるけど……」
ほたるは少し離れた芝生の上で、ノエルと全裸で遊んでいる正午を見やった。ノエルにせがまれて、お馬さんごっこをしている。智也がいたらリアル騎乗位と言いそうな状態だったけれど、二人とも純粋に遊んでいて正午のものは勃たずに揺れているし、正午の背中に密着しているノエルの股間も濡れている様子はない。本当にお馬さんごっこをしているだけ、だった。
「ロリコンでもないから、年下も、二つか、三つくらいまでじゃないかなぁ……。とにかく年上はパスって人だよ。正午くんは」
「わかってるわ。でも、うまくおねだりしたら、してくれそう♪」
「……こだわり……ない人だから……でも、ほたると付き合ってるから」
「だから、ホタちゃんを先に口説いてるのっ! きっと、彼、私が誘ってもホタちゃんがいるからって口実で断ると思うの」
「口実って……、ここで使う単語かなぁ…」
「それに、あの年上には一切興味ありません、って雰囲気が、ちょっと腹立つし」
「腹立つのに、相手してほしいんだ?」
「腹立つからよ。私の身体、見て見ないフリっていうか、これだけのボディを空気みたいに無視してくれた人は初めてよ。ホント」
エリーズは二人も出産したのに、まったく乱れていないボディラインを誇った。ほたるも、すごいとは思うけれど、あまり褒めたくもない。
「エリちゃんはキレイでオッパイもあるけど、ほたると付き合う前は、正午くん、日本のモデルと付き合ってたんだよ? オッパイくらいで傾くかなぁ~……」
「うまくお願いすれば、ホタちゃんからのオッケーさえあれば、してくれそうな人よ」
「………まあ、そーゆー人かもしれないけど……、エリちゃん、よく短い期間で正午くんの本質をつかんで……」
「ね、お願いっ! ホタちゃんが悪いのよ。夕べ、あんなに熱烈なセックス、丘の上でするから、見ていて私も身体が疼いてたまらないの。ね、お願い、久しぶりに日本人としたいの。お願い」
「う~…」
「ホタちゃん、昨日のギャグは?」
エリーズが二人だけの合い言葉を言ってくる。
「ホタちゃん、昨日のギャグは?」
「…………今日もギャグ、だけど……」
「親しき仲に?」
「……滑りなし」
「うん♪ じゃ、ホタちゃんの許可、あったってことでショウゴちゃん、口説くからね。ありがと、ホタちゃん」
「………たはーーっ……」
ほたるはエリーズの嬉しそうな背中と尻を見送る。ノエルと遊んでいた正午に話しかけ、せっかく遊んでいた娘に、ほたると遊ぶように言いつけたようで、ノエルが歩いてくる。
「……人の彼氏、借りて、子守を押しつける気……」
ほたるは女性として大きく呆れた。
「フランス女性って、みんな、こうじゃないよね……、エリちゃんの日本人旦那って、どんな人なのかなぁ………きっと、忍耐強い人なんだろうなぁ……翔太くんみたいな、いい人かなぁ」
ほたるが近づいてきたノエルの頭を撫でていると、正午からアイコンタクトが送られてきた。
「「……」」
このオバちゃん、オレとやりたいって言ってるけど、ほたるホントにいいって言ったのか、という送信に、ほたるは目を閉じて両手をあげた。どうぞ、お好きに、というポーズを正午は受け取って、考え込む。やはり年上には興味が無さそうだったのに、エリーズが抱きついて胸で正午の顔をはさんだ。
「ママ…あのお兄ちゃんと…」
「ノ…ノエルちゃん、あっちで遊ぼう」
「母がご迷惑をおかけします」
「…………。日本語、本当に巧いね……」
悲しいくらい、日本語も、母親のことも理解してるよ、この子、ほたるはノエルに母親が夫以外の男と野外で交わるのを見せたくないと思い、遠く離れた野外音楽場へノエルを誘った。
「あっちでお姉ちゃんとピアノを弾こうよ」
「はい。…、でも、ノエルはママが……気になるから。……離れたところから見ていようと思うの。いけない、こと、かな?」
「………。ノエルちゃんが、それを望むなら…」
教育に悪いような気もするけれど、ヨーロッパは性教育も進んでるのかもしれないし、反面教師って言葉もあるからいいかな、それに、ほたるの子供じゃないもん、どんな子に育つかはエリちゃんに責任があるんだしね、ほたるは軽く自己欺瞞すると立ち去ったフリをして、ノエルと草葉の陰に隠れた。そんな娘たちの行動を気にもかけず、エリーズは正午を芝生に押し倒して、ねだっている。
「ね、ショウゴちゃん、お願い。据え膳喰わぬは武士の恥っていうでしょ?」
「たはーっ……」
据え膳っていうか、饐え膳だろって言ったら、この人、日本語よく理解してるから怒るかもな、まあ、いい身体してるけどさ、あんまり年上には興味ないんだよなぁ、静流さんでもパスなのに、この人、いくつだよ、オレの母さんより少し若いくらいだろ、正午はタメ息をついた。それでもエリーズは諦めず、押し倒している正午の胸に頬擦りする。
「餓えてるの、お願い。今日だけ、ほんの三時間だけ、私の相手をしてよ。ね?」
「………ま、……いいけどさ」
断るのが面倒になった正午は新聞を一ヶ月購読するような気分で了承した。
「やった♪ さすが、武士の国から来た男っ!」
エリーズは喜んで褒め、それから秘めた欲望を遠慮がちに求めてみる。
「あのね」
「ん?」
「……い……言いにくいこと……なのだけど……」
「今さら、何が言いにくいんだよ?」
「………んーっ……」
エリーズは言いにくそうに躊躇い、抱きついたままの正午の腿に股間を擦りつける。さっきまで積極的だったエリーズが、今も積極的ながら、それでも躊躇って恥じらい、顔を赤くしている。
「……」
こーゆー顔は意外とかわいいな、正午はやる気が少し湧いてきた。
「言わないとわからないぞ。エリーズ」
「……あ、…エリーズって呼んでくれるんだ♪」
「まあな。今だけ、な」
オバサンって呼びかけながらじゃ、やる気も失せるしさ、正午は一時的な性的パートナーを擬似的に愛すると決めたようで、優しく頬を撫でて微笑んだ。
「で、言いにくいことって?」
「………んっ………と、……ちょっと、エッチなこと……したいの」
「……。ああ、だから、するんだろ?」
「そ、そうじゃなくて。そういう今風のエッチって意味じゃなくて、昭和初期のエッチって意味のこと、……したいの。今と昔じゃ和製英語としてのエッチの意味……変わってるのよ?」
「昭和初期……?」
正午の脳裏に、ひまわり組の皿洗い的な般若や桜吹雪の刺青をした女郎が走馬燈のように流れたが、エリーズは言いにくそうに教える。
「エッチの語源は……Hよ」
「ああ、アルファベットの……それで?」
「それで……Hは……HEN……つまり、変。……だから、変態のことなの」
「ふーん……」
「………。………」
エリーズは理解の遅い正午に焦れて、肩に少し噛みついた。
「痛っ…」
「わかってよ。もう」
「………ごめん、もうちょい説明して」
「う~……だから、……Hなこと…したいの。……ちょっと変態っぽい…こと」
「…………」
「ダメ?」
「……………………。種類と程度による、かな」
「…………」
エリーズが瞳を彷徨わせて、おそるおそる告げる。
「……オーラルを……少し、前戯に入れて……ほしいの……ダメ?」
「オーラルって…………口でする、フェラとか、クンニのことだっけ?」
「うん…そう……あなたがしてくれるなら、……私もフェラ……してみるから……。お願い、舐めてほしい。……ちゃんと、さっきシャワー浴びたし……気になるなら、もう一度、洗ってくるから………エッチしてほしい。……ダメ?」
「……いい……けど…。オーラルくらい、そんなに変態っぽいことじゃないだろ? 言いにくそうにすることか?」
「………したこと、あるの?」
「あるっていうか、普通に入れる前には舐めるって、カナタが…あ、いや、前に付き合ってた女とは、そうだったし、ほたるとも普通にしてるけど? それって変態か?」
「…………日本の高校生って、すごいのね」
「すごい、かなぁ…」
「すごいわよ」
「ふーん……じゃあ、オーラル、されたこと無い? 結婚して子供もいるのに」
「……だって、幸蔵さ…夫はしてくれ無かったもの。私が恥を忍んで何度もお願いしたのに、そういうことは抵抗があるとか、なんとか言って…」
「へぇぇ…世代が違うと、そういうものかなぁ…」
「……。世代だけじゃないわよ」
エリーズは歳が離れていることを、さっくり言われて気を悪くしたけれど、オーラルセックスはしてほしいので不機嫌を顔に出さず、甘えた顔で正午を見つめる。
「プロテスタントなら、いざしらずフランスはカトリックが80%なの。オーラルには興味があっても、やっぱり抵抗あるし恥ずかしいのよ」
「……プロテ? ……って、何? どういう変態行為? 体位とか?」
「………」
エリーズは無知な日本の高校生に驚いて、胸で十字を切った。
「神よ。どうか、日本人にもお導きを」
「なんだよ、それ。どういうプレイだ?」
「プレイでも変態行為でもないわ。罰当たりね」
プロテスタントとカトリックをフェラやクンニと同列の外来語として扱う正午に心底あきれつつも、日本ではキリスト教徒が1%しかいないことを思い出して、説明する。
「キリスト教の宗派よ。知らないの?」
「知らない」
「……知らないの……世界宗教よ……」
「あ、統一教会みたいな?」
「あれはヨーロッパでは異端よ。カルト扱いされてるわ。日本や韓国では、どうなのかは知らないけれど……。とにかく、プロテスタントは戒律が甘いの。カトリックは厳しいのよ。だから、口で性器を舐めるなんてケモノ的なこと、タブーなの。変態行為なのよ」
「……、アメリカ人とか、普通にしてない?」
「だから、文化が違うのっ! 何でもアリのアメリカ人と、いっしょにしないでよ」
「文化の違いかぁ……」
ヌーディストビーチがあるのに、クンニで恥ずかしがるって、どういう文化だよ、けど、ほたるも腋毛を剃るの剃らないので違いがあるとか言ってたし、そーゆーものなのかな、エリーズは腋もキレイに処理してるけど、下を舐められるのは興味はあっても恥ずかしいのか、じゃあ、それで楽しもう、正午は経験豊富そうに見えたのに、それほど性体験がないエリーズで遊ぶことにした。
「オーラルしてもいいけどさ。ここじゃ身体に土も着くし。プールの方、行かないか?」
「……プールは、人が多いわよ…」
「いいじゃん、見られてする方が感じるぜ♪」
「…ふ…普通のセックスなら、ともかく、人前でオーラルをするの?」
「クンニもさ、クリトリスだけ舐めるより、ちょっと焦らして右手の指先から、右のオッパイ、そこから下がって少しだけクンニして、次は左足の指先までキスしてから、また戻ってクンニ、そこから左のオッパイを通って左手の指先まで舐めて、その後、また下がってクンニして、左足の指先まで舐めて焦らして、今度こそイくまで舐め続けるって攻め方が余計に感じるし、オレ得意なんだけど?」
正午は微笑んで愛撫の仕方を予告する。エリーズは聞いているだけで口の中に唾液が湧いて生唾を飲んだ。仕事に精力を出し切って帰宅してくる幸蔵とのセックスライフとは濃さが違う正午の語りに期待だけで股間が熱くなってくる。さらに正午は予告した愛撫の手順通りにエリーズの身体に指を這わせて、期待を高める。指でも久しぶりの人肌の接触で身体が高鳴るのに、唇と舌で触れられたら、どんなに気持ちいいか、エリーズは目と股間を潤ませて正午を見つめる。
「……して、くれるの?」
「ああ。けど、さすがに、身体に土が着いてるとさ。だから、プールのシャワーで洗ってから、しようぜ」
「…プール……」
それでも文化的な抵抗がエリーズを戸惑わせた。
「そ、それなら個室を借りて、そこでしましょうよ。シャワーもベッドもあるわ。もちろん、部屋代は私が持つから」
「プールの方が人目があって楽しいしさ。ここのプールは、そーゆーこともオッケーだったはずだろ」
この施設のプールは二種類あり、片方は性的な行為が禁止された純然たる水遊び用のプールで、もう一つは性的な行為が禁止されていない純然でない遊び用のプールだった。
「でも…」
「エロい方のプールなら問題ないじゃん。みんなヤってるし」
「…問題あるわよ……、よく見てよ。抱き合ってるカップルはいても、誰もオーラルなんてしてないわ」
「そういえば…、……してもよさそうなものなのに」
「だから、文化が違うの」
「じゃあ、フランス人ってオーラルなし?」
「そうではなくて、一部でする人もいるけど………みんなの前でできるようなことじゃないわ」
「……やると、怒られる?」
「怒られないけれど、恥ずかしくてできるわけない……」
「んじゃ、決まり♪」
正午は立ち上がってエリーズの手を引くとプールへ入る。楕円形のプールでは正午とエリーズの他に二組ほどカップルが抱き合ったり、触れ合ったりして微笑み合っている。仲良きことは美しきかなという言葉を体現していた。正午とエリーズは土の着いた身体をシャワーで流してから、水へ入る。他のカップルと適度な距離を保った位置で、正午はプールサイドにエリーズを座らせると、キスをした。
「一つだけ、オレからもマニアックなお願いがあるんだけどさ」
「……どんな、こと?」
「喘ぎ声はガマンしないで、ちゃんと出してくれること♪」
「………。……ここで?」
「ここで♪」
「…………」
「もし、ガマンしたら、そこでクンニ終わりだからな」
「そんな……」
戸惑っているエリーズをプールサイドに座らせたまま、正午は水へ入って、正面からエリーズの手を取ると、騎士が王女にするようなキスを指先へ送る。
「モン・プランセッス」
正午が拙い発音のフランス語でマイ・プリンセスと囁き、エリーズは36才にもなってプリンセス扱いされることに嬉しさと恥じらいを覚えた。
「ショウゴちゃんてば……女の扱いがうまいのね」
「まあねン♪」
女性を喜ばせる手順をカナタから何度も説教されている正午はエリーズの指先へキスを繰り返している。幸蔵とは同じ日本人男性でも、まったくタイプの異なる正午からの愛撫にエリーズは乳首を勃起させた。周りのカップルは、やはり年齢のバランスが取れていることが多いのに、エリーズは三十代後半、正午は若く見えるアジア人の18才で、中学生の娘までいるエリーズとは母と息子ほど歳が離れている。それが気恥ずかしさと優越感をもたらし、腕を昇ってきた正午のキスが乳首を咥えると、エリーズは声をあげた。
「ぁっ…」
「ミニョン・エリーズ」
かわいい、と発音は下手でも母国語で言われると、エリーズは嬉しくて正午の頭を抱いた。大きな胸に顔が埋まって息ができないけれど、正午は息を止めて耐えつつ、乳首を吸い続け、両手は抱擁に応えてエリーズの腰を抱く。そして、プールサイドから足だけ水に入れているエリーズを後ろへ倒して横たえつつ、乳首を舌先で愛撫してから、ゆっくりと下り下腹部へ唇を這わせる。
「ぁ…あ…」
「いい声だ♪」
「…んっ…」
エリーズは正午の唇が股間まで押し分けてくると、太陽の眩しさと恥ずかしさで顔を両手でおおった。周りに抱き合っているカップルはいても、オーラルセックスまでしている者はいない。文化的抵抗がある行為を正午は何の抵抗もなく進めているけれど、エリーズは所属する文化の影響から自由ではいられず、周囲からの視線が気になった。
「ぁ…あっ…」
正午の舌がエリーズのクリトリスを包皮の上から舐めている。初めての快感にエリーズは仰け反りそうになったけれど、それをすると余計に目立つので耐える。
「んんっ…」
「……」
へぇぇ♪ ホントに舐められるの初めてみたいだな、皮も剥いてないのに、この反応ってことは後が楽しみだ、正午はよがるエリーズが予想外に恥じらって真っ赤に赤面して顔を隠しているのを愉しく思った。そして、予告通りクリトリスへの愛撫を中断すると、左脚へキスを送る。内腿から膝へ、脛へ、足の甲から指先へ、ゆっくりとしたキスを続けているとエリーズは隠していた顔をあらわした。まだ、顔は赤いけれど真っ赤ではない。エリーズは心地よさそうにキスを受けている。足へのキスはタブーではなく、むしろ最上の愛と忠誠を表す行為で、恥じらいよりも優越感が大きい。柔らかい唇が指を吸ってくれる心地よさもエリーズの陶酔を深めてくれた。
「…んっ……」
そんな熱いキス、幸蔵さんはしてくれなかったわ、クリトリスも、足も、一度も幸蔵さんにキスされたことのないところに、ショウゴちゃん、いっぱいキスしてくれる、ああ、なんて気持ちがいいの、こんなにいいセックスなんて初めてよ、エリーズは脚の力を抜いて正午にされるまま寛いでいたけれど、五本の指へのキスを終えた唇がのぼってきたので期待と緊張を高めた。脛から膝へ、腿へ、そして股間へ正午がキスで登ってくる。
「ぁっ、…ああっ…」
エリーズは顔から火が出るという日本語の表現を実感するほど興奮して、また両手で顔を隠した。さきほど、正午からオーラルを受けていたことに周囲の何人かが気づいていたけれど、アジア人が一時的なたわむれでしたことなので、エリーズが緊張したほど視線は浴びなかったけれど、二度目になると何本もの視線を肌で感じる。視線は二種類で、一つは好奇の目、もう一つは批判的な目、ヌーディストであり敬虔なカトリック教徒である人もいて、そういった人々からの露骨ではないものの、やや冷たい視線を浴びせられ、エリーズは快感と背徳感に身震いした。
「ああっ…あっ…ハァ…」
見られてる、見られてるわ、いけないことだもの、子供もいるくせに、こんな若いアジア人に何をさせてるんだって、ああ、イヤ、せめて個室でしてほしかった、ああ、それ以上、吸わないで、大声をあげてしまいそう、あ、ああ……、エリーズは禁忌に触れている畏れと、それなのに快感を覚えていることが恥ずかしくてたまらなくなり、涙を流した。
「ハァ…もう……ハァ…ぁ…」
やっと正午がクリトリスを吸うのをやめてくれる。けれど、間髪をおかず乳首を舐められた。そして腋から腕、指先へと舌が這ってくる。さっきまでの上品なキスではなくて男性的な欲望を丸出しにしたような舐め方をされ、エリーズの左手は唾液にまみれた。
「ハァ…ハァ…」
こんなこと、アソコにされたら……、エリーズが期待より不安を大きくしていると、また股間へと正午の愛撫が戻ってくる。大きく舌を出して遠慮無く舐める愛撫が性器へ近づいてくる。エリーズは首を振ってイヤイヤと正午に伝えた。それが通じたのか、正午の舌は股間を舐めず、足の付け根を通過して右脚をくだっていく。
「ああっ…」
けれども、足の指を舐められて吸われ、指の間や付け根まで舐め回されるとエリーズは痺れるような快感に大きく仰け反って声をあげた。
「あああああっ! Ahaaaa! んっうんっ! ああっ!」
バイリンガルな喘ぎ声で注目を集め、視線を浴びて余計に興奮する。さすがに、ひそひそと周囲がエリーズと正午のことについて何か囁いている。やはり、半分は好奇的な内容で、歳の離れた人種も違うカップルのオーラルセックスについて笑いながらフランス語で野次を飛ばしたり冷やかしたりされているし、もう半分は批判的な舌打ちや蔑視だったけれど、正午はフランス語の語彙が100も無いので何を言われても気にならないし、気にする気もない。ただ、エリーズは何を言われているか理解できるので、恥ずかしくて両手で顔を隠した。そんな様子を見て、正午は攻めの士気を高め、エリーズの股間に顔をうめると、舌先で包皮を剥いてクリトリスを直接に舐め、強く吸った。
「Aha! ああっはっ! Ohooo! Ohoooo! んっんぅ!」
感極まった声をあげてエリーズは正午の髪をつかみ、身をよじってよがり、腹筋をあざやかに蠢かせると、オルガスムに達して手足を小刻みに震わせた。それで誰の目にもエリーズがオーラルで性的頂点をむかえたことがわかり、笑い声と舌打ち、嘆息が漂う。
「ハァ…hぁ…ハァっ…」
ぐったりと手足を投げ出して息を乱しているエリーズが目を潤ませ、乳首から少しだけ乳汁を分泌させているのを見て、正午は追い打ちをかけることに決めた。ノエルの飲み残しだった乳汁を舐め取った正午は初めて実母以外の母乳を味わって17年ぶりの味覚に身震いした。
「…」
うわっ、薄甘くて………味が無いのに、ナマっぽくて不味い……、正午は唾を吐きたくなったけれど、それは失礼すぎるのでカナタが無理をして精液を飲んでくれたときのような勢いで喉を鳴らして飲み下した。
「hぁ…、…ショウゴちゃ……」
「ホント、かわいいな」
正午が頭を撫でてキスをすると、うっとりとエリーズは頬擦りしてくる。念願だったオーラルの余韻に浸りながらも、タブー視されていることを公衆の面前でやってしまった気弱さから正午の背中に抱きついて震える。
「…こんなこと……夫にもされたこと……ないのよ」
「なら、オレが初めてエリーズにキスした場所は、かなり多い?」
「ええ……」
足も、アソコも、初めて、幸蔵さんは胸や背中くらいにしか……エリーズは別居中の夫を思い出した。それに正午が気づいて、愛撫を再開する。
「んじゃあ、オレが初めてマークするところ、もっと増やしていこうかな」
そう言って正午はエリーズと一つになる。ゆるんでいた膣は正午を受け入れて吸いついてくるけれど、ほたるやカナタに比べると、やっぱり二児の母だけあって余裕があるというか、ややゆるい、締め付けが物足りないのか、正午のモノが小さいのか、少なくとも正午は名誉にかけて前者だと思うことにしてエリーズから離れる。
「もっとエッチなこと、しようぜ♪」
「え?」
「たぶん、ここも初めてじゃないか?」
正午は再びエリーズの股間に顔をうめると、クリトリスから、さらにくだって女性器を通り過ぎ、小さく閉じている穴に舌を這わせた。
「っ、はuuuっ?!」
エリーズは肛門を舐められて驚いた。
「Non! い、いや!」
「すぐに気持ちよくなるって♪」
ほたるもカナタも、すぐに好きになったからな、カナタは自分から求めてきたくらいだしさ、正午は逃げようとするエリーズの両手首をつかみ、舌を穴の奥に滑り込ませる。
「あぁっ! ん、Non! Non! あっhぁ!」
「……」
色っぽい発音だよな、正午は容赦なく攻め込み、エリーズを翻弄していく。
「だ、だめよ! ハaa! そんなところ! 汚いっ…ま、間違ってるわ…Aaa」
「やっぱ、初めて? オーラルが変態ってことはアナルは、もっとHだろ♪ エリーズのアナルバージンもらうからな」
「Non!! ま…間違ってる……、こんなの…許されない行為よ…。アングロサクソンのゲイどもと…同じにしないで…ああっ…イヤ…」
「イヤと言いつつ、感じてるじゃん♪」
正午はフランス人の英国に対する蔑視観は聞き流して愛撫を続ける。周囲の客たちはエリーズの様子で神に逆らう罪深い行為をしていることを察しているが、またしても正午は気にとめない。
「エリーズ、力を入れてると痛いからさ。ゆっくり息を吐いて」
「ま、…待って……やめて……ソドミーはイヤよ」
「ソドミーって?」
「あなたが……しようとしていることよ。アナル・バージンなんて、よくそんな和製英語を思いつく…、…」
「いや、普通に使ってる単語だけど? 日本で」
「に…日本人って、……抵抗がないの? 神さまが許さないわ」
「うん、まあ、抵抗は無いし。少なくとも澄空弁財天は怒らないと思う♪」
正午は本来はインドの女神であった神の名をあげ、その喜怒哀楽の基準も知らないのに希望的観測で推し量ると、エリーズに押し入った。
「Ahaaaa! Non!! Nonnn! Noooon!」
「……」
そんなにノン、ノン、言うと、のんちゃんが現れそうで怖いな、呼ばれると距離なんか関係なく空間をランダムシュレディンガーワープで飛び越して来そうだ、正午は肛門性交の神罰よりも葉夜の出現を恐れたけれど、どちらも発生しなかった。エリーズが悲鳴をあげて拒否していたので、強姦と言っていいような行為だったけれど、正午がカナタで培ったストロークを繰り返してくると、しだいに快感を覚えていく。
「あっ! A! んっ…ハァ…」
「ほら、だんだん良くなってきたろ?」
「んっ…Non!」
「まだ、否定する? じゃあ……こうゆうのは?」
正午はプールサイドで正常位のような形で交わっていた体位から離れると、エリーズに背中を向けさせ、四つん這いの姿勢を取らせた。
「お尻あげて、胸はさげて。ほら、こう」
「イヤよ……みんな見てるわ…」
「みんな見てるな♪」
「タブーなの、わかって……とても、間違ったことなの……仏壇に射精するくらい、ダメなことなの…」
「……」
それはダメダメなオナニーだな、ダメダメ、ダメオナニーだ……正午はエリーズが嫌がる文化の違いを感じたけれど、もうエリーズが快感を知り始めているので仕込むことにした。
「食わず嫌いって言うじゃん♪ 犬だって猿だって喰えば美味いぞ♪ 牛を喰わなかったオレらにワックの美味さを教えてくれたのは、君たち白人じゃないか。な? ウェルカム・ペリー♪ オール・ハイル・ナポレオン!」
再びエリーズと一つになり、今度は前から手を回してエリーズのクリトリスも指でなぶりつつ、反対の手は乳首を攻め、真っ赤になって震えている耳を甘噛みする。
「ああっ……じ…地獄に…落ちるわ…」
「そんな新興宗教みたいなこと言って。そんなに信心深い方?」
「ソドミーは…ハァ…ソドムと…ゴモラが……ああっ! 天の火で滅ぼされ……、聖書くらい、あなたも読んだこと…」
「ない♪」
「………。あっ、あっ! ああっ!」
エリーズは禁忌中の禁忌を犯されながらも快感を覚えている自分に混乱して首を振った。やはり同じ文化圏である周囲の客たちも冷ややかな視線を送ってくる。それが刺さるように痛いのに、身体の奥が熱くなって喘ぎ声が止まらず、ヨダレが零れてしまう。
「はぁ……ハァっ…、ち……畜生道に落ちるわ……こう言えば、わかる?」
「それもカトリック?」
「仏教よ!」
「ふーーん……どうでもいいや。どうせ、地獄に堕ちても、そのうち生まれ変わるって♪」
「………。……輪廻は……私たち…には…」
「それにさ。こんなことで地獄に落とす神さまなら信じる価値、無いって。だって、気持ちいいだろ? 気持ちいいことは正しいことなんだって♪ な? そーゆー風に神さまがアナルも創ったんだから、気持ちいいんだぞ。ほら、ほら」
「あっ! ああっ! そんな…希望的観測…」
「どうせ観測するなら絶望より希望がある方がいいって、パンドラも言ってる♪」
「そんなこと…ああっ! Non! Noonn! イヤっ…ダメ……もう…私……あ、…ハァ…hああ……ああ…」
「アナルでイくと、地獄に堕ちるかもな♪」
「っ…、や…やめて! Non! やめて!」
エリーズは懇願したけれど、正午は愛撫を止めず、ストロークも続ける。エリーズは快感と背徳感に身震いしながら周囲の冷たい視線に泣いて啼いた。
「Ahaaaaaaa! Nooooonn!」
エリーズが耐えきれずにオルガスムを迎えるのと、正午が射精するのは同時だった。排泄口を出入りされた快感と羞恥心でエリーズは気が遠くなり、そのまま失禁までしてしまい、四つん這いから崩れると啜り泣いた。正午は満足そうに微笑んだ。
「ハァ…悪くないだろ? アナルもさ」
「…っ…ひっ…ぅ…」
イヤだって……、イヤだって……言ったのに……、なのに私………感じてしまって……、エリーズは強姦された少女のように丸くなって身を小さくして泣いている。
「…っ…っ…uu…ぅぅ…」
「たはっ♪」
前に出して妊娠されたら困るしさ、お互い、こっちの方が良かったんじゃないかな、正午は驚異的な自己欺瞞力でアナル強姦を自己肯定すると、泣いているエリーズを立たせてシャワーで身体を洗ってやり、ついでに軽く愛撫もして泣き疲れて眠るまで添い寝した。